風俗で働く人たちのために無料で生活や法律に関する相談に対応するNPO法人「風テラス」によると、コロナ禍では困窮した女性たちの相談が増加し、2020年2月で110名(昨年は78名、以下同)、3月が163名(53名)、4月が816名(77名)、そして5月が425名(88名)だったという。 コロナ禍で困窮した熟女キャバ嬢の百合恵さん(仮名・48歳)もその一人。「キャバクラの仕事がなくなり、ふとしたことからパパ活をするようになった」と後悔しきりだという。彼女が体験したコロナ禍でのパパ活のリアルを追ってみた。
◆昼の仕事と夜の仕事の往復を繰り返す
就職氷河期世代で都内在住の百合恵さんは短大を卒業したものの就職先が見つからず、コンビニの店員や自治体のバイトなどフリーター生活をしていた。その後、25歳でスカウトされてから、キャバクラで働くようになる。
そこからは夜の世界にどっぷりで、「一時は昼の仕事に就いたものの、長続きせずやっぱり夜の世界に戻ってしまった」と語る。しかし、その矢先にコロナ禍になったそうだ。
「2020年4月に緊急事態宣言が発令されると店が休業となり、生活が困窮。仕事を探していたら、池袋駅の東口近くで、スカウトマンに声をかけられました」
◆最大報酬1回10万円のデートクラブ
それはホテルの一室で男女20人が合コンするというギャラ飲みのバイトで、報酬は1回2000円。密な空間のためコロナ感染のリスクが高く、しかも安価だったため、百合恵さんはすぐに断った。しかし、しばらくたっても仕事は見つからず、やむを得ず彼に連絡を入れると港区にあるデートクラブを紹介された。
「デートクラブで私が熟女バーに勤務していることを伝えると、ルックスを含めて私が稼げる料金の料金システムは3ランクに分類されていると説明されました。Sクラスは1回10万円。Aクラスは3万円。Bクラスは1万~2万円。食事のみは5000円でした。年齢は関係がないとのことで、『私よりも上の世代の男性が申し込んでくるだろう』と言われました。交際クラブがセッティングするのは最初だけ。2回目は双方で合意の上、“大人の関係”を築いていくというものです」
“大人の関係”というのは言うまでもなく愛人関係のことだ。キャバクラはお客さんにサービスをしながら時には疑似恋愛があったり、駆け引きのようなスリルもあったそうだが、デートクラブではコミュニケーションもあまりないままの契約で、百合恵さんは戸惑った。
◆デートの1人目は65歳の不動産社長
「お店によってやり方が異なるかもしれませんが、私が入会したデートクラブでは1か月で10~15人のパパのプロフィールをメールで送ってもらいました。いわゆる紹介です。生理的に全員NGだったのですが、生活費を稼ぐために我慢しようと、無理やり3人に絞ってお会いしました」
百合恵さんが出会った1人目は65歳の不動産社長。資産家で外国産の車を乗り回していた。銀座の鉄板焼専門店や高給寿司店で、時短営業の合間を縫ってのデートだった。
「最初のデートでAクラスの3万円をもらいました。でも次のデートでいきなりお小遣いとして20万円。その後も会うたびに20万円を差し出されるんです。キャバクラの月給の半分以上を1回で支払うって、どういうこと?と戸惑うばかりで、4回目のときに『こんなにいただくわけにはいかない』と返金したら『君は可愛いね』とプロポーズされたんです」
◆無粋さにムカついた2人目の交際相手
さらに、両親に挨拶したいとしつこく言い寄ってきたので驚いたという百合恵さん。「こちらは仕事と割り切っているので、結婚は無理です」と言って、きっぱり別れたという。
「生活に困っているからといって、虚業のような仕事を続けていいものだろうか」と百合恵さんは迷っていた。傍目にはわかりづらいが、彼女の中にはキャバクラとパパ活には明確な線引きがあったという。
「その迷いが払しょくしないまま、次の相手に出会うことになり、2人目は50代後半の上場企業の重役でデート代3万円でした。でも、二人きりで会っているのに家族の話を繰り返す無粋さにムカつきました。イライラして『そんなに家族が大事なら、さっさとお家へ帰ったほうがいいんじゃない』と言って別れました」
◆「私はソープ嬢じゃない」と帰った3人目
3人目は50代前半のゲームクリエーターと称する独身の小太りの男だった。
「コロナ前はソープ通いで、店外デートもしていたそうですが、コロナになってからお気に入りのソープ嬢と会えなくなったので、デートクラブで相手を物色しているようでした。怖くなったので、『私はソープ嬢じゃない』とデート代1万円をもらって帰りました」
その後は生活費を稼ぐと割り切って、食事だけの5000円でパパ活を続けたという百合恵さん。だが食事のたびに関係を迫られるため、男嫌いになって普通の恋愛ができなくなるかもしれないと、デートクラブを退会した。
「生活費のためとはいえ、体を売るということにだんだん耐えられなくなってきました。自分がどんどん堕ちていってしまうような感じがしたんです。それからは実家に戻って、コロナが収束するまで細々とバイトをしていました。パパ活をしたことをずっと後悔していました」
◆1人の時間が増えて孤独だった
コロナ禍で夜職の友人や知人らと連絡を取ってみると、百合恵さんのようにパパ活を始める夜職女子が少なくなかったという。なかには月に50万円以上も稼ぎ、港区のマンション住まいの子もいたのだ。
「でも高額なパパ活料をもらっている女性は、相当無理していました。言い値で仕事をしているから、人間としての感情を押し殺して生きているみたいで。彼女のメンタルが心配でした」
男の“言い値”で商売をやってはいけないと心に刻み込まれたという百合恵さん。昨年からキャバクラが営業再開し、“古巣”に戻ったところ、ある種の懺悔の念が湧いたそうだ。
「再会したお客さんたちは口をそろえて、『感染予防を優先したので、人に会う機会が極端に減り、1人の時間が増えて孤独だった』と言います。当たり前のことですが、コロナ禍で孤独だったのは私だけではないと思いました。またコロナが落ち着いて店が再開すると、コミュニケーションをとりながら接客できるのは精神的に楽だということにも気づきました。デートクラブに登録して売春したことを後悔しています」
コロナ禍はまさしく異常な時期だった。だがまた同じようなことが起こるかもしれない。そうなっても慌てないように貯金を怠らないようになった。
<取材・文/夏目かをる>