東洋大学「卒業」と公表された静岡県伊東市の田久保眞紀市長(55)が実際は大学を「除籍」されていた問題に絡み、同市在住の建設会社社長が同市長を公職選挙法違反の疑いで刑事告発したことが7月7日、明らかになった。田久保市長は同日、今月下旬に予定されていたイタリア出張視察の公務のキャンセルを表明。現職の“投了”が目前に迫り、5月の市長選で惜敗した前市長も出直し選挙に意欲を見せるなど、静岡有数の観光地の政局は混沌を深めている。
〈画像〉平成4年東洋大学法学部卒業と書かれた“広報いとう”と「こんなウソツキが…」と書かれた怪文書の写真
「田久保市長は5月の市長選出馬時に『東洋大学法学部卒業』と自分の学歴を伝えており、一連の疑惑を受けて大学当局から『除籍』された事実を突きつけられたことで虚偽が確定しました。
こうしたことから建設会社社長は、当選する目的のために虚偽情報を公表したことが公職選挙法違反にあたるとして県警伊東署に刑事告発したのです。立証作業は事実上終わっているので、そう遠くない時期に刑事処分が出される見込みです」(静岡県警担当記者)
今月18日から4日間予定されている友好都市のイタリア・リエティ市訪問にも参加の意欲をみせていた田久保市長だが、集英社オンラインが日程確認の取材を入れた7日、秘書広報課に「私は行かない」と代理を立てる意思表示をしたという。
伊東市政に詳しい関係者によると、田久保氏は5月の市長選出馬当時からその経歴に疑問符が付いていたという。
「もともとは小野達也前市長に対立候補がなく、無投票になる可能性もありました。田久保さんは『他に候補者が出るなら私は出ない』という立場でしたが、結局対立候補が現れず、周囲の声に押されるようにギリギリで出馬表明しました。それですごくバタついたのは確かです。
市長選出馬にあたって読売新聞と伊豆新聞に経歴のファクトチェックとして高校と大学の卒業証書の提出を求められた田久保さんは、『夜中まで探したけど、両方とも見つからなかった』とイラつき、『もう中卒でいいです』と投げやりになっていました。
しかし、後に大学の卒業アルバムがあったということでそれの集合写真を見せていました。写真は顔の判別がしづらいので正直、本人かどうかわかりませんでしたが、とりあえずそれで確認できたことになっていました」
そして、田久保氏は市政刷新を求める風を受け、市長に当選。伊東市は広報誌の新市長のプロフィール作成に取り掛かることになった。田久保氏は、選挙中には見つからなかった大学の「卒業証書」を提示したという。
「広報のプロフィールに載せる前に秘書課長の『卒業証書を確認したい』との求めに応じ、田久保氏は黄ばんだ“卒業証書”を持ってきました。私も含めて4人がその“卒業証書”を確認しましたが、まさか偽造だという発想もなくスルーしてしまった。
その後、例の“怪文書”の存在に気づいた田久保さんが、大学卒業の部分を消してほしいと秘書課長に交渉したのですが、本人持参の『証拠』を確認した課長はそれを認めず、『大学卒業』という経歴が市広報に載ったのです。選挙期間中から学歴詐称を噂され、当選後すぐに怪文書が出回り、自分の意に反して広報誌に『大学卒業』と掲載され、田久保さんとしては『ハメられた』と感じているようです」(前同)
伊東を揺るがす前代未聞のスキャンダルに、市長選で惜敗した前職の小野達也氏(62)はどう思っているのか。以下は小野氏との一問一答。
――現市長の騒動についてどう思われますか?
「私がコメント自体することではないと思いますが、大きな騒動になっていること自体は周囲の皆さんも残念がっていますよ」
――田久保氏は市長選当時から大学卒業は虚偽なのではないかという疑惑があったそうですが。
「報道関係者から『そんなことがあったら許されませんよ』という感じでなんとなく聞いてはいましたが、僕は特に意識することもなかったし、どうでもいいと思っていた。というか、負けるつもりがなかったんですよ。ところが結果は負けでした。
その時点で報道陣から『絶対短命ですから準備しといてくださいよ』って言われたんです。それで『えー、どういうことよ』と思っていたらこんなことになったんですよ」
――もうすでに出直し市長選に向けて意欲を見せていると聞きました。
「まぁ、今と言うよりもずっと続けるつもりでいたからね。もちろんみなさんの声を聞いてからですが、『やれよ』ということになれば。自分が出馬したいというより、みなさんの役に立ちたいとか伊東を良くしたいという気持ちは何にも変わってないので、そこが合致すればやろうかとなると思います」
――東京都の小池百合子知事が出馬のたびに学歴詐称疑惑が浮上する中で、今回の伊東市長の学歴詐称が発覚したことについて、ファクトチェックが甘いという声もあります。
「自民党なんかも国政だと卒業証明書でチェックするのですが、今後は首長選の際にも必要かもしれないですね。僕はいつも自民党なんですけども、公認を得るには卒業証明書の提出を求められます。地方議員までそれを広げるかは別として、ファクトチェックは厳しくすべきでしょう。
だってくだらないじゃないですか。だいたい(現市長は)除籍を『初めて知った』とウソの上にウソを塗り固めているので、これはもう通らないですよね」
――小野さんがもし市長に返り咲いたら市役所に卒業証書出しますか。
「そうですね。僕は高校しか出てないけど。卒業証書どこにあるかわからないから。ははは。でもこんなくだらない事で大騒ぎになるくらいならそういう風に制度を変えた方がいいかもしれないですね」
政治家たるもの、ウソや公約違反はご法度だ。ましてや自分自身を偽る経歴詐称は何をか言わんや。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班