登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。
運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。
今回は、次世代を担う若者や子どもたちにとって、登山はどのようの意味を持つのか、山岳部に所属する高校生へのアンケートから見ていきたいと思います。アンケートの回答から、青年・青少年にとっても、登山は非常に重要なの体験であることが見えてきたのです。
*本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
「677名の高校生山岳部員に訊ねた登山のよさ」と題した表は、は、全国の高校生山岳部員に、「山岳部に入ってよかったと思うこと」について、自由記述のアンケート調査をした結果です。インターハイの際に、約700名の高校生に書いてもらった結果を、筆者が整理しました。
最も多かったのは、「山の魅力・登山の魅力」を知ることができたという回答で、5割を超えていました。これはほかの運動部や文化部では得られない、山岳部のよさだといえます。
続いて、「人との交流」「体力や健康の改善」「精神面での充実や成長」という回答がほぼ3割ずつありました。これらの効果については山岳部以外の部活動でも得られるものですが、中には「ふだんの生活の有難味がわかった」のような、山岳部ならではの回答もあります。
ともかく登山をすることによって、身体的・精神的・社会的によい影響を受けていることがわかると思います。世界保健機関(WHO)では、健康とはこの3条件が良好な状態であることと定義していますが、登山はそのいずれに対しても効果をもたらすのです。
「苦手だった運動が好きになった」という回答も、登山の特性を反映したものといえるでしょう。高度なスピードやパワー、テクニックなどを駆使して、相手と競う他のスポーツとは違って、登山はゆっくり着実に歩き続ければ、誰でも目標達成の喜びを味わえるからです。優れた登山家の中にも、通常のスポーツが苦手だった、という人が多くいます。
山岳部ならではの回答として、「有事のサバイバル能力が身についた」という項目が注目されます。
「有事のサバイバル能力が身についた」という回答は、現代的な意味合いからも注目されます。
登山とは自然の中で、できるだけ人工物に頼らず、持てる知識と知恵とを総動員して、自分の身体を長時間活動させることです。もしも災害に見舞われてライフラインが途切れた場合、どうすべきかを判断して行動に移し、一定の期間耐え抜くことに、最も強さを発揮できるのは登山者だといってもよいでしょう。
現代では、子どもが自然の中で活動する機会が減っています。また、子どもに自然体験活動をさせてあげたいのだが、指導ができる人がいない、という話もよく聞くようになりました。
山岳部という本格的なレベルではなくても、山、あるいは自然の中で活動するという体験は、ぜひ子どものうちからさせてあげたいものです。
登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術
安全に楽しく登山をするために、運動生理学の見地から、疲れにくい歩き方、栄養補給の方法、日常でのトレーニング方法、デジタル機器やIT機器の効果的な使い方などをわかりやすく解説。豊富なコラムで、楽しみながら知識が身につけられます!
じつは、怖い思いをしたから…危ないと止められている…つぎの登山を「もっと快適で安全」にするための「意外な視点」