東京都渋谷区円山町の路上で女性2人が刺され重傷を負った事件は27日で1週間。殺人未遂容疑で逮捕された中学3年の少女(15)=埼玉県戸田市=は不登校がちだったが高校進学を目指して塾に通い、自宅では家事を手伝うなど周囲には「おとなしくて真面目な子」に映った。少女を凶行に駆り立てたものは何だったのか。
【写真特集】渋谷・母娘刺傷 当時の現場 事件は20日午後7時20分ごろ、京王井の頭線神泉駅近くの路上で発生。少女は駅に向かって歩く杉並区のパート女性(53)と女性の娘(19)に背後から近づき、背中や腹を包丁で刺したとされる。取り押さえられた際、少女は無表情で宙を見つめ「あの子、死んだ?」とつぶやいたという。

事件当日、少女は母親に「塾に行く」と告げ、正午過ぎに家を出た。一度は塾に向かうが、途中でJR武蔵浦和駅に移動し、電車に乗り込んだ。リュックには塾の教材とともに、100円ショップで購入した包丁など刃物3本を数日前から忍ばせていた。「塾に行きたくなかった。電車に乗り『今日、人を殺す』と心に決めた」 終点のJR新宿駅で電車を降りたのは午後2時ごろだった。新宿に来たのはこの日が初めて。所持金は100円程度で、「人通りが少なく、人を殺しやすそうな路地」を探して歩き回った。午後7時過ぎ、約4キロ離れた神泉駅近くの路地に行き着いた。「時間も遅くなり、ここでやるしかない」と思い、通りすがりの女性2人に襲いかかった。 捜査関係者によると、少女は警視庁の調べに素直に応じているが、供述は矛盾点も多い。動機については「母と弟を殺す予行練習でたまたま見つけた女性2人を刺した」と供述する一方で、「死刑になるために女性2人を狙った」とも説明。また、凶器を事前に準備するなど計画性が見られるが、帰りの電車賃も持たずに電車に飛び乗ってから事件を起こそうと決意するなど衝動的な点も多い。 母親については「不機嫌になると態度に出る母の癖が嫌いだった。最近、自分もその癖に似てきたから殺そうと思った」と話している。ただ、これまで家庭内のトラブルは確認されていないという。 少女は母親と弟の3人暮らし。一家を知る近所の40代女性は「外食に出掛けるなど仲のいい家族に見えた」という。ゴミ出しや洗濯を手伝い、働く母親を支えていた。捜査関係者は「殺したいと思うほど恨みを持つ理由が見えてこない」と首をかしげる。 一方、少女には気軽に悩みや不満を吐き出せる場所がなかったようだ。中1の3学期から断続的に不登校となり、自宅や塾、学校の保健室などで過ごすことが多かった。不登校のきっかけは部活内の人間関係だったとみられ、少女は調べに「中学で新しい友達はできなかった」と話している。母親も「幼い頃から感情的になることはほとんどなく、口数が少ない子だった」と説明しているという。 捜査幹部は「自分の気持ちを表に出せず、不満や不安を一人でため込んでしまったのではないか。本人もなぜこんなことをしたのか理解できていないように感じる」と話す。 犯罪心理に詳しい東京未来大こども心理学部長の出口保行教授は「子どもは視野が狭く、精神的にも未成熟なため、一度思い込むとそれ以外の選択肢を考えられなくなることが多い。少女も『人を殺す』ということが頭から離れなくなったのだろう。誰かに話を聞いてもらうだけで気持ちが楽になり、その衝動を止められることもある。親だけでは限界があり、社会全体で子どもを孤立させないようにすることが重要だ」と指摘した。【高井瞳】
事件は20日午後7時20分ごろ、京王井の頭線神泉駅近くの路上で発生。少女は駅に向かって歩く杉並区のパート女性(53)と女性の娘(19)に背後から近づき、背中や腹を包丁で刺したとされる。取り押さえられた際、少女は無表情で宙を見つめ「あの子、死んだ?」とつぶやいたという。
事件当日、少女は母親に「塾に行く」と告げ、正午過ぎに家を出た。一度は塾に向かうが、途中でJR武蔵浦和駅に移動し、電車に乗り込んだ。リュックには塾の教材とともに、100円ショップで購入した包丁など刃物3本を数日前から忍ばせていた。「塾に行きたくなかった。電車に乗り『今日、人を殺す』と心に決めた」
終点のJR新宿駅で電車を降りたのは午後2時ごろだった。新宿に来たのはこの日が初めて。所持金は100円程度で、「人通りが少なく、人を殺しやすそうな路地」を探して歩き回った。午後7時過ぎ、約4キロ離れた神泉駅近くの路地に行き着いた。「時間も遅くなり、ここでやるしかない」と思い、通りすがりの女性2人に襲いかかった。
捜査関係者によると、少女は警視庁の調べに素直に応じているが、供述は矛盾点も多い。動機については「母と弟を殺す予行練習でたまたま見つけた女性2人を刺した」と供述する一方で、「死刑になるために女性2人を狙った」とも説明。また、凶器を事前に準備するなど計画性が見られるが、帰りの電車賃も持たずに電車に飛び乗ってから事件を起こそうと決意するなど衝動的な点も多い。
母親については「不機嫌になると態度に出る母の癖が嫌いだった。最近、自分もその癖に似てきたから殺そうと思った」と話している。ただ、これまで家庭内のトラブルは確認されていないという。
少女は母親と弟の3人暮らし。一家を知る近所の40代女性は「外食に出掛けるなど仲のいい家族に見えた」という。ゴミ出しや洗濯を手伝い、働く母親を支えていた。捜査関係者は「殺したいと思うほど恨みを持つ理由が見えてこない」と首をかしげる。
一方、少女には気軽に悩みや不満を吐き出せる場所がなかったようだ。中1の3学期から断続的に不登校となり、自宅や塾、学校の保健室などで過ごすことが多かった。不登校のきっかけは部活内の人間関係だったとみられ、少女は調べに「中学で新しい友達はできなかった」と話している。母親も「幼い頃から感情的になることはほとんどなく、口数が少ない子だった」と説明しているという。
捜査幹部は「自分の気持ちを表に出せず、不満や不安を一人でため込んでしまったのではないか。本人もなぜこんなことをしたのか理解できていないように感じる」と話す。
犯罪心理に詳しい東京未来大こども心理学部長の出口保行教授は「子どもは視野が狭く、精神的にも未成熟なため、一度思い込むとそれ以外の選択肢を考えられなくなることが多い。少女も『人を殺す』ということが頭から離れなくなったのだろう。誰かに話を聞いてもらうだけで気持ちが楽になり、その衝動を止められることもある。親だけでは限界があり、社会全体で子どもを孤立させないようにすることが重要だ」と指摘した。【高井瞳】