2025年5月18日、当時の農林水産大臣だった江藤拓・衆議院議員が「コメは買ったことありません」と発言し、日本中から抗議の大合唱を浴びたのは記憶に新しい。農水省の調査によると、その頃、全国のスーパーでコメ5キロは約4400円で販売されていた。価格高騰に苦しむ消費者は江藤氏に対して「コメが高すぎるし、そもそも売り場にない。大臣は実情を分かっているのか?」と強く批判した。(全3回の第1回)
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【写真】「日本と全然違う!」韓国のスーパーで実際に売られているコシヒカリの“お値段”とは? 日本人向けにお持ち帰りを呼びかける張り紙も
ところが今、少なくとも都市部でコメの価格は当時よりさらに高い。国産の新米はスーパーだと安くても5キロ4800円台であり、むしろ5000円を超えるほうが一般的だ。担当記者が言う。
「XなどのSNSをチェックすると、もちろん『コメが高い』という投稿は今も相当数が表示されます。しかし、そうした不満が世論の激しいうねりに発展しているわけではありません。なぜ消費者が以前ほどコメ価格の高止りに怒りを表明しないのか、色々と取材してみました。すると、すでに『日本人のコメ離れ』が急速に、しかも大規模に始まっていることが分かったのです」
コメ価格が高止まりして誰も買えず、卸業者の倉庫では在庫がだぶついている──衝撃の事実を報じたのはテレ朝NEWSだ。(註1)
とはいえ、私たち人間にとって炭水化物は不可欠なエネルギー源。脳や身体を動かすためには絶対に摂取しなければならない。
「消費者はコメの購入を諦め、代わりに麺類を選んでいるとの指摘が相次いでいます。複数の市場調査会社が『コメ高騰でスーパーではパスタの売上が伸びている』と報告しているのも事実です。日本パスタ協会の発表によると、パスタの輸入量は今年の1月、対前年同月比で180%を記録しました。7月から9月までの3か月も全て100%を超えています」(同・記者)
うどんやラーメンの売上も伸びており、帝国データバンクは11月、今年1月から10月にかけて「製麺所の倒産件数が過去最少になった」と発表した。飲食店や家庭でうどん、ラーメン、そばやパスタなど麺類の需要が増え、経営が苦しかった製麺所を救ったのだ。
皮肉なことに、最近の消費者はまさに江藤氏のように「コメは買ったことありません」という日常生活を過ごさざるを得ないのだ。
当時は「コメがない」、「コメが高い」と怒りの投稿で満ちていたXも、すっかり様変わりしてしまった。具体的にポストの一部をご覧いただこう。
《最近はお米が高いので、パスタ、そうめん、そばは必需品》、《普段は500gで100円しないトルコ産が主食》、《来年、日本人の主食がパスタになると思っている》、《スーパー行けばわかるだろうけど、パスタ売り場が前より広がってる》、《コメは贅沢品になりつつある。。。スーパーで売られているうどんの安さに驚く》──。
その一方で、麺類やパンでは満腹感が得られないという消費者も少なくない。「やはりコメを食べたい」という層が購入しているのがカルフォルニア米だ。こちらの場合は“国産米離れ”と表現すべきかもしれない。
「財務省が10月30日に発表した貿易統計によると、今年度上半期に民間企業が輸入したコメは約8万6000トンに達しました。前年同期は、たったの約400トンでしたから、比較すると約200倍という桁違いの伸びを示したのです。ちなみに8万6000トンのうち、約8割がアメリカ産のコメでした。民間がコメを輸入すると1キロ341円の関税がかかります。しかし、それでも国産米より安いのはご存知の通りです。国産米が5キロ5000円台で高止りしているのに対し、カルフォルニア米は良心的な業者だと5キロ3000台円で売っています。時事通信は記事で《今後も民間輸入は活発化しそうだ》と伝えましたが当然でしょう(註2)」(同・担当記者)
こちらもXを見てみよう。《コストコで5kg2999円のカルフォルニア米を確保。子ども3人いると5kgなんて2週間くらいで消える》、《今スーパーに出てるカルフォルニア米や台湾米は美味しいと思う》、《カルフォルニア米安くて美味しくて神》、《我が家は今はカルフォルニア米です》──。
「都内のスーパーを回ると、まず、あれだけ話題になった“備蓄米”は影も形もありません。完全に消えてしまった印象です。入札を行った“江藤米”だろうが、随意契約の“小泉米”だろうが、同じです。私が見学に行ったスーパーのうち、1軒は『今後、備蓄米が入荷されることはありません』と張り紙を出していました」(同・記者)
まだコメの高騰が始まっていなかった昨年の夏までは、国産の格安ブランド米が売られていたが、こちらも同じく姿を消した。
「一方、カルフォルニア米は店頭に並ぶと、あっという間に消えてしまいます。そして棚には5000円台の国産新米が売れ残り、誰も見向きもしません。やはり消費者は非常に正直です。今年6月に随意契約で備蓄米が販売されると、コメの平均価格は5キロ4176円から3920円に下がり、コメの販売量は右肩上がりに転じました。今のところ今年になって最もコメが売れたのは7月28日から8月3日の週で、この時は平均価格が3542円、ブレンド米の平均価格は2999円でした。コメ5キロが3000円を超えると消費者のコメ離れが進むということをデータは明白に示しています」(同・記者)
コメ離れが進んでいるにもかかわらず、国はおこめ券の配布を進めているようだ。この政策は矛盾ではないのか……。
第2回【「おこめ券」は本当に物価高対策になるか 「JA」「鈴木農水相」が全面支援も…「5キロ5000円」時代には“焼け石に水”との声も】では、おこめ券を受け取っても、国民は不満を持つ可能性についてお伝えする──。
註1:だぶつく新米…倉庫に山盛り 「注文が極端に鈍い」卸業者不安 在庫をなすり合い(テレ朝NEWS:11月10日)
註2:コメの民間輸入量、208倍に 今年度上半期、国産米高騰で(時事通信:10月31日)
デイリー新潮編集部