米菓製造大手「三幸製菓」荒川工場(新潟県村上市)で6人が死亡した火災は、11日で発生から1年となった。同工場で同社による供養式が執り行われ、幹部や従業員、遺族ら約100人が参列した。佐藤元保代表取締役最高経営責任者(CEO)が改めて謝罪する一方、参列を見送った遺族もいた。【池田真由香、内田帆ノ佳】
ストーカー事件で妻亡くし10年 消えぬ喪失感 「大変な事故であり、未然に防げなかったことを申し訳なく思う。火災から本日で1年がたち、改めて亡くなった6人のご冥福をお祈りし、遺族の皆さまに心より深くおわび申し上げる」。佐藤CEOはこの日、報道陣の取材にこう述べ、頭を下げた。

供養式は非公開で行われた。同社の説明によると、午前9時から約3時間半にわたり、同工場敷地内の倉庫に張ったテントの中で、神式と仏式でそれぞれ行ったという。一方、火災で全焼し解体工事が終わった「F棟」跡地付近に献花台が設けられ、花を供える人の姿もあった。 火災は昨年2月11日深夜に発生。中で多くの従業員が勤務しており、いずれも清掃担当のアルバイト従業員だった渡辺芳子さん(当時71歳)と伊藤美代子さん(同68歳)、近ハチヱさん(同73歳)、斎藤慶子さん(同70歳)の女性4人と、渡部祐也さん(同22歳)と田中雄大さん(同23歳)の男性社員2人が犠牲になった。 火災後の同社の対応には遺族から不満や批判の声が出ており、供養式に参列しない遺族も少なくはなかった。この点を問われた佐藤CEOは「(火災後に操業を停止していた)工場の再開を説明した際、至らない点があったのかと思う。すべてのご遺族に今後も誠心誠意対応していく」と話した。 火災を巡っては、県警が業務上過失致死傷容疑で捜査している。佐藤CEOは自身の責任について「重大な事故で大変重く受け止めている。まずは遺族への謝罪と再発防止が責務と考え、(自身の進退は)今後の行政処分などを鑑みて検討する」とした。 同社は火災から1年となるのに合わせ、10日から11日にかけて県内の全3工場で深夜を含む全ての時間帯を対象に避難訓練と安全教育を実施したという。立件へ続く捜査 「三幸製菓」荒川工場の火災について、県警は、業務上過失致死傷容疑で複数の同社幹部の立件を視野に捜査している。立件には、火災の発生を予見できたか(予見可能性)と、対策を講じて被害を防ぐことができたか(結果回避可能性)――の立証が必要とされる。 同工場では今回の火災の他にも1988年7月~2019年11月、計8件の部分焼やぼやが発生。ほとんどが今回と同様、乾燥機内に堆積(たいせき)した菓子くずから発火したとされる。県警は立証上、重要な事実の一つとみており、過去の火災を踏まえ、防火体制や安全管理について社内でどういった指示があったか、機材の清掃頻度を増やすなど適正な措置を講じていたかなどを調べている。 県警はこれまで、押収した資料の分析を進めるとともに、佐藤元保代表取締役最高経営責任者(CEO)ら同社幹部への聴取を重ねている。捜査は詰めの段階とみられる中、県警は1月31日から2日連続で新潟市北区の同社本社と同工場を再び家宅捜索した。捜査関係者によると、聴取内容の裏付けなどのため、会社側の安全管理や防火体制、社内規定などに関する資料を新たに押収。同社に任意提出を求めても時間がかかるといった事情もあるという。「三幸製菓」荒川工場火災を巡る経過2022年 2月11日 荒川工場「F棟」で火災発生。後に6人の死亡を確認 15日 県警が業務上過失致死容疑で三幸製菓本社と同工場を家宅捜索 4月29日 同社が遺族説明会を実施。火災後に操業停止した県内3工場について順次生産を再開、F棟解体の方針などを説明 5月31日 同社の佐藤元保CEOが火災後初めて記者会見。犠牲者と遺族に陳謝し、原因究明や再発防止に努める考えを示した 6月19日 同工場で慰霊祭が行われ、遺族がF棟内を初めて見学 20日 F棟の解体工事開始 27日 同社の新崎工場(新潟市北区)新発田工場(新発田市)で生産を再開 7月25日 同社が米菓など33商品の販売を再開 9月 5日 荒川工場の生産を再開10月10日 同工場で製造する「雪の宿」など22商品の販売を再開11月30日 F棟の解体工事終了12月15日 同社が設置した火災事故調査委員会の報告書を公表。防火安全の取り組みが不十分だったと指摘し、再発防止策を提言 16日 総務省消防庁が出火原因などに関する中間報告を公表。乾燥機内部に堆積(たいせき)した煎餅かすが焼き窯などから熱を受け発火した可能性を指摘2023年 1月31日~2月1日 県警が業務上過失致死傷容疑で同社本社と荒川工場に2度目の家宅捜索 2月11日 同工場で供養式を実施三幸製菓工場火災 米菓製造大手「三幸製菓」荒川工場(村上市)で2022年2月11日午後11時35分ごろに発生。約11時間半後に鎮火し、煎餅などを製造する「F棟」(鉄筋コンクリート一部2階建て、約9859平方メートル)が全焼、女性アルバイト従業員4人と男性社員2人が死亡した。総務省消防庁が同年12月に公表した中間報告は、乾燥機内部に堆積(たいせき)した煎餅かすが焼き窯などから熱を受け、発火したと指摘。天井に吹き付けられた発泡ポリウレタンに引火したことが急速な延焼拡大を引き起こした可能性が高いと結論付けた。
「大変な事故であり、未然に防げなかったことを申し訳なく思う。火災から本日で1年がたち、改めて亡くなった6人のご冥福をお祈りし、遺族の皆さまに心より深くおわび申し上げる」。佐藤CEOはこの日、報道陣の取材にこう述べ、頭を下げた。
供養式は非公開で行われた。同社の説明によると、午前9時から約3時間半にわたり、同工場敷地内の倉庫に張ったテントの中で、神式と仏式でそれぞれ行ったという。一方、火災で全焼し解体工事が終わった「F棟」跡地付近に献花台が設けられ、花を供える人の姿もあった。
火災は昨年2月11日深夜に発生。中で多くの従業員が勤務しており、いずれも清掃担当のアルバイト従業員だった渡辺芳子さん(当時71歳)と伊藤美代子さん(同68歳)、近ハチヱさん(同73歳)、斎藤慶子さん(同70歳)の女性4人と、渡部祐也さん(同22歳)と田中雄大さん(同23歳)の男性社員2人が犠牲になった。
火災後の同社の対応には遺族から不満や批判の声が出ており、供養式に参列しない遺族も少なくはなかった。この点を問われた佐藤CEOは「(火災後に操業を停止していた)工場の再開を説明した際、至らない点があったのかと思う。すべてのご遺族に今後も誠心誠意対応していく」と話した。
火災を巡っては、県警が業務上過失致死傷容疑で捜査している。佐藤CEOは自身の責任について「重大な事故で大変重く受け止めている。まずは遺族への謝罪と再発防止が責務と考え、(自身の進退は)今後の行政処分などを鑑みて検討する」とした。
同社は火災から1年となるのに合わせ、10日から11日にかけて県内の全3工場で深夜を含む全ての時間帯を対象に避難訓練と安全教育を実施したという。
立件へ続く捜査
「三幸製菓」荒川工場の火災について、県警は、業務上過失致死傷容疑で複数の同社幹部の立件を視野に捜査している。立件には、火災の発生を予見できたか(予見可能性)と、対策を講じて被害を防ぐことができたか(結果回避可能性)――の立証が必要とされる。
同工場では今回の火災の他にも1988年7月~2019年11月、計8件の部分焼やぼやが発生。ほとんどが今回と同様、乾燥機内に堆積(たいせき)した菓子くずから発火したとされる。県警は立証上、重要な事実の一つとみており、過去の火災を踏まえ、防火体制や安全管理について社内でどういった指示があったか、機材の清掃頻度を増やすなど適正な措置を講じていたかなどを調べている。
県警はこれまで、押収した資料の分析を進めるとともに、佐藤元保代表取締役最高経営責任者(CEO)ら同社幹部への聴取を重ねている。捜査は詰めの段階とみられる中、県警は1月31日から2日連続で新潟市北区の同社本社と同工場を再び家宅捜索した。捜査関係者によると、聴取内容の裏付けなどのため、会社側の安全管理や防火体制、社内規定などに関する資料を新たに押収。同社に任意提出を求めても時間がかかるといった事情もあるという。
「三幸製菓」荒川工場火災を巡る経過
2022年
2月11日 荒川工場「F棟」で火災発生。後に6人の死亡を確認
15日 県警が業務上過失致死容疑で三幸製菓本社と同工場を家宅捜索
4月29日 同社が遺族説明会を実施。火災後に操業停止した県内3工場について順次生産を再開、F棟解体の方針などを説明
5月31日 同社の佐藤元保CEOが火災後初めて記者会見。犠牲者と遺族に陳謝し、原因究明や再発防止に努める考えを示した
6月19日 同工場で慰霊祭が行われ、遺族がF棟内を初めて見学
20日 F棟の解体工事開始
27日 同社の新崎工場(新潟市北区)新発田工場(新発田市)で生産を再開
7月25日 同社が米菓など33商品の販売を再開
9月 5日 荒川工場の生産を再開
10月10日 同工場で製造する「雪の宿」など22商品の販売を再開
11月30日 F棟の解体工事終了
12月15日 同社が設置した火災事故調査委員会の報告書を公表。防火安全の取り組みが不十分だったと指摘し、再発防止策を提言
16日 総務省消防庁が出火原因などに関する中間報告を公表。乾燥機内部に堆積(たいせき)した煎餅かすが焼き窯などから熱を受け発火した可能性を指摘
2023年
1月31日~2月1日 県警が業務上過失致死傷容疑で同社本社と荒川工場に2度目の家宅捜索
2月11日 同工場で供養式を実施
三幸製菓工場火災
米菓製造大手「三幸製菓」荒川工場(村上市)で2022年2月11日午後11時35分ごろに発生。約11時間半後に鎮火し、煎餅などを製造する「F棟」(鉄筋コンクリート一部2階建て、約9859平方メートル)が全焼、女性アルバイト従業員4人と男性社員2人が死亡した。総務省消防庁が同年12月に公表した中間報告は、乾燥機内部に堆積(たいせき)した煎餅かすが焼き窯などから熱を受け、発火したと指摘。天井に吹き付けられた発泡ポリウレタンに引火したことが急速な延焼拡大を引き起こした可能性が高いと結論付けた。