「基本給5万円」「16時間の長時間労働」…サカイ引越センターのブラック事情 〈サカイ ブラック労働問題〉#1

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引っ越し業界最大手の『サカイ引越センター』。パンダのキャラクターとユニークな数々のCM、そして「まごころ」というキャッチフレーズでおなじみの同社。
だが、従業員は「まごころ」とは程遠いブラックな労働環境に置かれていた――。
8月10日厚労省で行われた同社組合記者会見の様子
「現場でお客様から直接“ありがとう”と声をかけてもらえるのはうれしいし、やりがいもあります。引っ越しの仕事が本当に好きなんです」
目を輝かせてこう語るのは、サカイ引越センター(本社・大阪府堺市)労働組合執行委員長の大森陸さん(26歳)。大森さんは一昨年、同業他社から同社に転職、現在は引っ越しトラックのドライバー助手をしている。
しかし、そのやる気とは裏腹に同社の勤務実態は過酷を極めている、と大森さんは訴える。
そこで過酷な労働環境を改善するため、昨年5月に大森さんらは労働組合を立ち上げた。すると他支社の従業員やアルバイトだけではなく、元従業員やその家族、同社関係者らまでもが、同社の過酷な労働環境について次々に情報を寄せてきた。
特に多かったのは、厚生労働省が定める過労死ラインを超過する残業時間についてだ。
「私自身も繁忙期の3、4月ごろまでは残業が月100時間を超える過重労働となることがあります。通常月でも70~80時間前後のことが多い」(大森さん)
この数字は大森さんだけに限らない。中には月150~180時間を超える残業時間も珍しくなかったという。そのため多くの従業員は常に疲れており、疲労が原因とみられる事故やトラブルも絶えない。
「不注意で顧客の荷物や室内を破損させたり、作業中の怪我はよくあること。うっかりスピードを出しすぎて荷物を運ぶトラックが横転し、お客様の家財に被害を出したことや、踏切でトラックが立ち往生するなど交通事故も相次いでいます。疲労から居眠り運転をし、高速道路の工事車両に突っ込んだり、過去には死亡事故も数軒発生しているんです」(組合関係者)
長時間労働だけではない。労災隠しや残業代、賃金の未払いも問題となっている。現在、3人の元社員が東京地裁立川支社に対して未払い賃金請求訴訟を起こしており、同社と係争中だ。
「公になっていない事故やトラブルはたくさんあります。しかし、その多くは裁判になる前に会社側が被害者に示談を持ち掛たり、なかったことにしているのです」(前出・組合関係者)
1件でも多く引っ越しをいれないとその一方で、長時間残業をせざるを得ない事情が従業員にはある。「引っ越し現場の件数で給与の金額が変わるため、1件でも多くの現場を入れたいんです」そう話す大森さんの給与明細を見せてもらった。まず、繁忙期の2021年4月支給分。(写真1)。2021年4月支給分の大森さんの給与明細(写真1)=同組合提供出勤日数25日。普通残業時間108時間。深夜残業時間10時間。給与の内訳は、基本給6万円。普通残業8万3480円。深夜残業1万1260円。引っ越し件数などによって加算される業績給は27万7000円。その他、さまざまな手当てが付き、支給総額は52万8276円。次いで、残業時間がおよそ半分の42時間だった、2022年1月支給分(写真2)。2022年1月支給分の大森さんの給与明細(写真2)=同組合提供出勤日数22日。この月の支給総額は25万9820円(内訳は、基本給6万円。普通残業2万9820円。業績給は14万7500円など)。支給総額は、繁忙期のおよそ半分程度しか支給されていない。いくら残業時間が半分だったとはいえ、なぜこれほどにも差が出ているのか。そこには同社の複雑な賃金体系が絡んでくる。毎月固定の基本給が低い一方、業績給、残業代などの割合が大きい、出来高払い制をとっているからだ。大森さんの賃金を割合でみたときに業績給、残業手当などが支給総額の4分の3を占めている。 業績給によって左右される給料支給総額のうち、最も金額の比重が大きいのが業績給だ。次の4つの手当てを同社では広く「業績給」と呼んでいる。(1)業績給A(売上給):各引っ越し案件について、事前に営業職と顧客が決めた売り上げの金額に応じて計上される。だが、それは売上の一定額以上で、上限もある。(2)業績給A(件数給):引っ越し件数1件当たり500~2000円程度が設定されているもの。(3)業績給B:ピアノ運搬やほかの現場への応援作業など、ポイントごとの支払い。(4)愛車手当:車両整備日などの場合に支給される。「求人票には手取り月20万円以上と記載されていましたが、現場に行かず、勤務時間内だけで働いていれば手取りは14、15万円前後。70時間近く残業してようやく月30万円前後の給与が支給されます。そもそも基本給のベースが上がらないとボーナスの金額も上がらない」(大森さん)大森さんの場合、基本給6万円はドライバーとして勤務していた時のもの。現在は自らで運転せず同乗する助手という立場に変更したため、基本給は5万円に下がっている。この出来高払い制の弊害は賞与だけでなく、有休にも影響を及ぼしている。「業績給が加算されないので、有休をとっても1日あたりの金額は5000円~6000円にしかなりません」そのため体調が悪くても無理をして現場に出る社員も少なくないそう。「確かに繁忙期で忙しいときは残業時間が120時間を超えることもあります。でも給与は35万円以上もらえるのでやった気になってしまい、だんだんとそれが当たり前に思えてしまう。ですが、これはおかしいことなんです」 上司から顔面に灰皿を投げられて……パワハラが横行している支社もあるという。「いまだに社員を恫喝する店長や施設長がいます。罵倒され続けたことで心を病んでしまった営業部の社員や、地方のある支社では上司から顔面に灰皿を投げられたドライバー社員もいたとの相談が組合に寄せられています」(組合関係者)「まごころ」とは程遠い仕事環境で心身を患い、退職する従業員もいる。「僕もそうですが将来のことを考え、上場企業という点に惹かれてこの会社に決めました。今会社に残っている人は自宅や車の購入、ローンの返済、子どもの教育にもお金がかかるため、辞めるに辞められない人ばかりです」(大森さん)家族のため、と思って始めたものの帰宅は深夜、休みもない。家族との時間はほとんど持てない。過労によるイライラで些細なことで妻とぶつかり、夫婦関係に亀裂が入り、離婚に至るケースも少なくないとか。こうした現状はいまに始まったわけではないという。これまでも何人もの従業員たちが改善を訴えてきたが、そのたびに退職に追い込まれてきた。管理職や本社社員らは左遷に怯える。「改善を訴えた本社の部長クラスが、翌日にはどこかの支社の中間管理職に降格させられる、なんてこともまかり通っているようです。そのため、管理職は左遷を恐れて抑えこまれ、一方の従業員は使い捨て。会社にとってはたいせつにしているのは”まごころ”ではなく、売り上げと引っ越し成約率NO1という実績。社員はただの駒なんです」(前出の組合関係者)大森さんは今年8月に第一子が誕生、10月から育休を取得している。「基本給を含めた手当てのうち6~7割しか支給されないので、今月の支給額はどうなるか……。妻は正社員の保育士でしたが、自宅から職場が離れており、育児しながら通うことが厳しく、出産を機に仕事を辞ざるを得なかった。しかし、この僕の給与だけで、どうやって生活すればいいのか。僕たちは長時間の残業をしなくても生活できるよう、固定給を上げてほしいだけなんです」 同社のブラックな業務実態は引っ越しトラックのドライバーだけではなかった。〈サカイ ブラック労働問題〉#2につづく。
その一方で、長時間残業をせざるを得ない事情が従業員にはある。
「引っ越し現場の件数で給与の金額が変わるため、1件でも多くの現場を入れたいんです」
そう話す大森さんの給与明細を見せてもらった。まず、繁忙期の2021年4月支給分。(写真1)。
2021年4月支給分の大森さんの給与明細(写真1)=同組合提供
出勤日数25日。普通残業時間108時間。深夜残業時間10時間。
給与の内訳は、基本給6万円。普通残業8万3480円。深夜残業1万1260円。
引っ越し件数などによって加算される業績給は27万7000円。その他、さまざまな手当てが付き、支給総額は52万8276円。
次いで、残業時間がおよそ半分の42時間だった、2022年1月支給分(写真2)。
2022年1月支給分の大森さんの給与明細(写真2)=同組合提供
出勤日数22日。この月の支給総額は25万9820円(内訳は、基本給6万円。普通残業2万9820円。業績給は14万7500円など)。
支給総額は、繁忙期のおよそ半分程度しか支給されていない。いくら残業時間が半分だったとはいえ、なぜこれほどにも差が出ているのか。
そこには同社の複雑な賃金体系が絡んでくる。毎月固定の基本給が低い一方、業績給、残業代などの割合が大きい、出来高払い制をとっているからだ。
大森さんの賃金を割合でみたときに業績給、残業手当などが支給総額の4分の3を占めている。
支給総額のうち、最も金額の比重が大きいのが業績給だ。次の4つの手当てを同社では広く「業績給」と呼んでいる。
(1)業績給A(売上給):各引っ越し案件について、事前に営業職と顧客が決めた売り上げの金額に応じて計上される。だが、それは売上の一定額以上で、上限もある。
(2)業績給A(件数給):引っ越し件数1件当たり500~2000円程度が設定されているもの。
(3)業績給B:ピアノ運搬やほかの現場への応援作業など、ポイントごとの支払い。
(4)愛車手当:車両整備日などの場合に支給される。
「求人票には手取り月20万円以上と記載されていましたが、現場に行かず、勤務時間内だけで働いていれば手取りは14、15万円前後。70時間近く残業してようやく月30万円前後の給与が支給されます。そもそも基本給のベースが上がらないとボーナスの金額も上がらない」(大森さん)
大森さんの場合、基本給6万円はドライバーとして勤務していた時のもの。現在は自らで運転せず同乗する助手という立場に変更したため、基本給は5万円に下がっている。
この出来高払い制の弊害は賞与だけでなく、有休にも影響を及ぼしている。
「業績給が加算されないので、有休をとっても1日あたりの金額は5000円~6000円にしかなりません」
そのため体調が悪くても無理をして現場に出る社員も少なくないそう。
「確かに繁忙期で忙しいときは残業時間が120時間を超えることもあります。でも給与は35万円以上もらえるのでやった気になってしまい、だんだんとそれが当たり前に思えてしまう。ですが、これはおかしいことなんです」
上司から顔面に灰皿を投げられて……パワハラが横行している支社もあるという。「いまだに社員を恫喝する店長や施設長がいます。罵倒され続けたことで心を病んでしまった営業部の社員や、地方のある支社では上司から顔面に灰皿を投げられたドライバー社員もいたとの相談が組合に寄せられています」(組合関係者)「まごころ」とは程遠い仕事環境で心身を患い、退職する従業員もいる。「僕もそうですが将来のことを考え、上場企業という点に惹かれてこの会社に決めました。今会社に残っている人は自宅や車の購入、ローンの返済、子どもの教育にもお金がかかるため、辞めるに辞められない人ばかりです」(大森さん)家族のため、と思って始めたものの帰宅は深夜、休みもない。家族との時間はほとんど持てない。過労によるイライラで些細なことで妻とぶつかり、夫婦関係に亀裂が入り、離婚に至るケースも少なくないとか。こうした現状はいまに始まったわけではないという。これまでも何人もの従業員たちが改善を訴えてきたが、そのたびに退職に追い込まれてきた。管理職や本社社員らは左遷に怯える。「改善を訴えた本社の部長クラスが、翌日にはどこかの支社の中間管理職に降格させられる、なんてこともまかり通っているようです。そのため、管理職は左遷を恐れて抑えこまれ、一方の従業員は使い捨て。会社にとってはたいせつにしているのは”まごころ”ではなく、売り上げと引っ越し成約率NO1という実績。社員はただの駒なんです」(前出の組合関係者)大森さんは今年8月に第一子が誕生、10月から育休を取得している。「基本給を含めた手当てのうち6~7割しか支給されないので、今月の支給額はどうなるか……。妻は正社員の保育士でしたが、自宅から職場が離れており、育児しながら通うことが厳しく、出産を機に仕事を辞ざるを得なかった。しかし、この僕の給与だけで、どうやって生活すればいいのか。僕たちは長時間の残業をしなくても生活できるよう、固定給を上げてほしいだけなんです」 同社のブラックな業務実態は引っ越しトラックのドライバーだけではなかった。〈サカイ ブラック労働問題〉#2につづく。
パワハラが横行している支社もあるという。
「いまだに社員を恫喝する店長や施設長がいます。罵倒され続けたことで心を病んでしまった営業部の社員や、地方のある支社では上司から顔面に灰皿を投げられたドライバー社員もいたとの相談が組合に寄せられています」(組合関係者)
「まごころ」とは程遠い仕事環境で心身を患い、退職する従業員もいる。
「僕もそうですが将来のことを考え、上場企業という点に惹かれてこの会社に決めました。今会社に残っている人は自宅や車の購入、ローンの返済、子どもの教育にもお金がかかるため、辞めるに辞められない人ばかりです」(大森さん)
家族のため、と思って始めたものの帰宅は深夜、休みもない。家族との時間はほとんど持てない。過労によるイライラで些細なことで妻とぶつかり、夫婦関係に亀裂が入り、離婚に至るケースも少なくないとか。
こうした現状はいまに始まったわけではないという。これまでも何人もの従業員たちが改善を訴えてきたが、そのたびに退職に追い込まれてきた。
管理職や本社社員らは左遷に怯える。
「改善を訴えた本社の部長クラスが、翌日にはどこかの支社の中間管理職に降格させられる、なんてこともまかり通っているようです。そのため、管理職は左遷を恐れて抑えこまれ、一方の従業員は使い捨て。会社にとってはたいせつにしているのは”まごころ”ではなく、売り上げと引っ越し成約率NO1という実績。社員はただの駒なんです」(前出の組合関係者)
大森さんは今年8月に第一子が誕生、10月から育休を取得している。
「基本給を含めた手当てのうち6~7割しか支給されないので、今月の支給額はどうなるか……。妻は正社員の保育士でしたが、自宅から職場が離れており、育児しながら通うことが厳しく、出産を機に仕事を辞ざるを得なかった。
しかし、この僕の給与だけで、どうやって生活すればいいのか。僕たちは長時間の残業をしなくても生活できるよう、固定給を上げてほしいだけなんです」
同社のブラックな業務実態は引っ越しトラックのドライバーだけではなかった。〈サカイ ブラック労働問題〉#2につづく。
同社のブラックな業務実態は引っ越しトラックのドライバーだけではなかった。〈サカイ ブラック労働問題〉#2につづく。

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