「保護者や生徒から疑いの目を向けられている気配があり、本当にいい迷惑ですよ」
都内の私立中高一貫校に勤める40代男性教師は、こう嘆息した。
だが、それは無理もない。6月24日に、愛知県警少年課が性的姿態撮影処罰法違反の容疑で、名古屋市の小学校教員・森山勇二容疑者と、横浜市の小学校教員・小瀬村史也容疑者を逮捕。さらに、7月1日には盗撮目的で教室に侵入したとして、埼玉県所沢市の小学校教員・斉藤維人容疑者が逮捕されるなど、教員による児童の盗撮事件が相次いでいるのだ。
盗撮事件の実態調査をおこなう「全国盗撮犯罪ネットワーク」の平松直哉代表によると、今回の件は「氷山の一角」にすぎないという。
「教育現場は盗撮の温床です。少し古いですが『朝日新聞』の記事では、1995年から2008年の盗撮事件の加害者の職業は、教育関係者が148人で1位。2位の会社員の94人を大きく引き離していました。
森山、小瀬村両容疑者の事件が発覚したきっかけは、3月10日に愛知県名古屋市の小学校教員・水藤翔太容疑者が、駅のホームで少女のリュックサックに体液をかけたとして逮捕されたことだった。捜査の過程で水藤容疑者のスマートフォンを警察が解析したところ、森山容疑者が主宰する女児の性的な画像や動画を共有する“変態教師グループ”の存在が判明したのだ。
SNS上の盗撮画像を警察や教育機関に通報する活動をしている、ボランティア団体「ひいらぎネット」代表の永守すみれ氏は、小学校教員による一連の事件に対して怒りを隠せない。
「私自身、小学生の子供がいます。やはり、子供は先生に対して全幅の信頼を寄せています。そういった子供の信頼も傷つける行為で、非常に罪深いものだと感じています」
だが、永守氏は森山、小瀬村両容疑者が関わっていた児童ポルノや盗撮などを共有する闇SNSのグループは「残念ながら無数にあります」と断言する。
「児童ポルノ愛好者のネットワークは、秘匿性の高いメッセージアプリの『テレグラム』以外にも、一般の利用者が多い『X』や『ディスコード』にも存在しています。
SNSのグループに入るのも簡単です。私が潜入する際には、XのようなオープンなSNSに投稿されたリンクから、ディスコードのサーバーやテレグラムのグループチャットのコミュニティに入っています。
また、そうしたコミュニティの中で『塾の先生』や『塾の先生だった』と名乗る人の投稿を発見したこともありますので、学校だけではなく、習いごとの場などにも危険性はあります」(同前)
児童ポルノ愛好家による「闇のSNS」では、実際にどのようなやり取りがされているのか。永守氏は実情をこう明かした。
「公衆浴場やプールなどの更衣室での着替え、公園でブランコや鉄棒を遊んでいるときに下着が見えている瞬間を隠し撮りしたものなどが、よくやり取りされています。
盗撮の情報共有などもされており、たとえば、子供に人気のアニメキャラクターのショーが開催されるという情報があると、闇SNS上では『このイベントに行けば幼女にたくさん会える』という書き込みがされることがあります。
ほかにも、スーパー銭湯などでお父さんに連れられて男湯に入る女児などは狙われやすく、『●●にある▲▲というスーパー銭湯には、土日にお父さんが女のコを連れてやって来る』などといった情報も共有されています。
彼らは『どこに行けば子供に会えるか』を常に考え、狙っているのです」
これらのコミュニティでは、参加者が”隠語”を用いてやり取りをするケースが多いという。
「スカートの中を下から撮ることは『逆さ鳥』と呼ばれています。絵文字を用いて『逆向きの顔の絵文字』で表わすこともあります。また、秘匿性の高いSNSを表わす隠語もあります。メッセージアプリのカカオトークはアイコンが黄色なので『黄色』、テレグラムは『テレ』もしくはアイコンが飛行機であることから『紙飛行機』、絵文字を用いて『飛行機の絵文字』などが使われます。
幼い女のコのことは、『ロリータ』からとって『炉』と表したりもします」(同前)
これらのコミュニティに巣くう愛好家たちは、「児童ポルノ禁止法」などの法律も熟知しているという。
「性器や(女児の)乳首がうつっていないスカートの中の盗撮や、下着姿を盗撮しただけの画像は、そもそも児童ポルノ禁止法における児童ポルノの定義には該当しない可能性が高いのです」(同前)
児童ポルノ禁止法に該当しないものは、2023年に定められた「撮影罪」の適用範囲となるのだ。
一方で、被害者が裸でなくても、口腔性交しているものなどは児童ポルノ法の適用範囲となる。
「児童ポルノ禁止法に抵触する画像や動画は『単純所持』、つまりデータなどを自分のパソコンで持っているだけで犯罪となります。『撮影罪』にあたる動画は、盗撮行為によって撮影されたものであると知りながらダウンロードなどをした場合は『記録罪』が成立するものの、児童ポルノと比べて所持による摘発のハードルは高くなります。
そのため、コミュニティのほとんどの人がどこまでが児童ポルノなのかなどを、かなり正確に見極めて行動しているように思います」(同前)
盗撮の手口も、機材の進化によって巧妙になっているという。盗撮事件の実態調査を行う平松氏はこう明かす。
「昨年度に検挙された盗撮の8割超はスマホで撮影されています。ただ、検挙されていないだけで、盗撮の実数は何倍あるかわかりません。
商用目的や悪習化した盗撮犯は、通販や量販店で気軽に買える数百円程度の小型カメラを使っている場合が多いです。少し金額を足せば、よりバレにくい『スパイカメラ』や、小型で軽量な基盤型カメラも購入できます。それらを教室に仕込んで撮れた映像はかねてより、“教撮”“教視”“壇下(教壇の下)”などと呼ばれ、闇市場で高値で取り引きされています」
法律を熟知し、巧妙な手口で迫る児童ポルノ愛好家たちに、子を持つ親はどのように対応すればいいのか。
「時期的にちょうど夏休みになりますが、この季節はとくに注意が必要です。小学校低学年などのコは公園で水遊びをする際など、あまり気にせず上半身裸で遊ばせてしまう親御さんもいらっしゃるかと思います。盗撮されて投稿される危険があるので、年齢が低かったとしても、肌がなるべく見えないように、親が配慮をする必要があります。女児だけではなく男児も狙われており、危機感を持ってもらえればと思います」(同前)
児童ポルノ愛好家の闇SNSから子供を守るには、親の意識もアップデートする必要がある。