特殊詐欺グループの拠点「ハコ」事情 駅近、住宅街、非築浅マンション4~9階が選ばれる傾向

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警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、特殊詐欺グループの拠点「ハコ」の立地について。
【写真】特殊詐欺のアジト。小さなソファ、イス、テーブルが無造作に置かれている * * * こんな近くに特殊詐欺のアジトがあったのか。ある暴力団組員に案内されて驚いた。彼らがアジトとして使っていたビルは、都内中心に立つ駅近物件で、知れば誰もが驚くような場所にあった。 特殊詐欺を行うには、電話を掛けるための拠点が必要だ。2022年末から関東で起こった広域強盗事件、いわゆる”ルフィ事件”とフィリピンを拠点にした特殊詐欺事件の場合、アジトにしていたのはマニラ近郊の廃ホテルだった。東南アジアを拠点にする特殊詐欺グループでは、ハコと呼ばれる拠点をマンションやビルにいくつも作り、そこから日本へ電話を掛けていたが、日本国内でも民泊を拠点に何か所ものハコを作っていたことがわかっている。

コロナ禍以前、インバウンドに沸いていた日本では民泊が許可された。ホテルと違い民泊施設にはフロントがなく、宿泊する人数や属性も実際に確認されないことが多く、チェック機能が働かない。足がつかないよう数か月、数週間ごとに拠点を移したい特殊詐欺グループにとっては好都合といえた。場所が特定されないよう、都内を走る車の中から電話を掛け詐欺を仕掛ける相手を探すという方法が使われていたこともある。しかし特殊詐欺グループの多くは、未だにマンションやビルの一室などをアジトとして活動していると聞く。 暴力団組員が特殊詐欺を行っていたグループも、都内の雑居ビルの一室を借りてアジトにしていた。「もう何年も前のことになるが」と言いながら、案内してくれたその場所は、都内中心にほど近い広い通りの角地に立っていた。そこは自分がよく知る地域で、人の行き来が多く昼時には沢山の会社員らがその前を通る。ひっそりとした廃ビルや、静かな住宅街のマンションを想像していただけに、「まさかこんな所!?」と目が丸くなった。アジトの86%が駅から徒歩10分圏内 表通りに面した雑居ビルは入り口が広く、大きな窓から通りが見える。周りには店が立ち並び、人通りも多い。行き交う人は、以前そこで特殊詐欺が行われていたなど想像もできないだろう。最寄り駅からわずか徒歩2分という立地の良さに加え、所轄の警察署からも近く、数百メートル先には交番があり、通りを挟んだ向こうには警視庁の分室が入っていたビルが見えた。まさに”灯台下暗し”である。 警視庁犯罪抑止対策本部が2015年に発表した特殊詐欺のアジトに関する分析では、アジトの86%が駅から徒歩10分圏内に所在していたとされている。その年の1月から10月末までの間、摘発した都内の特殊詐欺アジト29か所を分析したものだ。さらに最寄り駅から400メートル以内、徒歩5分圏内にあったアジトは12.41%になる。闇バイトを雇うにしても駅から近ければ都合がよいが、警察に目をつけられたり、何らかのトラブルが起きた時、すぐに逃げ出し、駅に駆け込めるというメリットもあったのだろう。 分析結果によると、アジト周辺の立地状況は住宅街が45%で繁華街は17%。その場所は表通りには飲食店や大きなオフィスビルが立ち、一本裏手に入ると住宅が並ぶという場所で、人目につきにくい。建物の種類では41%が比較的大きなマンションに入居し、雑居ビルは11.38%だ。アジトに使われるのは4階から9階の中層階が62%に上るが、今回私が案内されたアジトがあったのは低層のビルの2階の角部屋。分析結果によるとアジトには角部屋や1フロア1室の部屋が好まれるらしい。物件の築年数は38%が築21年から30年。新築のビルが避けられるのは、入居審査が厳しく家賃も高い上に、管理人が在中、防犯カメラやオートロックという特殊詐欺グループにとってはありがたくない防犯設備が整っている物件が多いからだ。案内された雑居ビルも古いビルで、オートロックも防犯カメラもなく、もちろん管理人はなし。分析結果と同じである。 驚いたのはその立地だけではなかった。暴力団が絡んでいれば、シマという問題が生じる。他の暴力団事務所が近隣のどこにあるか、どこのシマかを把握しているのはわかる。だが元組員は「ここにはあそこの分室があって、しばらくいったあのビルには違う分室が入っていた」と、その周辺に点在していた警視庁の分室の位置を把握していた。特殊詐欺取締りのための分室ではなく、そこにいる捜査員らがガサ入れに来ることはないが、万が一に備えて把握していたのだろう。 誰がいつ特殊詐欺に騙され被害者になるかわからない。知らないうちに特殊詐欺グループは、すぐ近くにいるかもしれない。
* * * こんな近くに特殊詐欺のアジトがあったのか。ある暴力団組員に案内されて驚いた。彼らがアジトとして使っていたビルは、都内中心に立つ駅近物件で、知れば誰もが驚くような場所にあった。
特殊詐欺を行うには、電話を掛けるための拠点が必要だ。2022年末から関東で起こった広域強盗事件、いわゆる”ルフィ事件”とフィリピンを拠点にした特殊詐欺事件の場合、アジトにしていたのはマニラ近郊の廃ホテルだった。東南アジアを拠点にする特殊詐欺グループでは、ハコと呼ばれる拠点をマンションやビルにいくつも作り、そこから日本へ電話を掛けていたが、日本国内でも民泊を拠点に何か所ものハコを作っていたことがわかっている。
コロナ禍以前、インバウンドに沸いていた日本では民泊が許可された。ホテルと違い民泊施設にはフロントがなく、宿泊する人数や属性も実際に確認されないことが多く、チェック機能が働かない。足がつかないよう数か月、数週間ごとに拠点を移したい特殊詐欺グループにとっては好都合といえた。場所が特定されないよう、都内を走る車の中から電話を掛け詐欺を仕掛ける相手を探すという方法が使われていたこともある。しかし特殊詐欺グループの多くは、未だにマンションやビルの一室などをアジトとして活動していると聞く。
暴力団組員が特殊詐欺を行っていたグループも、都内の雑居ビルの一室を借りてアジトにしていた。「もう何年も前のことになるが」と言いながら、案内してくれたその場所は、都内中心にほど近い広い通りの角地に立っていた。そこは自分がよく知る地域で、人の行き来が多く昼時には沢山の会社員らがその前を通る。ひっそりとした廃ビルや、静かな住宅街のマンションを想像していただけに、「まさかこんな所!?」と目が丸くなった。
表通りに面した雑居ビルは入り口が広く、大きな窓から通りが見える。周りには店が立ち並び、人通りも多い。行き交う人は、以前そこで特殊詐欺が行われていたなど想像もできないだろう。最寄り駅からわずか徒歩2分という立地の良さに加え、所轄の警察署からも近く、数百メートル先には交番があり、通りを挟んだ向こうには警視庁の分室が入っていたビルが見えた。まさに”灯台下暗し”である。
警視庁犯罪抑止対策本部が2015年に発表した特殊詐欺のアジトに関する分析では、アジトの86%が駅から徒歩10分圏内に所在していたとされている。その年の1月から10月末までの間、摘発した都内の特殊詐欺アジト29か所を分析したものだ。さらに最寄り駅から400メートル以内、徒歩5分圏内にあったアジトは12.41%になる。闇バイトを雇うにしても駅から近ければ都合がよいが、警察に目をつけられたり、何らかのトラブルが起きた時、すぐに逃げ出し、駅に駆け込めるというメリットもあったのだろう。
分析結果によると、アジト周辺の立地状況は住宅街が45%で繁華街は17%。その場所は表通りには飲食店や大きなオフィスビルが立ち、一本裏手に入ると住宅が並ぶという場所で、人目につきにくい。建物の種類では41%が比較的大きなマンションに入居し、雑居ビルは11.38%だ。アジトに使われるのは4階から9階の中層階が62%に上るが、今回私が案内されたアジトがあったのは低層のビルの2階の角部屋。分析結果によるとアジトには角部屋や1フロア1室の部屋が好まれるらしい。物件の築年数は38%が築21年から30年。新築のビルが避けられるのは、入居審査が厳しく家賃も高い上に、管理人が在中、防犯カメラやオートロックという特殊詐欺グループにとってはありがたくない防犯設備が整っている物件が多いからだ。案内された雑居ビルも古いビルで、オートロックも防犯カメラもなく、もちろん管理人はなし。分析結果と同じである。
驚いたのはその立地だけではなかった。暴力団が絡んでいれば、シマという問題が生じる。他の暴力団事務所が近隣のどこにあるか、どこのシマかを把握しているのはわかる。だが元組員は「ここにはあそこの分室があって、しばらくいったあのビルには違う分室が入っていた」と、その周辺に点在していた警視庁の分室の位置を把握していた。特殊詐欺取締りのための分室ではなく、そこにいる捜査員らがガサ入れに来ることはないが、万が一に備えて把握していたのだろう。
誰がいつ特殊詐欺に騙され被害者になるかわからない。知らないうちに特殊詐欺グループは、すぐ近くにいるかもしれない。

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