【独自】“世界初”警告システムの導入検討…羽田空港“奇跡の脱出”全容判明

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羽田空港の滑走路で日本航空と海上保安庁の機体が衝突した事故から1カ月。事故を受け、専門家による委員会が検討している再発防止策の内容が取材で明らかになりました。

能登半島地震の救援物資を乗せて被災地に向かおうとしていた海保機。機長以外の5人が亡くなりました。

奇跡的に死者が出なかった日本航空機。機内で何が起きていたのか。乗務員への聞き取りの全容が、取材で明らかになりました。

新千歳空港発の日本航空516便は、副操縦士の訓練を兼ねたフライトでした。管制官から着陸許可を受け、復唱したパイロット。管制からほかの飛行機への離陸許可など通信はなく、静かで着陸に集中できる状態だったそうです。しかし、着陸した瞬間、一瞬、視界に何かが入ります。それとともに、強い衝撃に襲われたといいます。

衝撃の直後、操縦は、副操縦士から機長に代わり、ブレーキなどを操作したものの、一切、機能しません。機体は滑っている感覚だったそうです。機体は炎を上げながら、滑走路を外れ、草地に停止しました。

客室内は真っ暗。コックピット内も同じでした。無線も機内アナウンスも使えない状態です。機内では、パニックを起こしている乗客もいて、客室乗務員が落ち着くよう、大声で呼び掛けていました。

機長は、大声で緊急脱出を指示したものの、8つある扉のうち、5つは外に炎が上がっている状態。脱出シューターが開かれたのは、3つの扉だけでした。

機体が炎を上げるなか、脱出シューターから続々と乗客が降りていきました。ただ、全員がすぐに避難できたわけではありません。機長が客室の後方へ向かうと、しゃがんでいる乗客を発見。前方へ誘導しました。機長は残された乗客がいないか確認しながら、さらに後方へ。ただ、機内は、乗客が避難する前から、すでに煙が充満している状態でした。前方の扉からの避難が落ち着き、後方へ向かった2人の副操縦士。しかし、機長は、後ろに来ると危ないと感じ、前方から避難するよう指示したそうです。乗客全員の脱出を確認し、機長が最後に後ろの扉から脱出したのは、衝突から18分後のことでした。

飛行機同士が滑走路上で衝突する事故は、これまでも繰り返し起きています。

1977年、スペイン領カナリア諸島。ジャンボ機同士が衝突し、583人が死亡しました。航空史上最悪の事故です。

アメリカでは、滑走路への誤進入が、1日に平均5回ほど起きています。

◆今回の事故を受け、国は専門家らによる対策検討委員会を立ち上げ、いくつかの再発防止策を探っています。

現時点で4つの検討案が明らかになりました。

●誤進入警告装置『SURF‐A』と呼ばれるシステムの導入

●誤解が生じない管制用語の検討

●着陸する航空機側が、滑走路への誤進入を覚知するシステムの導入

●警報を出すことで、管制官が誤進入に気付く仕組み作り

なかでも注目なのが『SURF‐A』の導入です。

『SURF‐A』とは、滑走路上での衝突を防ぐための最先端システムで、実用化に向け、アメリカの企業などが開発を進めています。現在は、航空機同士が空中で接近した場合にしか、衝突の危険性は覚知できませんが、『SURF‐A』の開発が進み、導入されれば、航空機同士が互いに位置情報やスピードなどを把握できるようになり、滑走路上でも、視覚と音声による警告がパイロットにくることで、衝突防止が期待されます。

元航空管制官の田中秀和さんは「このシステムを導入すれば、目視が難しい悪天候の場合も機能する。特に、羽田空港など忙しい空港では、新技術を導入して、安全性を高めることは今後の方向性としてはよい」としています。

導入は、現実的なのでしょうか。

田中さんは「実用性があるのか懸念はある。日本では、航空機側、管制側にも『SURF‐A』の前提となる位置情報システムの導入がまだ進んでいない。全機への搭載を義務化すれば、莫大なコストがかかる。数年で導入できるようなシステムではないので、中長期の対策として検討すべき」と指摘します。

そのうえで「『SURF‐A』など、新システム導入の“ハード面”だけでなく、すでに実施されている、誤侵入を常にモニターで監視する管制官の配置や、それにより負担が増える現場の疲労をためない勤務管理などの“ソフト面”からもアプローチが必要」としています。

対策検討委員会は、夏ごろをめどに中間取りまとめを行う方針です。

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