年の瀬、物価高騰の波がクリスマスケーキにも押し寄せている。要因となっているのは、やはり原材料費だ。
ケーキに欠かせない鶏卵やバターなどに加えて、「主役」とも言えるイチゴが大きく値上がりしている。クリスマスを目前にした12月20日時点の卸売価格は、平年と比べて20%以上高い値段で推移しており、なかには1パック2000円を超えるものも。
洋菓子店やメーカーはイチゴの飾り付けを控えめにしたり、代用品としてイチゴクリームを使用したりと、対応に追われている。洋菓子店からは「これ以上値上がりが続くと、ほとんど利益が出なくなる。これなら作らないほうがマシだ」と嘆く声も聞かれ始めた。
イチゴ高騰の大きな原因と考えられているのは、今秋の高い気温だ。冬から春にかけてイチゴを収穫するにあたり、9月から10月頃にかけて、苗を植える「定植」と呼ばれる作業が行われる。
苗を植えてしばらくすると芽が出て、やがて花が咲き、お馴染みの赤い実が成る。だが、この定植の時期に気温が高い状態になると、芽がうまく出ない。そうなればイチゴの収穫はできず、市場へと十分に出荷されない事態になる。
今年10月の日本の平均気温は平年と比べて2℃以上高く、明治時代に統計をとり始めて以降「最も暑い10月」となった。現下のイチゴ不足と価格高騰は、まさにこの異常気象が原因なのだ。
影響を受けているのはイチゴだけではない。その他の野菜や果実も同様に生育が進まず、市場への供給量が減った結果、大きく値上がりしている。
野菜相場の代表的な指標であるキャベツの卸売価格は、平年比3倍以上という記録的な高値が続いている。店頭で“1玉300円”の値札を見て驚いた人も多いのではないか。また、一時はトマト、レタス、ピーマンなどの相場も、平年比で2倍に迫る水準になった。
キャベツは多数の葉が玉のように重なる「結球野菜」だが、高温下ではこの結球がうまく進まない傾向にある。トマトも、気温が高くなると花が落ちてしまう“着果不良”と呼ばれる現象が起きやすくなる。このように異例の高温は、さまざまな野菜や果実に深刻な影響をもたらすのだ。
困惑しているのは消費者だけではない。青果物の流通を担う卸売市場関係者の間では、それ以上に戸惑いと不安の声が広がっている。
首都圏のある青果卸関係者は「今までの常識がまったく通用しない状況になっている。これまでは『しばらくすれば元に戻るだろう』という感覚だったが、今回ばかりは年が明けても野菜が市場に出てくるかどうか全く予想できない」と嘆く。
関西の青果仲卸関係者からも「(現在の状況は)未知の領域」と戸惑いの声が聞かれ、別の関係者は「この先、日本人が野菜を食べ続けることができるのか、本気で考えなくてはいけない」と危機感を露わにする。
このように、青果物の価格高騰の行く末は、もはやプロでさえ予測できない局面に入っているのだ。
だが、実は関係者の間では「今後はこれくらいの価格が当たり前になると思ってもらったほうがいい」という意見もある。インフレに苦しむ消費者の立場からは反感を買うかもしれないが、生産者や青果物販売を生業としている関係者からすれば、今の値段は間違いなく「安すぎる」からだ。
農林水産省が毎年公表している「農業物価指数」というものがある。これによると、野菜を出荷する生産者が受け取る価格指数は、2020年を100とした場合、2023年は113.3と10%ほど上昇した。
だが、同時に野菜の栽培に必要な肥料の価格変化を見ると、同じく2020年を100とした場合、2023年の指数はなんと147まで上がっている。わずか3年で5割近くアップしているのだ。
肥料だけではない。トラクターやビニールハウスの加温に必要な燃料費などを示す「光熱動力」の価格指数も126.9まで高騰した。生産に必要な原材料費が何もかも値上がりしている以上、生産者への還元額がコストに見合っているとは到底言い難い状況だ。
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【つづきを読む】『「このままでは日本人は野菜を食べられなくなる…」異常気象でイチゴもクリスマスケーキも高騰、《野菜の奪い合い》が激化し未曾有の「野菜ショック」へ』
「このままでは日本人は野菜を食べられなくなる…」異常気象でイチゴもクリスマスケーキも高騰、《野菜の奪い合い》が激化し未曾有の「野菜ショック」へ