「公園の裏だと3万円に跳ね上がる」逮捕された歌舞伎町の21才“立ちんぼ”が明かす「路上の掟(ルール)」【後編】

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日本最大の歓楽街・新宿歌舞伎町。その中心部にほど近い新宿区立大久保公園にいま、路上で売春の客を待つ“立ちんぼ”が急増している。自らを「交縁女子」と名乗る彼女たち。21才のショウコさん(仮名)もその一人だが、彼女は今年の夏が始まる頃、警察のおとり捜査によって逮捕された。どういう経緯でその選択をしたのか、なぜそんな危険なことを始めたのか──歌舞伎町の住人たちを取材した著書『ホス狂い~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る~』を持つノンフィクションライターの宇都宮直子氏がショウコさんに単刀直入にインタビューした。【前後編の後編】
【写真4枚】警察のおとり捜査によって逮捕された元“交縁女子”のショウコさん * * * ショウコさんは東京近郊のある地方都市で一人娘として生まれ育った。中学・高校と女子校に通い、デザイナーを夢見て、服飾の専門学校に入学。しかし「男性には免疫がなかった」ため、専門学校の同級生の男子とはどうやって接していいのかわからない。「これではダメだ。男性に慣れなければ」と一念発起した彼女が選んだ方法は、ホストクラブの「初回」だった。「ホストクラブって、初回はお店にいるキャスト全員がテーブルに話しに来てくれるんです。金額も3000円とか、高くても5000円で飲み放題。店によっては“飲み放題で無料”なんてところもあるから」(ショウコさん、以下同) 多くの男性たちと接していく中で、もともとEXILEなどのファンだったというショウコさんは「メンズ地下アイドル」にハマることとなる。「その“推し”に会うためにはとにかくお金が必要だった。昼間のバイトやキャバクラの稼ぎだけでは賄えない。だから、風俗で働こうと思ったんです」 専門学校一年生、19歳の夏だった。男性への免疫がなかったというショウコさんは専門学校入学から短期間で、ホストとメン地下アイドルにハマり、キャバクラから風俗へと水商売の道にズンズンと突き進んでいったという。 しかし体験入店の当日、まさに“講習を受ける”ために店で待っていたところ「推しメンが不祥事を起こしてグループを脱退した」ことを知る。「すっごい緊張して、ここまで来たのに、お金を作る理由がなくなっちゃいました」と笑うが、彼女はそのまま「風」の世界でデビューを果たす。推しがいなくなったら、別にお金は必要ではないのでは?なのに何故?と聞くと、ショウコさんは、まるでその質問自体が不思議だというように、目を丸くして「だって、女の子って、洋服とか美容院とかネイルとか、“可愛く”いるためにはお金が必要じゃないですか。お金っていくらあっても困るものじゃないでしょう?」とあっけらかんと答えるのだった。 曰く、可愛ければグループの中でも街中でも、存在を認められる──「自分を輝かせるため」「自分を大事にするため」にはお金が必要なのは当然のことで、そのための「身体を売る」という行為に疑問を抱いている様子はない。「相変わらず、メン地下の追っかけは続けてたんですが、その後、新しくできた“推し”がホストになって。店に通っているうちに100万円以上の“未収”(※「売掛け」、ツケのこと)ができてしまって。店との話し合いの結果、父親に建て替えてもらうことになった。そういう前科があるから、父は『病気だ』と言ったんです」 40代の私から見れば、「立ちんぼ」といえば古くは「横浜のメリーさん」や「東電OL事件」など、どこか薄暗いイメージがあり、また「事情がありお店に在籍できない女性」が最後にたどり着く場所だという印象も持っていた。実際、20年以上前に、渋谷・円山町のホテル街に深夜佇んでいた女性たちは、いかにも「訳アリ」といった雰囲気で、「交縁女子」のように半ば“カジュアル”にその存在が語られるようなムードはなかった。だからこそ、現在のライトな「交縁ブーム」にはどうして違和感を覚えてしまう。 ショウコさんが語る一日のスケジュールはこうだ。13時頃、公園近辺に出向き「だいたい10万円稼いだら、その日は終わり。10万円いかなくても、ホストクラブの営業が始まる21時ころになったら終了」という。ショウコさんが現場に立ち始めたのは今年の2月。それから逮捕される前の4か月で稼いだ額は400万円にものぼるという。「お店と違って、中抜きされないし、自分のペースで働くことができる。客層も20~50代と幅広いし、お店とほとんど変わらない。もともとキャバやってたんで、トークが面白いっていって『最後』までいかない人も多いですよ」 彼女は「個人事業のメリット」を朗々と語るが、当然リスクは付きまとう。「そりゃ、危ないこともありますよ。立ち始めて最初についた客からは『こんなことをしていると親が泣くよ』といきなり説教され、ムカついたので『うるさい!』と言い返したら、いきなり頭を殴られました。グーじゃなくて、パーだったけれど……あとは、外国人とは“遊び”たくない。約束を守ってくれない人が多いんです。『ゴムありでいくら』という約束をしたのに、平気で約束を破って、生でヤラれた上にお金を払わず、逃げられたこともあります」 さらには繰り返しとはなるが、性病や今回のように逮捕など、リスクは数えきれない。それなのになぜ、女の子たちは「公園」に集まるのか。そして、彼女たちを「買う」男性たちのことも。私には理解ができない。「単純に今は、未成年が多いということもあります。15歳とか16歳の子はもちろん店舗では働けない。あと、私もそうなんですが、“紹介”でこの界隈に入るという子も多いですね。私はメン地下で知り合った女友達が“稼げるよ”と教えてくれたのがきっかけ。仕事が終わったらみんなで食事に行くこともあります。地元の子たちとは話が合わないから、歌舞伎町の子たちと一緒にいるほうが、楽しいんです。だから、捕まった時にはみんな、すごく心配してくれて……“出所”したときに、父に携帯を没収されたのですが、どうしても、皆に返信をしなくちゃって思って、携帯を返してもらえるよう、お父さんにお願いしたんです」 ショウコさんは、取材中に何度も、何度も「友達が心配してくれた」「太パパ(パパ活でコンスタントに金額を使ってくれる男性のこと)も手を尽くしてくれた」と“交縁”でつながった人達への感謝の言葉を繰り返すが、街の友人たちや「パパ」たちよりも、誰よりも彼女を心配していたのは両親ではないのか──しかし現在、ショウコさんは実家へと戻らず、友人の家で生活している。「“出所”した日は、お母さんは号泣し、父親にはこんこんと諭されましたし、両親とは何度も大喧嘩しました。最後には父が『急にこれまでと生活を変えることは難しいだろう。誕生日までは自由にしなさい。そのあとは、戻ってきて、普通の生活をしなさい』って“猶予期間”をくれました。今は、捕まって良かったと思ってます。捕まらなかったら辞められなかったし、体を売っていいことなんて一つもなかったから」 彼女は先ほど、「女の子が可愛くいるためにはお金がかかる(だから“推し”がいなくなっても風俗業界に入った)」となんの疑いもない様子で話していた。だから、そのための手段として「体を売ること」にリスクや抵抗を感じていないのだろうとリ思っていた。そんな彼女が発した「体を売っていいことなんて一つもなかった」という言葉。だが、その一方で、こんなことも話す。「“出所”してからは、まず心配してくれてた友達に『元気な姿』を見せるために公園にいきました。そこで最初に浮かんだ言葉? そうですね……『ただいま』です」 取材当日は、偶然にも彼女の21歳のバースデーだった。「今日の夜は、店で担当と一緒に過ごします。担当は、私が逮捕されたことにショックを受け、号泣して、しばらくお店に出られなかったっていうから……今後ですか? 今後は、父にも言ったのですが、体を売る仕事はやめて、地元に帰って一般の仕事を探して、普通に暮らします。でも、まだ店には25万円の未収があるから、それをまずは返し終わって……それからは、昼職の給料で細々と担当を支えてあげたいな」 取材を終え、担当の元へと急ぐ彼女を新宿駅まで送った。彼女は道すがら「公園でも、場所によって値段が違って。大体、ホテル別で1万円とか1万5000円とかが相場なんですけど、公園の裏の道だと3万円に単価が跳ね上がるんですよ」と屈託なく、当事者でなければ知りえなかった“裏事情”を話す。公園近くの広場を通りかかると、そこに立っていた顔なじみの友人であろう女性に「おーい」と手を振る。「つかまってから、覆面警官の見分け方がわかるようになりました。二人一組で、ちょっと離れて歩いていて、一人がスーツを着てるんです」と話す彼女の様子は、どこか誇らしげですらあった。 ショウコさんに会った日から数日後、大久保公園の横を通る機会があった。土曜日の20時すぎということもあって、界隈には、多くの若い女性と、それ以上に多くの、彼女たちに声をかける男性の姿があった。その中の一人は、ゆるくカールした髪の毛をおろし、ふわふわのロングワンピースに身を包んだ、ショウコさんにそっくりな女の子だった──。(了。前編から読む)
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ショウコさんは東京近郊のある地方都市で一人娘として生まれ育った。中学・高校と女子校に通い、デザイナーを夢見て、服飾の専門学校に入学。しかし「男性には免疫がなかった」ため、専門学校の同級生の男子とはどうやって接していいのかわからない。「これではダメだ。男性に慣れなければ」と一念発起した彼女が選んだ方法は、ホストクラブの「初回」だった。
「ホストクラブって、初回はお店にいるキャスト全員がテーブルに話しに来てくれるんです。金額も3000円とか、高くても5000円で飲み放題。店によっては“飲み放題で無料”なんてところもあるから」(ショウコさん、以下同)
多くの男性たちと接していく中で、もともとEXILEなどのファンだったというショウコさんは「メンズ地下アイドル」にハマることとなる。
「その“推し”に会うためにはとにかくお金が必要だった。昼間のバイトやキャバクラの稼ぎだけでは賄えない。だから、風俗で働こうと思ったんです」
専門学校一年生、19歳の夏だった。男性への免疫がなかったというショウコさんは専門学校入学から短期間で、ホストとメン地下アイドルにハマり、キャバクラから風俗へと水商売の道にズンズンと突き進んでいったという。
しかし体験入店の当日、まさに“講習を受ける”ために店で待っていたところ「推しメンが不祥事を起こしてグループを脱退した」ことを知る。
「すっごい緊張して、ここまで来たのに、お金を作る理由がなくなっちゃいました」と笑うが、彼女はそのまま「風」の世界でデビューを果たす。推しがいなくなったら、別にお金は必要ではないのでは?なのに何故?と聞くと、ショウコさんは、まるでその質問自体が不思議だというように、目を丸くして「だって、女の子って、洋服とか美容院とかネイルとか、“可愛く”いるためにはお金が必要じゃないですか。お金っていくらあっても困るものじゃないでしょう?」とあっけらかんと答えるのだった。
曰く、可愛ければグループの中でも街中でも、存在を認められる──「自分を輝かせるため」「自分を大事にするため」にはお金が必要なのは当然のことで、そのための「身体を売る」という行為に疑問を抱いている様子はない。
「相変わらず、メン地下の追っかけは続けてたんですが、その後、新しくできた“推し”がホストになって。店に通っているうちに100万円以上の“未収”(※「売掛け」、ツケのこと)ができてしまって。店との話し合いの結果、父親に建て替えてもらうことになった。そういう前科があるから、父は『病気だ』と言ったんです」
40代の私から見れば、「立ちんぼ」といえば古くは「横浜のメリーさん」や「東電OL事件」など、どこか薄暗いイメージがあり、また「事情がありお店に在籍できない女性」が最後にたどり着く場所だという印象も持っていた。実際、20年以上前に、渋谷・円山町のホテル街に深夜佇んでいた女性たちは、いかにも「訳アリ」といった雰囲気で、「交縁女子」のように半ば“カジュアル”にその存在が語られるようなムードはなかった。だからこそ、現在のライトな「交縁ブーム」にはどうして違和感を覚えてしまう。
ショウコさんが語る一日のスケジュールはこうだ。13時頃、公園近辺に出向き「だいたい10万円稼いだら、その日は終わり。10万円いかなくても、ホストクラブの営業が始まる21時ころになったら終了」という。ショウコさんが現場に立ち始めたのは今年の2月。それから逮捕される前の4か月で稼いだ額は400万円にものぼるという。
「お店と違って、中抜きされないし、自分のペースで働くことができる。客層も20~50代と幅広いし、お店とほとんど変わらない。もともとキャバやってたんで、トークが面白いっていって『最後』までいかない人も多いですよ」
彼女は「個人事業のメリット」を朗々と語るが、当然リスクは付きまとう。
「そりゃ、危ないこともありますよ。立ち始めて最初についた客からは『こんなことをしていると親が泣くよ』といきなり説教され、ムカついたので『うるさい!』と言い返したら、いきなり頭を殴られました。グーじゃなくて、パーだったけれど……あとは、外国人とは“遊び”たくない。約束を守ってくれない人が多いんです。『ゴムありでいくら』という約束をしたのに、平気で約束を破って、生でヤラれた上にお金を払わず、逃げられたこともあります」
さらには繰り返しとはなるが、性病や今回のように逮捕など、リスクは数えきれない。それなのになぜ、女の子たちは「公園」に集まるのか。そして、彼女たちを「買う」男性たちのことも。私には理解ができない。
「単純に今は、未成年が多いということもあります。15歳とか16歳の子はもちろん店舗では働けない。あと、私もそうなんですが、“紹介”でこの界隈に入るという子も多いですね。私はメン地下で知り合った女友達が“稼げるよ”と教えてくれたのがきっかけ。仕事が終わったらみんなで食事に行くこともあります。地元の子たちとは話が合わないから、歌舞伎町の子たちと一緒にいるほうが、楽しいんです。だから、捕まった時にはみんな、すごく心配してくれて……“出所”したときに、父に携帯を没収されたのですが、どうしても、皆に返信をしなくちゃって思って、携帯を返してもらえるよう、お父さんにお願いしたんです」
ショウコさんは、取材中に何度も、何度も「友達が心配してくれた」「太パパ(パパ活でコンスタントに金額を使ってくれる男性のこと)も手を尽くしてくれた」と“交縁”でつながった人達への感謝の言葉を繰り返すが、街の友人たちや「パパ」たちよりも、誰よりも彼女を心配していたのは両親ではないのか──しかし現在、ショウコさんは実家へと戻らず、友人の家で生活している。
「“出所”した日は、お母さんは号泣し、父親にはこんこんと諭されましたし、両親とは何度も大喧嘩しました。最後には父が『急にこれまでと生活を変えることは難しいだろう。誕生日までは自由にしなさい。そのあとは、戻ってきて、普通の生活をしなさい』って“猶予期間”をくれました。今は、捕まって良かったと思ってます。捕まらなかったら辞められなかったし、体を売っていいことなんて一つもなかったから」
彼女は先ほど、「女の子が可愛くいるためにはお金がかかる(だから“推し”がいなくなっても風俗業界に入った)」となんの疑いもない様子で話していた。だから、そのための手段として「体を売ること」にリスクや抵抗を感じていないのだろうとリ思っていた。そんな彼女が発した「体を売っていいことなんて一つもなかった」という言葉。だが、その一方で、こんなことも話す。
「“出所”してからは、まず心配してくれてた友達に『元気な姿』を見せるために公園にいきました。そこで最初に浮かんだ言葉? そうですね……『ただいま』です」
取材当日は、偶然にも彼女の21歳のバースデーだった。
「今日の夜は、店で担当と一緒に過ごします。担当は、私が逮捕されたことにショックを受け、号泣して、しばらくお店に出られなかったっていうから……今後ですか? 今後は、父にも言ったのですが、体を売る仕事はやめて、地元に帰って一般の仕事を探して、普通に暮らします。でも、まだ店には25万円の未収があるから、それをまずは返し終わって……それからは、昼職の給料で細々と担当を支えてあげたいな」
取材を終え、担当の元へと急ぐ彼女を新宿駅まで送った。彼女は道すがら「公園でも、場所によって値段が違って。大体、ホテル別で1万円とか1万5000円とかが相場なんですけど、公園の裏の道だと3万円に単価が跳ね上がるんですよ」と屈託なく、当事者でなければ知りえなかった“裏事情”を話す。公園近くの広場を通りかかると、そこに立っていた顔なじみの友人であろう女性に「おーい」と手を振る。「つかまってから、覆面警官の見分け方がわかるようになりました。二人一組で、ちょっと離れて歩いていて、一人がスーツを着てるんです」と話す彼女の様子は、どこか誇らしげですらあった。
ショウコさんに会った日から数日後、大久保公園の横を通る機会があった。土曜日の20時すぎということもあって、界隈には、多くの若い女性と、それ以上に多くの、彼女たちに声をかける男性の姿があった。その中の一人は、ゆるくカールした髪の毛をおろし、ふわふわのロングワンピースに身を包んだ、ショウコさんにそっくりな女の子だった──。
(了。前編から読む)

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