乱立した「エシカル系ショップ」の閉店相次ぐ ブームの裏で儲かったのは誰か

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仕事をする、働く、新ビジネスを展開するというとき、人は純粋に利益だけを求めるのには耐えられない。誰かの人助けにもなる、社会の役に立つ側面もある、人々の未来に少しだけど貢献できるといった要素があってほしいと思うものだ。そういった人間らしい善意のために、慣れない新しい仕事にチャレンジする人もいる。一方で、人間の善き心につけ込む仕組みでビジネスを展開する人たちもいる。ライターの宮添優氏が、「エシカル系」ショップの運営をめぐる不穏なビジネスの存在と、それによって負債を負った人たちについてレポートする。
【写真】たった半年 * * * つい最近まで、ある程度の規模の街を歩けば必ず見かけた「唐揚げ店」や「高級食パン店」が次々廃業に追い込まれ、空き店舗と化している。少し前は「タピオカドリンク店」もそうであったように、日本の消費者の飽きの早さが原因とも言えるし、店舗が多すぎる飽和状態だったという見方もあろう。 そんな中、人知れずひっそり……そして続々と閉店しているのが「エシカル系」と言われる、主に雑貨などを取り扱うショップだという。大手紙経済部担当記者が説明する。「”エシカル”とは直訳すれば倫理的、という意味で、環境や人権、社会や地域へ配慮した良識的な商品を選ぶ消費活動やライフスタイル、転じて、エシカルなものを扱うお店を『エシカル系』と呼びます。各国がSDGs(持続可能な開発目標)を掲げる中で、この数年、あちこちに似たようなショップがオープンしていたんです」(大手紙経済部記者)エシカルを意識するお客さんは頻繁に商品を買わない エシカル系ショップは、時代の流れの中で大手メディアにも毎日のように取り上げられ、人気店には行列ができるほどであった。ところが、あっという間に閉店が続き、その姿を消しつつあるという。いったい何が起きているのか。「唐揚げ店や高級食パン店のように、確かに一時的な人気はありました。でも、エシカルであることに配慮をすると、どうしても大量生産には向かない商品も多い。生産ロットが小さいから、とにかく置いてある商品の価格が高い。意識が高く、比較的裕福な中高年女性たちには一時的に支持されましたが、一般層にまでは広がらなかった、というのが現状でしょう」(大手紙経済部記者) 東京都在住の元会社員・中野美穂さん(仮名・50代)は、コロナ禍の2021年、東京都内のある商店街に念願だったエシカル系雑貨店をオープン。中野さんが数年前からハマっているという「ヨガ」関連のウェアなどをメインに、オーガニック由来の下着などを取りそろえた。 オープン直後には、テレビだけでなく、女性誌や情報誌の取材が殺到。週の売り上げが60万円近くになり、中野さんが想定していたよりも大きな結果が出た。「消費者の意識の高まりを感じた」というが、その数ヶ月後には1日の来店客がゼロになったと嘆く。「最初こそ、SDGsやエシカルを考えるお客さんがたくさんきてくれて、この商売は軌道に乗るかと思ったんです。でも、よくよく考えてみると、エシカルを意識するお客さんですから、そんなに頻繁に商品を買うわけがない。もっと言えば、必要なものだけを最低限買うのがエシカルですよね。迂闊だったとしかいいようがありません」(中野さん) 結局店は、オープンから半年も経たないうちに閉店。商品の仕入れ代はもちろん、開店のための改装費や敷金礼金など、300万円近くの負債だけが残ったという。もっとも、中野さんのビジネスプランは確かにあまりに杜撰と言う他ないが、彼女ひとりだったらエシカル系ショップを実際に始めることはなかった。中野さんの思いつきを、後押しした人物がいたという。「実は、エシカル系に特化したコンサルタントの男性がいて、その方が開催していたSDGs勉強会に参加したのが、店をオープンする直接のきっかけだったんです。SDGsは今注目されているから銀行からの融資もおりやすいと言われ、コンサルさんが資金調達から店舗の準備まで全部やってくれたんですが、結局、儲かったのはコンサルさんだけで、あとは全部、こちらの損。人のせいにはしたくないし、自分が馬鹿でしたが、ちょっと恨み節くらい言いたくなりますよ」(中野さん)みんなに迷惑かけて、残ったのはゴミだけ 大阪市内で、飲食店など複数の店舗を経営する牧野一郎さんも、自身が所属する商工会を通じて紹介されたコンサルに薦められ、2年前に関西エリアに数店舗の「エシカル系ショップ」をオープンさせた一人。だが、現在は全て閉店し、莫大な借金だけが残ったと嘆く。「消費者意識が高まっている、とメディアも識者も煽りに煽っていましたよね。正直、私もそれに騙された形ですわ。置いていた商品はエシカルを売りにしていたので、私が言うのもなんですが、どう考えてもコスパが悪い。主力の商品は自然素材由来の化粧品、ルームウェアでしたが、こだわりを売りにしているから生産できる数も限られ、一点一点がべらぼうに高い。関西のお客は目が肥えていて、店にやってきても、なんでこんなのがこんなに高いん? と言うだけで全く買ってくれません。客の所有欲は満たせるがとにかく高く、ブームにすらならなかった、というのが正直なところですわ」(牧野さん) 牧野さんの知人の経営者も、大手ショッピングモールなどにエシカル系ショップを数店オープンさせたが、すぐに経営が行き詰まった挙句、なんと夜逃げした。「みんなに迷惑かけて、残ったのはゴミだけですわ。周囲に迷惑かけるだけかけて、何がエシカルやって話でね」(牧野さん) 関東にある大手私鉄系駅ビルの運営に携わる東海林幹子さん(仮名・40代)も、このエシカル系ショップの存在に頭を悩ませている。「親会社の意向で、エシカル系ショップが次々にオープンしましたが、一年続いた店はおそらく一つもありません。メディアは騒ぎ立てましたが、結局開店直後の客足が続いた店はゼロで、家賃の踏み倒しや夜逃げもありましたし、中には、エシカル風のショップを装った”マルチ商法”関連の店まで出店し、社内で大問題になりました。もうエシカル、という言葉を見るだけで嫌気がさすほどです」(東海林さん) 東海林さんによれば、「エシカル」を標榜し、表向きの「美しさ」や「響きの良さ」を隠れ蓑に、健康食品などマルチ商法の商品を堂々と取り扱う店舗まで出てきたという。また、エシカル系のショップが潰れた後には、大量生産・大量消費系の100円ショップや、安さだけが売りの雑貨店がオープンし盛況なのだというから皮肉きわまりない。 結局、全くと言っていいほど根付いていない「エシカル」は、その看板を掲げると、その良識に惹かれて人が集まる装置にされてしまった面がある。本来の思想は置き去りにされ、人の善意につけ込んだビジネスが展開できるとずる賢く立ち回った人たちに荒らされ、もはや「倫理的な購買者像」を語る人もいなくなってしまったのだ。
* * * つい最近まで、ある程度の規模の街を歩けば必ず見かけた「唐揚げ店」や「高級食パン店」が次々廃業に追い込まれ、空き店舗と化している。少し前は「タピオカドリンク店」もそうであったように、日本の消費者の飽きの早さが原因とも言えるし、店舗が多すぎる飽和状態だったという見方もあろう。
そんな中、人知れずひっそり……そして続々と閉店しているのが「エシカル系」と言われる、主に雑貨などを取り扱うショップだという。大手紙経済部担当記者が説明する。
「”エシカル”とは直訳すれば倫理的、という意味で、環境や人権、社会や地域へ配慮した良識的な商品を選ぶ消費活動やライフスタイル、転じて、エシカルなものを扱うお店を『エシカル系』と呼びます。各国がSDGs(持続可能な開発目標)を掲げる中で、この数年、あちこちに似たようなショップがオープンしていたんです」(大手紙経済部記者)
エシカル系ショップは、時代の流れの中で大手メディアにも毎日のように取り上げられ、人気店には行列ができるほどであった。ところが、あっという間に閉店が続き、その姿を消しつつあるという。いったい何が起きているのか。
「唐揚げ店や高級食パン店のように、確かに一時的な人気はありました。でも、エシカルであることに配慮をすると、どうしても大量生産には向かない商品も多い。生産ロットが小さいから、とにかく置いてある商品の価格が高い。意識が高く、比較的裕福な中高年女性たちには一時的に支持されましたが、一般層にまでは広がらなかった、というのが現状でしょう」(大手紙経済部記者)
東京都在住の元会社員・中野美穂さん(仮名・50代)は、コロナ禍の2021年、東京都内のある商店街に念願だったエシカル系雑貨店をオープン。中野さんが数年前からハマっているという「ヨガ」関連のウェアなどをメインに、オーガニック由来の下着などを取りそろえた。
オープン直後には、テレビだけでなく、女性誌や情報誌の取材が殺到。週の売り上げが60万円近くになり、中野さんが想定していたよりも大きな結果が出た。「消費者の意識の高まりを感じた」というが、その数ヶ月後には1日の来店客がゼロになったと嘆く。
「最初こそ、SDGsやエシカルを考えるお客さんがたくさんきてくれて、この商売は軌道に乗るかと思ったんです。でも、よくよく考えてみると、エシカルを意識するお客さんですから、そんなに頻繁に商品を買うわけがない。もっと言えば、必要なものだけを最低限買うのがエシカルですよね。迂闊だったとしかいいようがありません」(中野さん)
結局店は、オープンから半年も経たないうちに閉店。商品の仕入れ代はもちろん、開店のための改装費や敷金礼金など、300万円近くの負債だけが残ったという。もっとも、中野さんのビジネスプランは確かにあまりに杜撰と言う他ないが、彼女ひとりだったらエシカル系ショップを実際に始めることはなかった。中野さんの思いつきを、後押しした人物がいたという。
「実は、エシカル系に特化したコンサルタントの男性がいて、その方が開催していたSDGs勉強会に参加したのが、店をオープンする直接のきっかけだったんです。SDGsは今注目されているから銀行からの融資もおりやすいと言われ、コンサルさんが資金調達から店舗の準備まで全部やってくれたんですが、結局、儲かったのはコンサルさんだけで、あとは全部、こちらの損。人のせいにはしたくないし、自分が馬鹿でしたが、ちょっと恨み節くらい言いたくなりますよ」(中野さん)
大阪市内で、飲食店など複数の店舗を経営する牧野一郎さんも、自身が所属する商工会を通じて紹介されたコンサルに薦められ、2年前に関西エリアに数店舗の「エシカル系ショップ」をオープンさせた一人。だが、現在は全て閉店し、莫大な借金だけが残ったと嘆く。
「消費者意識が高まっている、とメディアも識者も煽りに煽っていましたよね。正直、私もそれに騙された形ですわ。置いていた商品はエシカルを売りにしていたので、私が言うのもなんですが、どう考えてもコスパが悪い。主力の商品は自然素材由来の化粧品、ルームウェアでしたが、こだわりを売りにしているから生産できる数も限られ、一点一点がべらぼうに高い。関西のお客は目が肥えていて、店にやってきても、なんでこんなのがこんなに高いん? と言うだけで全く買ってくれません。客の所有欲は満たせるがとにかく高く、ブームにすらならなかった、というのが正直なところですわ」(牧野さん)
牧野さんの知人の経営者も、大手ショッピングモールなどにエシカル系ショップを数店オープンさせたが、すぐに経営が行き詰まった挙句、なんと夜逃げした。
「みんなに迷惑かけて、残ったのはゴミだけですわ。周囲に迷惑かけるだけかけて、何がエシカルやって話でね」(牧野さん)
関東にある大手私鉄系駅ビルの運営に携わる東海林幹子さん(仮名・40代)も、このエシカル系ショップの存在に頭を悩ませている。
「親会社の意向で、エシカル系ショップが次々にオープンしましたが、一年続いた店はおそらく一つもありません。メディアは騒ぎ立てましたが、結局開店直後の客足が続いた店はゼロで、家賃の踏み倒しや夜逃げもありましたし、中には、エシカル風のショップを装った”マルチ商法”関連の店まで出店し、社内で大問題になりました。もうエシカル、という言葉を見るだけで嫌気がさすほどです」(東海林さん)
東海林さんによれば、「エシカル」を標榜し、表向きの「美しさ」や「響きの良さ」を隠れ蓑に、健康食品などマルチ商法の商品を堂々と取り扱う店舗まで出てきたという。また、エシカル系のショップが潰れた後には、大量生産・大量消費系の100円ショップや、安さだけが売りの雑貨店がオープンし盛況なのだというから皮肉きわまりない。
結局、全くと言っていいほど根付いていない「エシカル」は、その看板を掲げると、その良識に惹かれて人が集まる装置にされてしまった面がある。本来の思想は置き去りにされ、人の善意につけ込んだビジネスが展開できるとずる賢く立ち回った人たちに荒らされ、もはや「倫理的な購買者像」を語る人もいなくなってしまったのだ。

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