芸能人の子息も通園 「虐待隠ぺい疑惑」の元麻布”セレブ保育園”に港区が異例の「指定管理取消」通告

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開園以来、保育士が毎年20人以上辞め、さらに児童の「虐待隠ぺい疑惑」まで取りざたされた東京・港区の「元麻布保育園」。港区が同園の指定管理者として選んで運営を任せていた社会福祉法人「春和会」の指定管理を取り消すことを決めた。「FRIDAYデジタル」は港区が作成し、6月14日に同園に通う子どもの保護者に配られた文書を入手した。港区と春和会の間では、’29年3月末まで指定期間として契約が結ばれていたが、期間中に取り消されるという異例の事態に発展した。
FRIDAYデジタルでは保育士の自殺未遂まで起きてしまった職場環境や児童への虐待ととられても不思議ではない指導を港区に報告しようとしなかった同園の姿勢を問題視した記事を4月23日付で公開。その後、記事の内容を受けて保育姿勢に疑問を感じた保護者たちが同園に要請する形で5月23日に「緊急保護者会」が開かれた。その席には、同園の園長などに加え、指定管理者に選んだ港区や春和会の担当者も出席。しかし、保護者に対し、春和会や園長からは納得するような説明はなされなかったという。
港区では春和会の動向を水面下で調査してきており、緊急保護者会での保護者に対する姿勢なども見て、今回の異例の決断を下した模様だ。その引き金になった4月23日公開の記事を再録する。
上の写真は’23年3月4日、都内のホテルで行われたある医療法人のパーティーの模様だ。壇上で鏡割りをしているのが岸田文雄総理(66)、そして右は医療法人社団桐和会ユニバーサル・メディカルサービス(以下、タムスグループ)の岡本和久理事長(60)。病院、クリニック、介護施設、保育園など約70ある事業所を束ねるタムスグループのトップだ。このグループが30周年を迎えたことを記念して行われたパーティーで開成高校の校友である岸田総理を招き、当日は総理による挨拶の言葉もあった。
そんなタムスグループの傘下にある社会福祉法人「春和会」が運営する東京・港区の「元麻布保育園」は3月23日に卒園式を迎えた。しかしその後、同園の園長の名前で保護者に対して職員の退職に関する異例のメッセージを送っていた。同園に通う園児の親はこう明かす。
「副園長3名を含む12人の保育士が辞める旨が書かれ、保育士が働きやすい環境を作っていくので安心してほしい、といった内容でした。もっと言うと、この保育園が発足した’20年から3年間で毎年20人以上の保育士が辞めていると聞きました。それぞれ事情があるのでしょうけど、多すぎる気がします」
港区が公表している「指定管理施設評価票」によると、元麻布保育園の職員数は80人。退職者数は’20年、’21年が25人、’22年も20人。昨年度に辞めた保育士12人をあわせると延べ82人が辞めた計算になる。
元麻布保育園は0歳から5歳までの児童を受け入れる。「医療的ケア児」「障害児」クラスを園内に設けた東京都23区で初の保育園だ。港区では多様化する区民のニーズに応えるため、民間事業者が持つノウハウやアイディアなどを活用したいと考え、’18年に「指定管理者」として保育園を運営する法人を公募。複数あった候補の中から、タムスグループの社会福祉法人春和会を指定管理者として選び、’29年3月末までの約10年間を指定期間とした。港区内の保育園関係者はこう明かす。
「春和会は医療法人グループの傘下にあり、保育園の中に『医療的ケア児』『障害児』のクラスを開設したかった港区は、病院を運営しており、医師や看護師や保育士を傘下にある施設から異動することが円滑にできることが利点と考え、指定管理者として選んだと思います。
元麻布保育園は、外国の大使館などが近くにある閑静な住宅街に位置し、地上2階建て、敷地面積が3000峩瓩ある破格の広さ。土地と建物で55億円近くした、とも聞いています。収入に余裕のあるご家庭の方々が住んでいる地域なので、NHKの連ドラに出演経験があり、CMにも出演中の女優Aさん、家族二代にわたって知られているベテラン俳優Bさん、ドラマの主題歌を歌ったことがあるミュージシャンCさんのご子息などが過去に通っていたようです」
立地に加え、港区からのバックアップなど恵まれた環境にありながら、保育士が大量に退職する異常事態が続いたのは、いったいなぜなのか。
開成高校を卒業後、千葉大医学部を卒業した岡本理事長はもともと放射線科の医師だった。桐和会の病院で勤務経験のある看護師はこう明かす。
「理事長が若い頃、かかりつけの患者の方で認知症の人がいて、入院したと聞いて様子を見に行ったら(患者さんが)精神科の閉鎖病棟に入れられていたことがありました。当時は認知症というだけで入院を断られたり、診てもらえない患者がいた。そこに疑問を感じ『生まれてから亡くなるまで、人の一生の面倒を見られるグループ、施設を作りたい』という思いを抱いたそうです」
その理想が病院からリハビリ施設、保育園とさまざまな施設を作ろうというモチベーションになった。’93年に東京・江戸川区の篠崎にクリニックを開業。’06年には埼玉・川口に認知症専門の病院を作った。現在まで約70施設、従業員数約6000人と事業を拡げたが、新しく立ち上げた医療施設が軌道に乗る前に次の新しい事業に着手するため、現場のスタッフは疲弊した。
「理事長はとにかく数字にこだわる人です。入院患者数などをつぶさにチェックし、たとえば病棟に80床あったら、50床満たされていないと現場に厳しい要求がくる。私たちの間では『患者さんの顔が¥マークに見えているんじゃないか』という冗談が出たほどです」(タムスグループの病院で働いたことのあるスタッフ)
’19年に開園した元麻布保育園は「医療的ケア児」「障がい児」が園内に開設されたことが注目を集め、全国から多くの関係者が視察に訪れた。岡本理事長も開園当初は職員への手土産を持って様子を見に来ていたが、他にも多数施設があるため、段々足が遠のくと、監視の目が届かなくなったようだ。元麻布保育園に勤務したことのある保育士が明かす。
「園長とうまくコミュニケーションが取れない保育士が増えました。園長は職員に対しては『事故があったら報告書をすぐに送りなさい』と厳しく言うのですが、自分にとって都合が悪いことになるとごまかそうとするんです。
コミュニケーションをうまくとれない保育士の中には、高圧的に“退職勧奨”をされてそのパワハラ的な言動に疲れて自ら命を絶とうとした人もいました。ほかにも自殺を図った職員がいます。幸い、死に至らなかったのでそこだけは救いですが、普通に考えれば大ごとです。
開園当初から港区は、さまざまな問題を把握しており、また内々で入った情報から港区は法人に対して指導もして『園長交代』を要請したようですが、法人側は港区と敵対しているような状態で結果的に園長の交代をせずそのままできています」
昨年9月末、3歳児クラスにいた女児の左肩後ろ辺りに大きな傷ができてしまい、女児の母親が翌朝、保育園に対し、「何があったのでしょうか」と説明を求めてきた。元麻布保育園の保育士のひとりが明かす。
「お母様からの訴えを受けて、園内で保育士にヒアリングがありました。当該の女児が『やってはいけない』と注意してもなかなか聞かなかったので保育士が腕を引っ張ろうとしたときに、その手があやまって女児の左肩後ろ辺りにひっかかって爪があたってしまった、という説明があったそうです」
ただその傷は、単に保育士の手が引っかかった、という類いの傷ではなく、女児の左肩後ろ辺りの部分は紫色のあざになり、数日たっても消えなかったという。東京都の保育園に勤務する保育士はこう解説する。
「3歳は話をして理解ができる年齢なので、腕を引っ張ろうとしている時点で不適切保育だとみなされてしまいます。お子さんに与えたダメージの大きさによっては虐待と言われても仕方がありません」
女児に傷を負わせてしまったこともさることながら、その後の園長の対応も問題視されるものだった。事情を知る同保育園の関係者がこう明かす。
「港区内の保育園のルールで、このような事案があったら、どんな小さなことでも業務日誌に書き記し、翌月には港区にも報告しなければいけません。園長からも“事故があったらすぐに報告しなさい”と言われてきましたから、何が起きたか、保育士と女児側の双方からヒアリングした内容をすぐに園長にも口頭で報告したのですが、(業務日誌には)書かれていなかったのです。
園長は、気づいた周りの保育士からも『書かなくていいのでしょうか』と言われたのに、『3歳の担任から事故報告書があがってこないからいいわよ』と言って書かなかった。園長は、親御さんから子どもに対して不適切な行為があるとすぐに子ども家庭支援センターに通報するのに、自分の“部下”にあたる保育士がお子さんに傷をつけてしまったら動きが急に鈍る。これは『隠ぺいしようとした』と指摘されても仕方がないです…」
昨年9月末に上記のようなことが発生したため、本来なら同10月中には元麻布保育園から港区に報告しなければいけない。しかし、同保育園はこの事案についてはなかなか報告をあげようとしなかった。すると別ルートで情報をつかんだ港区が事実確認のため、女児に傷を負わせてから約1ヵ月後に元麻布保育園を訪れたという。事情を知る別の元保育士がこう明かす。
「港区の担当者の方が何人か来られて、“何か隠してることはない?”という話になった。最後は3歳児を傷つけてしまった報告すべき事案がありながら、隠して報告しなかったことを園長が認めたのです。区の担当者は園長に対して『区の保育園だから、1人で抱え込まないで判断に迷うことがあれば相談してほしい』『隠すと隠ぺいになってしまうんですよ。それが一番よくない』と注意していました」
最終的に、一連のことを元麻布保育園が港区に報告したのは11月30日だった。
なぜ区から“隠ぺい”を疑われるほど、元麻布保育園は隠そうとしたのか。保育士が毎年大量に辞めていき、自殺未遂まで起こしていた保育環境をどう考えていたのか。元麻布保育園を運営する春和会はなぜ、園長への指導改善や園長交代に踏み切れないのか。
元麻布保育園はFRIDAYデジタルからの再三の連絡に対して「担当者から電話をさせます」「本部ではないのでお答えできない」という回答に終始。担当者から連絡は一度も来ることなく、用意した質問状を受け取ろうとすらしなかった。
また同保育園を運営する春和会のタムスグループ保育事業部からは「港区とも協議しており、ご回答するしないも含めて(期日までに)返答することは難しい」と明確な回答はなかった。
春和会を指定管理者に選んだ港区はどう考えているのか。
「令和2年度(’20年度)から多数の退職者が発生しているこの状況を重く捉えており、同年度末の退職状況を受けて、指定管理者の人員の確保と運営改善に向けた協議を行っております。令和4(’22)年4月からは区職員が指導、助言をするほか、同年8月からは子どもの権利など専門的な知見を有する保育専門アドバイザーを派遣しております。昨年4月には、区内の保育施設の保育の質向上等に係る取り組みを推進するため、学識経験者3人と区職員で構成する『港区保育の質向上委員会』を設置しました」
港区としては、区の職員だけでなく、外部の有識者を招いて保育環境の改善を図っているとのことだが、園長交代など人事に踏み込む可能性については「施設の管理運営は指定管理者が主体となり行い、園長を交代するかについては指定管理者側の判断となります」と元麻布保育園に委ねるスタンスを示した。
ただ、公表されている「港区立元麻布保育園の管理運営に関する年度協定書」(令和4年度)を見ると、指定管理料として’22年4月1日からの1年間で「3億8273万5730円」が支払われる旨が書かれている。これはすべて区民から集めた税金だ。現状のままでは、区民の怒りを買っても仕方がないだろう。元麻布保育園や運営する春和会が起きていた問題に誠実に向き合おうとしていない今、港区が改善にむけて何らかの介入をしない限り、保育士の大量退職、園児の虐待隠ぺいの悲劇は繰り返されてしまう。

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