最近、風俗や個人売春で体を売る女性たちの一部が、セクストーション、つまり性的な画像や動画を利用して行う恐喝や詐欺に加担することがあるという。【前編:女子大生を性的画像で恐喝「セクストーション」戦慄手口】に続いて、その詳細を述べたい。
上田ひなた(仮名、27歳)がセクストーションを行ったのは、風俗で働いていた時に知り合ったA美の誘いがきっかけだった。不倫用マッチングアプリで知り合った男性にいかがわしいテキストや動画を送らせ、個人情報を突き止めてから恐喝をするのだ。
ただし、一から十までひなたやA美がやるわけではなかった。背後には、それを指揮する不良グループの男性たちの存在があった。
まず不良グループの男性たちとともに、不倫用マッチングアプリで複数のアカウントを作り、一度に数十人の男性とやりとりをする。その中で脇の甘そうな男性を見つけると、ビデオ通話でネット越しに会って、お互いのヌード画像を交換したり、自慰を見せ合ったりする。その画像はすべて撮影して保存しておく。
その後、フェイスブックなどを教えてもらい、個人情報を抜き取れればいいが、そうでなければ別の手段に打って出る。いざ、会うという段階になってから、こう言うのだ。
「やっぱり不倫系のマッチングアプリで会うのは不安だから、運転免許か保険証の画像を送ってくれない? 私のも送るから」
普通であれば、男性は渋るだろう。しかし、この時すでにお互いの裸を見せ合い、対面の一歩手前まで来て、気がせいているので、断るという判断にはなりにくい。それで運転免許や保険証の画像を送ってしまうのだ。
その瞬間、裏にいた男たちが現れ、メッセージを送る。これまでのやりとり、裸の画像や動画、それに身分証を示して言うのだ。
「これを会社や家族にバラされたくなければ80万円よこせ」
男性の2割は音信不通になるが、8割は支払うそうだ。こうして入手した金は、不良グループが7割、ひなたやA美が3割手にするという。
実は似たような犯罪が、他の不良グループの間でも広がっているそうだ。一体なぜなのか。
今回、ひなたを介してB子(26歳)を紹介してもらい、その背景を聞いた。B子は20歳の頃から風俗で働いており、コロナ禍以降は知人の不良グループの下で違法な援デリで働いていたという。
B子は言う。
「昔は風俗だけとか、援デリだけでそこそこ稼げたんです。けど、コロナからは、ウリ(売春)をやる子がメチャクチャ増えたせいで客がつかまんなくなって、うまくいかなくなった。それで稼ぐために別のことをしなきゃいけなくなったんです」
援デリは、SNSなどで不良グループが客を見つけ、女性たちをホテルなどへ派遣して売春をさせる違法行為だ。
実際にコロナ禍によって売春の相場は大幅に下落したといわれており、昔のように一日で数万円を稼ぐのは相当難しくなっている。そこで不良グループや女性たちは、別の収入源を得るため、セクストーションに手を染めたというのだ。
B子は言う。
「グループの人からは、風俗で働いている子に声をかけて勧誘しろって言われてます。ウリをしている子は、ビデオ通話で脱ぐとか、エッチな写真を送るとか、そんなに抵抗ありません。店がオプションとしてやらせているところもありますから、絶対にダメって子はほとんどいないんです。それで昔店で働いていた時に知り合った子とか、SNSで知り合った子とかに声をかけてやってもらっているんです。ひなたもその一人でした」
最近は、風俗で働きながら、アダルト系のビデオチャットなどのバイトをしている子も多いそうだ。
とはいえ、セクストーションは立派な犯罪であり、逮捕されるリスクも高い。そのことについてはどう思っているのか。
B子の言葉である。
「援デリも違法だから同じって感覚です。それにネット上のやりとりだけで済むから、援デリより安心だしお金になる。グループの人たちがうまくやってくれるから、捕まることもないと思ってます」
違法な売春などすでに違法行為をしている者たちにしてみれば、セクストーションはより簡単で安全な仕事に見えるのかもしれない。
また、B子からの情報によれば、ホストがこれに似た犯罪に手を染めることもあるらしい。現在、ホストの営業は、ホスト個人のSNSによって行われている。SNSは店に来た客とつながるツールであるだけでなく、そこで不特定多数の女性にホストである自分をアピールしてファンを作り、店へと呼び込むツールでもあるのだ。
質の悪いホストは、そのSNSをうまく利用して客やファンになった子にヌード写真を送らせた上で、「店に来てシャンパンのボトルを注文してくれなければ写真を流出させるよ」と脅したり、直接的に金品を要求したりすることがあるらしい。
昔から人の弱みを握って金品を脅し取る犯罪は一定数あったが、大半は暴力団など爛廛蹲瓩了填箸世辰拭だが、スマホが普及したことで、素人も簡単に手を出せる犯罪となりつつある。その中で、売春や水商売などグレーの世界に生きる人たちが積極的に手を染めているのがセクストーションなのである。
厄介なのは、そうした犯罪がウェブの闇の中で行われ、非常に見えにくいことだ。これからますます増えていくであろう、こうしたトラブルを未然に防げるか否かは、当事者の意識にかかっている。
取材・文:石井光太’77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。