社会に出てからも子供部屋に住み続ける「子供部屋オジサン・オバサン」は、なぜ頑なに実家から出ないのか。それは、若者が厳しい経済状況に置かれているからに他ならない。貯蓄額、奨学金の借入額などリアルな数字を交えながら、ライター・佐藤大輝氏とともに「若者の経済困窮」について考えていく。
子供部屋オジサン・オバサンは正義だ!!
上がらない給料。円安と燃料費高騰による物価高。一人暮らしに伴う賃料等。お金の問題を考えたとき、実家から職場までが通勤圏内ならば、わざわざ親元から離れる必要はない。
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経済合理性を考えている子供部屋オジサン・オバサンは賢い。親との関係が良好なのも結構なことではないか。だいたい人様の家庭に口を出すなんて、この記者はどんな神経をしているんだ……。
上記はこちらの記事〈32歳正社員なのに「実家暮らし」で海外旅行三昧…「子供部屋オジサン」の気になる年収〉に対するネットの反響を、筆者が簡潔にまとめたものだ。
この記事には、私が聞き手となり、社会に出てからも実家の子供部屋に住み続けている財前光希さん(32歳・正社員・年収500万円・預金100万円)をインタビューした内容が書かれている。
『マネー現代』の週間アクセスランキング1位を記録するなど想像以上の反響があったが、何より私が驚いたのは、実家暮らし支持者が思いのほか多数を占めていたことだ。
財前さんは実家へは1円も入れず、年間旅費に200万円ほど投資している変わり者だが、ネットでのコメントには賛否両論が半々といったところ……。社会人たるもの親元から離れ、精神的にも経済的にも自立すべきだと考えている筆者からすると、この拮抗は衝撃的だった。
財前さん擁護派の意見を総括すると「お金」の2文字で決まりで、実家暮らしは何かと効率的だという考えが根底にあるようだ。
たしかにこれらの主張には一理ある。金融広報中央委員会が2022年に公表したデータによると、20代単身世帯の金融資産保有額の中央値は20万円。30代単身世帯は56万円となっている。
なお、金融資産保有額の「中央値」とはデータを大きい順(あるいは小さい順)に並べた時に中央に位置する値で「平均値」とは異なる。
例えばAさんの預金残高が10万円、Bさん20万円、Cさん30万円、Dさん40万円、Eさん1000万円だったとする。この場合、5人の平均預金額は220万円になるが、中央値は真ん中に来る数値(この場合、Cさんの預金額)を採用する。
よって5人の預金中央値は30万円となる。平均値は持てる者が数字を引き上げる傾向が強いので、中央値の方が感覚的な実態に近い。
補足だが、年齢を問わない全世帯の金融保有資産の全国平均値は1395万円。中央値は300万円。金融資産を全く持っていない非保有世帯の割合は20代が38. 5%。30代は27. 3%だったことが報告されている。
どうやら若者が置かれている環境は客観的に見て、かなり苦しそうだ。というより絶望的な状況に陥っている。
さらに目に見えない苦しみ(ドンヨリとした空気感)が若者に蔓延している事実も見落としてはならない。
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イェール大学助教授の成田悠輔氏は、良くも悪くも日本社会は経済、政治、産業において「横ばい力」が突出していると発言している。つまり良い意味で安定、悪い意味で成長がないことを揶揄しているわけだ。
働く人なら誰しも経験があると思うが、一生懸命に頑張っても報われない環境で、高い労働意欲を保ち続けるのは難しい。経済的にも精神的にも、若い世代の置かれている環境は「アリ地獄に落ちた働きアリ」と表現するのが適切だろう。
若者のトホホな状況を語る上で、奨学金の話題も避けては通れない。日本学生支援機構が2022年に公表した「令和2年度・学生生活調査結果」によると、奨学金を借りている大学生(昼間部)の割合は49. 6%。短期大生は56. 9%。つまり約2人に1人が奨学金を借りている計算が立つ。
では、いったいいくら借りているのか。労働者福祉中央協議会が2023年に公表した「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査」によると、借入総額は平均310万円(中央値不明)。毎月の返済額は平均1万5000円。返済期間は平均14.5年だったと発表されている。
実は私も、約500万円の奨学金を借りて社会に出た。こちらの記事〈社会に出た瞬間からマイナス480万円スタート…私が「奨学金地獄」の中で返済は「無理ゲー」だと悟ったワケ〉に詳細は記したが、奨学金を借りた時は軽い気持ちで、社会に出たらすぐに返済できると信じていた。
けれど社会人になり、在職中にふとした会話をキッカケに先輩方の年収を知ったときは、まるで足元が崩れていく感覚を味わった。博物館に展示されたホルマリン漬けの標本のように、自分はこれからずーーーっと借金漬けの人生を送らなければならないのか……。
ちなみに私は新卒入社2年目の春、所属していたブラック企業から突如、クビを宣告された。解雇に納得できなかった私はブラック企業を訴えたのだが、諸々の報告を上げるために実家へ帰省した際、父と母に向かって「お金の問題もあるし、一時的に実家に戻りたいんだけど、ダメかな?」と提案。
父は驚いていたが、母は笑顔で「なにモジモジ言ってんのよ。家族なんだから気にせず帰ってきなさい」と言ってくれた……と書きたいところだが、実際は「え? アンタの部屋はもう妹の部屋になったんだから住むとこないわよ。お兄ちゃんなんだから一人で頑張りなさい」と拒否されたことをココに記しておく。
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以上、自身の経験もふまえ、今の若者が経済的に苦しんでいる状況を記した。後編記事〈子供部屋に閉じこもるか、海外へ脱出するか…若者が絶望する日本社会で「負の連鎖」が止まらないワケ〉では、昨今の海外出稼ぎブームやわが国のいびつなある「構造」をふまえ、引き続き「若者の経済困窮」について考えていく。