ソニー生命のダブルケア(子育てと介護の同時進行)に関する調査によれば、「ダブルケア」が負担に感じているのは1位「精神的負担」、2位「家事の負担」、3位「体力的負担」となっている。さらに、「ダブルケア」の毎月の平均負担額は75518円で、想定外の支出は「ある(あった)」は56.8%、「ない(なかった)」は43.2%と「ある」が6割近くに達して経済的負担の厳しさがうかがえる。
〈4人の子育てをしながら親の介護も…過酷な「ダブルケア」を続ける40代女性の“苦労と孤立”の実情〉では、14年前から「ダブルケア」を続ける40代女性・葉子さんが4人のこどもを育てながら父親や義理の母の介護で苦労したことを中心に紹介した。
葉子さんの過酷な介護と子育てはその後も続き、こどもに関するある問題から生じる精神的負担や、介護の経済的負担は並大抵ではなかった。そんな彼女が人生の活路を見出した活動とは……?
葉子さんは4人のこどもがいて、そのうち3人が成人し、末っ子が現在、中学生。その末っ子に3年前、発達障害が発覚した。
「ママ大好きと飛びついてくる時があるんですが、すべて全力で力加減がうまくできないんですよ。末っ子の精一杯の愛情表現を素直に受け取れない時があります」(葉子さん)
末っ子は、小学校に通学していたが、学年が上がるごとに勉強などいろいろな面でサポートが必要になった。例えば、1時間に1、2問、教科書やプリントの問題を解くのが精一杯な状況なのに、教師から「勉強したくないだけやろ」と言われることもあり、周囲の理解を得るのが難しかった。また、やれと言われたら完璧にやろうとしてしまうので、朝まで宿題に取り組み、それに付き合うことも多々あった。
末っ子は疲れきって、次第に居場所を失い不登校になった。
それでも、葉子さんの末っ子は中学校入学後、部活に入り理解ある顧問や仲間に出会えた。もっとも、入学当初は授業にも出ていたが授業にもついていけず、様々なことから教室で過ごすことが徐々に難しくなっていった。そして部活だけの参加は認めてもらえず、また居場所を失い不登校となってしまった。部活の時間だけは学校に行きたいというのにだ。
「留守番程度はできる年齢にもなり、お薬などで安定している時間が増えましたが、一時期は感情のコントロールが出来なくなる末っ子と一日中向き合ってどこにも出掛けられないような毎日でした。父や義母のサポートも十分にできず辛かったです」葉子さん)
現在、葉子さんの末っ子は児童発達デイサービスに通所している。児童発達デイサービスとは、発育に不安や障がいをもつこどもたちに療育をする事業所を指す。
葉子さんの末っ子は、中学校では仲間に恵まれているだけに、学校側の柔軟な対応で学校に戻れる日がくるのを期待したい。
他方、父親がサービス高齢者住宅に入所したため、5年間父親の年金で施設費用を払っていた。
父親の年金は毎月約15万円に対し介護施設費用やその他光熱費や通院費、オムツ代など合わせると毎月20万円ほどの出費となっている。
父親の預金からの支払いに加えて葉子さんが交通費や日用品の買い物に毎月2~3万円を支払っている。単純計算すれば、毎月7~8万円、年間で84~96万赤字となる。
「この状況が5年以上継続していて父親の預貯金はみるみる減ってきています。
父親の葬儀代だけは用意しているけど、生活は厳しいです。介護費用と一口に言っても、施設の費用だけじゃなくて諸経費がかかるんです。何年続くかわからないし…」(葉子さん)
ようやく慣れ親しんだ現在の施設から離れるのが正しいか悩みながらも、特別養護老人ホームなど比較的格安な施設に移ることも検討している。
葉子さんは自身の経験を踏まえ「ダブルケアを担う人たちが孤立してほしくない、ダブルケアになっても大丈夫といえる社会になってほしい。息抜きして地域とつながってほしい」想いでダブルケア任意支援団体「君彩」を立ち上げた。
彼女は「君彩」の代表として、ダブルケアの周知や理解を求める活動や講演などの啓発活動と、相談や交流の場「ダブルケアカフェぽけっと」を大阪府大阪市城東区在宅サービスセンターゆうゆうにて運営している。また、相談事業は対面でもオンラインでも対応している。
「ダブルケアをしている人たちが一人ぼっちになってほしくない、日常生活から息抜きをして地域同士の交流が拡がればという想いで作りました」(葉子さん)
毎年2月は「ダブルケア月間」と位置づけ、大阪市城東区ではダブルケアの周知とともに誰もが笑顔でリフレッシュできるよう音楽やマジック披露など「ダブルケアフェスティバル」を開催し精力的に活動中だ。
葉子さんは、居場所以外に介護終了後の就業サポートが必要と強調する。
「介護が終わってさあ仕事復帰と思っても、仕事は限られてしまいます。ダブルケアをしている人たちはタスク管理が上手、ケアキャリアをもっと認められる世の中を願っています」(葉子さん)
加えて、特別養護老人ホームと保育園の入所・入園要件緩和が全国に拡大するのを願っている。
「ダブルケアを担う人の約半数が介護離職に直面しているんです。介護離職経験者から言います。仕事は絶対やめないでほしい。企業にも理解を深めてほしい。社会的孤立や経済不安を招いてしまう」(葉子さん)
奥村シンゴ
宝塚在住。「ヤングケアラー」、「就職氷河期ケアラー」、「ひきこもり」を経験。現在、介護・福祉担当ライター、関西経営管理協会講師、ケアラー・ひきこもり伴走支援団体「よしてよせての会」代表を務める。NHKおはよう日本、読売新聞などメディア多数出演。
著書『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』国際ソロプチミスト賞受賞者。
ツイッター @okumurashingo43
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