「来月から家賃を値上げします」と言われたらどうするべき? 不動産のプロが明かす“家賃増額のカラクリ”

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賃貸物件に住んでいると、定期的に訪れる「契約更新」。ひと月に家賃と更新料を支払うのも億劫だが、更新とともに翌月から家賃の値上げを知らされることも珍しくない。
【画像】「家賃の増減」が認められる3つのケース
家賃の増額を通知する紙に「近傍同種建物の賃料相場や物価上昇に伴い値上げする」という記載があっても「それって関係あるの?」と、釈然としないまま部屋の契約を更新した、なんて人もいるだろう。そこで、賃貸物件の家賃の値上げにまつわる謎について、不動産のプロに解説をしてもらった。
※写真はイメージ hiroyuki_nakai/イメージマート
◆ ◆ ◆
「一般的には、固定資産税が増額したときに家賃を上げるケースが多いです。固定資産税増税を飲食店に例えると、材料の仕入れ値が上がったのと同じ。賃貸物件のオーナーにとって死活問題なので、税金の増額は妥当な値上げ理由であるといえます」
そう話すのは、東京都内で不動産仲介業を営む“不動産のプロ”幸田拓也さん(仮名)だ。入居の際に交わす「賃貸借契約書」にも、以下の3つの場合は「賃料の増減額」が認められると記載があるという。
・土地または建物に対する公租公課その他の負担の増減により、賃料が不相当となった場合
・土地または建物の価格の上昇または低下その他の経済事情の変動により、賃料が不相当となった場合
・近隣同種の建物の賃料に比較して、賃料が不相当となった場合
「公租」とは、国税や地方税、都市計画税などを指し、「公課」はそれ以外の公に関する金銭を指す。そのほか、周辺にある建物の賃料相場も賃料の増減に関わっているのだ。

「ただ、賃貸物件のオーナーは基本的に『家賃を増額したい』と考えているので、先の3つ以外の理由で値上げを試みる人も少なくないです。以前『近所にスーパーがオープンして便利になったので、家賃を値上げしたい』と、打診してきたオーナーもいましたが、この理由では不十分。私は『スーパーが潰れたら家賃を下げなければ筋が通らない』と説得して、増額を免れました」
入居者からすると、「住んでいる年数分、築年数が経過しているのに、値上げされるの?」という疑問も浮かぶだろう。しかし、「家賃の増額と築年数はほとんど関係ない」と幸田さんは話す。
「オーナーが家賃を決める際、築年数は重要な指標になりますが、家賃の増減には周囲の家賃相場や不動産価格の変動が深く関わっています。とくに近年は不動産の売買価格が上がり“不動産バブル”とも言われているため、その流れを受けて所有する物件の家賃も上げたい、と考えるオーナーも多い。
実際に、私が管理している物件のオーナーからも値上げの相談が増えています。そのほか、オーナーが代替わりしたときに増額に踏み切る物件もありますね」
反対に、不動産価格が下がったり、空室を出したくなかったりする場合は、家賃の据え置きや減額を検討するオーナーもいるそうだ。不動産価格が急落したリーマンショック前後は、家賃を減額する事例もあったという。
「しかし現在は先述の通り、家賃の値上げがトレンド化しているので、減額するケースはほとんどないですね。とはいえ、突然1万円も増額はできないので、相場に合わせて月1000円、2000円など、少額ずつ値上げするのが通例です」

また、住んでいる物件が「分譲賃貸マンション」なのか「賃貸用マンション・アパート」なのか、その種類によっても家賃の値上げ事情は異なるという。前者の「分譲賃貸マンション」は、部屋ごとにオーナーが異なるため、値上げのタイミングはもちろん、その金額もバラバラとのこと。
「バラつきがあるのは、値上げ金額だけではありません。分譲賃貸マンションのオーナーは不動産業者と相談しつつ、初期費用や家賃を任意で決めているので、同じ階の同じ間取りで隣同士の部屋でも、家賃に1万円の差が生じている物件もザラにあります。入居者は、ほかの部屋の賃料もわからなければ、家賃の増減を知るのも不可能でしょうね」
極端な例だが、ほかの部屋は家賃が減額されているのに、自分の部屋だけ家賃が増額されるなんて可能性もゼロではないのだ。
「もしも、住んでいるマンションやアパートの空室情報が不動産情報サイト上に掲載され、その家賃が自室よりもかなり安いことが判明したら、契約した不動産業者に相談してみてください。
ただしほとんどの場合、オーナー側は『この部屋はフルリノベーションしているので家賃が高い』『クリーニングにお金をかけた』など、何かしらの理由を伝えてくるでしょう。あくまで“交渉の余地がある”という認識で話し合いに臨みましょう」
一方、後者の「賃貸用マンション・アパート」のオーナーは1人。全体のバランスを重視するため、家賃を上げるときはすべての部屋が対象になるそうだ。個人の契約更新のタイミングなど、増額する時期に多少のズレはあれど、部屋ごとの賃料の差は開きにくいのが特徴だ。
数千円の賃料増額でも、年間で数万円のコスト増につながる。引っ越しを決断するほどでなければ、そのまま値上げに応じるべきだろうか?
「大前提として、家賃の値上げは双方の合意がなければ成立しません。家賃の増額に疑問があれば、まずは話し合いによる解決を目指しましょう。初めに不動産情報サイトなどで、自宅周辺にある似たような物件の家賃を確認し、値上げ後の金額が相場以上であれば交渉してみてください。
周辺の相場に相当する金額で5%~10%弱の値上げは妥当な金額です。現在の家賃が10万円なら10万5000円~11万円までの値上げは、不当な値上げとは言えないでしょう。言うまでもありませんが、エリアによって値上げ幅もまちまちなので、あくまで目安として捉えてください」
※写真はイメージ hana_choco/イメージマート
ちなみに、家賃増額の通知を受け取った後、交渉を進めている最中も値上げ前の家賃を支払い続けていれば、退去を強いられることはまずないという。話し合いは、感情的にならず落ち着いて進めるのが望ましい、と幸田さん。
「稀ですが、オーナーとの交渉がうまくいかず、まったく耳を傾けてもらえないこともあります。その際は、あまり知られていない方法ですが『弁済供託』を行い、交渉をすることができます。
例として挙げるなら、物件のオーナーが変わって相場と見合わないほど高額な値上げに踏み切り、入居者に『家賃の増額を受け入れないならば退去してくれ』と強硬な態度を取るケース。日本人オーナーから外国人オーナーに切り替わった場合に、認識の違いから賃料トラブルに発展する可能性はあります。国が変わると賃貸不動産に関する常識は根底から異なるので、まったく交渉ができず、家賃を受け取ってもらえない状態に陥ることも。その際は、供託金として“家賃に相当すると考える金額”を直接法務局の『供託所』に預ければ問題ありません」
供託金を預けると、法律上は家賃を支払ったのと同じ効果が得られるという。家賃の値上げに抗い、支払いを拒否すると家賃の滞納を理由に退去を求められるリスクがあるが、供託制度を使えばその心配は解消される。
「供託所に供託金を払っているあいだ、入居者は借りている部屋に住み続けられます。紛争中、オーナーは供託金を受け取れなくなるので、交渉に応じてくれる可能性が高いです。交渉期間の目安は3カ月ほど。交渉をして、家賃の値上げが決まったら、その差額分を支払います」
たとえば、家賃を10万円から12万円に上げたいオーナーと、10万円のまま住みつづけたい借り主が3カ月間話し合いをして、月の家賃が11万円になったとする。それでは、供託金を預けていた期間は払うべき家賃が足りていない状況になるので、借り主は3カ月分の差額となる3万円を改めて支払うという。
「ただし、供託は本当に困ったときの最終手段である点は心にとめておいてください。話し合いの意向も示さずに借り主の権利だけを主張して供託所に走るのは、相手にケンカを売っているようなものなので、非常に危うい方法です。その後も住み続けるならば、最優先すべきなのは穏便な話し合いです」
さまざまな理由や思惑が交錯する家賃の値上げ事情。オーナーと入居者が納得いくまで話し合えれば、最適解が見つかるかもしれない。
(清談社)

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