過去最悪「熊被害」の秋田県に抗議が殺到 “ハンターの個人情報を特定”、“無関係の市町村にクレーム”のやりすぎ行為も 地元県議は「親子熊を駆除してから一気に…」

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秋田県内を車で走っていると、至るところで「熊出没注意」の看板が目に付く。秋田県ではもともと熊が多く見られるが、今年は既に人身被害の件数が58人(10月25日現在)に達し、過去最多を更新し続けている。若者から高齢者まで、県民が熊に襲撃される事件が後を絶たず、地元紙の「秋田魁新報」では連日のように熊のニュースを報じている。
【画像】100メートル走は9秒台、嗅覚は人間の1万倍…驚異的な熊の身体能力を紹介した秋田県の“注意喚起”のビラ 熊といえば、山間部に出没する動物というイメージだろう。ところが、今年は熊が市街地や住宅街、さらには病院にまで出没しているのだ。こうした事態を重く見た自治体から依頼を受け、猟友会のハンターによって駆除が行われている。しかし、一部の動物愛護団体からは「熊を殺すな」という批判が寄せられ、自治体の関係者は困惑しているという。

熊を巡る被害は拡大する一方だ(写真はイメージです) そんな中、Xで熊に関する情報を発信しているのが、秋田県議会議員・宇佐見康人氏である。宇佐見氏は県民の命を守る観点から、熊の駆除に理解を求める。しかし、同氏のXには感情的なポストが多数寄せられている状態にある。なぜ、こうした抗議が寄せられるのか。そして、熊と人間はどのように向き合うべきなのか。秋田県の現状、そして抗議をする人・団体の実態に触れながら、今後の熊対策を考える機会としたい。熊が住宅街にまで出没している――私は秋田県出身ですが、連日のように全国ニュースで秋田の熊の問題が報じられ、驚いています。なぜ、今年は熊がこんなに多く出没しているのでしょうか。宇佐見:今年は異常事態ですね。私は秋田市在住で、今までも山間部や郊外には熊をたまに見ることがありましたが、今年は将軍野や新屋などの住宅街でも目撃情報があります。私も秋田市に39年間暮らしていますが、初めての出来事です。私の選挙区の学校でも、「熊に注意してください!」というチラシが生徒に配布されました。どうやって熊が山から離れた住宅街までやってくるのか。川を下ってきたのか。それとも、夜中に移動しているのか。実態ははっきりわかっていません。――県民にとって熊はどのような存在なのでしょうか。宇佐見:秋田市は秋田県の県庁所在地で都市部にあたりますが、小さい頃から近所の人に、山菜採りに行くときにはラジオや鈴を持っていくようにと言われました。秋田県民は山に熊がいて、遭遇するリスクがある危機意識を共有していると思います。熊がいるところに、私たちが住まわせてもらっているという感覚に近いのではないでしょうか。――おっしゃる通りだと思いますし、私も秋田県で生活していた時は、そのような思いで過ごしていました。宇佐見:熊に極端な嫌悪感をもっているとか、熊を全頭駆除しなければいけないなどと考えている県民はいないと思います。もちろん、行政でもそんなことをしようとは考えていません。ただ、里に出てきてしまった熊は、本当に申し訳ないけれど、住民を守る観点から駆除しなければいけないという考えがあります。――宇佐見さんは熊に遭遇したことはありますか。宇佐見:山で遭遇したことはありませんが、高校生の頃、友達のおじいちゃんが猟友会に入っていたので、仕留めた熊を解体する場面を見せてもらったことがあります。おじいちゃんは「命をつなぐためにも、つま先から頭の先まで無駄にしてはいけないんだよ」と言っていました。冬の間、狩猟で生活する人にとって、熊は命そのものなのです。つまり、熊を食べること自体が、熊によって生かされているという考えなんですよ。だから、猟友会のハンターも、熊に対して嫌悪感や憎しみなどの感覚は持っていません。なぜ今年はこんなに熊が多く出没する?――先ほど、宇佐見さんは今年の熊の出没件数の多さは異常事態だとおっしゃっていました。熊の餌が減少した、もしくは近年秋田県で問題になっているナラ枯れ、環境、気候の変化などは生態に影響しているのでしょうか。宇佐見:県ではまだ詳しい見解は出せていないと思います。実際にいろいろな専門家から話を聞くと、個体数が増加していると考える人もいれば、餌不足を指摘する人も、山に生息域が少なくなって里に下りてきたとする見解の人もいます。これらの複合的な要因もあるのかもしれません。――原因を一つに絞るのは難しいわけですね。宇佐見:県内にツキノワグマの生態を研究している方がいますが、その方も複合的な要因を指摘しています。個人的には、熊が人里付近の森で生まれ育ち、人間に警戒心が少なくなったのではないかとも思います。そして、人間の生活圏の方が餌があると学習してしまったのではないかと。また、山間部周辺の人口が減少し、耕作放棄地が増えて熊が人里に来やすくなった影響もあるかもしれません。ちなみに、秋田県ではイノシシを見ることはほとんどなかったのですが、近年はイノシシやシカの個体数も増えています。――熊の個体数の調整はどのように行っているのでしょうか。宇佐見:秋田県では、熊の捕獲目標数が毎年1000頭と定められているのですが、ここ数年の捕獲数は500~600頭に留まっています。猟友会のハンターのなり手がいないため、個体数の調整が難しくなってきています。そのためか、熊が縄張り争いを避け、山から人里に流れている可能性もありますね。昨今、全国から熊の殺処分にクレームが寄せられ、ハンターが委縮している影響もあると思います。熊の駆除を行ったらクレームが殺到――美郷町で小屋に立て籠もっていた熊を駆除したところ、一部の動物愛護団体や個人から抗議が寄せられているとうかがっています。宇佐見:メールや電話は、町や県に毎日のように来ているようですね。特に、立て籠もっていた親子熊を駆除したころから、クレームが目に見えて増えた。そもそも、県内の自治体では、熊という種や生態系全体の保護は今までもやってきたし、駆除も行ってきたのです。それなのになぜ、今回に限ってこれほどの抗議が寄せられるのか。首をかしげています。クレームを寄せる人たちは、特定の熊を保護したかったのか、それとも熊全体を保護したいのか、明確に示してくれません。――おっしゃる通り、秋田県ではこれまでも熊が出没するたびにニュースになっていますし、駆除も行われていますよね。以前もクレームはあったのでしょうか。宇佐見:いえ。少しはあったのかもしれませんが、今年に限って非常に多いですね。駆除を行った美郷町役場だけでなく、秋田県庁に対してもクレームが多い印象です。それでも、美郷町や秋田県に抗議するならまだ理解はできますが、近隣の仙北市とか、横手市とか、湯沢市といった、まったく関係のない市町村にまでクレームを入れる人がいるのはいかがなものでしょうか。あろうことか、行政と関係のない、地域のコミュニティーセンターにまで電話をする人がいると聞いています。そして、最近では駆除した人を特定しようとする人たちが増えていて、猟友会も困り果てているようです。――猟友会のハンターの個人情報まで特定しようというのは、いくらなんでもやりすぎな気がします。こうした抗議をしてくる人たちの傾向、雰囲気などはありますか。宇佐見:直接お会いしたことはないので断定はできないのですが、Xでやり取りをしていると、そもそも議論ができない人が多いと感じます。一部の発言を切り取って曲解し、自分の解釈を織り交ぜて、拡散するのです。あとは、客観的事実と自分の感情を同列に語る傾向もあるし、とにかく攻撃的ですね。熊の保護から自然環境保護の話になるなどの論理の飛躍や、最近ではヴィーガンの人まで絡んでくるようになりました。男女比は、顔が見えないのでわかりません。あと、私のX上での言葉遣いがなっていないとか、県庁や議会宛てにもクレームがくるみたいです。いったい何がしたいのか、私にはわかりません。――抗議をする人たちは、熊をどのような動物だと思っているのでしょうね。宇佐見:もしかすると、プーさんやリラックマのようなイメージで考えているのでしょうかね。ある動物愛護団体の方がインタビューに答えていましたが、どんぐりを与えていれば熊が山から下りてこないというコメントを見て、何を考えているんだろうと思いました。そんなことをしたら山の生態系が壊れますし、秋田県に仮に熊が4000頭いたとすると、縄張りが被らないよう注意を払い、どんぐりを撒く作業にどれだけの労力がかかると思っているのでしょうか。また、どんぐりを他の動物が食べ個体数を増やし、県内の動物の収容力の限界を超えてしまったらどうするのでしょう。熊以外の生態系や地域の実情に対する配慮が皆無で、いったい何を目的に活動しているのか、理解できません。過度なクレームが行政を混乱させている――自治体ではクレームの電話に職員が応対しなければならず、業務に支障が出ていると報じられていました。宇佐見:実際、業務は妨害され、職員は疲弊していますね。あと、猟友会の方と話をしたとき、そういうクレームがうちにくるんじゃないかという不安が頭をよぎると言われました。そして、駆除の依頼を受けて山に入った時も、そういう不安に襲われると言っていました。我々のような議員であれば、抗議や意見を受け止めるのも仕事です。しかしながら、猟友会、県庁、市町村の職員は違う立場でしょう。こうしたクレームが続くと、行政や猟友会の判断を迷わせてしまい、秋田県がこれまで熊と共存に向けて取り組んできた施策の方向性がぶれてしまいかねません。――そして、猟友会のハンターのなり手不足も、以前から秋田県で問題視されてきました。宇佐見:そもそも、狩猟免許を取得する若い人が減っている中、今回のような不当なクレームが来るようになってしまったら、とてもじゃないですがハンターになろうなんて思わないですよ。熊の駆除をする人が、どんどん減ってしまう可能性もあります。熊を駆除しても儲かるわけではありません。出動要請が来たら、ほとんどのハンターは一種の使命感で山に入っているような状態です。こうした勇敢なハンターに大多数の県民は感謝しています。――抗議をしてくる人に、これだけはわかってほしいなどの思いはありますか。宇佐見:感情的なクレームは、できればやめていただきたいと思います。我々は人命が第一で、そのうえで熊という種を保護していき、生態系全体のバランスも考え、個体数を適正に保つにはどうすればいいのかと考えている。この観点は理解していただきたいのです。そして、攻撃的な電話も多いようですが、意見を伝える際にはどうか冷静な対応をお願いしたい。電話だと職員の時間を拘束しますから、主張を伝えたいならメールでも可能です。繰り返すようですが、我々も熊を駆除したくてしているわけではありません。人里に現れた熊は、人命を守るためにやむを得ず駆除しているのです。動物を守りたいという思いを抱くのも結構ですが、できれば地域の実情を理解したうえで、提案や活動をしていただきたいと思っています。山内貴範(やまうち・たかのり)1985年、秋田県出身。「サライ」「ムー」など幅広い媒体で、建築、歴史、地方創生、科学技術などの取材・編集を行う。大学在学中に手掛けた秋田県羽後町のJAうご「美少女イラストあきたこまち」などの町おこし企画が大ヒットし、NHK「クローズアップ現代」ほか様々な番組で紹介された。商品開発やイベントの企画も多数手がけている。デイリー新潮編集部
熊といえば、山間部に出没する動物というイメージだろう。ところが、今年は熊が市街地や住宅街、さらには病院にまで出没しているのだ。こうした事態を重く見た自治体から依頼を受け、猟友会のハンターによって駆除が行われている。しかし、一部の動物愛護団体からは「熊を殺すな」という批判が寄せられ、自治体の関係者は困惑しているという。
そんな中、Xで熊に関する情報を発信しているのが、秋田県議会議員・宇佐見康人氏である。宇佐見氏は県民の命を守る観点から、熊の駆除に理解を求める。しかし、同氏のXには感情的なポストが多数寄せられている状態にある。なぜ、こうした抗議が寄せられるのか。そして、熊と人間はどのように向き合うべきなのか。秋田県の現状、そして抗議をする人・団体の実態に触れながら、今後の熊対策を考える機会としたい。
――私は秋田県出身ですが、連日のように全国ニュースで秋田の熊の問題が報じられ、驚いています。なぜ、今年は熊がこんなに多く出没しているのでしょうか。
宇佐見:今年は異常事態ですね。私は秋田市在住で、今までも山間部や郊外には熊をたまに見ることがありましたが、今年は将軍野や新屋などの住宅街でも目撃情報があります。私も秋田市に39年間暮らしていますが、初めての出来事です。私の選挙区の学校でも、「熊に注意してください!」というチラシが生徒に配布されました。どうやって熊が山から離れた住宅街までやってくるのか。川を下ってきたのか。それとも、夜中に移動しているのか。実態ははっきりわかっていません。
――県民にとって熊はどのような存在なのでしょうか。
宇佐見:秋田市は秋田県の県庁所在地で都市部にあたりますが、小さい頃から近所の人に、山菜採りに行くときにはラジオや鈴を持っていくようにと言われました。秋田県民は山に熊がいて、遭遇するリスクがある危機意識を共有していると思います。熊がいるところに、私たちが住まわせてもらっているという感覚に近いのではないでしょうか。
――おっしゃる通りだと思いますし、私も秋田県で生活していた時は、そのような思いで過ごしていました。
宇佐見:熊に極端な嫌悪感をもっているとか、熊を全頭駆除しなければいけないなどと考えている県民はいないと思います。もちろん、行政でもそんなことをしようとは考えていません。ただ、里に出てきてしまった熊は、本当に申し訳ないけれど、住民を守る観点から駆除しなければいけないという考えがあります。
――宇佐見さんは熊に遭遇したことはありますか。
宇佐見:山で遭遇したことはありませんが、高校生の頃、友達のおじいちゃんが猟友会に入っていたので、仕留めた熊を解体する場面を見せてもらったことがあります。おじいちゃんは「命をつなぐためにも、つま先から頭の先まで無駄にしてはいけないんだよ」と言っていました。冬の間、狩猟で生活する人にとって、熊は命そのものなのです。つまり、熊を食べること自体が、熊によって生かされているという考えなんですよ。だから、猟友会のハンターも、熊に対して嫌悪感や憎しみなどの感覚は持っていません。
――先ほど、宇佐見さんは今年の熊の出没件数の多さは異常事態だとおっしゃっていました。熊の餌が減少した、もしくは近年秋田県で問題になっているナラ枯れ、環境、気候の変化などは生態に影響しているのでしょうか。
宇佐見:県ではまだ詳しい見解は出せていないと思います。実際にいろいろな専門家から話を聞くと、個体数が増加していると考える人もいれば、餌不足を指摘する人も、山に生息域が少なくなって里に下りてきたとする見解の人もいます。これらの複合的な要因もあるのかもしれません。
――原因を一つに絞るのは難しいわけですね。
宇佐見:県内にツキノワグマの生態を研究している方がいますが、その方も複合的な要因を指摘しています。個人的には、熊が人里付近の森で生まれ育ち、人間に警戒心が少なくなったのではないかとも思います。そして、人間の生活圏の方が餌があると学習してしまったのではないかと。また、山間部周辺の人口が減少し、耕作放棄地が増えて熊が人里に来やすくなった影響もあるかもしれません。ちなみに、秋田県ではイノシシを見ることはほとんどなかったのですが、近年はイノシシやシカの個体数も増えています。
――熊の個体数の調整はどのように行っているのでしょうか。
宇佐見:秋田県では、熊の捕獲目標数が毎年1000頭と定められているのですが、ここ数年の捕獲数は500~600頭に留まっています。猟友会のハンターのなり手がいないため、個体数の調整が難しくなってきています。そのためか、熊が縄張り争いを避け、山から人里に流れている可能性もありますね。昨今、全国から熊の殺処分にクレームが寄せられ、ハンターが委縮している影響もあると思います。
――美郷町で小屋に立て籠もっていた熊を駆除したところ、一部の動物愛護団体や個人から抗議が寄せられているとうかがっています。
宇佐見:メールや電話は、町や県に毎日のように来ているようですね。特に、立て籠もっていた親子熊を駆除したころから、クレームが目に見えて増えた。そもそも、県内の自治体では、熊という種や生態系全体の保護は今までもやってきたし、駆除も行ってきたのです。それなのになぜ、今回に限ってこれほどの抗議が寄せられるのか。首をかしげています。クレームを寄せる人たちは、特定の熊を保護したかったのか、それとも熊全体を保護したいのか、明確に示してくれません。
――おっしゃる通り、秋田県ではこれまでも熊が出没するたびにニュースになっていますし、駆除も行われていますよね。以前もクレームはあったのでしょうか。
宇佐見:いえ。少しはあったのかもしれませんが、今年に限って非常に多いですね。駆除を行った美郷町役場だけでなく、秋田県庁に対してもクレームが多い印象です。それでも、美郷町や秋田県に抗議するならまだ理解はできますが、近隣の仙北市とか、横手市とか、湯沢市といった、まったく関係のない市町村にまでクレームを入れる人がいるのはいかがなものでしょうか。あろうことか、行政と関係のない、地域のコミュニティーセンターにまで電話をする人がいると聞いています。そして、最近では駆除した人を特定しようとする人たちが増えていて、猟友会も困り果てているようです。
――猟友会のハンターの個人情報まで特定しようというのは、いくらなんでもやりすぎな気がします。こうした抗議をしてくる人たちの傾向、雰囲気などはありますか。
宇佐見:直接お会いしたことはないので断定はできないのですが、Xでやり取りをしていると、そもそも議論ができない人が多いと感じます。一部の発言を切り取って曲解し、自分の解釈を織り交ぜて、拡散するのです。あとは、客観的事実と自分の感情を同列に語る傾向もあるし、とにかく攻撃的ですね。熊の保護から自然環境保護の話になるなどの論理の飛躍や、最近ではヴィーガンの人まで絡んでくるようになりました。男女比は、顔が見えないのでわかりません。あと、私のX上での言葉遣いがなっていないとか、県庁や議会宛てにもクレームがくるみたいです。いったい何がしたいのか、私にはわかりません。
――抗議をする人たちは、熊をどのような動物だと思っているのでしょうね。
宇佐見:もしかすると、プーさんやリラックマのようなイメージで考えているのでしょうかね。ある動物愛護団体の方がインタビューに答えていましたが、どんぐりを与えていれば熊が山から下りてこないというコメントを見て、何を考えているんだろうと思いました。そんなことをしたら山の生態系が壊れますし、秋田県に仮に熊が4000頭いたとすると、縄張りが被らないよう注意を払い、どんぐりを撒く作業にどれだけの労力がかかると思っているのでしょうか。また、どんぐりを他の動物が食べ個体数を増やし、県内の動物の収容力の限界を超えてしまったらどうするのでしょう。熊以外の生態系や地域の実情に対する配慮が皆無で、いったい何を目的に活動しているのか、理解できません。
――自治体ではクレームの電話に職員が応対しなければならず、業務に支障が出ていると報じられていました。
宇佐見:実際、業務は妨害され、職員は疲弊していますね。あと、猟友会の方と話をしたとき、そういうクレームがうちにくるんじゃないかという不安が頭をよぎると言われました。そして、駆除の依頼を受けて山に入った時も、そういう不安に襲われると言っていました。我々のような議員であれば、抗議や意見を受け止めるのも仕事です。しかしながら、猟友会、県庁、市町村の職員は違う立場でしょう。こうしたクレームが続くと、行政や猟友会の判断を迷わせてしまい、秋田県がこれまで熊と共存に向けて取り組んできた施策の方向性がぶれてしまいかねません。
――そして、猟友会のハンターのなり手不足も、以前から秋田県で問題視されてきました。
宇佐見:そもそも、狩猟免許を取得する若い人が減っている中、今回のような不当なクレームが来るようになってしまったら、とてもじゃないですがハンターになろうなんて思わないですよ。熊の駆除をする人が、どんどん減ってしまう可能性もあります。熊を駆除しても儲かるわけではありません。出動要請が来たら、ほとんどのハンターは一種の使命感で山に入っているような状態です。こうした勇敢なハンターに大多数の県民は感謝しています。
――抗議をしてくる人に、これだけはわかってほしいなどの思いはありますか。
宇佐見:感情的なクレームは、できればやめていただきたいと思います。我々は人命が第一で、そのうえで熊という種を保護していき、生態系全体のバランスも考え、個体数を適正に保つにはどうすればいいのかと考えている。この観点は理解していただきたいのです。そして、攻撃的な電話も多いようですが、意見を伝える際にはどうか冷静な対応をお願いしたい。電話だと職員の時間を拘束しますから、主張を伝えたいならメールでも可能です。繰り返すようですが、我々も熊を駆除したくてしているわけではありません。人里に現れた熊は、人命を守るためにやむを得ず駆除しているのです。動物を守りたいという思いを抱くのも結構ですが、できれば地域の実情を理解したうえで、提案や活動をしていただきたいと思っています。
山内貴範(やまうち・たかのり)1985年、秋田県出身。「サライ」「ムー」など幅広い媒体で、建築、歴史、地方創生、科学技術などの取材・編集を行う。大学在学中に手掛けた秋田県羽後町のJAうご「美少女イラストあきたこまち」などの町おこし企画が大ヒットし、NHK「クローズアップ現代」ほか様々な番組で紹介された。商品開発やイベントの企画も多数手がけている。
デイリー新潮編集部

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