鳥取市で男児をはねたとする容疑で逮捕される事故を起こした男の容疑者が3日後、島根県で高校生をひき逃げしたとするなどの容疑で逮捕される事件が今春、あった。
数日で重大事故を連続して起こす考えられない事態。最初に対応した鳥取県警に対し、鳥取県民から疑念の声があがるが、県警は「対応に違法性はない」とする。だが、取材をすると、一部の県警関係者からも対応を省みる思いが漏れてきた。(藤川泰輝)
1度目の事故が起きたのは3月31日。鳥取市の県道で伯耆町の男(74)運転の車に横断歩道を横断していた男児(9)がはねられ、意識不明の重体になった。鳥取署が自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致傷)容疑で現行犯逮捕した。
2度目は4月3日。島根県安来市で男は車を運転し、米子市の男子高校生(15)をはね、足に軽傷を負わせてそのまま逃走。県警安来署は同11日、男を道路交通法違反(ひき逃げ)などの容疑で逮捕した。
男は8月下旬、読売新聞の取材に「(2度目の事故は)子どもに会いに行った。申し訳ない気持ちもあったが運転してしまった」と話した。
両県で児童生徒が続けて被害に遭った。鳥取県警が何よりも安全を守るべき県民を、4~8月に取材したところ、最初に逮捕した県警に対し、「事故を起こしたのに、なぜすぐハンドルを握らせたのか」(県民の女性)との意見が聞かれた。
通常、事故を起こした場合に下る行政処分は、運転状況などを基準に判断するため数週間かかることもある。事故を起こした者も、処分が出るまでは運転ができる仕組みになっている。
ひき逃げ事件や酒酔い運転による死傷事故などの悪質な者には警察署長が即日、免許の仮停止処分を出すことができる。県警は「2度目の事故では恐らく仮停止が可能だが、(悪質性が少ない)1度目は仮停止の条件に当てはまらなかった」と説明。「法に従って適切に対応していた。ひき逃げは防げなかった」とする。
それでは男を勾留し続けることはできなかったのか。
勾留しない、と判断したのは地検だ。釈放後の2度目の事故について「被害者が出てしまったことは残念だ」としつつ、「無罪推定の原則のもとで動いており、責任は感じていない」とした。刑事訴訟法に基づく勾留の要件を満たさなかった、と主張する。
県警や地検の説明では、今回の事態は避けられなかった、となる。
県警関係者は、今回のようなケースの再発防止策は、現場担当者の裁量によるしかない、とする。つまり、「今回はここがいけなかったから今後はここに気をつけるように」「安全運転を心がけないと」などとの声かけをする程度しかできない、というわけだ。
読売新聞は8月中旬、1度目の事故に遭った男児宅を訪問。インターホン越しに対応した女性に、一連の事故に対する思いを尋ねたが、取材には応じない旨の回答が返ってきた。心情をうかがうことはいまだにかなわない。
県警運転免許課は「結果的にこうなったことは残念だが、法が改正されない限りはこういう対応になる。2度目の事故の責任についてはコメントする立場にない」とした。
ただ、県警のある警察官は本心を明かす。「被害者のことを考えると安全を守れなかったことへのもどかしさを感じる。自分の子どもだったら絶対許せない」(年齢はいずれも発生当時)