栃木刑務所に無期懲役刑で服役中の女性受刑者(63)が、体調不良で刑務作業ができないにもかかわらず作業拒否を理由とした「閉居罰」を繰り返し科されたのは違法だとして、国家賠償訴訟を起こすことがわかった。
原告代理人によると、8月29日に訴状を宇都宮地裁に郵送した。閉居罰の差し止めと損害賠償99万円を求めるとしている。過去の判例を調べた範囲では、閉居罰の差し止めを求める訴訟が提起された事例は見当たらないという。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
女性は強盗殺人などの罪で無期懲役刑が確定し、栃木刑務所に服役している。
訴状によると、原告は2021年7月頃から、「身体の中から湧き出てくるような体中の細胞が総攻撃してくる感覚」「獣じみた声を常に発していなければ我慢できない」「身を起こしていると体が震える」「常に激しく歯ぎしりをするので、欠けた歯が口内粘膜に刺さり、口内が傷だらけになる」「息まないと尿が出ない」などの症状が出るようになったという。
そのため、日中も横たわって過ごす必要が生じ、部屋での刑務作業に従事することができなくなった。
実際に刑務所側の診療録にも「担当より、ずっとクネクネして変であるとの報告あり」(2021年9月27日)、「消灯後も小声で『シュワシュワ』と発しており眠れていない様子」(同年11月26日)などと記録されていたという。
女性はこれらの症状が出る前には、約2年間にわたって保護室に収容され、その間に計32回催涙スプレーを噴射されたとしている。
しかし、刑務所側は女性のこうした症状を考慮せず、刑務作業を拒否したとして、2023年3月から2025年6月にかけて繰り返し閉居罰を科したという。
閉居罰とは、反則行為に対する反省を促すために受刑者を居室内で謹慎させる懲罰のことだ。
原告の女性は、これらの不随意運動などの症状があるため、刑務作業をしないことには「正当な理由」が認められ、閉居罰を受ける理由がないと主張している。
また、栃木刑務所の対応が懲罰を科すにあたって、収容者の「心身の状態」を考慮するよう求めている刑事収容施設法150条2項などに違反し、肉体的精神的に苦痛を受けたとしている。
原告代理人の大野鉄平弁護士は「原告の症状に改善の兆しは見られず、このままの状況だと、将来にわたって精神疾患を原因とした長期の閉居罰が科され続けることになります。彼女に必要なのは懲罰ではなく治療であるということを訴えていきたいです」としている。
栃木刑務所は弁護士ドットコムニュースの取材に対して「申し訳ないが、訴状が届いていないのでコメントできません」と回答した。