妻が離婚届と一緒に突き付けた「不倫相手からのエグ過ぎる贈り物」 50歳夫は「今思えばとんでもない女」「僕は何をしたんでしょうか」

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前編【「おまえはおかあさんが浮気してできた子だ」…50歳男性が語る、父親の敵意に耐えた少年時代 「親の影響で僕は自分に自信が持てない」】からのつづき
岸野喜正さん(50歳・仮名=以下同)は、小学生の時に自身が「母が浮気してできた子」だと父から知らされた。兄と妹をかわいがる一方、喜正さんには冷たい父の態度に高校時代こそグレたものの、兄として慕ってくれる妹の言葉で改心し、大学卒業とともに独立。38歳の時に妹の紹介で出会った智佳子さんと結婚し娘が産まれた。愛おしさと共に「もしも僕の子でなかったら…」と当時の父に自分を重ね、複雑な思いを抱いたと明かす。
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【写真を見る】「夫が19歳女子大生と外泊報道」で離婚した女優、離婚の際「僕の財産は全部捧げる」と財産贈与した歌手など【「熟年離婚」した芸能人11人】 妻の智佳子さんはとにかく「善人だ」と彼は言う。四方八方に目を配り、常に思いやりをもって人に接する。彼女から多くのことを学んだそうだ。幸福が続くと怖くなる――?喜正さんは「とんでもない女」にひっかかった「僕から見るとストレスがたまりそうでも、彼女は誠意を持って相手に対することがいちばんだと思っているから、ぞんざいにすると逆にストレスがたまるらしいです。僕に対しても常に配慮を感じますね。僕が持っている、ある意味で譲れない人との距離感みたいなものを彼女は察してくれるんです」 マンションの自治会役員の仕事が回ってきたときも、智佳子さんは「私がやっておくね」と自治会長を引き受けた。「夫は仕事が忙しいので」と伝え、誠心誠意、会長の職を務めたという。彼は「智佳子さんはすごいね」と近所に言われ続けたそうだ。「わりと大きなマンションなので、少しずつ高齢家庭も増えてきました。智佳子は高齢者のみの家庭を1軒ずつ回っていたそう。困ったことがあったら言ってくださいと言って、マンション前の数段の階段のところにスロープをつけたり、ゴミ置き場をより整備したりした。何かを変えようとすると必ず反対する人がいますが、智佳子は反対意見をもつ人にも丁寧に対応していたそうです」 人格者だと評判がたっても智佳子さんが驕ることはなかった。いつでも謙虚で、いつでも「あなたのおかげで幸せよ」と笑ってくれた。「僕は、自分の置かれている状況が怖かった。仕事もなぜか順調で、リーダーシップのない僕が管理職になってしまった。僕は一生、平社員でいいですと断ったんですが、そういうわけにはいかない、きみは今まで通りに仕事をしてくれればいいだけだからと説得されて……。祭りあげられたようなリーダーなのですが、周りがしっかりしてくれているので仕事はうまくいっている。女神のような妻にも恵まれた。こんなにいいことがあるわけはない。そんな思いにとらわれました」 幸福を実感できないタイプがいるのかもしれない。幸福が続くと怖くなる人は、それを無意識に壊そうとする妙な行動に出ることがある。ひっかかった「とんでもない女」 彼自身は、その状況を維持したいと考えていた。それなのに、とんでもない女にひっかかってしまうのだ。「今思えば、とんでもない女なんですが、当時は僕に対して深くて強い愛情をきちんと見せてくれる女性だと心惹かれたんです」 それはコロナ禍直前のことだった。取引先から新しい担当者である女性を紹介されたとき、彼は心を鷲づかみされた。彼女の目がまっすぐに彼を射貫いたからだ。「娘が赤ちゃんだったころ、僕は見抜かれていると思ったことがあるんです。『おまえがどんな男かわかってるよ』と赤ちゃんに言われている感じ。彼女はそのときの娘のような目をしていました」 担当となったリカさんは「よろしくお願いします」とさっと手を出した。あとから聞けば海外生活が長かったため、挨拶は握手が基本だと思っていたようだ。「彼女とはそれから仕事でよく会うようになりました。あるとき彼女を含めて数人で会議をしたんですが、議論が紛糾したことがあった。遅くなったのでみんなでちょっと食事でもということになって中華料理に行って。さっきまでいちばん言いたいことを言って議論を紛糾させた張本人の彼女が、今度はすばらしいまとめ役になった。5,6人いたんですが、それぞれから苦手なものを聞き出し、『勝手に注文していいですね』と言質をとってパッと注文してくれて。正直でストレートで、周りに丁寧に配慮するというよりは誰もイヤな思いをしない範疇で物事をさっさと決めていく。妻の智佳子とはまったく違う、かっこよくて潔い女性でしたね」 彼女の話し方、身のこなしすべてがきれいだったと彼は言う。ところがあるとき、仕事の流れでふたりでバーへ行くと彼女への印象が変わった。「それまで彼女はあまりお酒を飲まなかったんですが、その日は仕事が一段落して、ちょっと打ち上げっぽくもあったのでホッとしたんでしょうかね。すごい勢いで飲んであっという間に酔っ払って……。酔うと悪口雑言がすごかったですよ、上司や同僚に対して。でも彼女の言わんとすることはわかるんです。『上にへつらってばかりいて』と同僚批判をし、『自分の立場ばかり守ろうとする』と上司を非難。正しいんですけどね、彼女の場合はそれを忖度なく言ってしまうので、彼女の社内では問題になっているようでしたね」 ヨシちゃんもそう思うでしょーと彼女は酔いでぐらぐらしながら言ったという。バーテンダーも苦笑いしていた。いいかげん帰ったほうがいいかなと立ち上がろうとすると、リカさんは「ヨシちゃん」といきなり首に手を回してキスしてきた。「本当はドギマギしたんだけど、困ったなあ、酔っ払いはと笑うしかありませんでした。そのまま彼女を自宅に送り届けた」「あなたも独身に戻ってよ」 帰宅後も彼女の柔らかい唇が忘れられなかったという喜正さんだが、このとき彼の心の壁が壊れたのかもしれない。「ああいう強烈なキャラクターにはそれまで出会うことがありませんでした。いたのかもしれないけど僕は避けていただろうし。仕事でつきあわなければならない相手だという以上に、僕は彼女に惹かれたんだと思います」 男女の関係になるのにそれほど時間はかからなかった。彼は彼女のペースにどんどんはまっていく。つきあうようになってすぐ、「私は結婚なんて考えてないから」と言われた。彼が内心、ホッとしていると「でも、これって対等な関係じゃないよね」と追い打ちをかけられる。「あなたが私とつきあいたいなら、あなたも独身に戻ってよと迫られました。そのころ僕は彼女に夢中で、週のうち半分くらいは彼女の家に泊まっていたんです。妻には『仕事が忙しくなって』と言い訳していました。智佳子はそういうとき『体にだけは気をつけて』としか言わない。それをいいことに僕はリカに溺れていったんです」彼女なら自分の人生を変えてくれる コロナ禍などどこ吹く風で、ふたりは在宅ワークになるとリカさんの家でそれぞれ仕事をし、合間にいちゃいちゃし、また仕事に戻る日々を送っていた。「そういうのって学生時代に経験するようなことかもしれませんが、僕にとっては初めてのできごと。しかもリカが相手だと自分を飾る必要もない。リカは『私は言いたいことを言うから、ヨシちゃんも言って。全部見せて。私と真正面から向き合って』と言う。普通、誰かにそんなことを言われたら僕の防衛本能が発令されるんですが、リカの言い方には嘘がないとわかってる。だから僕もどんどん心の内を見せていくようになりました」 彼女なら自分の人生を変えてくれる。そんな気がしたという。他人に自分の人生を委ねるなど、以前の喜正さんなら考えられなかったはずだが、リカさんへの恋情が彼を柔軟にしていた。「リカへの気持ちがすべてだったのかどうかわからない。ただ、自分を解放できた感じが楽しかったんです。新たな世界が見えたようで。社内の同僚たちからも最近変わったね、いい感じと言われてうれしかった。本来の自分を取り戻したと思い込んだのかもしれません」リカから妻への「贈り物」 今年の春、娘は中学生になった。入学式に参列した喜正さんは、今までの人生を振り返り、娘の姿に涙した。智佳子さんはそんな彼の様子をじっと見つめていたそうだ。目が合って彼が照れ笑いを浮かべると、智佳子さんは優しく微笑んだ。「3年後に娘が高校に入ったら離婚もありかなあと思いました。智佳子なら受け入れてくれるんじゃないかと。リカに『3年後に結婚しないか?』と言ったら、『結婚という形はどうでもいいけど、あなたがやっとひとりになる決心をしてくれたならうれしい』と。半世紀生きてきて、自分の行動に満足感を得ました」 ところが夏前、智佳子さんからいきなり離婚届を突きつけられた。どういうことなのと戸惑う彼に、智佳子さんはダンボール箱を持ってきた。「『これ以上、バカバカしいことにつきあってはいられない。人の悪意をすべて飲み込めるほど私は大人じゃない』と言うんです。中を見たら、すべてリカから送られてきたものでした。僕が彼女の部屋に置いていた仕事道具や衣類の一部、僕の寝顔の写真もあった。使用済みの避妊具がいくつも入ったビニール袋。そしていちばん驚いたのは彼女が僕の下半身に顔を埋めている写真でした。エグいことをしますよね。あまりにエグすぎて思わず笑ってしまったくらいです」 妻は「あなたはこういうときに笑う人じゃなかった。彼女に魂を売ったのね」と言った。出ていけと言われ、彼はその通りにした。ところが身の回りのものをもってリカさんのところに行くと、「入らないで」と言われてしまう。「彼女は智佳子から、1000万円払えと言われていると。弁護士が入っての話ではないけど、これを拒否するなら正式に訴えるそうです。リカと智佳子は水面下でこの1年くらいやりとりしていた。僕はまったく知らなかったけど」「あれよあれよという間に」 わかっているのは妻も恋人も、彼を「不要だ」と思っていることだけだ。自分がリカさんと智佳子さん、どちらかを選ぶ立場だと思っていた喜正さんだが、実はどちらからも見限られていたのだ。「とりあえず僕はアパートを借りて住んでいますが、妻とリカの関係がどうなっているのか情報が入ってこないんですよ。あげく娘にも会うことを拒絶された。あれよあれよという間にこんなことになって、何がどうなっているのかわからない。離婚届にはサインしていません。僕は離婚したくない」 もうじき離婚調停が始まる。それが決裂すれば裁判になるだろう。一方、智佳子さんとリカさんの間でも裁判沙汰が予想される。 自分が悪いという言葉は最後まで喜正さんの口から出てこなかった。不倫経験者は、婚外恋愛が本当に悪いのかと聞かれると素直にイエスとは言いづらいだろうし、悪いとおもっていない人もいるかもしれない。「智佳子は僕に離婚を強いてくる。リカにはお金で賠償しろと言っている。リカは智佳子を挑発した。僕は何をしたんでしょう。ふたりをそれぞれ大事に思っていたのに……」 一般常識を排除すれば、喜正さんの気持ちもわからなくはない。だが一夫一婦という制度に乗った限りは、そこを逸脱すれば責められるのは当然のこと。甘かったとしか言いようがないのかもしれない。前編【「おまえはおかあさんが浮気してできた子だ」…50歳男性が語る、父親の敵意に耐えた少年時代 「親の影響で僕は自分に自信が持てない」】からのつづき亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮編集部
妻の智佳子さんはとにかく「善人だ」と彼は言う。四方八方に目を配り、常に思いやりをもって人に接する。彼女から多くのことを学んだそうだ。
「僕から見るとストレスがたまりそうでも、彼女は誠意を持って相手に対することがいちばんだと思っているから、ぞんざいにすると逆にストレスがたまるらしいです。僕に対しても常に配慮を感じますね。僕が持っている、ある意味で譲れない人との距離感みたいなものを彼女は察してくれるんです」
マンションの自治会役員の仕事が回ってきたときも、智佳子さんは「私がやっておくね」と自治会長を引き受けた。「夫は仕事が忙しいので」と伝え、誠心誠意、会長の職を務めたという。彼は「智佳子さんはすごいね」と近所に言われ続けたそうだ。
「わりと大きなマンションなので、少しずつ高齢家庭も増えてきました。智佳子は高齢者のみの家庭を1軒ずつ回っていたそう。困ったことがあったら言ってくださいと言って、マンション前の数段の階段のところにスロープをつけたり、ゴミ置き場をより整備したりした。何かを変えようとすると必ず反対する人がいますが、智佳子は反対意見をもつ人にも丁寧に対応していたそうです」
人格者だと評判がたっても智佳子さんが驕ることはなかった。いつでも謙虚で、いつでも「あなたのおかげで幸せよ」と笑ってくれた。
「僕は、自分の置かれている状況が怖かった。仕事もなぜか順調で、リーダーシップのない僕が管理職になってしまった。僕は一生、平社員でいいですと断ったんですが、そういうわけにはいかない、きみは今まで通りに仕事をしてくれればいいだけだからと説得されて……。祭りあげられたようなリーダーなのですが、周りがしっかりしてくれているので仕事はうまくいっている。女神のような妻にも恵まれた。こんなにいいことがあるわけはない。そんな思いにとらわれました」
幸福を実感できないタイプがいるのかもしれない。幸福が続くと怖くなる人は、それを無意識に壊そうとする妙な行動に出ることがある。
彼自身は、その状況を維持したいと考えていた。それなのに、とんでもない女にひっかかってしまうのだ。
「今思えば、とんでもない女なんですが、当時は僕に対して深くて強い愛情をきちんと見せてくれる女性だと心惹かれたんです」
それはコロナ禍直前のことだった。取引先から新しい担当者である女性を紹介されたとき、彼は心を鷲づかみされた。彼女の目がまっすぐに彼を射貫いたからだ。
「娘が赤ちゃんだったころ、僕は見抜かれていると思ったことがあるんです。『おまえがどんな男かわかってるよ』と赤ちゃんに言われている感じ。彼女はそのときの娘のような目をしていました」
担当となったリカさんは「よろしくお願いします」とさっと手を出した。あとから聞けば海外生活が長かったため、挨拶は握手が基本だと思っていたようだ。
「彼女とはそれから仕事でよく会うようになりました。あるとき彼女を含めて数人で会議をしたんですが、議論が紛糾したことがあった。遅くなったのでみんなでちょっと食事でもということになって中華料理に行って。さっきまでいちばん言いたいことを言って議論を紛糾させた張本人の彼女が、今度はすばらしいまとめ役になった。5,6人いたんですが、それぞれから苦手なものを聞き出し、『勝手に注文していいですね』と言質をとってパッと注文してくれて。正直でストレートで、周りに丁寧に配慮するというよりは誰もイヤな思いをしない範疇で物事をさっさと決めていく。妻の智佳子とはまったく違う、かっこよくて潔い女性でしたね」
彼女の話し方、身のこなしすべてがきれいだったと彼は言う。ところがあるとき、仕事の流れでふたりでバーへ行くと彼女への印象が変わった。
「それまで彼女はあまりお酒を飲まなかったんですが、その日は仕事が一段落して、ちょっと打ち上げっぽくもあったのでホッとしたんでしょうかね。すごい勢いで飲んであっという間に酔っ払って……。酔うと悪口雑言がすごかったですよ、上司や同僚に対して。でも彼女の言わんとすることはわかるんです。『上にへつらってばかりいて』と同僚批判をし、『自分の立場ばかり守ろうとする』と上司を非難。正しいんですけどね、彼女の場合はそれを忖度なく言ってしまうので、彼女の社内では問題になっているようでしたね」
ヨシちゃんもそう思うでしょーと彼女は酔いでぐらぐらしながら言ったという。バーテンダーも苦笑いしていた。いいかげん帰ったほうがいいかなと立ち上がろうとすると、リカさんは「ヨシちゃん」といきなり首に手を回してキスしてきた。
「本当はドギマギしたんだけど、困ったなあ、酔っ払いはと笑うしかありませんでした。そのまま彼女を自宅に送り届けた」
帰宅後も彼女の柔らかい唇が忘れられなかったという喜正さんだが、このとき彼の心の壁が壊れたのかもしれない。
「ああいう強烈なキャラクターにはそれまで出会うことがありませんでした。いたのかもしれないけど僕は避けていただろうし。仕事でつきあわなければならない相手だという以上に、僕は彼女に惹かれたんだと思います」
男女の関係になるのにそれほど時間はかからなかった。彼は彼女のペースにどんどんはまっていく。つきあうようになってすぐ、「私は結婚なんて考えてないから」と言われた。彼が内心、ホッとしていると「でも、これって対等な関係じゃないよね」と追い打ちをかけられる。
「あなたが私とつきあいたいなら、あなたも独身に戻ってよと迫られました。そのころ僕は彼女に夢中で、週のうち半分くらいは彼女の家に泊まっていたんです。妻には『仕事が忙しくなって』と言い訳していました。智佳子はそういうとき『体にだけは気をつけて』としか言わない。それをいいことに僕はリカに溺れていったんです」
コロナ禍などどこ吹く風で、ふたりは在宅ワークになるとリカさんの家でそれぞれ仕事をし、合間にいちゃいちゃし、また仕事に戻る日々を送っていた。
「そういうのって学生時代に経験するようなことかもしれませんが、僕にとっては初めてのできごと。しかもリカが相手だと自分を飾る必要もない。リカは『私は言いたいことを言うから、ヨシちゃんも言って。全部見せて。私と真正面から向き合って』と言う。普通、誰かにそんなことを言われたら僕の防衛本能が発令されるんですが、リカの言い方には嘘がないとわかってる。だから僕もどんどん心の内を見せていくようになりました」
彼女なら自分の人生を変えてくれる。そんな気がしたという。他人に自分の人生を委ねるなど、以前の喜正さんなら考えられなかったはずだが、リカさんへの恋情が彼を柔軟にしていた。
「リカへの気持ちがすべてだったのかどうかわからない。ただ、自分を解放できた感じが楽しかったんです。新たな世界が見えたようで。社内の同僚たちからも最近変わったね、いい感じと言われてうれしかった。本来の自分を取り戻したと思い込んだのかもしれません」
今年の春、娘は中学生になった。入学式に参列した喜正さんは、今までの人生を振り返り、娘の姿に涙した。智佳子さんはそんな彼の様子をじっと見つめていたそうだ。目が合って彼が照れ笑いを浮かべると、智佳子さんは優しく微笑んだ。
「3年後に娘が高校に入ったら離婚もありかなあと思いました。智佳子なら受け入れてくれるんじゃないかと。リカに『3年後に結婚しないか?』と言ったら、『結婚という形はどうでもいいけど、あなたがやっとひとりになる決心をしてくれたならうれしい』と。半世紀生きてきて、自分の行動に満足感を得ました」
ところが夏前、智佳子さんからいきなり離婚届を突きつけられた。どういうことなのと戸惑う彼に、智佳子さんはダンボール箱を持ってきた。
「『これ以上、バカバカしいことにつきあってはいられない。人の悪意をすべて飲み込めるほど私は大人じゃない』と言うんです。中を見たら、すべてリカから送られてきたものでした。僕が彼女の部屋に置いていた仕事道具や衣類の一部、僕の寝顔の写真もあった。使用済みの避妊具がいくつも入ったビニール袋。そしていちばん驚いたのは彼女が僕の下半身に顔を埋めている写真でした。エグいことをしますよね。あまりにエグすぎて思わず笑ってしまったくらいです」
妻は「あなたはこういうときに笑う人じゃなかった。彼女に魂を売ったのね」と言った。出ていけと言われ、彼はその通りにした。ところが身の回りのものをもってリカさんのところに行くと、「入らないで」と言われてしまう。
「彼女は智佳子から、1000万円払えと言われていると。弁護士が入っての話ではないけど、これを拒否するなら正式に訴えるそうです。リカと智佳子は水面下でこの1年くらいやりとりしていた。僕はまったく知らなかったけど」
わかっているのは妻も恋人も、彼を「不要だ」と思っていることだけだ。自分がリカさんと智佳子さん、どちらかを選ぶ立場だと思っていた喜正さんだが、実はどちらからも見限られていたのだ。
「とりあえず僕はアパートを借りて住んでいますが、妻とリカの関係がどうなっているのか情報が入ってこないんですよ。あげく娘にも会うことを拒絶された。あれよあれよという間にこんなことになって、何がどうなっているのかわからない。離婚届にはサインしていません。僕は離婚したくない」
もうじき離婚調停が始まる。それが決裂すれば裁判になるだろう。一方、智佳子さんとリカさんの間でも裁判沙汰が予想される。
自分が悪いという言葉は最後まで喜正さんの口から出てこなかった。不倫経験者は、婚外恋愛が本当に悪いのかと聞かれると素直にイエスとは言いづらいだろうし、悪いとおもっていない人もいるかもしれない。
「智佳子は僕に離婚を強いてくる。リカにはお金で賠償しろと言っている。リカは智佳子を挑発した。僕は何をしたんでしょう。ふたりをそれぞれ大事に思っていたのに……」
一般常識を排除すれば、喜正さんの気持ちもわからなくはない。だが一夫一婦という制度に乗った限りは、そこを逸脱すれば責められるのは当然のこと。甘かったとしか言いようがないのかもしれない。
前編【「おまえはおかあさんが浮気してできた子だ」…50歳男性が語る、父親の敵意に耐えた少年時代 「親の影響で僕は自分に自信が持てない」】からのつづき
亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部

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