朝型と夜型は遺伝子レベルで決まっている…3分の1は「筋金入りの夜型」 学校で苦労する夜型にできること

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子どもの夜ふかしに頭を抱えている人は多いのではないでしょうか。「スマホやテレビがあるからいけない」と考えてしまいがちですが、思春期の子どもはどうしても「夜型」になってしまうのだと解説する専門家がいます。むしろ、周囲はもっと夜型の子どもに合わせてあげることも必要なのだといいます。一体どういうことなのでしょうか。
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夜、なかなか眠くならず、朝、学校や会社に行くために起きるのがつらいと感じる人はたくさんいるかと思います。一方、早く起きることが習慣になっていて、静かな早朝の方が作業がはかどるといった人もいると思います。実は朝型と同じくらい夜型の人はいて、朝型中心の生活に、夜型の人は懸命に合わせているという現実があります。
世界的に名の知られた睡眠の専門家で、ノーベル賞の有力候補ともされている筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史さんに詳しく聞きました。
──人間には朝型の人と夜型の人がいるというのはなんとなく分かるのですが、どうやって決まっているのでしょうか?
柳沢正史さん(睡眠学者)「人間には体内時計があります。朝型は早寝・早起きだと調子がいい人、夜型は遅寝・遅起きだと調子がいい人です。朝型・夜型は、生まれた時に遺伝子レベルで決まっており、個々人の体質によります」
──生まれながらに決まっているということですね。
「そして、とても大事なのは、体内時計は年齢によって変化するということです。小学生でも夜寝ない生まれつきの夜型もいるように個人のばらつきがある程度ありますが、平均すると、小学生ぐらいまでは朝型です。
もちろん、夜眠くならなくて朝起きられず、起きたとしても頭が働かない子ども、夜になると自然に眠くなって朝ばっちり目が覚める子ども、どちらもいます。
それが思春期から20歳ぐらいにかけて、平均したら夜型にずれていきます。
まず体質として遺伝子で決まる個人差があり、それに加えて、年齢によって大きく変化するということです。どうしてなのかよく分かっていないのですが、これは生物学的要因です。社会学的要因、つまり生活習慣が要因ではありません」
──夜ふかしはスマホのせい、などと思っている人も結構いるように思いますが、そうとも限らないということですか?
「(63歳の)私の世代は、スマホはおろかインターネットなんて存在しませんでした。それでも、若者は(ニッポン放送のラジオ)『オールナイトニッポン』などを聴いていました。若者はやはり遅寝・遅起きだったんです。
思春期から20代ぐらいまで、平均すると2時間ぐらい(体内時計が)ずれると生物学的にはされています。だから、小学生の朝7時に相当するのが、20歳にとっての朝9時なんです。
その後、30代~40代にだんだんと朝型に戻っていきます。私ぐらいの年になるともう朝型で、子どもの時にほぼ戻ります。70歳や80歳になると、もっと朝型になっていきます。もちろん、生活習慣も少しは影響があります」
──思春期で体内時計がずれることによる不具合はあるのですか。
「まず、学校に行けなくなることがあります。思春期で不登校になる学生の多くが、朝起きられないこともきっかけにもなっています。
どうしてかというと、元々夜型だった子どもが、年齢によって夜型になると、いつまでたっても夜に眠くならないんです。朝また学校があるから起きなきゃ、と分かっていても眠くなりません。
朝は起きられません。遅刻しがちだったり、午前中は行けなくなったりして、だんだん学校に行きたくなくなってしまうことがあるんです」
──意図してサボるわけでなく、起きられなくて行けないということが起きうるのですね。
「この状態は、言ってみれば睡眠リズムの障害なんです。
『睡眠相後退症候群』という名前もついていますが、睡眠リズムが遅れてしまうことで生活に適応できなくなる、という状態になっている子どもが実は多いです」
──考えてみたら、学校はどこも朝が早いですよね。子どもの生活は基本的に朝型に合わせたスケジュールになっています。そうすると、夜型の子どもはかなりハンデを負っていると思った方がいいんでしょうか。
「ハンデだと考えた方がいいです。夜型は、本当は朝遅く起きた方が調子がいいので『せっかく努力して早く起きても、学校の1時間目も2時間目もほとんど頭が働いていない』と訴える子どももいます。
夜型の子どもが朝型の生活に合わせるのは困難で、苦労します」
──睡眠不足で勉強を頑張るのは、相当大変なわけですね…。
「勉強だけではありません。睡眠不足で、問題行動が多くなる、認知能力が低くなるなどの影響も起こりえます
日本の調査でも、睡眠不足の子どもは感情的にも不安定で、イライラを募らせています。
逆によく眠っている子は良い子になるんです。やるべきことができるようになる、暴言・暴力が減少するといったことがありえます」
──子どもが選んで夜型なわけではないとすると、その子の不調はその子の責任とも言えないように感じます。なにか夜型の子どものためにできることはあるのでしょうか。
「体内時計への影響が一番大きいのは、目に入る光です。ですので、光の取り方には気をつけてください。
まずは、起きる時の光です。朝の時間帯に強い光が目に入ると、体内時計への『もう朝ですよ』というシグナルになり、時計が進む方向にリセットされます。
夜型になりがちな子どもは、朝は無理してでも起きて、明るい光を目に入れましょう。窓の外を見る、ないしは外に出る。空の光は、屋内の光よりもはるかに明るいので大事です。
次に、夜の光です。逆に夜は、明るいところに行っては駄目です。明るすぎるところに夜いると、体内時計への『まだ昼だよ』というシグナルになります。時計が遅れる方向にリセットされてしまいます。そうすると、ただでさえ夜型なのが余計夜型になり、結果としていつまでも夜眠くならなくなります」
──夜の明るいところというと、例えば繁華街などですか?
「日本は家の中も明る過ぎると思っています。ですので、リビングやダイニングといった家全体を少し暗めの環境にする、というのを私は薦めています。
人間は昼行性で、昼間に行動する動物なので、強い明るさは脳を活性化させます。逆に、暗くなると脳がリラックスするようにできているのです」
──夜型の子どもがもっと生活しやすくなるような、根本的な解決方法はないのでしょうか。
「これは難しい問題です。残念ながら、世の中は朝型に有利なようにできています。
朝型と夜型の分布を見ると、朝型と夜型の中間の型が一番多いカーブとなり、きれいな『つりがね型』を描いています。実は、半分までとはいかなくても、3分の1くらいの人は『筋金入りの夜型』で、多かれ少なかれ苦労しています。
理想は朝型や夜型といった個性に合わせた社会にすることです。だけれど、学校が個々人に合わせるのはなかなか難しいと思います。
だから、せめて大人になったらフレックスタイムにしてほしいです。夜型の人は遅く来て、遅くまで仕事して、朝型の人は早く来て、早く帰ってというような社会です」
聞き手:TBSテレビ デジタル編集部・久保田智子 構成:影山遼(TBS NEWS DIGオリジナルコンテンツ「SHARE」より)

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