2025年には6世帯に1世帯が一人世帯という現実を目前に控え、必ずやってくる老後不安に「自分だけは大丈夫」と思っていても、多くは自分が“最後のひとり”になることは想定していない。そしてもしも最後のひとりになってしまった場合に直面する、多くの問題についてもあまり知られていない。
そんな盲点をついたのが、司法書士の太田垣章子氏が著した『あなたが独りで倒れて困ること30』だ。
頼るべき親族がいない高齢者のサポートを続ける太田垣氏は「結婚していようが、子どもがいようが、誰しも『おひとりさま』になる可能性はあり、困らないように『自分ごと』として捉えてほしい」と話す。
太田垣氏が「すべての人が最後はおひとりさま」と言う理由は、これまでの活動のなかで「もう少し早く備えておけばこんなことにはならなかった…」という人たちをたくさん見てきたからだ。じつは老後に発生する問題は、ひとりひとりの生き様によって事情が異なるため、備えもまたそれぞれなのだという。
そんな実例のなかから、＜48歳の娘が青ざめた、警察からの「突然のお知らせ」…40年前に生き別れた実父が「変わり果てた姿」で現れた＞に引き続き、両親の離婚後、養育費も振り込まれず、約40年間面会もない、肉親の縁が切れた実の父親の突然の入院で、苦痛を味わった娘の実例を紹介したい。
「子どもと縁が切れた親」「親と他人になった子ども」がおひとりさまになった時に周囲に招く混乱を、双方の立場から見極めてほしい。
陽子さんが呼ばれたのは、このふたつの理由でした。
（1）入院手続きをして欲しい（2）今後の治療方針を決めて欲しい
でもそんなことを言われても、血は繋がっているかもしれませんが、陽子さんにとっては赤の他人と何ら変わりません。それでも病院側は「お嬢さんですよね？」と、当然といった態度で判断を求めてきます。
約40年以上会ってもなく、存在すら頭の中から消えていた父親。陽子さんには消したい辛い記憶ばかりです。いわば他人の男性と意思の疎通もできないのに、医療の判断なぞできるはずがありません。
どういう生き方をしたいのか、どのような治療を望むのか、想像すらつきません。「家族なんだから」と言われても、陽子さんにとって、この男性が「家族」というカテゴリーで括られるのも苦痛でしかありませんでした。
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困った陽子さんを最終的に助けてくれたのは、福祉課のケースワーカーと地域包括支援センターのケアマネジャーでした。二人とも女性で、陽子さんの苦悩に耳を貸してくれたからです。
「いきなり家族だからやってくださいと言われても……」
陽子さんの窮状に、二人は「そりゃそうだよね」と理解を示してくれたことで、ようやく陽子さんの気持ちが救われました。
私がなぜこの案件に関わったかと言うと、陽子さんの父親はここ数年家賃が滞納気味で、家主から明渡しの訴訟手続きの依頼を受け、訴訟を提起したところの当事者だったのです。
私もケアマネジャーから滞納分を支払うのでと連絡を受け、入院したことや陽子さんの苦悩を知ることになりました。
「対応しない私は、非人道的なのでしょうか？ 人として許されないことでしょうか？ 父親は養育費すら払ってこず、私も母も大変な思いをしてきたのに、今さら家族の責任を求められるのですか？ ならば父親としての責任はどうなっているのでしょうか」
戸籍上の親子というだけで、「娘」としての対応を求められることに、陽子さんの叫びにも似た思いは、痛いほど伝わってきました。
その後、少し回復した本人から死後事務委任契約で、万が一の際には賃貸借契約を解約（相続させない）と、残置物の処分に関する依頼を結び、陽子さんからも「異存ない」書面をもらっていたところ、想像していた以上に早く当の男性が亡くなりました。そのため訴訟は取り下げ、私の任務は終わりました。
ただ第二、第三の陽子さんは、この先急増することでしょう。
賃貸物件に住む人は、賃貸借契約が相続されてしまうことや、荷物の処分の問題が生じることを知っていただきたいと思います。さらには長年会ってもいない親族に、終末期の重い決断をさせてはいけません。
人はいつか必ず亡くなります。迷惑をかけてしまう生き物ではありますが、可能な限り自立し、自分ができることは備えておく知識と覚悟が必要になるでしょう。
さらに＜孤独死して“ミイラ”で発見された女性、死後4年経っても「家賃が振り込まれていた」その驚愕のワケ＞でも、誰もが孤独死に陥ることを想定した対策を紹介します。