かつては経営コンサルタントとして鳴らしたものの、還暦間近にして失職。寄る辺もない中、生きていくために仕事を求め、「スキマバイト」に挑戦してみることに。
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「タイミーさん」と呼ばれながら、さまざまな現場で働いてきた著者によるリアルな体験談をまとめた『還暦タイミーさん奮戦記:60代、スキマバイトで生きてみる』(花伝社)より、一部抜粋して紹介する。(全3回の1回目/続きを読む)
タイミーで初出勤の日は緊張した。マッチングされたのはS物流。求人要項に、仕事は「倉庫内で飲料などのピッキング」と書いてあった。

就業開始時刻前に余裕をもって現場に到着した。事務所に入り、あらかじめ案内されている通り「タイミーから働きに来ました」と声がけをする。
「こんにちは。タイミーさんは、15分前からQRコードを読み込んでもらいます。しばらく控室でお待ち下さい」
噂に聞いていたが、ぼくは“タイミーさん”と呼ばれるようになった。そしてQRコードを読み込むという、つまりはタイムカードを打刻するような手続きを知った。
就業時間は12時から17時30分まで。途中休憩が15分ある。実労働時間は5時間少し。すぐに終わるだろうと思っていた。
控室に担当者が迎えに来てくれた。黄色い帽子を被るように渡される。ぼくの他にタイミーさんは2人いるようだ。
かなり広い倉庫で、倉庫の中奥の壁側に整然と、列ごとに各種飲料が上下2段、パレットに積まれている。反対側は外に開放されていて、トラックがつけられるようになっている。その中央部に埋め尽くすように、大量のカゴ車が並べられてあった。
「空のカゴ車を1台動かします。番号のついたシールの順で、倉庫の飲料のダンボール箱をピッキングしてカゴ車に乗せて下さい」
「ピッキングしたカゴ車は、ほら、あの上の壁に行先番号があるでしょ。該当の番号の列に並べて下さい」
説明では簡単そうで、どうやら手間取ることはなさそうだと思った。
タイミーさん以外にも、この仕事をしている人は現場に何人もいた。その人たちの動きを見ていて、大体の作業手順はわかった。さっそくぼくもやってみる。
いざはじめてみると、3つの問題が発生した。1つ目は、各シール番号と商品名から該当する飲料ダンボール箱をピッキングするのだが、その飲料がどこにあるのかすぐにわからない。
倉庫列にもアルファベットや番号が振られているが、シールのそれと迅速に照合できないでいた。
2つ目は、そのダンボール箱がけっこう重い。中に飲料ペットボトルが入っている。1箱は10~15kg程度だろう。最初は簡単にカゴ車に積めていたが、ずっとやっていると両腕が疲れてきた。

3つ目は、カゴ車の荷物の積み方に戸惑った。ダンボール箱のサイズや形状は、飲料のそれに合わせているためまちまちなのである。乱雑に載せると、下の小さい荷物が上の重い荷物につぶされてしまう。そのため、カゴ車の荷のバランスが崩れてしまう。
「タイミーさん、こんな積み方をしたら、カゴ車をトラックに載せたとき、走行中に荷物が崩れてしまうよ」
何度もダメ出しされ、その度に一から積み直した。
そんなこんなでぼくの初出勤は終わった。途中短い休憩はあったものの、けっこう体力を消耗した。へとへとに疲れた。
終了時刻になると、現場の社員が声をかけてくれた。タイミーさんのぼくらは、帽子を返し、事務所へと向かう。着替えてから、ここでもQRコードを読み込む。そしてS物流を後にした。
スマホでタイミーを見ると、今日の就業時刻がきちんと記録されていた。必要なのはスマホのみ。自分の名前が呼ばれなかったことにはそれほど違和感はなかった。タイミーさんと呼ばれて、とくに悪い気はしなかった。
〈ご主人様の“話し相手”になるスキマバイトも…失職して“タイミーさん”になった60代男性が驚いた“意外なニーズ”とは?〉へ続く
(須来間 唄人/Webオリジナル(外部転載))