【金田 直久】女性信者の7割が風俗嬢に… ”地獄営業”で売春を強要する「全裸SEX教団」にハマった元信者女性が明かす、「アフターカルト」の苦しみ

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「ザイン」というカルト団体を覚えている人はどれくらいいるだろう。ザインは「Z帝国」を名乗っていた1994年に「6月に大地震が起こり、我々がクーデタを起こす」と主張して騒ぎ、また2005年には「全裸SEX教団」の異名で話題になったカルト団体だ。
代表は1980年代からオカルト界では有名な小島露観(また、「伯壬旭」)という人物で、宗教法人ではなく会社法人だった。ザインは「ザイクス」、「天業古代王朝」などと名前を変えた後、2015年に解散した。
昨年7月の安倍元首相銃撃以来、「マインドコントロール」や「宗教二世」の苦しみがクローズアップされるが、本稿ではザインの元会員へのインタビューを通し、カルト宗教を抜けた後の更なる苦しみ「アフターカルト」に着目してみたいと思う。
photo by iStock
「借金をして離婚して、大手の企業を辞めて、ソープ嬢になった仲の良い友人がいました。その友人が今どうしているのか、生きているのかどうかも分からないんですよ…」
話を聞かせてくれたのは都内在住のAさん。Aさんは元ザインの会員で、元風俗嬢でもある。Aさんがザインに入会したのは1990年代の半ば。きっかけはザインが販売していたパワーストーンを買ったことだった。
ザインが事業として主に行っていたのは、いわゆる「開運商法」。「購入しなければ祖先が成仏できない」という霊感商法ではなく、「購入すれば恋人ができる」「身に着ければ金持ちになれる」と、“魔力”が込められたパワーストーンやアクセサリーを高額で販売して利益を上げていた。
なお、ザインは、自団体を国家や軍隊になぞらえていたため、特殊用語が多いのが特徴的で、開運商品を「聖品(しょうひん)」、会員を「軍士」、リーダー格の会員を「上官」、そして教祖の小島露観を「軍帥(ぐんすい)」と呼んでいた。
人々がザインに入会する入り口は、主に雑誌の広告欄や渋谷にあったパワーストーンショップ。リピーターの客は徐々に会員になるよう誘導され、高額な商品購入に加え、魔力を高める「儀式」への参加を促されるようになっていく。
Aさんは、パワーストーンを買ったりイベントに参加したりしていくうちに、「“聖品”によって霊的な力を高め、周りを変化させ、最終的には政権奪取、クーデタで世界革命を起こす」というザインの特異な世界観に誘われていったのだと言う。
当時の雑誌広告欄。恋愛運や金運アップを謳う一般的な内容だ。ザイン入会へのきっかけとなっていた 写真提供:金田直久「パワーストーンは、初めは個人的な動機で購入するんです。でも、次第に活動や儀式に参加して、民主主義の否定とか大地震を主張するザインの刊行物を読んでいくうちに、革命を起こす、政権を奪取するんだという世界観になっていくんですよ。クーデタの指令があったらすぐに駆け付けられるようにと、長期間の旅行も駄目でした」パワーストーンがきっかけで、魔力による政権奪取を目指す集団の一員となる–。ここだけを切り抜くと「パワーストーンを買うだけでそんな突飛な価値観に染まるものなのか」と普通の人は思うかもしれない。だが、人間は、金や労力、心と時間を費やすコミットメントを通じて、またその場で出会った他者との交流を通して、知らず知らずのうちにカルトに入り込んでしまうのである。ドラクエ・ラノベ風の中二病的な世界観ザインの最終目標は「クーデタによる政権奪取」であるものの、日常的な活動は、数万円から百万円の開運グッズ購入、月に1度の「剣修練」と呼ばれる模造刀の居合、そして参加費約5万円からの「儀式」の参加だった。こうした活動で会員はおおむね1ヵ月に数万~10万円程はザインに費やしていた。「ザインは剣を神格化していて、『決められた太刀筋で剣を振ることで世界を変えることができる』と軍帥(教祖)の小島露観は言っていました。“儀式”は、公民館に集まって、床にビニールテープで図形を描いて、その上をクラシックの曲を流しながら、集中して剣を振りながら歩くんです。図形は軍帥が考案したもので、それぞれ込められている概念が異なるんですよ。そうした儀式によって自分を変え、魔力を高める–」「剣モチーフのアクセサリーも販売していた。「光子ビーム」により不浄が浄化されるという 写真提供:金田直久つまり、例えば魔法陣を描いて魔物を召喚したり、魔法剣を振るって敵を倒したりする「ドラクエ」や、またはラノベ風の「魔術」的世界観と言えばよいだろうか。だが、ザインのやっていたことは、そんな中二病的なドラクエ・ラノベ風世界観の単なる実践ではなかった。月に10万円の活動経費もずいぶん高額で、会員には商品購入や儀式の参加のため借金をする者も多く、中には自己破産になった会員もいた。が、特に2008年頃からザインは資金難から「これからは地獄の時代」と言わんばかりに、会員に高額の借金をさせて商品の購入を迫り、また会員の女性を風俗店で働くことを大々的に強要するようになったのである。女性会員に風俗嬢になることを強要した“地獄営業”「2008年頃からですね、“地獄営業”と呼ばれるんですが、会員に対する商品購入の営業攻勢が本当に激しくなって、普通じゃ考えられない深夜に電話がかかってきたこともありました。それ以降『借金してでも聖品を買え、女は売春で金を稼げ』と。抵抗感はあっても上官(立場が上の会員)からの命令なので断れない。会員の間で借金に対するハードルは地獄営業の以前から下がっていましたし、私は最終的に『自分は要らなくても、世のために必要な力を身に着けるためには聖品を買うのが義務』と自分を納得させて聖品を買っていました」photo by iStockなお、この“地獄営業”は内々に掲げられたものではなく、むしろ正々堂々となされたもので、パワーストーンを販売する各地の店舗は「渋谷地獄」「大阪地獄」などと正式に店名を変えるに至り、女性会員の多くが言われるがまま風俗嬢となった。この頃は、「ナンバーワンになれる」と謳った開運アクセサリーも販売され(なお、「ナンバーワン」とは「指名ランキングNo.1」という意味である)、集会に集まっても、Aさんを含め、女性会員の話題の多くは風俗の客の愚痴や優良店の情報交換などであったらしい。「私はそれ以前から風俗で働いていましたが、この頃、『お前、店でナンバースリーになったんだな』って、小島露観から褒められたことがありました。軍帥から褒められたのはそれが最初で最後。正確な統計は分からないんですが、肌感覚では、東京の集会で集まってくる女性会員のたぶん7割くらいが風俗嬢だったのではと思います。風俗嬢にならなかったのは昼間の仕事が忙しすぎて、そんな時間もないような人くらい…」借金、離婚、大手企業を退職…そしてソープ嬢へ会員に借金や性風俗で金を工面させ、高額な開運商品を大量に買わせる。これが「地獄営業」の時代にザインで起こったことだった。「世界革命」と「性風俗/借金」を繋ぐそのロジックは、性を解放した社会が理想的で、性なるものは聖である、世界は聖なるものと悪いものの両立で成立している、よって性風俗労働や消費者金融への借金は理想に向かう正しい行為である、というザインの価値観であった。そして、そうした苦しい借金はいずれチャラになる–。ザインは、政権を奪取した暁には何十倍の高額紙幣となるとの触れ込みで「軍票」なるものも1枚10万円から発行されていたのである。よく、カルト宗教の「“世界観”に入り込む」と言われるが、この「軍票」の件を鑑みるに、「国家」を標榜していたザインという「“世界”に入り込む」と言った方が正確だろう。「軍票」を販売するチラシ 写真提供:金田直久Aさんの仲の良い友人には、開運商品の購入や儀式への参加代金のため借金が膨らみ、離婚、そして大手企業の正社員を辞めてソープ嬢になり、「自宅を抵当に出すかどうか、ザインの本部に相談しに行く」という話をしていた女性もいた。そしてその友人は「今どうしているのかも分からない」という。唐突な解散後に訪れた「アフターカルト」の苦しみ地獄営業の苦しみは2010年以降に終わる。2011年からザインのトップの地位は小島露観からその息子Sに代わり、Sは会員に風俗や借金を強要していたことを謝罪し、政権奪取と世界革命という団体の最終目標を一時保留とするとしたのである。そしてその後、2015年に突然、会社法人ザイン(当時「株式会社シリウス」)は破産となった。これによって、Aさんを含む会員は苦しみから解放された。だが同時に、心の中にある種の虚しさも生まれた。それは、「これまでの苦しみはではいったい何だったのか」という、絶望とも後悔とも異なる虚ろな感情である。政権奪取のために高額商品を買い続けるという、その論理的に説明できない行為の矛盾に、高額商品を買う苦しみがなくなることによって、気付かされ、空虚感が生まれる。そして会員たちは、カルト宗教からの唐突な解放によって、苦しみの中で留保されてきた現実的な問題にも直面することになる。それは自分の生活の立て直しだ。仕事を辞めて風俗で働いてきた女性会員たちが急に昼間の生活に戻れと言われても、履歴書に穴の開いた三十半ば過ぎの元風俗嬢を正社員で雇う会社などなかったのである。金と時間、友人、配偶者…人生のすべてを失って「結局、カルト宗教というのは、ホストが女に風俗で働かせて、金を貢がせて、『俺がヒモ生活できなくなるから風俗辞めるな』って強要する、そんな感じですよね」Aさんは口にこそしなかったが、ザインの場合は「そしてホストに急に捨てられた」ということになるだろう。カルトの経験によって失うのは、金と時間、友人、配偶者、そして自分の人生である。ザインに限らず、こうしたカルトを抜けた後の後遺症「アフターカルト」は様々なカルト団体に共通する問題だ。ザインの場合は女性会員に性労働を強要していたことで、自分の体を売った後悔やトラウマ、一般的な職業に戻る困難など、セックスワーカー特有の苦しみもアフターカルトに加味されるだろう。なお当時、2ちゃんねるのザインを批判するスレッドに、風俗店で働いていたザインの女性社員の源氏名と店舗、本名まで晒されたこともあったという。カルトによって風俗嬢をさせられたいわば「被害者」の立場とも言える女性のアウティングが、カルト批判の側からなされたという悲惨な例である。photo by iStock消せない記憶と消せないネットの黒歴史–。カルトの経験がセックスワーカー女性の貧困問題に交差する、二重のアフターカルトをザインの元会員たちは生きているのではないか。「ザインが終わった後、資格を取って風俗を辞められた人もいたし、昼の正社員の仕事に就けないで、風俗や援デリを続けた人もいました。私は地獄営業の前からセックスワーカーで、その仕事にしっかり取り組んだ気持ちがあるから思うんですが、性風俗産業も立派な仕事なんですよね。でも、辞めた後の就職差別の問題がある。だからこそ、“手っ取り早い金儲けの手段”として強要したザインが許せない」「ザイン」とインターネットで検索すると、「全裸SEX教団」「セクシー過ぎるヨガ教室」など、滑稽なワードがヒットする。ザインに限らず当事者に深刻な被害を生むカルト団体は、外部には時に滑稽な集団に映る。だがその滑稽さの裏側には、その当事者の一生を左右するカルトの苦しみがある。世界革命を掲げ、会員に借金や性労働を強要し、搾取したザイン。そんなカルトがこの日本にあったこと、そして、その苦しみを今も引きずる人が社会に大勢いることは決して忘れられてはならない。
当時の雑誌広告欄。恋愛運や金運アップを謳う一般的な内容だ。ザイン入会へのきっかけとなっていた 写真提供:金田直久
「パワーストーンは、初めは個人的な動機で購入するんです。でも、次第に活動や儀式に参加して、民主主義の否定とか大地震を主張するザインの刊行物を読んでいくうちに、革命を起こす、政権を奪取するんだという世界観になっていくんですよ。クーデタの指令があったらすぐに駆け付けられるようにと、長期間の旅行も駄目でした」
パワーストーンがきっかけで、魔力による政権奪取を目指す集団の一員となる–。
ここだけを切り抜くと「パワーストーンを買うだけでそんな突飛な価値観に染まるものなのか」と普通の人は思うかもしれない。だが、人間は、金や労力、心と時間を費やすコミットメントを通じて、またその場で出会った他者との交流を通して、知らず知らずのうちにカルトに入り込んでしまうのである。
ザインの最終目標は「クーデタによる政権奪取」であるものの、日常的な活動は、数万円から百万円の開運グッズ購入、月に1度の「剣修練」と呼ばれる模造刀の居合、そして参加費約5万円からの「儀式」の参加だった。こうした活動で会員はおおむね1ヵ月に数万~10万円程はザインに費やしていた。
「ザインは剣を神格化していて、『決められた太刀筋で剣を振ることで世界を変えることができる』と軍帥(教祖)の小島露観は言っていました。“儀式”は、公民館に集まって、床にビニールテープで図形を描いて、その上をクラシックの曲を流しながら、集中して剣を振りながら歩くんです。図形は軍帥が考案したもので、それぞれ込められている概念が異なるんですよ。そうした儀式によって自分を変え、魔力を高める–」
「剣モチーフのアクセサリーも販売していた。「光子ビーム」により不浄が浄化されるという 写真提供:金田直久
つまり、例えば魔法陣を描いて魔物を召喚したり、魔法剣を振るって敵を倒したりする「ドラクエ」や、またはラノベ風の「魔術」的世界観と言えばよいだろうか。だが、ザインのやっていたことは、そんな中二病的なドラクエ・ラノベ風世界観の単なる実践ではなかった。
月に10万円の活動経費もずいぶん高額で、会員には商品購入や儀式の参加のため借金をする者も多く、中には自己破産になった会員もいた。が、特に2008年頃からザインは資金難から「これからは地獄の時代」と言わんばかりに、会員に高額の借金をさせて商品の購入を迫り、また会員の女性を風俗店で働くことを大々的に強要するようになったのである。
「2008年頃からですね、“地獄営業”と呼ばれるんですが、会員に対する商品購入の営業攻勢が本当に激しくなって、普通じゃ考えられない深夜に電話がかかってきたこともありました。
それ以降『借金してでも聖品を買え、女は売春で金を稼げ』と。抵抗感はあっても上官(立場が上の会員)からの命令なので断れない。会員の間で借金に対するハードルは地獄営業の以前から下がっていましたし、私は最終的に『自分は要らなくても、世のために必要な力を身に着けるためには聖品を買うのが義務』と自分を納得させて聖品を買っていました」
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なお、この“地獄営業”は内々に掲げられたものではなく、むしろ正々堂々となされたもので、パワーストーンを販売する各地の店舗は「渋谷地獄」「大阪地獄」などと正式に店名を変えるに至り、女性会員の多くが言われるがまま風俗嬢となった。
この頃は、「ナンバーワンになれる」と謳った開運アクセサリーも販売され(なお、「ナンバーワン」とは「指名ランキングNo.1」という意味である)、集会に集まっても、Aさんを含め、女性会員の話題の多くは風俗の客の愚痴や優良店の情報交換などであったらしい。
「私はそれ以前から風俗で働いていましたが、この頃、『お前、店でナンバースリーになったんだな』って、小島露観から褒められたことがありました。軍帥から褒められたのはそれが最初で最後。
正確な統計は分からないんですが、肌感覚では、東京の集会で集まってくる女性会員のたぶん7割くらいが風俗嬢だったのではと思います。風俗嬢にならなかったのは昼間の仕事が忙しすぎて、そんな時間もないような人くらい…」
会員に借金や性風俗で金を工面させ、高額な開運商品を大量に買わせる。これが「地獄営業」の時代にザインで起こったことだった。
「世界革命」と「性風俗/借金」を繋ぐそのロジックは、性を解放した社会が理想的で、性なるものは聖である、世界は聖なるものと悪いものの両立で成立している、よって性風俗労働や消費者金融への借金は理想に向かう正しい行為である、というザインの価値観であった。
そして、そうした苦しい借金はいずれチャラになる–。ザインは、政権を奪取した暁には何十倍の高額紙幣となるとの触れ込みで「軍票」なるものも1枚10万円から発行されていたのである。よく、カルト宗教の「“世界観”に入り込む」と言われるが、この「軍票」の件を鑑みるに、「国家」を標榜していたザインという「“世界”に入り込む」と言った方が正確だろう。
「軍票」を販売するチラシ 写真提供:金田直久Aさんの仲の良い友人には、開運商品の購入や儀式への参加代金のため借金が膨らみ、離婚、そして大手企業の正社員を辞めてソープ嬢になり、「自宅を抵当に出すかどうか、ザインの本部に相談しに行く」という話をしていた女性もいた。そしてその友人は「今どうしているのかも分からない」という。唐突な解散後に訪れた「アフターカルト」の苦しみ地獄営業の苦しみは2010年以降に終わる。2011年からザインのトップの地位は小島露観からその息子Sに代わり、Sは会員に風俗や借金を強要していたことを謝罪し、政権奪取と世界革命という団体の最終目標を一時保留とするとしたのである。そしてその後、2015年に突然、会社法人ザイン(当時「株式会社シリウス」)は破産となった。これによって、Aさんを含む会員は苦しみから解放された。だが同時に、心の中にある種の虚しさも生まれた。それは、「これまでの苦しみはではいったい何だったのか」という、絶望とも後悔とも異なる虚ろな感情である。政権奪取のために高額商品を買い続けるという、その論理的に説明できない行為の矛盾に、高額商品を買う苦しみがなくなることによって、気付かされ、空虚感が生まれる。そして会員たちは、カルト宗教からの唐突な解放によって、苦しみの中で留保されてきた現実的な問題にも直面することになる。それは自分の生活の立て直しだ。仕事を辞めて風俗で働いてきた女性会員たちが急に昼間の生活に戻れと言われても、履歴書に穴の開いた三十半ば過ぎの元風俗嬢を正社員で雇う会社などなかったのである。金と時間、友人、配偶者…人生のすべてを失って「結局、カルト宗教というのは、ホストが女に風俗で働かせて、金を貢がせて、『俺がヒモ生活できなくなるから風俗辞めるな』って強要する、そんな感じですよね」Aさんは口にこそしなかったが、ザインの場合は「そしてホストに急に捨てられた」ということになるだろう。カルトの経験によって失うのは、金と時間、友人、配偶者、そして自分の人生である。ザインに限らず、こうしたカルトを抜けた後の後遺症「アフターカルト」は様々なカルト団体に共通する問題だ。ザインの場合は女性会員に性労働を強要していたことで、自分の体を売った後悔やトラウマ、一般的な職業に戻る困難など、セックスワーカー特有の苦しみもアフターカルトに加味されるだろう。なお当時、2ちゃんねるのザインを批判するスレッドに、風俗店で働いていたザインの女性社員の源氏名と店舗、本名まで晒されたこともあったという。カルトによって風俗嬢をさせられたいわば「被害者」の立場とも言える女性のアウティングが、カルト批判の側からなされたという悲惨な例である。photo by iStock消せない記憶と消せないネットの黒歴史–。カルトの経験がセックスワーカー女性の貧困問題に交差する、二重のアフターカルトをザインの元会員たちは生きているのではないか。「ザインが終わった後、資格を取って風俗を辞められた人もいたし、昼の正社員の仕事に就けないで、風俗や援デリを続けた人もいました。私は地獄営業の前からセックスワーカーで、その仕事にしっかり取り組んだ気持ちがあるから思うんですが、性風俗産業も立派な仕事なんですよね。でも、辞めた後の就職差別の問題がある。だからこそ、“手っ取り早い金儲けの手段”として強要したザインが許せない」「ザイン」とインターネットで検索すると、「全裸SEX教団」「セクシー過ぎるヨガ教室」など、滑稽なワードがヒットする。ザインに限らず当事者に深刻な被害を生むカルト団体は、外部には時に滑稽な集団に映る。だがその滑稽さの裏側には、その当事者の一生を左右するカルトの苦しみがある。世界革命を掲げ、会員に借金や性労働を強要し、搾取したザイン。そんなカルトがこの日本にあったこと、そして、その苦しみを今も引きずる人が社会に大勢いることは決して忘れられてはならない。
「軍票」を販売するチラシ 写真提供:金田直久
Aさんの仲の良い友人には、開運商品の購入や儀式への参加代金のため借金が膨らみ、離婚、そして大手企業の正社員を辞めてソープ嬢になり、「自宅を抵当に出すかどうか、ザインの本部に相談しに行く」という話をしていた女性もいた。そしてその友人は「今どうしているのかも分からない」という。
地獄営業の苦しみは2010年以降に終わる。2011年からザインのトップの地位は小島露観からその息子Sに代わり、Sは会員に風俗や借金を強要していたことを謝罪し、政権奪取と世界革命という団体の最終目標を一時保留とするとしたのである。
そしてその後、2015年に突然、会社法人ザイン(当時「株式会社シリウス」)は破産となった。
これによって、Aさんを含む会員は苦しみから解放された。だが同時に、心の中にある種の虚しさも生まれた。それは、「これまでの苦しみはではいったい何だったのか」という、絶望とも後悔とも異なる虚ろな感情である。政権奪取のために高額商品を買い続けるという、その論理的に説明できない行為の矛盾に、高額商品を買う苦しみがなくなることによって、気付かされ、空虚感が生まれる。
そして会員たちは、カルト宗教からの唐突な解放によって、苦しみの中で留保されてきた現実的な問題にも直面することになる。それは自分の生活の立て直しだ。仕事を辞めて風俗で働いてきた女性会員たちが急に昼間の生活に戻れと言われても、履歴書に穴の開いた三十半ば過ぎの元風俗嬢を正社員で雇う会社などなかったのである。
「結局、カルト宗教というのは、ホストが女に風俗で働かせて、金を貢がせて、『俺がヒモ生活できなくなるから風俗辞めるな』って強要する、そんな感じですよね」
Aさんは口にこそしなかったが、ザインの場合は「そしてホストに急に捨てられた」ということになるだろう。カルトの経験によって失うのは、金と時間、友人、配偶者、そして自分の人生である。
ザインに限らず、こうしたカルトを抜けた後の後遺症「アフターカルト」は様々なカルト団体に共通する問題だ。ザインの場合は女性会員に性労働を強要していたことで、自分の体を売った後悔やトラウマ、一般的な職業に戻る困難など、セックスワーカー特有の苦しみもアフターカルトに加味されるだろう。
なお当時、2ちゃんねるのザインを批判するスレッドに、風俗店で働いていたザインの女性社員の源氏名と店舗、本名まで晒されたこともあったという。カルトによって風俗嬢をさせられたいわば「被害者」の立場とも言える女性のアウティングが、カルト批判の側からなされたという悲惨な例である。
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消せない記憶と消せないネットの黒歴史–。カルトの経験がセックスワーカー女性の貧困問題に交差する、二重のアフターカルトをザインの元会員たちは生きているのではないか。
「ザインが終わった後、資格を取って風俗を辞められた人もいたし、昼の正社員の仕事に就けないで、風俗や援デリを続けた人もいました。私は地獄営業の前からセックスワーカーで、その仕事にしっかり取り組んだ気持ちがあるから思うんですが、性風俗産業も立派な仕事なんですよね。でも、辞めた後の就職差別の問題がある。だからこそ、“手っ取り早い金儲けの手段”として強要したザインが許せない」
「ザイン」とインターネットで検索すると、「全裸SEX教団」「セクシー過ぎるヨガ教室」など、滑稽なワードがヒットする。ザインに限らず当事者に深刻な被害を生むカルト団体は、外部には時に滑稽な集団に映る。だがその滑稽さの裏側には、その当事者の一生を左右するカルトの苦しみがある。
世界革命を掲げ、会員に借金や性労働を強要し、搾取したザイン。そんなカルトがこの日本にあったこと、そして、その苦しみを今も引きずる人が社会に大勢いることは決して忘れられてはならない。

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