「性欲のはけ口として」就活中の女子大生ら10人を次々と…レイプドラッグ事件「生々しい実態」ルポ

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「被害者らの尊厳を無視して自らの性欲のはけ口として扱う非道な犯行だ」
裁判長は、被告の卑劣な行動をこう断罪したーー。
9月4日、東京地裁(野村賢裁判長)は準強制性交罪などに問われている元リクルートグループ社員・丸田憲司朗被告(33)に懲役25年の判決を言い渡した。丸太被告は数年間にわたり、就職活動中の女子大生ら少なくとも10人に睡眠薬を飲ませるなどして性的暴行を働いたとされる。
「判決によると丸田被告は、’17年4月から’20年10月にかけ就職活動の相談を寄せていた女子大生らに睡眠薬を入れた飲み物を使い犯行に及んだようです。女子大生らは抵抗できない状態で被害に遭っていたとか。丸田被告は都内のホテルや自宅で、わいせつな行為をしていたとされます」(全国紙司法担当記者)
『FRIDAYデジタル』では’21年10月13日配信の記事で、ノンフィクション作家・石井光太氏が丸田被告の事件をもとに「レイプドラッグ」について詳しくルポしている。再録して、問題の深い闇や生々しい実態についてあらためて考えたい(内容は修正し肩書きは略しています)ーー。
ここ数年、レイプドラッグと呼ばれる睡眠薬をつかった性犯罪が、世界的に増加している。それは日本も例外ではない。
日本で最近起きたレイプドラッグを使用した事件としては、’20年に丸田(逮捕当時30歳)が起こした連続レイプドラッグ強姦事件がある。
リクルートコミュニケーションズの社員だった丸田は、主に就活アプリのOBマッチング機能などを使って、就活中の女子学生たちに「就活の指導をする」と声を掛け、次から次に呼び出していた。SNS等で使用していたのは、さわやかな美男子風の写真だった。
なぜ彼女たちは簡単に呼び出しに応じたのか。
コロナ禍での就活はただでさえ大変である上に、OB訪問のつてのない女子学生にしてみれば、オンライン上で出会える丸田は是が非でもすがりたい相手だったはずだ。そうした就活生の心理を巧みに利用し、出身大学などを偽り、自分に任せれば就活は大丈夫と言って誘い出したのだ。
丸田は、こうして呼び出した女子学生たちを、「就活指導」や「課題の手伝い」を名目にホテルや自宅に連れ込んだ。女子学生にしても、コロナ禍で行ける場所に制限があったため、藁にもすがる気持ちで指定された場所へ足を運んだのだろう。
彼はそんな女子学生たちに優しく接し、安心させる。そしてレイプドラッグ入りのカクテルなどを飲ませた。彼女たちは数口飲んだだけで記憶を失ったという。丸田はそんな女子学生に対して性犯罪に及んだのである。
逮捕後、丸田の自宅からは、10種類の睡眠薬が合計700錠も発見された。さらにスマートフォンなどからはおおよそ40人の被害者とみられる女性の写真が見つかっている。眠らせて犯行に及んだ際に、動画や静止画を撮影したのだ。
今年10月現在、警察は10回にわたって丸田を逮捕しているが、実際に被害に遭った女性は、はるかに多数に及ぶと推測されている。
警察の取り調べの際、丸田はこう供述していたという。
「認否は言明しない。女性をないがしろにしたことは大変申し訳ない気持ちです」
この丸田の事件から、レイプドラッグをつかった性犯罪について考えたい。
まず、よく知られている通り、この種の犯罪は表沙汰になることが少ない。冒頭で事件が増加していると述べたが、’11年に認知されたのはわずか15件、近年増えているといっても’20年の認知件数は60件に留まっている。
増加しているのは確かだが、日本よりずっと人口が少ない英国では同様の事件が年間に500件ほど起きている。それを考えれば、日本では葬られている事件がかなり多いと考えるべきだろう。
原因としては、被害女性が警察に訴えるハードルが高いためだ。
性被害に遭った直後に警察へ駆け込み、根掘り葉掘り聞かれ、様々な検査まで受けさせられるのは耐えがたい。ましてや警察官から「なぜ、男についていったのか」と言われれば、責められている気になって心に傷を負う。
もう一つ考えるべきは、女性が抱く恐怖心だ。
この種の事件では、男性が女性の個人情報を握っていることが少なくない。また、レイプドラッグを使用した犯罪では、性行為を動画等で撮影されていることがある。丸田が40人に及ぶ画像を所持していたことからも、それは明らかだ。
なぜ加害者は画像を撮るのか。刑務所で性犯罪の矯正プログラムにかかわる人物は次のように語った。
「加害者が撮影をする理由は主に二つあります。一つは、裸の画像を撮影しておけば、それが口封じにつかえるということですね。二つ目は、性犯罪者の中には、幼い頃に母親や女性から抑圧されてきた反動で、女性への支配欲を膨らませている者が少なくないことです。相手を支配して好きなように弄びたいという欲求が強い。だから、眠らせて犯罪に及ぶだけでなく、画像を手に入れて女性を支配しつづけたいと考えるのです」
さらに、アダルトサイトに犯罪動画をアップロードしたり、同じような加害者同士で画像を交換したりすることもあるという。そうすることで、「自分はすごいことをした」とゆがんだ自尊心を膨らませようとしているらしい。
問題は、こういう動画の取り締まりがきちんとなされていない点だ。
私はかつて日本で初めて起きたリベンジポルノ事件を取材したことがあるが、警察はこうした動画をネット上から完全に消し去ることは不可能であると認めた。海外のサイトの運営者にアクセスして削除させることが非常に難しいのだ。
ただ、これだけレイプドラッグやリベンジポルノに関する事件が多発する現状では、「不可能」として放置していい問題ではない。なぜ警察の「不可能」という言葉で、多くの被害者が泣き寝入りしなければならないのか。
主だったサイトに対しては規制をかけるとか、流出した画像をきちんと調べて加害者を捜すとか、もっとできることはあるのではないだろうか。完璧でなくても、やらないよりはやった方が、被害者を減らせるはずだ。
さらに犯罪を助長させている要因として、レイプドラッグが簡単に、そして安価に売り買いされている点が挙げられる。30歳の会社員の丸田が10種類700錠もの薬を所有していたことからも明確だろう。
この犯罪には、飲んだ相手の意識を何時間も奪い取るほどの強力な睡眠薬が使用される。本来は、病院であっても簡単に処方してもらえる類いの薬ではないが、ネットでは広く個人売買されている。
かつて私はこの取り引きを取材したことがあるが、その際は20代の売人が薬の効力だけでなく、どこでどうつかえば望むような犯罪ができるかまで指南してきた。まるで社会人サークルのノリだった。
加害者たちには、レイプドラッグを売り買いしていることにほとんど罪悪感はない。だが、被害者の人生をずたずたに引き裂くという点では、覚醒剤などの違法ドラッグと同様に悪質だ。
にもかかわらず、警察はそこまでこの種の取り引きを厳しく取り締まろうとしない。もし違法ドラッグと同じくらい厳しく取り締まり、少なくとも簡単にネットで取り引きできないようにすれば、もっと被害者を減らすことができるのではないだろうか。
努力が足りないのは、企業も同じだ。
製薬会社の中には、自社の薬がレイプドラッグに使用されていると指摘され、薬に色をつけたことがあった。水に入れると、溶けて青色に染まるのだ。それで飲み物に薬を混入されたことに気づかせられると考えたのだ。
だが、加害者が色の識別をしにくい飲み物や食べ物に薬物を混入させるなどした場合、なかなかそれが警告として働かないことがある。実際に、丸田の被害者の女性の一人は、朝起きたら上半身裸で、舌が青く染まっていたと証言している。この「青」が薬のせいである可能性は高い。
それでも、薬にこういう工夫をこらせば、一定の犯罪抑止効果はあるだろう。問題は、そうした努力を行っている製薬会社がごく一握りだということだ。多くの睡眠薬には、こうした工夫が施されていない。つまり、睡眠薬がレイプドラッグとして使用されているのを知っているのに、何の手立ても打っていない企業があるのだ。
睡眠薬をつかった性犯罪は、それこそ何十年も前から起きている。表に出るのは氷山の一角で、社会には膨大な被害者がいるということもずっと語られてきた。
にもかかわらず、なぜこの犯罪が増えているのか。
それは、警察も企業も、そして社会も、ずっとこの問題を放置してきたからではないか。だから、ネットによる個人売買が広まるにつれ、どんどん犯罪が増加するのを許したといえる。
性犯罪の被害女性の多くが、PTSDを含む何かしらの後遺症に悩まされることは知られている。中には、社会復帰どころか、生きていくことさえままならなくなる者もいる。丸田の被害者の女性の一人も、心身に異常が出ていると証言する。
〈魂の殺人〉
性犯罪がそう呼ばれるのは、被害女性を心の部分から破壊するためだ。
10月になり緊急事態宣言が解除された(’21年10月当時)。これに伴い、外で飲酒をする機会が増えることは間違いない。そんな今だからこそ、社会全体で丸田が起こしたような性犯罪をどうすれば食い止められるかを、正面から考える必要があるだろう。
取材・文:石井光太’77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。日本大学芸術学部卒業。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『「鬼畜」の家ーーわが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『レンタルチャイルド』『近親殺人』『格差と分断の社会地図』などがある。

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