新幹線も喫煙ルーム廃止 行き場をなくした一部の喫煙者の「蛮行」を防げるか

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

タバコをたしなむ人は現在、少数派である。成人喫煙率が1989年には男性55.3%、女性9.4%だったのが、2019年には男性27.1%、女性7.6%へと減少している(厚生労働省「国民健康・栄養調査」調べ)。喫煙できる場所も年々、減少しており、タバコ難民となった人たちの動きが周囲を困惑させている。ライターの宮添優氏が、新幹線の喫煙ルーム廃止決定に危惧される事態についてレポートする。
【写真】数少なくなった喫煙所はどこも混雑している * * * JR東海、西日本、九州の各エリアを走る新幹線の喫煙ルームが来春、廃止されると報じられた。2007年に「喫煙車」が廃止されたことで新設された喫煙ルームだったが、JR東海は「健康志向の高まり、喫煙率の低下」が理由だとして、喫煙できる場所を車内からすべて廃止する決定をしたのだという。廃止後のスペースについては、非常用の飲料水を配備場所として活用するとしている。 関東以東(JR東日本エリア)を走る新幹線はすでに全面禁煙になっている。東海道・山陽新幹線においても、以前は1編成に5カ所あった喫煙ルームが3カ所に減らされ、この度「全面禁煙」に移行する。 ネットでは「当然だ」「快適に乗車できる」という歓迎の意見もあれば「タバコが吸えるから飛行機でなく新幹線を利用していたのに」とか、中には、旧国鉄の莫大な借金の返済に「たばこ特別税」が創設されたという経緯を指摘しつつ「鉄道会社は恩知らずだ」と憤慨する書き込みも見受けられ、まさに「賛否両論」といった様相だ。しかし「全面禁煙」に移行するといっても、客が本当に納得するのかは、未知数な部分もある。トイレでの喫煙増加「さすがに”紙”の人はいなくなりましたが、電子たばこを吸う人は増えている印象です。紙巻きたばこと比較しても煙は少なく、においもあまりしないため気がつきにくい」 こう話すのは、現役の新幹線乗務員・島田洋介さん(仮名・40代)。かつてまだ「喫煙車」が存在したときでさえ、車内のトイレで紙巻きたばこをこっそりふかす客が一定数いたともいうが、この数年、特にコロナ渦に喫煙ルームの定員制限が行われるなどして喫煙の順番待ちが常態化し始めると、トイレでこっそり喫煙する客が増えたという。利用人数制限がなくなった今でも、座席から遠い喫煙ルームへ足を運ぶのを嫌ってか、トイレ喫煙をする人はいまもあまり減らない。「お客様から、トイレがたばこ臭いとか、電子たばこの吸い殻が落ちていたと伺う機会が、この数年で増えたことは間違いないと思います。全面禁煙に移行後、車内でこっそり吸ったり、禁煙の駅や駅周辺などで”吸い貯め”みたいなことをやるお客様が出てくるのではないかと、個人的には感じています」(島田さん) 島田さんの懸念は、すでに別の場所で「問題」として顕在化していた。 東京・千代田区で商店を営む斉藤章子さん(仮名・60代)は、店の横の路地(私有地)が、いつの間にか「喫煙所」になってしまっていたと嘆く。「周囲には大企業の本社ビルや高層ビルがいくつもありますが、多くのビル内、会社内が禁煙になっているそうで、喫煙される方が外に出てくるんです。区内には路上喫煙所もありませんから、ここみたいな、人の目につきにくい場所に隠れてこっそり吸う方が後を絶たない」(斉藤さん) 千代田区は全国に先駆けて2002年に区内全域(皇居を除く)で「路上喫煙禁止」へと踏み切った、禁煙ムーブメントのパイオニア的な自治体としても知られる。喫煙者の多くは定められた場所で喫煙をするようになったが、やはり我慢ができない不届き者が、斉藤さんの敷地内に無断で侵入し、我が物顔でタバコを吸っていくのだ。いや、タバコを吸われるだけならまだ「マシ」と言わざるを得ないほど、状況はひどい。「ここが喫煙所だと勘違いしている人がたくさんいて、中には”善意”で灰皿を設置していく人もいます。たばこだけならまだ良くて、ここでお酒を飲んでゴミをそのままにしたり、吐いたり騒いだり、おしっこまでするんです。何度注意しても、次から次へと事情を知らない人がやってくるから、言うだけ無駄という状態ですよ」(斉藤さん) 注意の張り紙も貼る度に何者かにはがされるなどしていたが、ついに防犯カメラを設置したことで、喫煙者は激減した。「それでも、まだこっそり吸う人はいる。カメラに気がついても顔を隠してまで吸っていることもあります。民間人に迷惑がかかっているのだから、自治体にはもっとしっかりして欲しいと切に思います」(斉藤さん) 路上喫煙禁止の導入から20年が経っているが、地域住民を悩ます一部喫煙者の不品行は今も続いている。マナー悪化で灰皿撤去したら「ヤミ喫煙所」に 似たような喫煙トラブルは各所で頻発している。東京・中野区内の駅近くにあるたばこ店店主・上野雄吉さん(仮名・70代)が嘆息する。「元々は店先に喫煙所があって、そこで客に吸わせていたんだよ。ただ、中野区も路上喫煙禁止になって、会社でも吸えないという人が増えて以降は、喫煙所が人でごった返すようになってね。昼時なんか行列までできて、近所の店からクレームまで来るようになった。近くの駅が全面禁煙になった時も、喫煙客が一気に増えたこともあったから同じだよね 」(上野さん)「たばこ屋なんだからタバコを吸わせろ」と食い下がる常連客もいたが、このままでは近所中の迷惑になってしまうと思い、やむなく喫煙所の閉鎖を決定した上野さん。しかし、閉鎖以降も喫煙者が相次ぎ、勝手に灰皿を置いていくなどして、いつの間にか「ヤミ喫煙所」と化してしまったと嘆く。「灰皿を置いていた頃より、マナーが悪くなったように思います。吸うなってところで吸ってんだからそれは間違いないんだろうけど、喫煙所を減らせば減らすほど、こういうことが増えるんじゃないかと思うね」(上野さん) 禁止されているところで喫煙するのは当然ダメだとしつつも、喫煙場所を減らすだけでは、こうしたトラブルが増えると実感している上野さんや前出の島田さん達。JR東海が説明するように、確かに喫煙者数は減少しているのだろう。だが、喫煙できる場所はそれ以上のスピードで減っていないかというのが、前出の上野さんや島田さんが密かに抱いている思いのようだ。 喫煙者がマナーを守ることは大前提だが、すでにこうしたトラブルが起きている以上「新幹線の完全禁煙」移行においても、同じようなトラブルが起きないよう、事前対策も同時に進めていかなければならないだろう。
* * * JR東海、西日本、九州の各エリアを走る新幹線の喫煙ルームが来春、廃止されると報じられた。2007年に「喫煙車」が廃止されたことで新設された喫煙ルームだったが、JR東海は「健康志向の高まり、喫煙率の低下」が理由だとして、喫煙できる場所を車内からすべて廃止する決定をしたのだという。廃止後のスペースについては、非常用の飲料水を配備場所として活用するとしている。
関東以東(JR東日本エリア)を走る新幹線はすでに全面禁煙になっている。東海道・山陽新幹線においても、以前は1編成に5カ所あった喫煙ルームが3カ所に減らされ、この度「全面禁煙」に移行する。
ネットでは「当然だ」「快適に乗車できる」という歓迎の意見もあれば「タバコが吸えるから飛行機でなく新幹線を利用していたのに」とか、中には、旧国鉄の莫大な借金の返済に「たばこ特別税」が創設されたという経緯を指摘しつつ「鉄道会社は恩知らずだ」と憤慨する書き込みも見受けられ、まさに「賛否両論」といった様相だ。しかし「全面禁煙」に移行するといっても、客が本当に納得するのかは、未知数な部分もある。
「さすがに”紙”の人はいなくなりましたが、電子たばこを吸う人は増えている印象です。紙巻きたばこと比較しても煙は少なく、においもあまりしないため気がつきにくい」
こう話すのは、現役の新幹線乗務員・島田洋介さん(仮名・40代)。かつてまだ「喫煙車」が存在したときでさえ、車内のトイレで紙巻きたばこをこっそりふかす客が一定数いたともいうが、この数年、特にコロナ渦に喫煙ルームの定員制限が行われるなどして喫煙の順番待ちが常態化し始めると、トイレでこっそり喫煙する客が増えたという。利用人数制限がなくなった今でも、座席から遠い喫煙ルームへ足を運ぶのを嫌ってか、トイレ喫煙をする人はいまもあまり減らない。
「お客様から、トイレがたばこ臭いとか、電子たばこの吸い殻が落ちていたと伺う機会が、この数年で増えたことは間違いないと思います。全面禁煙に移行後、車内でこっそり吸ったり、禁煙の駅や駅周辺などで”吸い貯め”みたいなことをやるお客様が出てくるのではないかと、個人的には感じています」(島田さん)
島田さんの懸念は、すでに別の場所で「問題」として顕在化していた。
東京・千代田区で商店を営む斉藤章子さん(仮名・60代)は、店の横の路地(私有地)が、いつの間にか「喫煙所」になってしまっていたと嘆く。
「周囲には大企業の本社ビルや高層ビルがいくつもありますが、多くのビル内、会社内が禁煙になっているそうで、喫煙される方が外に出てくるんです。区内には路上喫煙所もありませんから、ここみたいな、人の目につきにくい場所に隠れてこっそり吸う方が後を絶たない」(斉藤さん)
千代田区は全国に先駆けて2002年に区内全域(皇居を除く)で「路上喫煙禁止」へと踏み切った、禁煙ムーブメントのパイオニア的な自治体としても知られる。喫煙者の多くは定められた場所で喫煙をするようになったが、やはり我慢ができない不届き者が、斉藤さんの敷地内に無断で侵入し、我が物顔でタバコを吸っていくのだ。いや、タバコを吸われるだけならまだ「マシ」と言わざるを得ないほど、状況はひどい。
「ここが喫煙所だと勘違いしている人がたくさんいて、中には”善意”で灰皿を設置していく人もいます。たばこだけならまだ良くて、ここでお酒を飲んでゴミをそのままにしたり、吐いたり騒いだり、おしっこまでするんです。何度注意しても、次から次へと事情を知らない人がやってくるから、言うだけ無駄という状態ですよ」(斉藤さん)
注意の張り紙も貼る度に何者かにはがされるなどしていたが、ついに防犯カメラを設置したことで、喫煙者は激減した。
「それでも、まだこっそり吸う人はいる。カメラに気がついても顔を隠してまで吸っていることもあります。民間人に迷惑がかかっているのだから、自治体にはもっとしっかりして欲しいと切に思います」(斉藤さん)
路上喫煙禁止の導入から20年が経っているが、地域住民を悩ます一部喫煙者の不品行は今も続いている。
似たような喫煙トラブルは各所で頻発している。東京・中野区内の駅近くにあるたばこ店店主・上野雄吉さん(仮名・70代)が嘆息する。
「元々は店先に喫煙所があって、そこで客に吸わせていたんだよ。ただ、中野区も路上喫煙禁止になって、会社でも吸えないという人が増えて以降は、喫煙所が人でごった返すようになってね。昼時なんか行列までできて、近所の店からクレームまで来るようになった。近くの駅が全面禁煙になった時も、喫煙客が一気に増えたこともあったから同じだよね 」(上野さん)
「たばこ屋なんだからタバコを吸わせろ」と食い下がる常連客もいたが、このままでは近所中の迷惑になってしまうと思い、やむなく喫煙所の閉鎖を決定した上野さん。しかし、閉鎖以降も喫煙者が相次ぎ、勝手に灰皿を置いていくなどして、いつの間にか「ヤミ喫煙所」と化してしまったと嘆く。
「灰皿を置いていた頃より、マナーが悪くなったように思います。吸うなってところで吸ってんだからそれは間違いないんだろうけど、喫煙所を減らせば減らすほど、こういうことが増えるんじゃないかと思うね」(上野さん)
禁止されているところで喫煙するのは当然ダメだとしつつも、喫煙場所を減らすだけでは、こうしたトラブルが増えると実感している上野さんや前出の島田さん達。JR東海が説明するように、確かに喫煙者数は減少しているのだろう。だが、喫煙できる場所はそれ以上のスピードで減っていないかというのが、前出の上野さんや島田さんが密かに抱いている思いのようだ。
喫煙者がマナーを守ることは大前提だが、すでにこうしたトラブルが起きている以上「新幹線の完全禁煙」移行においても、同じようなトラブルが起きないよう、事前対策も同時に進めていかなければならないだろう。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。