西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷の5つの酒造地からなる兵庫県「灘五郷」。世界的に日本酒の人気が高まる中、最高峰と誉れ高い「灘の生一本」を生み出した名水「宮水」の流れる“日本酒の聖地”へ、円安を追い風に外国人観光客が押し寄せている。
【写真13枚】カラメル色の木の柱、壁は漆喰、3mほどのの天井の白鶴酒造の売店。他、20個の酒樽が並ぶ灘五郎酒造の入り口など“日本酒の聖地”の数々
「SAKEは自国では2~3倍するから、日本で買えるのが楽しみだった」
外国人観光客はそう声を揃え、次々に日本酒を購入していく。お土産用、今夜ホテルで飲む用と旺盛な購買意欲をみせる。試飲しては「これが本場の仕込み水で引き出された米の旨みか……」と浸る観光客も。蔵元の1つ、白鶴酒造の資料館では担当者がこう語る。
「欧米諸国、ベトナム、中国、シンガポール、台湾など多くの国から観光客がいらっしゃいます。昨年度の来館者数は国内外合わせ約12万人でしたが、今年度、今のところは比較的外国人観光客の方が多いと感じます」
インバウンド向けガイドツアー「Kampai Sake Tours」でガイドを務める西川成悟さんが近況を語る。
「灘の酒蔵を巡るコースでは欧米、アジア問わず富裕層が多く、職種では弁護士、会計士、医師などが多いですね。コロナ禍では0人の時もありましたが、昨年から回復し、今年1月以降は月に150人を超える申し込みがあることも。皆さん、自国で買うより日本酒が安い!と喜んでいます」
蔵元を巡る同ツアーに参加したアメリカ人男性(26)は「憧れだった灘の日本酒は美味しくて種類も豊富。灘五郷はまさに“SAKEの首都”だよ!」と破顔した。
外国人観光客が多く訪れる御影郷の蔵元が語る。
「特に人気なのは純米大吟醸、純米吟醸で、香りが高い日本酒が好まれています。実際に試飲して気に入った日本酒を購入する人が多い。蔵元直売店限定の商品も人気です」
銘酒「仙介」の蔵元・泉酒造では「純米大吟醸 無濾過生酒原酒」がよく購入されるのだとか。
「この商品は冷蔵保存が必要で自国へのお土産にできないとお伝えしますが、それでも『今晩ホテルで飲みたい!』と言って購入されます。保冷箱を用意して対応しています」(泉酒造)
多くの蔵元では「ゆず酒」も大人気。取材した複数の蔵元でも「日本酒もゆず酒もコスパがいい! どちらも香りが高く、豊潤さを感じさせる味わいが素晴らしい」と両方買う外国人の姿が目立つ。
※写真内の価格は全て税込
取材・文/上田千春 撮影/内海裕之
※週刊ポスト2024年5月31日号