立ちんぼ女子を「買う」男たちの事情 「婚活の憂さ晴らし」「恋人では得られない興奮を求めて」

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新宿区立大久保公園周辺、通称「交縁」(こうえん)を訪れると、若い女性が一定間隔で並び、客を待つ姿が目に入る。いわゆる「立ちんぼ女子」である。彼女らを取材した記事は数多あり、生活苦やホストへ貢ぐための資金調達など様々な背景があるという。しかし、彼女らを「買う」男性の事情はほとんど見えてこない。ライターの安宿緑さんが「立ちんぼ女子」を買う男性5人の実像を取材した。(全2回の1回目)
【写真】一定間隔で並んだ「立ちんぼ女子」たちが交渉し、ホテルに入る様子。「ホテルに行くだけじゃない楽しみ方がある」というトモヒロ氏(独身・40代後半)のブルーのチェックシャツ姿「僕にとって公園はディズニーランドみたいなもん」 現地を訪れたのは残暑の続く、9月初頭。立ち込める熱気と臭気が、公園の光景の異様さを際立たせていた。新宿歌舞伎町 大久保病院の壁沿いと玄関前の広場に佇む若い女性たちと、その周囲を徘徊する男たち。彼らは何度も同じ場所を通り過ぎては戻ってきて、路上に立つ女性を品定めする。そして、それを公園側のガードレールに腰掛けて眺めるだけの男たち。これが公園前の大まかな光景である。 10月3日、警視庁保安課は東京・新宿歌舞伎町の大久保公園周辺の取り締まり状況を公表し、今年の1月から9月までに売春防止法違反容疑で女性80人を摘発したと発表した。9月の取り締まりでは20~46歳の女性35人を摘発。そのうち7割が20代で、4割がホストクラブの売掛金の返済や、メン地下(男性地下アイドル)へ貢ぐための金をここで稼いでいたという。 筆者は、女性を「買う」男たちの話を聞くためにここに来た。なぜ、買う側の男性が透明化されているのか。報道で彼らに焦点が当たらない点に疑問を感じていたのはもちろん、彼らはどのような存在なのか純粋に気になっていたのだ。「大久保公園にくるたびに3、4時間は歩いてる。万歩計でいうと2万歩くらいですね。2万歩はディズニーランドを一周するのと同等と言われているから、僕にとって公園はディズニーランドみたいなもん」 そう冗談めかして話すのは、ヒロ氏(仮名・30代前半)。東南アジア系のアイドルを思わせる、目鼻立ちがはっきりしたルックスをしている。1年半前から大久保公園に通い始め、これまで10人以上の女性を買ったという。ここの存在を知ったきっかけは、仕事帰りに通りすがり、人だかりができているのを見て気になったことだった。5000円の差がものを言う 現行の売春防止法においては、売買春は違法である。 しかし同法では単純な売買春行為についての罰則がないため、買った側は処罰されないという奇妙な状況である(対象が未成年の場合を除く)。処罰されるのは、勧誘、斡旋、場所の提供をした場合に限られる。立っている女性が逮捕されるのは、「客待ち」が勧誘にあたるからだ。 ヒロ氏もそれについては十分に理解しており、その上でこう持論を述べた。「性病などのリスクは承知の上です。現行法では、男が捕まることがないのもわかってます。こういう場所は彼女たちの生活のためにも、あったほうがいいと思いますしね。それに、こういう場所がないと性犯罪が増えると思うんですよね。セックスを合法でやるのか、違法でやるのかの差でしかない。違法行為をしているという意識はあるけど、人権的な意味での罪悪感はまったくない。職場にバレたらどうしようとは思うけど。大金払うのは男側だし、ちゃんと立ちんぼ側にも利益を与えているしね」 彼は買う側と売る側はあくまでイーブンであると主張しながら、公園で遭遇した自身の「被害経験」について語る。「ここでは5000円の差がものを言う。以前遊んだ子が、交渉したら1万円だったのでラッキーだと思ってたんです。すると、まだ動いてもないうちからオラオラ口調で『早くイケよ、ボケ!』と怒鳴りつけられて……。ホテルに行くまでは愛想も良くて敬語で話していたのに。そもそも、第一声で『私は親から虐待されていた』と言っていた時点で様子がおかしかったんですよ。俺はそのまま萎えてしまったので、もしかすると彼女の戦略だったのかもしれませんね。その後1週間ほど情緒不安定になって、職場でも『クソッ!』と独り言を言ったりして。これが、5000円の差です。ケチらずに5000円上乗せしてもっと可愛い子と遊んでいれば同じ仕打ちを受けても納得できたと思うし、もしくは暴言を吐かれることはなかったかもしれない。こっちだって、こんな酷い目に遭ってるんすよ」奢っただけでめちゃくちゃ感謝してくれる「やめたいけど、やめられない。もう中毒なんだなと思う」と話すヒロ氏は、「女性を買ったのではなく『遊んだ』」のだと強調する。それは、彼の抱えている悩みと関連しているようだった。「婚活をしているのですが、全然うまくいってないんですよ。30代になってくると、アプリではもう20代とはもうマッチングしなくなる。年収、学校、家柄や家事能力などで値踏みされるし、ライバルも多すぎるしね。だからここで手っ取り早く疑似恋愛したほうが楽。コロナで性欲発散できなかったのもあるし。普通に恋愛して、良い相手を見つけてトントン拍子に結婚できていれば、こんなところに来てませんよ」 ヒロ氏は婚活で出会う女性に対する怒りや失望を、交縁女子と交わることで埋めようとしているようだった。「マッチングアプリの女は総じて性格が良くない。デートも奢らなきゃいけないし、色々と気を遣わなければいけないし、品定めしてくる。奢らなければ良いって? 確かにそうだけど、奢ったほうが印象が良く、次につながりやすいのは確か。それに俺も性格が悪いから、奢ると言ったときの反応をみて性格の良し悪しを判断してるのもあります。それに比べて公園の女の子は奢っただけでめちゃくちゃ感謝してくれるから。だからつい、来ちゃう」 それならば、ここで知り合った女性と付き合う可能性はあるのか? と聞くと「それはない」と即答する。「彼女たちが抱えている複雑なものを引き受ける気はないんで」 ヒロ氏は「要は、寂しいんです」とも言った。交縁女子とかりそめの恋愛を楽しみながら、マッチングアプリとナンパで婚活に勤しむ。出口の見えない日々への虚しさからか、彼はこうぼやく。「結局、この街ではホストがヒエラルキーの頂点なんですよ。マッチングアプリのほかにナンパも並行してて、今日も歌舞伎町で3人ひっかけたけど、みんなホス狂い。本当にムカつきますよ。でも、仕方ない」 婚活では埋められない何かを求めて、ヒロ氏は「ディズニーランド」を今日も歩き回るのだ。値踏みするような視線 男性たちの話を聞くにあたり、筆者がとった行動は3つだった。(1)男性記者とともに接触する(2)1人で接触する(3)普通に街頭に立つ 男性記者とともに接触すると、けんもほろろに断られる。1人で取材を持ち掛けても、結果はほぼ同じだ。唯一、打率が高かったのは周囲の女性たちと同様に佇み、声をかけてきた男性に会話の流れで取材の交渉を持ちかけることだった。 もちろん交渉は断られることもあったが、筆者が私服警官、または悪質な店のキャッチである可能性だって十分あるのに、なぜこうも素直に応じてくれるのか不思議でもあった。断っても、「YouTuberに映されないように気をつけなよ」と親切に助言してくる男性もいた。 そういった対応に接するうちに、彼らが求めているのは性行為そのものではないのではないか? という仮説が浮かんだのだ。その仮説は、男性たちの話を聞くうちに少しずつ立証されることになった。 それにしても公園に着く手前あたりから、周辺を徘徊する男性たちがこちらを値踏みするように凝視してくることには驚いた。立っていると、30cmほど近くから、わざわざ顔を覗き込んでくる男性もいた。女性はここを通りかかっただけでも、四方八方から無遠慮な視線を浴びることになるだろう。「立ちんぼに共感する人って誰?」 公園に集まる男性同士のコミュニティもできている。 女性が立っている病院前の反対側にあるガードレール沿いでは、ここで知り合ったとみられる若い男性たち5、6人が「今度飲みに行こうよ。LINEグループ作ろう」と盛り上がっていた。「可愛い子がいたらすぐ行ったほうがいいよ。リスクあるけどね」などと“アドバイス”をする場面もあった。その中心にいたのが、マサユキ氏(仮名・31歳)だ。 IT企業に勤めているマサユキ氏は、長期休暇のたびにここを訪れ、これまで3回ほど女性を買った。ストレス発散のためだという。マサユキ氏は路上売春への同情論に、強い反発を示した。「立ちんぼに共感する人って誰? いるの? そんな奴。ここにいる半分はホス狂いですよ。金のために気持ち悪いおっさんと性行為できるか、できないかの違い。生活苦っていうけど、あいつら月200万円近く稼いでるじゃないですか。仮に1回15000円で1日6回客を取れば9万円、週5で45万円、それが4週間で180万円でしょ。俺より全然稼いでるじゃん」 そんなマサユキ氏は、最近はホテルに行くよりも、眺めるほうに楽しみを見出していると語る。「おっさんと女の子の会話の内容に聞き耳を立てたり、交渉成立したかどうか見たりするのが楽しい。おっさんと女の子が移動し始めたら後をつけていったりもしますね」「女の子たちに万札配れ」 マサユキ氏の友人ユウスケ氏(仮名・30歳)は、自身が行っているライブ配信のトークのネタにするため、一度ここで女性を買ったことがあると話す。だがその経験を、「ハズレだった」と吐き捨てる。「口でしてもらった時に、ほぼ噛まれた感じで性器に傷がついた。病院では性外傷と言われました。それ以来興味をなくしたので、ここではただ飲んでるだけです」 公園については、彼なりの主張があるようだった。「東京都はここを撲滅すると言うのなら、立ってる女の子たちに万札配れ。万札配ることもしないんだったらやめろ、と声を大にして言いたいです。偽善者は引っ込んでてほしいですね」「こっちだって貧困なんだよ」 公園に初めて来たという男性たちにも話を聞いた。 コウタロウ氏(仮名・52歳)は、「俺は、風俗よりも、“野生”のほうが興奮する。見て、選ぶ自由があるというのがここの最大の楽しみだと思ったね。ウィンドウショッピングをしている気分っていうね」と話した。 様々な事情から、女性が体を売らざるを得ない状況についてどう思うか聞くと、コウタロウ氏は語気を強めてこう主張する。「そんなの、買う側には関係ないじゃない。貧困と言ったって、信じる理由がないもん。マスコミがお涙頂戴で仕込んでるかもしれないでしょ。ビジネスだよこれは。それに、こっちだって貧困なんだよ」 そういうコウタロウ氏の年収を聞くと、800万円だという。都内では年収1000万円でも生活が苦しいという声もあるが、「隴を得て蜀を望む」がごとしか。真の困窮者の境遇は、なかなか伝わりづらいのかもしれない。彼女とは興奮度が違う ナオト氏(仮名・47歳)は、公園に来るのは2年ぶりだという。しょっちゅう通りかかっていたが、2年ぶりに女性と遊ぼうと声をかけたのが、幸か不幸か筆者だった。前日の晩にインターネットで見かけ、「まだやってるんか」と思い、覗きに来たのだと話す。「予算は前回と同じく1万円。普段は風俗はあまり行かない。緊張するし、本番ができないから。僕は本番重視だから、安くて本番ができる公園は魅力的。でも、必ず女性を買いたかったわけではなくて、ただ寄ってみただけ。今日は(筆者に声をかけられ)もうこれでいいかなって思っちゃった」 ナオト氏には遠距離恋愛中の彼女がいる。近々、結婚する予定だという。「彼女に対する罪悪感は、多少はある。けど、外でする行為は彼女とは興奮度が違う。彼女とはもう5年以上付き合ってるから、盛り上がらなくて」 違法行為に加担している件に関しては「危機感も少しはあったけど、(筆者から伝えられるまで)深く考えてなかった」と話す。 前出のとおり、逮捕された立ちんぼ女性の4割はホストクラブ代などを稼ぐことが動機だったとされている。すると、残りの大半は生活苦や何らかの事情を抱えた女性たちということになる。 それについて「貧困だからといって、健全なアルバイトではなく、こういうことで稼ぐのはダメですね」というナオト氏のコメントに、筆者は混乱してしまった。もし結婚後に娘が生まれ、あそこに立つようになったらどうする? と聞くと、「それは考えたくない」と話した。激安デートクラブのような感覚 本稿で取り上げなかった人も含め、筆者が接触した男性たちの大半はインターネットやSNSがきっかけで「立ちんぼ女子」に興味を持ったと話していたことから、関心を煽るような取り上げ方は慎んだほうが良いように感じた。あまりにもこの場所が有名になりすぎたせいで、国内外から性を買う男性が殺到している状況なのだ。 台湾から来たという男性は、「現地(台湾)のネットニュースで見て興味を持ってきた。できれば記念に遊んでいきたい」と話した。韓国からの観光客も同様に、「実際に遊ぶつもりはなくて、興味深いから見ているだけ」と言いつつ、2時間近くも周辺を徘徊していた。 独身のトモヒロ氏(仮名・40代後半)もその1人で、インターネットをきっかけに大久保公園に通い始めて3か月ほどになると言った。以前からデートクラブを利用しており、風俗とは違って顔を見て女性を選べるという点に魅力を感じたのだという。 立っている女性とはホテルに行くだけではなく、食事をしたりダーツバーやカラオケに行ったりする こともあるといった。「激安デートクラブのような感覚ですね。あまり性欲の捌け口として見ていないっていうのかな。どうしてもホテルに行かなきゃいけないわけじゃないし、いろんな遊び方がある。もちろん、お手当はあげているよ。でも俺はケチだから、1回2000から3000円くらい。立ってても売れないから俺についてきてくれたのかもしれない。時々、『他の人は1(万円)くれたよ』って言われるけどね。立っている子に食料やお酒を買ってあげることもある。同情ではなく、自分が楽しみたいからやってる」 ホテルに行く場合は1回15000円。女性との交際費やお手当を含めると、月に費やす額は10万円ほどだ。職業はサラリーマンで、年収は最も良いときで800万円台。貯金は数千万円あり、老後の心配も一応ない状態だという。「でも、この調子じゃFIRE(※定年を待たずにリタイアして貯蓄を資産運用しながら生活すること)はできないね」「外野からとやかく言われる筋合いがない」 昨今の大久保公園周辺は、性の多様性の見本市のようになっている。トモヒロ氏も最近、怖い思いをしたという。「3週間くらい前にハイジア(※歌舞伎町にある超高層ビル)の入り口に座ってたら南米系のガタイの良い男に声をかけられた。『お兄さん、好みだから遊ぼうよ』って言われて、体をベタベタ触られたので逃げたよ」 買春帰りの男性をさらに買おうとする男。まるで、虫や魚の食物連鎖のようである。 おかげで女性側の心情を間接的に体験できたともいえるが、他の男性同様、自らの買春行為について罪悪感はないと話す。「お互い合意しているんだから、外野からとやかく言われる筋合いがない。なんでいちいち咎められないといけないのかな。それだったら女の子に対して、国がやることがあるんじゃないの? ただ取り締まるだけじゃダメでしょ。女の子は奨学金を返すためだったり、親の介護をしていたりする 子もいる。パパ活じゃあるまいし、話を盛ったところでカネは出ないから、おそらく本当なんだと思う。彼女たちはアルバイトじゃ食えないから立ちんぼをやるしかない状況なんだよ」 男性たちのこうした言葉は一見、筋が通っているかのように 聞こえるが、あくまで“消費者”としての意見だ。見ず知らずの男性に体を売るまでに生じる女性たちの葛藤や、売ったことによる傷つきについて思いを馳せることはない。 トモヒロ氏からは逆に「あなたはやってみようと思わないの?」と聞かれ、筆者は答えに詰まってしまった。当然、見ず知らずの男に体を売るなど考えられないことであるが、そうせざるを得ない状況であれば選択肢に入れないと断言できない。だが、そうなれば何とか痛覚を麻痺させるため苦心し、心を殺すだろう。男性たちに見えていないのは、そのプロセスなのだ。「今度はご馳走しますよ笑」 トモヒロ氏からは、やや不安定な印象を受けた。結婚願望がないといい、結婚制度に対する批判を繰り返しながらも「ぶっちゃけ言うと寂しいんですよ。公園にきたら関わりが持てるから」と話したり、遵法意識について間をおいてもう一度聞くと、「一応、悪いとは思っている」とも言う。 追加取材があるかもしれないので筆者がLINEの交換を申し出ると「まだ仲良くなっていないから」と断られ、それもそうだ、と思い引き下がった。しかし数日後、筆者の名刺に記載してあるQRコードを経由してLINEが届いた。〈また飲みたいですね~今度はご馳走しますよ笑(中略)新宿います~もしよろしければLINEもらえたら嬉しいです〉後編【「妻ともここで出会いました」 立ちんぼ女子を「買う」男たちの事情】へつづく安宿緑東京都生まれ。ライター、編集者。東京・小平市の朝鮮大学校を卒業後、米国系の大学院を修了。朝鮮青年同盟中央委員退任後に日本のメディアで活動を始める。2010年、北朝鮮の携帯電話画面を世界初報道、扶桑社『週刊SPA!』で担当した特集が金正男氏に読まれ「面白いね」とコメントされる。朝鮮半島と日本間の政治や民族問題に疲れ、その狭間にある人間模様と心の動きに主眼を置く。韓国心理学会正会員、米国心理学修士。著書に『実録・北の三叉路』(双葉社)。デイリー新潮編集部
現地を訪れたのは残暑の続く、9月初頭。立ち込める熱気と臭気が、公園の光景の異様さを際立たせていた。
大久保病院の壁沿いと玄関前の広場に佇む若い女性たちと、その周囲を徘徊する男たち。彼らは何度も同じ場所を通り過ぎては戻ってきて、路上に立つ女性を品定めする。そして、それを公園側のガードレールに腰掛けて眺めるだけの男たち。これが公園前の大まかな光景である。
10月3日、警視庁保安課は東京・新宿歌舞伎町の大久保公園周辺の取り締まり状況を公表し、今年の1月から9月までに売春防止法違反容疑で女性80人を摘発したと発表した。9月の取り締まりでは20~46歳の女性35人を摘発。そのうち7割が20代で、4割がホストクラブの売掛金の返済や、メン地下(男性地下アイドル)へ貢ぐための金をここで稼いでいたという。
筆者は、女性を「買う」男たちの話を聞くためにここに来た。なぜ、買う側の男性が透明化されているのか。報道で彼らに焦点が当たらない点に疑問を感じていたのはもちろん、彼らはどのような存在なのか純粋に気になっていたのだ。
「大久保公園にくるたびに3、4時間は歩いてる。万歩計でいうと2万歩くらいですね。2万歩はディズニーランドを一周するのと同等と言われているから、僕にとって公園はディズニーランドみたいなもん」
そう冗談めかして話すのは、ヒロ氏(仮名・30代前半)。東南アジア系のアイドルを思わせる、目鼻立ちがはっきりしたルックスをしている。1年半前から大久保公園に通い始め、これまで10人以上の女性を買ったという。ここの存在を知ったきっかけは、仕事帰りに通りすがり、人だかりができているのを見て気になったことだった。
現行の売春防止法においては、売買春は違法である。
しかし同法では単純な売買春行為についての罰則がないため、買った側は処罰されないという奇妙な状況である(対象が未成年の場合を除く)。処罰されるのは、勧誘、斡旋、場所の提供をした場合に限られる。立っている女性が逮捕されるのは、「客待ち」が勧誘にあたるからだ。
ヒロ氏もそれについては十分に理解しており、その上でこう持論を述べた。
「性病などのリスクは承知の上です。現行法では、男が捕まることがないのもわかってます。こういう場所は彼女たちの生活のためにも、あったほうがいいと思いますしね。それに、こういう場所がないと性犯罪が増えると思うんですよね。セックスを合法でやるのか、違法でやるのかの差でしかない。違法行為をしているという意識はあるけど、人権的な意味での罪悪感はまったくない。職場にバレたらどうしようとは思うけど。大金払うのは男側だし、ちゃんと立ちんぼ側にも利益を与えているしね」
彼は買う側と売る側はあくまでイーブンであると主張しながら、公園で遭遇した自身の「被害経験」について語る。
「ここでは5000円の差がものを言う。以前遊んだ子が、交渉したら1万円だったのでラッキーだと思ってたんです。すると、まだ動いてもないうちからオラオラ口調で『早くイケよ、ボケ!』と怒鳴りつけられて……。ホテルに行くまでは愛想も良くて敬語で話していたのに。そもそも、第一声で『私は親から虐待されていた』と言っていた時点で様子がおかしかったんですよ。俺はそのまま萎えてしまったので、もしかすると彼女の戦略だったのかもしれませんね。その後1週間ほど情緒不安定になって、職場でも『クソッ!』と独り言を言ったりして。これが、5000円の差です。ケチらずに5000円上乗せしてもっと可愛い子と遊んでいれば同じ仕打ちを受けても納得できたと思うし、もしくは暴言を吐かれることはなかったかもしれない。こっちだって、こんな酷い目に遭ってるんすよ」
「やめたいけど、やめられない。もう中毒なんだなと思う」と話すヒロ氏は、「女性を買ったのではなく『遊んだ』」のだと強調する。それは、彼の抱えている悩みと関連しているようだった。
「婚活をしているのですが、全然うまくいってないんですよ。30代になってくると、アプリではもう20代とはもうマッチングしなくなる。年収、学校、家柄や家事能力などで値踏みされるし、ライバルも多すぎるしね。だからここで手っ取り早く疑似恋愛したほうが楽。コロナで性欲発散できなかったのもあるし。普通に恋愛して、良い相手を見つけてトントン拍子に結婚できていれば、こんなところに来てませんよ」
ヒロ氏は婚活で出会う女性に対する怒りや失望を、交縁女子と交わることで埋めようとしているようだった。
「マッチングアプリの女は総じて性格が良くない。デートも奢らなきゃいけないし、色々と気を遣わなければいけないし、品定めしてくる。奢らなければ良いって? 確かにそうだけど、奢ったほうが印象が良く、次につながりやすいのは確か。それに俺も性格が悪いから、奢ると言ったときの反応をみて性格の良し悪しを判断してるのもあります。それに比べて公園の女の子は奢っただけでめちゃくちゃ感謝してくれるから。だからつい、来ちゃう」
それならば、ここで知り合った女性と付き合う可能性はあるのか? と聞くと「それはない」と即答する。
「彼女たちが抱えている複雑なものを引き受ける気はないんで」
ヒロ氏は「要は、寂しいんです」とも言った。交縁女子とかりそめの恋愛を楽しみながら、マッチングアプリとナンパで婚活に勤しむ。出口の見えない日々への虚しさからか、彼はこうぼやく。
「結局、この街ではホストがヒエラルキーの頂点なんですよ。マッチングアプリのほかにナンパも並行してて、今日も歌舞伎町で3人ひっかけたけど、みんなホス狂い。本当にムカつきますよ。でも、仕方ない」
婚活では埋められない何かを求めて、ヒロ氏は「ディズニーランド」を今日も歩き回るのだ。
男性たちの話を聞くにあたり、筆者がとった行動は3つだった。
(1)男性記者とともに接触する(2)1人で接触する(3)普通に街頭に立つ
男性記者とともに接触すると、けんもほろろに断られる。1人で取材を持ち掛けても、結果はほぼ同じだ。唯一、打率が高かったのは周囲の女性たちと同様に佇み、声をかけてきた男性に会話の流れで取材の交渉を持ちかけることだった。
もちろん交渉は断られることもあったが、筆者が私服警官、または悪質な店のキャッチである可能性だって十分あるのに、なぜこうも素直に応じてくれるのか不思議でもあった。断っても、「YouTuberに映されないように気をつけなよ」と親切に助言してくる男性もいた。
そういった対応に接するうちに、彼らが求めているのは性行為そのものではないのではないか? という仮説が浮かんだのだ。その仮説は、男性たちの話を聞くうちに少しずつ立証されることになった。
それにしても公園に着く手前あたりから、周辺を徘徊する男性たちがこちらを値踏みするように凝視してくることには驚いた。立っていると、30cmほど近くから、わざわざ顔を覗き込んでくる男性もいた。女性はここを通りかかっただけでも、四方八方から無遠慮な視線を浴びることになるだろう。
公園に集まる男性同士のコミュニティもできている。
女性が立っている病院前の反対側にあるガードレール沿いでは、ここで知り合ったとみられる若い男性たち5、6人が「今度飲みに行こうよ。LINEグループ作ろう」と盛り上がっていた。「可愛い子がいたらすぐ行ったほうがいいよ。リスクあるけどね」などと“アドバイス”をする場面もあった。その中心にいたのが、マサユキ氏(仮名・31歳)だ。
IT企業に勤めているマサユキ氏は、長期休暇のたびにここを訪れ、これまで3回ほど女性を買った。ストレス発散のためだという。マサユキ氏は路上売春への同情論に、強い反発を示した。
「立ちんぼに共感する人って誰? いるの? そんな奴。ここにいる半分はホス狂いですよ。金のために気持ち悪いおっさんと性行為できるか、できないかの違い。生活苦っていうけど、あいつら月200万円近く稼いでるじゃないですか。仮に1回15000円で1日6回客を取れば9万円、週5で45万円、それが4週間で180万円でしょ。俺より全然稼いでるじゃん」
そんなマサユキ氏は、最近はホテルに行くよりも、眺めるほうに楽しみを見出していると語る。
「おっさんと女の子の会話の内容に聞き耳を立てたり、交渉成立したかどうか見たりするのが楽しい。おっさんと女の子が移動し始めたら後をつけていったりもしますね」
マサユキ氏の友人ユウスケ氏(仮名・30歳)は、自身が行っているライブ配信のトークのネタにするため、一度ここで女性を買ったことがあると話す。だがその経験を、「ハズレだった」と吐き捨てる。
「口でしてもらった時に、ほぼ噛まれた感じで性器に傷がついた。病院では性外傷と言われました。それ以来興味をなくしたので、ここではただ飲んでるだけです」
公園については、彼なりの主張があるようだった。
「東京都はここを撲滅すると言うのなら、立ってる女の子たちに万札配れ。万札配ることもしないんだったらやめろ、と声を大にして言いたいです。偽善者は引っ込んでてほしいですね」
公園に初めて来たという男性たちにも話を聞いた。
コウタロウ氏(仮名・52歳)は、「俺は、風俗よりも、“野生”のほうが興奮する。見て、選ぶ自由があるというのがここの最大の楽しみだと思ったね。ウィンドウショッピングをしている気分っていうね」と話した。
様々な事情から、女性が体を売らざるを得ない状況についてどう思うか聞くと、コウタロウ氏は語気を強めてこう主張する。
「そんなの、買う側には関係ないじゃない。貧困と言ったって、信じる理由がないもん。マスコミがお涙頂戴で仕込んでるかもしれないでしょ。ビジネスだよこれは。それに、こっちだって貧困なんだよ」
そういうコウタロウ氏の年収を聞くと、800万円だという。都内では年収1000万円でも生活が苦しいという声もあるが、「隴を得て蜀を望む」がごとしか。真の困窮者の境遇は、なかなか伝わりづらいのかもしれない。
ナオト氏(仮名・47歳)は、公園に来るのは2年ぶりだという。しょっちゅう通りかかっていたが、2年ぶりに女性と遊ぼうと声をかけたのが、幸か不幸か筆者だった。前日の晩にインターネットで見かけ、「まだやってるんか」と思い、覗きに来たのだと話す。
「予算は前回と同じく1万円。普段は風俗はあまり行かない。緊張するし、本番ができないから。僕は本番重視だから、安くて本番ができる公園は魅力的。でも、必ず女性を買いたかったわけではなくて、ただ寄ってみただけ。今日は(筆者に声をかけられ)もうこれでいいかなって思っちゃった」
ナオト氏には遠距離恋愛中の彼女がいる。近々、結婚する予定だという。
「彼女に対する罪悪感は、多少はある。けど、外でする行為は彼女とは興奮度が違う。彼女とはもう5年以上付き合ってるから、盛り上がらなくて」
違法行為に加担している件に関しては「危機感も少しはあったけど、(筆者から伝えられるまで)深く考えてなかった」と話す。
前出のとおり、逮捕された立ちんぼ女性の4割はホストクラブ代などを稼ぐことが動機だったとされている。すると、残りの大半は生活苦や何らかの事情を抱えた女性たちということになる。
それについて「貧困だからといって、健全なアルバイトではなく、こういうことで稼ぐのはダメですね」というナオト氏のコメントに、筆者は混乱してしまった。もし結婚後に娘が生まれ、あそこに立つようになったらどうする? と聞くと、「それは考えたくない」と話した。
本稿で取り上げなかった人も含め、筆者が接触した男性たちの大半はインターネットやSNSがきっかけで「立ちんぼ女子」に興味を持ったと話していたことから、関心を煽るような取り上げ方は慎んだほうが良いように感じた。あまりにもこの場所が有名になりすぎたせいで、国内外から性を買う男性が殺到している状況なのだ。
台湾から来たという男性は、「現地(台湾)のネットニュースで見て興味を持ってきた。できれば記念に遊んでいきたい」と話した。韓国からの観光客も同様に、「実際に遊ぶつもりはなくて、興味深いから見ているだけ」と言いつつ、2時間近くも周辺を徘徊していた。
独身のトモヒロ氏(仮名・40代後半)もその1人で、インターネットをきっかけに大久保公園に通い始めて3か月ほどになると言った。以前からデートクラブを利用しており、風俗とは違って顔を見て女性を選べるという点に魅力を感じたのだという。
立っている女性とはホテルに行くだけではなく、食事をしたりダーツバーやカラオケに行ったりする こともあるといった。
「激安デートクラブのような感覚ですね。あまり性欲の捌け口として見ていないっていうのかな。どうしてもホテルに行かなきゃいけないわけじゃないし、いろんな遊び方がある。もちろん、お手当はあげているよ。でも俺はケチだから、1回2000から3000円くらい。立ってても売れないから俺についてきてくれたのかもしれない。時々、『他の人は1(万円)くれたよ』って言われるけどね。立っている子に食料やお酒を買ってあげることもある。同情ではなく、自分が楽しみたいからやってる」
ホテルに行く場合は1回15000円。女性との交際費やお手当を含めると、月に費やす額は10万円ほどだ。職業はサラリーマンで、年収は最も良いときで800万円台。貯金は数千万円あり、老後の心配も一応ない状態だという。
「でも、この調子じゃFIRE(※定年を待たずにリタイアして貯蓄を資産運用しながら生活すること)はできないね」
昨今の大久保公園周辺は、性の多様性の見本市のようになっている。トモヒロ氏も最近、怖い思いをしたという。
「3週間くらい前にハイジア(※歌舞伎町にある超高層ビル)の入り口に座ってたら南米系のガタイの良い男に声をかけられた。『お兄さん、好みだから遊ぼうよ』って言われて、体をベタベタ触られたので逃げたよ」
買春帰りの男性をさらに買おうとする男。まるで、虫や魚の食物連鎖のようである。
おかげで女性側の心情を間接的に体験できたともいえるが、他の男性同様、自らの買春行為について罪悪感はないと話す。
「お互い合意しているんだから、外野からとやかく言われる筋合いがない。なんでいちいち咎められないといけないのかな。それだったら女の子に対して、国がやることがあるんじゃないの? ただ取り締まるだけじゃダメでしょ。女の子は奨学金を返すためだったり、親の介護をしていたりする 子もいる。パパ活じゃあるまいし、話を盛ったところでカネは出ないから、おそらく本当なんだと思う。彼女たちはアルバイトじゃ食えないから立ちんぼをやるしかない状況なんだよ」
男性たちのこうした言葉は一見、筋が通っているかのように 聞こえるが、あくまで“消費者”としての意見だ。見ず知らずの男性に体を売るまでに生じる女性たちの葛藤や、売ったことによる傷つきについて思いを馳せることはない。
トモヒロ氏からは逆に「あなたはやってみようと思わないの?」と聞かれ、筆者は答えに詰まってしまった。当然、見ず知らずの男に体を売るなど考えられないことであるが、そうせざるを得ない状況であれば選択肢に入れないと断言できない。だが、そうなれば何とか痛覚を麻痺させるため苦心し、心を殺すだろう。男性たちに見えていないのは、そのプロセスなのだ。
トモヒロ氏からは、やや不安定な印象を受けた。結婚願望がないといい、結婚制度に対する批判を繰り返しながらも「ぶっちゃけ言うと寂しいんですよ。公園にきたら関わりが持てるから」と話したり、遵法意識について間をおいてもう一度聞くと、「一応、悪いとは思っている」とも言う。
追加取材があるかもしれないので筆者がLINEの交換を申し出ると「まだ仲良くなっていないから」と断られ、それもそうだ、と思い引き下がった。しかし数日後、筆者の名刺に記載してあるQRコードを経由してLINEが届いた。
〈また飲みたいですね~今度はご馳走しますよ笑(中略)新宿います~もしよろしければLINEもらえたら嬉しいです〉
後編【「妻ともここで出会いました」 立ちんぼ女子を「買う」男たちの事情】へつづく
安宿緑東京都生まれ。ライター、編集者。東京・小平市の朝鮮大学校を卒業後、米国系の大学院を修了。朝鮮青年同盟中央委員退任後に日本のメディアで活動を始める。2010年、北朝鮮の携帯電話画面を世界初報道、扶桑社『週刊SPA!』で担当した特集が金正男氏に読まれ「面白いね」とコメントされる。朝鮮半島と日本間の政治や民族問題に疲れ、その狭間にある人間模様と心の動きに主眼を置く。韓国心理学会正会員、米国心理学修士。著書に『実録・北の三叉路』(双葉社)。
デイリー新潮編集部

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