すき焼き1300人分を被災地で振る舞った「すなば珈琲」…避難所はおにぎり・パン中心、涙流す人も

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石川県の能登半島を襲った地震から1か月が経過した。
鳥取県内を中心に「すなば珈琲(コーヒー)」などを展開する「ぎんりんグループ」(鳥取市)社長で、災害復興支援を担うNPO法人理事長の村上亜由美さん(60)は1月中旬、石川県志賀町(しかまち)で炊き出しを行った。「温かい食事が少しでも支えになれば」。寒さが厳しく、過酷な冬の避難生活を送る被災者のため、心を尽くして支援に奔走した。(東大貴)
同グループはこれまで大きな災害の度に現地に足を運んできた。村上さんの出身地は富山市で能登半島に近く、今回の地震はより身近に感じた。同市の男子中学生が帰省先の石川県輪島市で倒壊した家屋に巻き込まれて犠牲になった報道に接し、「支援への思いを駆り立てられた」と村上さんは振り返る。
志賀町へはグループ社員ら8人で向かい、1月14日からの7日間、キッチンカーや保冷車で避難所13か所を回った。厳しい寒さの中で起こった阪神大震災や東日本大震災の被災地支援に携わった経験から「寒い季節には何よりも温かい食べ物が必要」と、鳥取和牛を使ったすき焼き計約1300人分を振る舞った。
「肉なんて久しぶり」「こんなにいただいていいの」――。避難所ではおにぎりやパン中心の食生活で、料理を口にして涙を流す人もいた。グループ会長の夫・和良さん(77)と、「すなば珈琲」で提供するホットコーヒーも提供した。和良さんは「飲食業に携わる以上、食で困る人を支えるのは我々の使命。体だけでなく心まで温かくなってほしい」と話した。
被災地の道路は大きな亀裂が走り、1階部分が押しつぶされた家屋や大きく崩れた山肌が地震の激しさを物語っていた。当時は発災2週間後だったが「下水道が復旧せず、簡易トイレがない避難所もあった。ライフラインの被害は深刻で、復興まで時間はかかりそう」と心配した村上さん。「求めがあればいつでも再訪したい」とこの先の支援を見据えていた。
東日本大震災で津波被害があった岩手県陸前高田市は、直後から支援し、今も年3回ほど食事を届けている。村上さんは「新築の建物が並び、復興はかなり進んだように見えるが、住民の心の傷は癒えていない。震災で若者が離れた街はお年寄りがほとんどで、食事を外出や集まる機会にしてほしい」と寄り添い続ける。
一方、被災地支援に長く携わる経験から、「災害はしばらくの間、関心や注目を集めるが、発生から1か月、2か月と時間がたって忘れられてしまうことが多い」と話す。災害時にどのように動き、どこに逃げ、命を守るのか――。急な災害にも適切に対処できるよう、「被災者でない私たちも震災を教訓にし、もしもの時に備えなければならない」と心に刻んだ。

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