12歳の少女に性的暴行をしたとして、さいたま地裁で不同意性交等の罪に問われていたクルド人男性、ハスギュル・アッバス被告(22)に、7月30日、懲役8年の実刑判決が下った。
「刑務所には入りたくない。控訴します」
8月上旬、さいたま拘置支所の面会室に現れたハスギュル被告は、こう述べ、一審判決への不満を訴える。高裁で減刑されるための“手立て”も用意しているという。
【前後編の前編】
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【写真】「トイレで“行為”する10代の男女が…」「掃除すると避妊具が」 クルド人の若者が集まる川口市内の公園
ハスギュル被告の告白の詳細に入る前に、事件の流れを振り返ろう。ハスギュル被告は昨年1月、川口市内で14歳の女子中学生に性的暴行をしたとして、不同意性交等罪の容疑で逮捕された。県青少年健全育成条例違反で起訴され、昨年5月にさいたま地裁で懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を受けている。
その執行猶予中だった昨年9月、12歳の少女に性的暴行を加えた疑いで再び逮捕。ハスギュル被告は難民認定申請中で、入管施設の収容を免れている「仮放免」の立場だった。
この事件の裁判がさいたま地裁で行われ、先に触れた通り、今年7月末に懲役8年の実刑判決が下っている。法廷で判決が下ると、傍聴していた初老の女性が大声を出し、外国語で叫び続けた。ハスギュル被告も暴れ出し、複数の刑務官に取り押さえられている。
一審判決が出た後の8月上旬、記者は、さいたま拘置支所に収容されているハスギュル被告と面会を行った。
この日面会室に現れたハスギュル被告は、中央に「PRADA」の文字が入った黒いTシャツに、黒のスウェットのズボン姿。中肉中背の体形で、Tシャツから伸びる両腕は手首までびっしりとタトゥーが彫られている。黒々とした髪は伸び、まとまりをなくしていた。
SNSでは、自信に満ちた表情を浮かべ、派手な髪色でポーズをとる写真や動画を投稿していたが、拘置支所の面会室でうつむいて席に座ったハスギュル被告は、居心地が悪そうな様子だった。口数は少なく、聞かれたことに対して辛うじて聞き取れるぐらいの声量で、ぽつりぽつりと答えていく。日本語での会話は問題なく出来たが、一部理解できない様子の単語があり、その場合はより平易な単語に置き換えて会話を行った。
以下は、ハスギュル被告と記者のやりとりである。
――懲役8年の判決をどう受け止めたか。
「刑務所には入りたくない。控訴する」
記者は判決前の6月中旬にもハスギュル被告と面会をしている。その際も「(判決が)実刑なら控訴する」と断言していた。
――判決が出た後、傍聴席の女性が何事かを叫んでいたが、彼女は親族か。
「お母さん。普通は(懲役が)5年とか6年とかもっと短いのに、8年だったから、“なんで8年も行かなきゃいけないの!”とか、“なにもしてないのになんで8年なの! 多過ぎる”とか言っていた。8年は長い」
――ハスギュル被告自身も判決が出たとき暴れて、刑務官に頭突きもした。
「懲役8年と言われてイライラした。判決が出たとき検事が笑っているように見えて、それもむかついた。頭突きはしてない。怒りは5分ぐらいで収まった」
――最初の事件の執行猶予も取り消されるため、合計だと懲役9年。一審判決で刑が確定すると、満期なら出所時は30歳過ぎになる。
「(苦笑いを浮かべ)そう。強制送還するなら今すぐして欲しいけど、すぐにはしてくれないから、控訴する」
――刑務所で過ごすぐらいなら、今すぐ強制送還された方がいいという意味か。
「そうです」
――控訴審でも、判決が一審と同程度の懲役刑かもしれない。何か考えがあるのか。
「相手側と話して、示談できるなら示談したい。2000万円準備してる。弁護士に、相手側の親に聞いてみて、と頼んでる。弁護士も、私選で2人に増やしているところ。お父さんは解体工事の会社をやっているから、そのお金で、お父さんが2000万円用意した。ここを出たいから、家族は応援して待ってくれてる」
――2000万円で示談が上手くいくと思うか。
「わからない」
――高裁で一審と同程度の量刑の判決だった場合は、上告して最高裁まで争う?
「そうします」
――高裁の判決がどれぐらいの刑期なら上告せず受け入れるのか。
「5年だったら、あきらめて(刑務所に)行こうかなと今は思う」
一審の公判では、さいたま地裁の別室で、映像や音声で証言するビデオリンク方式により被害少女が証人出廷している。被害者は「レイプされました」「犯人がまだ捕まっていなかったので怖くて眠れませんでした」「長く捕まっていてほしいです」などと証言した。
それに対してハスギュル被告は、同意の上で口淫をしてもらったが挿入はしていない、被害者が(同意の有無に関わらず、口淫も含めて不同意性交等罪が成立する)16歳未満であることは知らなかった、と主張していた。
6月中旬に面会した際にも、2件の事件について自身の罪状を認めることはなかったハスギュル被告。そのときのやりとりは、以下の通りである。
――最初の事件について聞きたい。14歳の少女に性的暴行をしたとして、不同意性交等罪の容疑で逮捕された。昨年5月には県青少年健全育成条例違反罪で懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を受けている。
「(起訴・判決は)県の条例違反。レイプじゃない」
――今回の裁判で、検察側は一回目の事件の際にハスギュル被告は相手が14歳だとわかった上で“20歳以上だと思った”と虚偽の供述をしていたと指摘した。
「(年齢は)本当にわからなかった。前の事件では弁護士がそう言えば早く終わるという通りにしただけ。実際に執行猶予がついたからこうするしかなかったと思ってるけど、年齢は知らなかったしレイプしてない」 ――逮捕時の容疑が不同意性交等罪だったのはなぜだろうか。
「わからない。(被害少女が)お金をとれると思って騙したんじゃないかと思う」
――金銭目的なら示談の提案など何かしらの働きかけがあるはずだが、それはあったのか。
「そういうのはない。示談しようとしたけど、“する気ありません”と言われた」
――ではお金目的とは言えないと思うが。
「わからないです」
ハスギュル被告からは、この後のやりとりでも「わからない」という言葉が度々返ってきた。
――今さいたま地裁で公判中(6月時点)の事件は、最初の事件の執行猶予中、判決から約4か月後だった。
「前の事件で疲れた。それで心の病院(心療内科の意味)に通っていたし、薬も飲んでる」
――9月13日に少年と被害少女の3人でドライブに行き、コンビニで停車中、少年に買い物に行かせて、少女に性的暴行を加えた、というのが犯行の状況だったと説明されている。
「男の子とは当日コンビニで知り合った。彼女(被害少女)はその子の知り合いで、その日初めて会って、“ドライブに連れて行って”というからドライブに行って、同じ日にもう一度ドライブした。運転してるときに、後部座席で男の子と女の子が体を触ったりしていたから、エッチな気分になって。2万円渡して舐めてもらっただけ。(挿入は)してないです」
――被害少女は公判で“レイプされました”と証言するなど、処罰感情を強く持っている。ハスギュル被告の話の通りであれば、警察に被害を訴えないはずでは。
「お金とるためじゃないですか」
――示談の提案など、お金目的と思われる動きはあったのか。
「ないです」
――刑事裁判で性被害の証言をするのは精神的にも辛い行為だ。もし被害にあっていなかったら、警察に被害を訴えたり裁判で証言したりはしないのではないか。
「どうしてそうしたかはわからないです」
――彼女は当時12歳。16歳未満だと本当にわからなかったのか。
「わからなかったです。化粧もすごくしてたし、もっと上に見えた」
――被害少女が車中で、ハスギュル被告に“何歳?”と聞かれて“中一だよ”と答えた旨を証言している。
「(年齢を確認するやりとりは)してないです」
――当日一緒にいた少年もクルド人か。
「そうです」
当日行動を共にしていたこの少年は、検察にハスギュル被告の犯行の目撃証言を供述していた。だが、証人として裁判に出廷すると、「覚えていない」をひたすら繰り返し、取り調べ検事まで出廷する異例の事態になった。事件翌日、ハスギュル被告らはこの少年を集団で呼び出し、「ハスギュルは悪くない。全部私が悪い」と言わせ、動画を撮影していたことも公判で明らかになっている。
――少年が公判で証言しなかったのは、脅したからではないか。
「してないです」
――事件翌日、集団で重機置き場に少年を呼び出し、動画を撮ったのは何のためか。
「本当のことを話してほしいと言った。(性的暴行は)何にもやってない。だから本当のことを言ってもらうために呼び出した」
――検察での供述では、少年はこの時、ハスギュル被告らに暴行を加えられたとも証言している。
「してないです」
――では少年は、なぜこんな証言を検察にしたのか。
「わからない。騙そうと思ったんじゃない」
――事件当時は、前の事件の執行猶予中だった。メンタルの不調も抱えていた状況で、少女らと遊ぶのを控えて大人しくしていようとは思わなかった?
「そういうのはないです」
――執行猶予中の事件も16歳未満の少女への性的行為で逮捕された。年齢を確認しようとは思わなかったのか。
「考えてなかった」
――裁判の行方はどう考えているのか。懲役刑が下ったら、通常であれば服役後に強制送還になる。
「どうでもいい」
――どうでもいい、という意味は。
「前の事件で疲れた。人生飽きてるから、どうなってもいい。生きるのにもう飽きた。やってないこともやったって言われるし、悪いイメージで言われる」
そう投げやりな口調で答えたハスギュル被告だったが、こうも付け加えた。
「どうせ実刑だったら控訴するし」
――控訴するならどうでもよくはないのでは。
「トルコに戻りたくない」
――日本にいたいということか。
「そう。家族もこっちにいるし、(トルコに)戻りたくない。でも戻れと言われたら戻るしかない」
前述の通り、ハスギュル被告は一審の懲役8年という実刑判決を受けた後も、「控訴する」と宣言した。実際、既に控訴状は提出され、今後は東京高裁で二審の審理が始まる。では、ハスギュル被告はそもそもなぜ来日したのだろうか。本国・トルコでは果たして迫害されていたのだろうか。【後編】では、この疑問に対する本人の弁を詳しく報じる。
デイリー新潮編集部