観光資源豊富な伊豆半島の玄関口、静岡県伊東市が揺れている。5月の市長選挙で新人として現職との一騎打ちを制し、就任して間もない田久保真紀市長(55)の学歴詐称疑惑が騒動の発端。市の広報誌に掲載された東洋大学卒業という“公式”プロフィールが虚偽と告発され、「怪文書」との言い訳むなしく大学当局から「除籍」されていたことが判明し、疑惑は瞬時に「クロ」へと暗転した。「勘違い」で済まされるわけもないお粗末すぎる顛末は、ひとえに田久保氏固有の属性によるものなのか。揺れる伊東を取材した。
〈画像〉「平成4年東洋大学法学部卒業」と書かれた『広報いとう』と怪文書
田久保氏は2019年の伊東市議選に初当選、2023年に最下位で再選を果たし、2期目途中の今年5月25日投開票の市長選に立候補して1万4684票を獲得して当選した。敗れた現職の小野達也氏(62)の得票数は1万2902票で、僅差といえる内容だった。
その新市長就任を伝える「広報いとう」7月号は、田久保市長プロフィールを「平成4(1992)年 東洋大学法学部卒業」と紹介。しかし、19人の市会議員全員に、「中退どころか除籍だった」と田久保氏の大卒資格に疑義を唱える文書が届き、杉本一彦市議がこの問題を同月定例会の代表質問で追及した。
田久保氏は当初「怪文書には対応しない」と疑惑を退けようとしたが追及が止まず、7月2日になって「卒業は確認できず、除籍されていた」と認めた。
しかし田久保氏はここでも「市長選では東洋大卒と自ら公表していないので経歴詐称には当たらない」との抗弁を繰り返し、事態は泥沼化。7日、伊東市議会は田久保市長に対し「辞職勧告」と百条委員会の設置の議案を提出、いずれも全会一致で可決した。
そもそも田久保氏は、4月に市長選立候補表明をした際に報道機関に提出した経歴に「東洋大学法学部経営法学科卒」と記載しており、自分で書いた詰将棋に追い込まれているに等しい。彼女の10年来の知人は取材にこう証言する。
「彼女が大学卒業していないのも知っていたから、今回の騒動も『ああ、バレちゃったんだ』と思っただけですね。何せ本人が昔、『まあ、卒業してないんですけどね、ハハハ』みたいに軽く告白してましたから。本人が出身を東洋大学法学部だと言うので、法律に詳しいのかなと話題を振ったらそんな返答をしたんです。彼女は民主主義についても『銀河英雄伝説』で学んだと公言していたくらいなので、法律の専門知識も乏しそうでしたよ。外面はすごくいい感じの人ですが、話を盛って言う傾向のある方でした」
空気を読む能力には長けていたのだろう。知人が続ける。
「人を惹きつける何かはあるんでしょう。メガソーラー建設計画に反対する団体の代表をやっていたんだけど、これもいつの間にか元の代表から引き継いで代表になっていた。彼女を慕って集まってくる人たちが確かにいたし、そういった人たちの『ヘイト』を誘導することに巧みだった。
学歴詐称の目的は詳しくはわからないけど、選挙対策だったんじゃないかと思っています。前市長も前々市長も高卒だったから、“大卒”の田久保さんについて『やはり大卒はインテリだな』と言う人たちもたくさんいましたから。伊東市の選挙で大卒ってレアなんで、それを武器にしたかったんじゃないかって思います。
まあ、田久保さんはメガソーラーの反対運動で知り合った人たちが信者になっていましたしネットの利用もうまい。そういった部分には長けていたんですよね。NHK党の立花孝志氏とか昨年の都知事選で善戦した石丸伸二氏みたいなタイプに近いと思いますよ」
市会議員の1人も田久保市長についてこう分析する。
「彼女のことは議員になる前から知っていました。10年ほど前ですかね。彼女は市内でカフェをやっていて、異業種の方を集めてトークイベントも開いていましたよ。また、『伊豆高原メガソーラー訴訟を支援する会』という団体に関わっていて、県などと協力して企業を相手取った訴訟などに力を入れている印象でした。
ただ、その他の法案については議会でも“かみつき”に近い感じで言いたいことだけ言い散らすような不勉強な印象でした。自分の意に沿わないと何でもかんでも訴えようとする人ですから、逆に法律についても詳しくないんじゃないでしょうか」
別の市議が抱く「田久保像」もおおむね同じだった。
「メガソーラー問題以外の教育や福祉などについては少し不勉強だった印象があるので、市長選に立候補したときには『彼女じゃ力不足だろう』と危惧した人が多いと思いますよ。実際、小野前市長が気に食わなかった勢力に担がれて、会派に属していないまま市長になっただけなので、市長就任後も彼女を支えようと本気になっている市議は誰もいない感じでしたね。
議員時代も無会派の議員控え室で、持続化給付金について『個人事業主だったらやり方によっては結構な額をもらえるんだよね?』などと他の市議に聞いていたそうなので、『この人は大丈夫なのか』と思いましたね」
この市議によれば、田久保氏は市長選立候補以前から経歴詐称をしていた疑いがあるという。
「市議会議員は全員が就任時点で議会事務局に自身の経歴書を提出しています。5月の下旬に彼女のことが書かれた怪文書が市役所の各議員宛に届いたので、確認のために事務局に問い合わせたところ、彼女の経歴も東洋大学卒業となっているとの回答だったので、6年前に議員になった頃から嘘をついていたのかもしれないですね。議長が6月上旬に卒業証書を見せるように求めたところ、田久保氏は一瞬チラッと見せただけで、秘書課にコピーを取らせることも拒否したそうです」
別の市議は田久保氏のパワハラ・モラハラ気質についてもこう指摘する。
「元々少しでも意見が違うと論破しようとする節がありました。役所の部課長に『あなたたちにはわからないでしょうけど』とカマシを入れたり、彼女より議員歴が長い議員が復活当選した際にも、『新人のあなたには難しいでしょうけど』と嫌味を言ったり、当選同期の議員にも『同期でもここまで差ができたね』と上から目線で人を小馬鹿にしてマウントをとるような人でしたね。無会派議員の控室で同室だった議員は参ってしまって体調も悪そうでした。少し前には伊東駅の前で荷物の積み下ろしをしていたトラックに対してクラクションを鳴らす様子を見ましたよ」
また、ある市政関係者はこうも話した。
「市議会で7日に辞職勧告を出すことは決まっていますが、本人は辞める気はない。百条委員会での追及も必至ですが、市長は以前、支持者らに『気に入らなければ最悪議会なんて解散すればいい』と発言していた」
エジプトの大学を首席で卒業したという経歴が「詐称」だと何度も関係者に告発されながら、そのたび逃げ切ってきた小池百合子東京都知事の例もあるが、カイロ大学はどういう理由か卒業のお墨付きを出しているのだから、状況は決定的に違う。
田久保市長は7日、19時30分より市政クラブ向けに“限定”し会見をおこなう予定だという。
いったい何が語られるのだろうか。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班