飲食店で出されたアツアツの味噌汁に赤ちゃんが手を入れてしまい、大やけどしてしまった──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
相談者によると、生後半年に満たない乳児を抱っこしていたところ、「こちらに置いてよろしいですか」などの声かけもなく、いきなりアツアツの味噌汁が目の前に置かれたそうです。
その瞬間、乳児が味噌汁に手を入れてしまい、大火傷になってしまう事態に…。相談者は急いでトイレで手を冷やし、救急車も呼びましたが、乳児の手指の皮膚がズルむけ状態になりました。
感染症の危険や手術の可能性なども指摘されたそうです。「親としてショックでなりません」。
飲食店から謝罪もないため、相談者は憤っています。はたして店に法的責任はあるのでしょうか。半田望弁護士に聞きました。
–一般的に、飲食物を提供するにあたって、飲食店は客に対して、どのような義務(責任)を負っているのでしょうか。
あえて、飲食店と客との間の契約関係を名付けると「飲食物供給契約」ということになりますが、契約としては「注文どおりの飲食物を提供する」ことがその内容になります。
また、飲食店では店内での飲食行為を前提としますので、店側には、客が店内で安全に飲食できるよう、安全面や衛生面において必要な環境を整えること(安全配慮義務)も契約上の付随義務として認められます。
たとえば、料理を運ぶときにこぼして客の服を汚してしまうとか、床の清掃が不十分で利用客が転んでケガした場合などが典型的な安全配慮義務違反となります。
そのほかにも、食中毒や異物混入など商品に欠陥があった場合には、製造物責任が発生します。
–火傷する可能性のある飲食物を提供するにあたって、店は客に対して、具体的にどんな義務を負っているのでしょうか。
飲食物を提供する適切な温度は商品によってまちまちです。火傷する可能性のある飲食物を提供することも、具体的な商品によってはそれが正しい提供方法になります。
飲食店の利用者に対する安全配慮義務の内容について明確に述べた裁判例は調べた限り見つかりませんでしたが、一般的な安全配慮義務の理解を前提とした場合、火傷をする可能性のある料理の提供方法をめぐっては、店側としては、一般的に事故発生を防止するために必要とされる注意をしていれば責任はないと考えたほうが妥当でしょう。
アツアツの鉄板ステーキを食べて火傷したからといって、ステーキに欠陥があったとはいえないですよね。
また、鉄板を触ってやけどした場合でも、鉄板が熱いのは見たらわかることですし、アツアツの鉄板をわざわざ触る客がいることまで予見する必要はないと考えますので、通常は安全配慮義務違反となることはないと考えます。
ただし、多くの場合は店が万一の責任発生を防止する意味で「お熱くなっているので注意してください」と声かけをしていると思われます。
とはいえ、このような声かけがなかったからといって、店に責任が生じると考えるのは行き過ぎでしょう。
逆に店側に責任が生じる可能性がある場合としては、アツアツの料理を落下しそうな位置に置いた結果、客が誤って料理を落下させた場合や、本来は火傷をしない温度で提供すべき料理であったにもかかわらず、火傷の可能性がある温度で提供し、かつ、火傷の可能性について注意喚起していなかった場合など、店側が十分に注意をしていれば事故発生が防止できた場合が考えられます。
–客が乳幼児を連れているなどの事情は影響があるのでしょうか。
客が乳幼児を連れている場合でも、子どもの安全は一次的には親が注意すべきですので、店側の義務は大きくは変わらないと考えます。
一方で、子どもは、大人と異なり、予想外の行動を取る可能性がありますので、子どもの安全については店側でも一定の注意は必要と考えます。
たとえば、注意喚起の張り紙をしたり、声かけを励行したり、火傷の危険のある料理の提供は行わないというルールを設けるなど配慮が必要となる場合もあるでしょう。
ただ、このような対応が負担となるため、乳幼児連れの入店を断るところもあると聞いています。
私見ではありますが、子ども連れの客に対してより重い注意義務を課すことは、かえって子ども連れでの飲食店利用を困難にすることにつながりますので、店側が一定の注意をすべきとしてもあくまで道義的なものと理解すべきであり、法的な義務を加重すべきということには、個人的には賛成できません。
–今回のケースで店側の責任は認められるのでしょうか。
今回のケースでは、従業員から熱い味噌汁を提供することの注意喚起がなかったことや、乳児の手の届く位置に味噌汁を置いたことなど、店側にも注意不足な点があったことは否定できません。
しかし、乳児が提供直後の味噌汁の中に手を突っ込むことまでは通常予見できませんし、好き嫌いは別にして、味噌汁はアツアツで提供されるのが普通ですので、声かけをしなかったことや、アツアツの味噌汁を提供したことは、店側で事故発生のための必要な注意を怠ったとは評価できないと思われます。
たしかに店側にも不十分な点はあったとはいえ、法的な責任を発生させるまでの義務違反があるとはいえず、今回のケースは「不幸な事故」と考えるほかないでしょう。
なお、余談ですが、仮に店側の責任が認められた場合でも、不法行為の場合に準じて過失相殺の問題が生じます。
これについては、事理弁識能力のない幼児に過失を考えることはできませんが、保護者に過失があれば過失相殺またはこれに準じた処理がされます。
今回のケースに即して考えると、相談者についてもテーブルの上の料理に子どもの手が届く位置で抱いていたことが過失として判断される可能性はあると考えます。
また、今回のケースでは店側に責任はないと考えますが、店側の対応として責任が生じる事故が発生した場合に備えて企業総合賠償責任保険や製造物責任保険、施設管理者賠償責任保険などの保険に入っておくことも重要です。
【取材協力弁護士】半田 望(はんだ・のぞむ)弁護士佐賀県小城市出身。主に交通事故や労働問題などの民事事件を取り扱うほか、日本弁護士連合会・接見交通権確立実行委員会の委員をつとめ、刑事弁護・接見交通の問題に力を入れている。また、地元大学で民事訴訟法の講義を担当するなど、各種講義、講演活動も積極的におこなっている。事務所名:半田法律事務所事務所URL:https://www.handa-law.jp/