「夫がしたいと言うなら体も貸します、興味はないけど」。完璧な仮面妻を演じ続ける42歳の覚悟

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「仮面夫婦」は、実際には破綻している関係なのに、他人にはごく普通の夫婦のように取り繕って見せていること。もちろん、仮面であっても夫婦でいることのメリットはあるのだろう。だがそのことに重いものを抱えている当事者もいる。
夫に“従順”であろうとしたけれど「私は結局、“仮面夫婦”を選択しました」
穏やかにそう言うのは、リナさん(42歳)だ。結婚して12年、10歳年上の夫との間に10歳のひとり娘がいる。夫は娘を溺愛しているという。
「でも私にはさまざまなモラハラをしてきました。私だってパートで仕事をしているのに家事はすべて私、夫の親や親戚とのつきあいもすべて私、問題があれば責められるのも私。些細なことで怒って謝罪を要求する。私はいつも夫に頭を下げてきました。
さすがに子どもの前ではやめてほしいと言い、それは受け入れられたけど、『何でも娘をだしにするなよ』と痛烈な一言もあった」
もともと、リナさんと夫の関係は部下と上司。それがそのまま家庭に移行してしまった。リナさんは今も夫に「ですます」調で話す。
それでも新婚のころは、夫が「甘えられる存在」だった。リナさんは早くに父をなくし、長女として母ときょうだいを支えてきた。いつでも自分がしっかりしていないといけないと思い込んでいたのだ。
上司への敬意を恋だと思い込んだ新卒で入った会社で夫となる彼に出会った。そのころ彼は既婚者だったし、リナさんは別の部署に配属されたので話す機会もなかった。5年後、部署が変わったときに彼はリナさんの上司となり、すでに離婚していた。
「仕事に対する彼への敬意を、私は恋だと思い込んだ。もしかしたら恋だったのかもしれないけど、それについてはもう忘れました(笑)。彼は離婚の痛手から立ち直っていなくて、私と会いながらも恋人関係にはならなかった。
2年ほど、プライベートな関係が続いたある日、彼が突然、『前の妻に振り回された。裏切られた思いが強い。もう結婚なんかしたくないと思っていた』と心の内を吐露しはじめて……。私はあなたに従順よと慰めてしまったのが、彼の心を動かしたようです」
それから数ヶ月で結婚が決まった。「従順」という言葉を使ったことを、リナさんは今も悔やんでいる。夫は結婚後、たびたびその言葉を盾にしてきたからだ。
それでも結婚を決めたのは自分。いざとなったら離婚という選択肢もあると、彼女は日々、自分に言い聞かせてきた。
表面的にうまくいっていれば問題は起こらない娘を溺愛する夫を見ていると、離婚する気にはなれない。リナさんは、とりあえず何でも夫にお伺いをたてる。
「相談ごとをLINEで箇条書きにして夫に送っておくんです。そうすると仕事を処理するように指示が来る。その通りにしていれば夫は文句は言わない。親戚づきあいなどめんどうなときは、簡略化を提案すると『それでもいいよ』と返事がくる。つまり、家庭は私にとって職場で、夫は相変わらず上司であると思っていれば問題は起こらない」
上司は年に1度か2度、優秀な部下にご褒美をくれる。それが結婚記念日のディナーだったり、リナさんが気になっていたバッグだったりする。その代わり、あとの日はすべて上司に尽くす部下でなければならない。
夫が「したい」と言ったら体を貸す「私は夫とのセックスに興味はないけど、夫がしたいと言ったら体を貸します。夫はどうやら役員を目指しているようで、夫が出世するためにも夫の性欲を満たしてあげないといけないかな、と」
思い通りに出世できるかどうかはわからない。だが、そのときはそのとき。今まで尽くした分をお金に換えて離婚するだけだとリナさんは覚悟を決めている。
「夫は私の親の前では、いい夫を演じてくれている。だから私も夫の親や親戚の前ではいい妻を演じています。近所の人の手前、仲のいい家族を演じてもいる。でも私の娘への愛と、夫の娘への愛は本物だと思ってる。それでいいんじゃないかとも感じています」
夫に「部下」扱いされているし、少なくとも夫は自分に敬意は抱いていない。それがわかっていながらも、愛情あふれる夫婦を演じていることに、リナさんは一時期、悩んだという。だが悩んでも何も生まれない。離婚したら娘にとっては損失だ。だからリナさんは自ら仮面夫婦であることを選択した。
「どうせなら、夫にとって完璧な仮面妻でいようと思ったんです。この役割を楽しむくらいの気持ちで。我慢していると思ったらやっていられないから。夫には何も期待していません。暴力はないけど、言葉でどれだけ傷つけられたかわからない。でもそれももう、傷つかないと決めたんです。娘が自立するまでは、この仮面妻を演じていきます」
リナさんの妹は、リナさんが結婚したときから「あの男は裏表がありそうで信用できない」と言っていた。妹は今も「本当にいいの? 大丈夫?」と心配してくれるが、リナさんの「演じる決意」は固い。平穏な生活を最優先させる、こういう覚悟の決め方もある。

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