2020年度に行われた「男女間における暴力に関する調査」(内閣府男女共同参画局)によれば、〈女性の4人に1人が配偶者から被害を受けた〉ことがあり、〈女性の約10人に1人は何度も受けている〉という。
そして、〈被害を受けた約4人に1人は命の危険を感じた経験がある〉というのに、〈被害を受けた女性の4割がどこにも相談していない〉とも。
全国の警察が受理した配偶者などパートナーからの暴力(DV)の相談件数が、19年連続で最多更新(昨年は8万4496件で前年比1.8%増加)している昨今、本人が隠していたとしても、「痛い。助けて!」と近所から悲鳴が聞こえてきたら、「聞こえないフリ」を決め込むのは、心が痛む大変だろう。
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「DVの相談は、被害者本人に代わり、家族や知人からの相談が増えています」
と話すのは、「女性の人権を守る」NPO法人でDVの相談窓口を担当しているカウンセラーの清水真理子さんだ。
「日常的に暴力を振るわれている本人よりも周囲の人間の方が危機感は覚えやすい。よくあるケースが『ママ友がDVに遭っている』という相談で、中には『自分に何ができるか?』とか『どうやったら助けられるか』など、被害者に対して非常に親身になっている場合もあります。
ただ、助ける間合いを間違えれば、助けた本人が被害にあいかねない。それどころか、自身の家族までもがトラブルに巻き込まれることもあるので、助けるにしても注意が必要です」
まさにそんな経験をしたのが本間千奈さん(仮名・41歳)である。彼女は、DV夫に追い出されたママ友のカオリさん(仮名・30歳)と、その娘アヤちゃんを一時的に家で保護することにした。最初こそ家事や子供の面倒を引き受けてくれるカオリさんは「ありがたい存在」だったが、「とって代わる」かのように幅を利かせる香織さんに「家庭が乗っ取られる」と危機感を抱き始める。
これまで年齢性別問わず、5000人以上から、個々が抱えるあらゆる悩みを取材してきた清水芽々氏が、『「夫の様子がおかしい」…DV被害に悩むママ友を我が家にかくまったら…家庭内で起きた「まさかの異変」』に続き、リポートする。
「このままじゃ互いにマズイと思って、カオリに『一旦家に帰ってみたら?』と言ったんです。そしたらカオリは『んー、まあ、どっちにしろ荷物も取って来たいしね』と素直に出て行きホッとしました」
(どうかこのまま戻って来ませんように…)
内心ではそう思っていたという千奈さんの願いも空しく、カオリさんは大荷物を抱え、嬉々とした様子で帰宅したという。
「夫に『一生帰って来なくていい』と言われたそうです。なんでも夫はマザコンらしく、カオリが出て行った後は自分の母親を呼び寄せて楽しそうに暮らしていたみたいですね。『そんなわけでこれからもお世話になりまーす』と能天気にいわれました」
再びはじまった共同生活に、千奈さんのイライラは募るばかりだったというが、世話を焼いてくれるカオリさんを慕い、無邪気になついている美優ちゃんのことを思うと滅多な行動は起こせず、「悶々と過ごしていた」という。
そんな千奈さんに追い打ちをかけるようなことが起きる。
「コロナのオーバーワークで体調が悪くなったので夜勤を早退して帰って来たら、深夜のリビングで、夫とカオリがパジャマ姿でお酒を飲んでいたんです。夫は酔っ払い、カオリは夫にしなだれかかっていました」
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夫もまんざらではない顔をしていて、千奈さんが帰ってきたというのに、じりじりとまとわりついてくるカオリさんを拒むそぶりもみせない態度にも腹が立った。
(娘を懐柔しただけではなく、夫にも手を出そうとするの!?)
キレた千奈さんは、ふたりの間に割り込み、カオリさんを自室に追いやって夫と対峙した――。
「(カオリさんと)やましいことは絶対ない」と誓う夫に、「何かあったらタダじゃおかないからね」とダメ押しをすることになった。
それでも安心できなかったという千奈さんは、「まさか陰でコソコソと浮気をしていないよね?」と思うに至り、抜き打ちで帰宅することにした。
「その日は平日で、夫はリモートワークする予定でした。となると日中は娘たちが保育園に行くので、夫とカオリがふたりきりになります。それを考えたら仕事どころではなくなりました。どうしても気になったので、病院を抜け出して家に戻ってみたんです」
嫉妬や不安に駆られる自分に嫌気をさしながら車で家に向かうと、夫とカオリさんがふたりで車で出かける姿を目撃した。
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ふたりは千奈さんに気づいていない。ふたりが乗った車を追跡する千奈さん。「まさかラブホテルに…」と嫌な予感でハンドルを持つ手が震える中、向かったは産婦人科だった――。
「一瞬で、目の前が真っ暗になりました。まさかカオリが夫との子供を妊娠したのでは!? と思うと、いてもたってもいられなかったです」
千奈さんはいったん病院に戻って仕事をこなし、その夜、ふたりを問い詰めた。もごもごする夫にかわり、カオリさんが重い口を開いたそうだ。
「カオリから『自宅に戻った日、夫に性暴力をふるわれて妊娠してしまい、中絶しに行った』と説明を受けました。夫の子供ではなかったことに安堵はしましたが、怒りは収まりませんでした。そんな生々しい場所に私の夫を同行させる無神経さに腹が立ったのです。
夫も夫です。カオリの夫の代わりに中絶同意書にサインしてたんです。カオリに頼まれて仕方なく書いたそうですが、有印私文書偽造で立派な犯罪です。夫もカオリも『犯罪だとは知らなかった』と釈明していましたが、常識で考えたらありえないですよ」
堪忍袋の緒が切れた千奈さんは、「申し訳ないけど…」と前置きした上で、カオリさんに「すぐ出て行って欲しい」と告げたそうだ。カオリさんは「いまさらあの家に帰れっていうの?」などと抵抗したというが、「悪いけど、もう顏を見るのもイヤなの」と強く言ったそうだ。
「カオリは諦めてうなだれてましたが、恩を仇で返してくる以上、もう付き合いきれませんでした。翌日、カオリは早々に荷物をまとめ、アヤちゃんの手を引いて無言で出て行きました」
戻った先はDV夫の待つ家だったという。
「アヤちゃんは私の娘に『前の家に帰る』と言ってたそうですから、DV夫の家に戻ったと思います。どうしてそういう選択になったのかわかりませんが、元さやに収まりたいというのなら、どうぞご勝手に。それはそれで構わないと思いました」
「やっと終わった…」晴れ晴れとした気持ちと罪悪感が入り混じった、モヤモヤした思いを抱いて過ごした数日後、保育園を休んでいたアヤちゃんが久しぶりに登園したそうだ。
再会を喜ぶ美優ちゃんだったが、アヤちゃんは「美優ちゃんのママは私とママを無理やり追い出したから、もう美優ちゃんとは遊ばない」ときつく言い放ち、美優ちゃんはその場で大泣きしたという。
「園長から連絡が入りました。カオリが自分の行動を棚に上げて、アヤちゃんに私を悪者にして吹き込んだ結果なんでしょうが、その話を聞いた時は『子供たちが傷つくようなことをよくできるな』と、腸が煮えくり返る思いでした。
園長は、アヤちゃんが私の家に居候していたこと、カオリがDVの被害にあっていることを知っていたので、『何が起きているのですか?』と聞いてきました。私は洗いざらい経緯を説明しました」
その後、園長はカオリさんにきつくお灸をすえると、まもなくしてカオリさんは「実家に戻ることになったので」と園長に退園届を提出し、アヤちゃんと共に姿を消したそうだ。
あれから2年――。
「結局カオリは離婚したみたいです。カオリがいなくなった後も、我が家はしばらくの間、ギクシャクしていました。夫は私の顔色を伺ってはビクビクしていたし、美優も『アヤちゃんを無理やり追い出したのはママだ』と信じちゃって、私に対する不信感がなかなか消えなくて…」
千奈さんは当時の状況をこう振り返ったが、今ではすっかり平和で幸せな家庭を取り戻したという。
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もし、貴方や貴方の周りがDVに直面することがあったら、まずは専門機関に相談することをおススメする。DVは「たかが」ではなく「されど」だからだ。
DVは殴る蹴るなどの暴力行為に限ったことではない。言動で相手を傷つければ「精神的DV」になり、生活費を渡さないなどは「経済的DV」として扱われる。また「避妊をしない」などは性的DVに該当するが、性行為を強要した場合は、例え夫婦であっても刑法第177条の不同意性交等罪に該当することも覚えておいた方が良いだろう。
くれぐれも間合いには気をつけて…
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