信者たちは今も、献金を「神のため」と信じているのだろうか。はるか以前に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を離れたが、自身の誘いで10代だった女性は入信した。「自分もされたように、私が彼女の人生を狂わせたかもしれない」。教団が解散命令を請求された今、元信者は「連鎖」を断ち切れなかったことを改めて悔やんでいる。
【写真で知る】信者が旧統一教会から買った塔。数千万円のものも…上京したての19歳女性に… 東北地方に住む元信者の50代男性は、かつて自分が勧誘して信者になった1人の女性を今も案じている。
男性が入信したのは1986年。専門学校への進学を機に上京し、1人暮らしをしていた18歳の時だった。その後、教団主催の「合同結婚式」で女性信者と結婚し、教団関連会社で10年近く働いた。自身は98年に脱会したが、信仰があつい妻子とは離別した。今は連絡も取れない。 やましい活動にも身を投じてきたという。87年、教団の仲間と住宅街を回って「ベトナム難民の支援のため」と偽り、1口1000円のカンパを募った。自分だけでも1週間で6万円ほど集めた。「全て教団の活動資金に使っていた。詐欺だった」 勧誘にも熱心に取り組んだ。ある日、自分が声を掛けられた時と同じように、アンケートと称して一軒一軒訪ね歩く中で、教団に誘い入れた女性がいた。昔の自分と重なる、上京したての19歳。1人暮らしで、まだ友人もいなかった。「素直で疑うことを知らない人だった」 教団名を出さずに教団施設に誘い、「考える時間を与えないため」に、すぐに3泊4日の合宿「修練会」へ送り出した。教団名が伝えられたのは、その最終日だった。「完全に正体隠しだった」と明かす。 合宿から帰ってきた女性とは、自分が携わったような「詐欺募金」活動も、ともにした。女性は入信や活動を受け入れているように見えたが、深いやり取りはしていない。 かつて身も心もささげた教団は、国から解散命令を請求される事態になった。自分は脱会した。でも、正体を明かさないまま自分が教団に引き入れた女性のその後を想像すると、今も心が痛む。 女性は入信後、韓国人男性と結婚して渡韓した。「しばらくはやり取りもあったけど、今はどうしているか……。私が誘いさえしなければ、彼女の人生も違ったものになっていた。一生を狂わせてしまったかもしれない」「教団変えられなかった」元幹部の自責 教団の元幹部にも、自責の念を抱く人がいる。 本部の家庭教育局で副局長を務めた桜井正上(まさうえ)氏(49)は「聞けていなかった声や把握できていなかった被害があったのだと、改めて思った」と語る。 父は教団の第5代会長を95~96年に務めた。自身は98年に教団職員になり、2017年に運営方針に異を唱えて離れるまで約20年在籍した。教団本部で主に2世教育や信者家庭の指導に携わった。 関わった信者の中には、教団に多額の献金を重ねて貧困にあえぐ家庭が少なくなかった。ある親は子どものクレジットカードで借金をし、別の親は我が子が学費のために稼いだアルバイト代を勝手に献金していた。教団が教えの中心にすえたはずの「家庭」は、皮肉にも信仰によって壊れていた。 「信仰を軽視し、献金を強いる風潮は、09年のコンプライアンス宣言後も変わらなかった」。困って本部を訪ねてきた信者には「無理に献金しなくていい」と伝え、内部の会議でも改善を訴えた。現役の教団関係者は「確かに桜井さんは『献金額や祝福(教団主導の結婚)数は、目標を立てるべきではない』と声を上げていた」と明かす。だが「結局、韓国にある世界本部の指導層の意向に反することはできず、体質が変わることはなかった」と桜井氏は振り返る。 22年7月に安倍晋三元首相が銃撃され、献金で追い詰められた家庭の問題が背景にあったとされた。その後、貧困にあえいだ2世信者や、家庭そのものが崩壊した元信者の訴えが盛んに報じられた。 声は上げたつもりだったが、幹部として在籍した間に教団を変えることはできなかった。「実態を十分にくみ取れていなかった。信者間の養子縁組も、いい話しか聞いておらず、出自に苦しんできた2世がいると報道で知って驚いた。献金強要もここまでだったのか……。無力感というか、悔いが残る」。そう落胆している。【春増翔太】
上京したての19歳女性に…
東北地方に住む元信者の50代男性は、かつて自分が勧誘して信者になった1人の女性を今も案じている。
男性が入信したのは1986年。専門学校への進学を機に上京し、1人暮らしをしていた18歳の時だった。その後、教団主催の「合同結婚式」で女性信者と結婚し、教団関連会社で10年近く働いた。自身は98年に脱会したが、信仰があつい妻子とは離別した。今は連絡も取れない。
やましい活動にも身を投じてきたという。87年、教団の仲間と住宅街を回って「ベトナム難民の支援のため」と偽り、1口1000円のカンパを募った。自分だけでも1週間で6万円ほど集めた。「全て教団の活動資金に使っていた。詐欺だった」
勧誘にも熱心に取り組んだ。ある日、自分が声を掛けられた時と同じように、アンケートと称して一軒一軒訪ね歩く中で、教団に誘い入れた女性がいた。昔の自分と重なる、上京したての19歳。1人暮らしで、まだ友人もいなかった。「素直で疑うことを知らない人だった」
教団名を出さずに教団施設に誘い、「考える時間を与えないため」に、すぐに3泊4日の合宿「修練会」へ送り出した。教団名が伝えられたのは、その最終日だった。「完全に正体隠しだった」と明かす。
合宿から帰ってきた女性とは、自分が携わったような「詐欺募金」活動も、ともにした。女性は入信や活動を受け入れているように見えたが、深いやり取りはしていない。
かつて身も心もささげた教団は、国から解散命令を請求される事態になった。自分は脱会した。でも、正体を明かさないまま自分が教団に引き入れた女性のその後を想像すると、今も心が痛む。
女性は入信後、韓国人男性と結婚して渡韓した。「しばらくはやり取りもあったけど、今はどうしているか……。私が誘いさえしなければ、彼女の人生も違ったものになっていた。一生を狂わせてしまったかもしれない」
「教団変えられなかった」元幹部の自責
教団の元幹部にも、自責の念を抱く人がいる。
本部の家庭教育局で副局長を務めた桜井正上(まさうえ)氏(49)は「聞けていなかった声や把握できていなかった被害があったのだと、改めて思った」と語る。
父は教団の第5代会長を95~96年に務めた。自身は98年に教団職員になり、2017年に運営方針に異を唱えて離れるまで約20年在籍した。教団本部で主に2世教育や信者家庭の指導に携わった。
関わった信者の中には、教団に多額の献金を重ねて貧困にあえぐ家庭が少なくなかった。ある親は子どものクレジットカードで借金をし、別の親は我が子が学費のために稼いだアルバイト代を勝手に献金していた。教団が教えの中心にすえたはずの「家庭」は、皮肉にも信仰によって壊れていた。
「信仰を軽視し、献金を強いる風潮は、09年のコンプライアンス宣言後も変わらなかった」。困って本部を訪ねてきた信者には「無理に献金しなくていい」と伝え、内部の会議でも改善を訴えた。現役の教団関係者は「確かに桜井さんは『献金額や祝福(教団主導の結婚)数は、目標を立てるべきではない』と声を上げていた」と明かす。だが「結局、韓国にある世界本部の指導層の意向に反することはできず、体質が変わることはなかった」と桜井氏は振り返る。
22年7月に安倍晋三元首相が銃撃され、献金で追い詰められた家庭の問題が背景にあったとされた。その後、貧困にあえいだ2世信者や、家庭そのものが崩壊した元信者の訴えが盛んに報じられた。
声は上げたつもりだったが、幹部として在籍した間に教団を変えることはできなかった。「実態を十分にくみ取れていなかった。信者間の養子縁組も、いい話しか聞いておらず、出自に苦しんできた2世がいると報道で知って驚いた。献金強要もここまでだったのか……。無力感というか、悔いが残る」。そう落胆している。【春増翔太】