ガソリンスタンドで“ワンオペ深夜勤務”73歳男性が過労死したケースも…増え続ける「高齢者の労災」

生活が苦しくとも誰にも相談できない―。そんな孤独を抱えながら貧困に苦しむ中高年が増えている。特に同居家族がいない独居中高年の場合、身近に助けを求められる人すらいなく、苦しい状況を一人で抱えたまま心を病んでしまう人もいる。中高年を襲う孤独と貧困の実情に迫った。◆高齢化する日本の職場
定年の延長もあり、60歳を超えても働くのが当たり前になった昨今。総務省統計局が’21年に発表した65歳以上の高齢就業者は909万人で、過去最多を記録している。
「オフィス系の仕事に比べて、肉体労働やサービス業の仕事は高齢者でも採用されやすい。ただ、年齢的に“この先20年活躍する”という人材ではないし、60代だと親の介護で仕事をやめる人も出てきます。
企業側としてはどうしても、パートや補助ポジションなど代替可能なかたちでの採用にせざるを得ないのです」
そう話すのは、シニアに特化した転職支援サービスを行う「シニアジョブ」代表の中島康恵氏だ。
◆高齢労働者を採用するときの課題とは?
ここ数年で初めて高齢労働者を採用しだした企業も多く、「現場では課題が出始めている」と続ける。
「特に大きな問題は、高齢者をどこまで働かせていいのかということ。どれくらいの能力があり、どれくらいの就業時間なら大丈夫なのかを企業が把握しきれていないのです。
労働する本人も若い頃と同じ感覚で働こうとしますが、やはり体力的に厳しく、場合によっては無理がたたって体を壊す人も出てきてしまう」
◆増え続ける高齢者の労災
高齢労働者の労災案件も増えている。厚生労働省によれば、60歳以上の労災件数が’07年の約2万人から’21年には3万9000人と、およそ2倍になった。高齢者の労働問題に取り組む青龍美和子弁護士が話す。
「深夜労働や調理、運転など、体力を使う仕事に就かざるを得ない人が多いことも労災が増えている原因でしょう。仕事内容がきつい割に賃金が低いので、現役世代からは人気がない半面、『どんな仕事でもいいから働きたい』という高齢者が集まる。
そして契約を切られたくないので無理をし、労災になるケースが増えているのだと思います」
◆高齢者が過労死するケースも…
青龍氏が現在関わっている高齢者の過労死の裁判も、まさに無理がたたったケースだ。
「セルフ方式のガソリンスタンドでワンオペによる深夜勤務をしていた73歳の男性が亡くなった事例です。もともとのシフトは週3日だったそうですが、ほかの人の穴埋めで連勤が続き、勤務日の翌日に自宅で亡くなっていたそうです。
これも出勤を断れなかったからだと思われます。高齢者の場合は、企業が労働時間や部署の配慮を徹底したり、非正規雇用でも健康診断を受けさせるといった取り組みが必要でしょう」
◆高齢者が働きやすい職場づくりは急務
「一部の企業では『現役世代の7割程度の労働時間に抑える』といったルール作りをしていて、こういったシンプルな制度があるだけで働きやすさも変わる」(中島氏)
高齢者が働きやすい職場づくりは、現役世代の将来のためにもなるはずだ。
【「シニアジョブ」代表 中島康恵氏】50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。シニアの転職・採用などをテーマにした執筆も行う
【弁護士 青龍美和子氏】東京弁護士会所属。解雇や雇い止め、セクハラ・パワハラなどの労働事件を多く担当し、離婚やDVなどの家庭問題にも取り組む
取材・文/週刊SPA!編集部