日々の生活を円滑にするツールとして多くの家庭で利用されているクレジットカードの家族カード。しかしその利便性の裏に、思わぬ税負担という影が潜んでいることをご存じだろうか。
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ある会社役員の男性Aさんは、大学生の娘に自身の家族カードを持たせていた。学費や生活費の支払いに充てるためであり、娘もその範囲で堅実に利用しているものと信じていた。しかしある月、利用明細を確認した男性は目を疑うことに。なんと家族カードの利用額が不自然に跳ね上がっていたのだ。
娘を問い詰めると、高級ブランドのバッグや高額なエステ、友人との海外旅行費用に使用していたことがわかった。その総額は年間で200万円を超える。当初は「たまの贅沢も仕方ない」と考えたAさんだったが、後日「この支払いは贈与にあたり、税金がかかるのではないか」という懸念が頭を離れなくなった。
果たして家族カードの利用は、贈与税の対象となるのか。正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞いた。
ー家族カードの利用代金は贈与税の対象となるのでしょうか
対象となります。贈与税とは、個人から財産を無償でもらったときにかかる税金です。家族カードの利用は、本会員である親が子の利用代金を支払う、つまり「親が子に金銭を渡し、子がそれで買い物をした」という行為と経済的には同じです。したがって、その利用内容によっては贈与とみなされるでしょう。
ー贈与税がかかるかどうかの判断基準はどのようなものですか
重要な基準は、その支出が「扶養義務の範囲内」かどうかです。親が子を扶養するのは義務であり、そのために必要な学費や生活費(食費、家賃など)を都度支払うことについては、社会通念上相当と認められるため贈与税はかかりません。
しかし、今回のケースにある高級ブランド品や娯楽のための海外旅行費用は、この「通常必要と認められるもの」という範囲を明らかに超えていると考えます。これらは扶養義務とは関係のない贅沢品や娯楽費と判断され、贈与税の課税対象となる可能性が高いでしょう。
ー年間110万円の基礎控除は適用されますか
はい、適用されます。贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から、基礎控除額である110万円を差し引いた残りの金額に対して課税されます。
今回のケースでいえば、贈与とみなされるブランド品や旅行費用の合計200万円から、基礎控除の110万円を差し引いた90万円が贈与税の課税対象となります。
ー納税義務を負うのはどちらですか
贈与税の対象となった場合、その税金を納める義務があるのは支払いをした親(贈与者)ではなく、財産をもらった側(受贈者)です。今回のケースで言えば、納税義務を負うのは経済的な利益を享受した娘側です。カードの支払い名義人が親であっても、納税義務者が娘であるという点を勘違いしてはいけません。
便利な家族カードですが、その利用が高額になればなるほど、喜びと同時に税務上のリスクを伴う点を忘れないようにしましょう。扶養の範囲を超える高額な利用については、専門家に相談するなどルールに沿った対応が求められます。
◆正木由紀(まさき・ゆき)/税理士 10年以上の税理士事務所勤務を経て令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として子育てに奮闘中。
(よろず~ニュース特約ライター・夢書房)