世界遺産の島に観光公害、フェリー客らに「入島税」導入へ…商店街は「人であふれていた」

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世界遺産・厳島(いつくしま)神社のある広島県廿日市市の宮島で、来年10月からフェリーで訪れる観光客らを対象に入島税を徴収することが決まった。
県内随一の観光地だが、新型コロナウイルスの感染拡大前には、旅行客の急増で環境が悪化する観光公害(オーバーツーリズム)の問題が指摘されていた。市は新たな税収で施設整備を進め、持続可能な観光地を目指す。(森谷達也)
本州側の宮島口旅客ターミナルからフェリーに乗ると、海上に立つ厳島神社の大鳥居が近づき、約10分で宮島に到着する。大鳥居は3年前から大規模な修復工事が進んでいるが、年内に朱塗りの威容が再び見られるようになり、来年には観光客の増加が予想される。
市は来年10月1日から「宮島訪問税」の名称で、観光客の9割超が利用するフェリーの乗船券(大人往復360円)に100円を上乗せする形で課税。乗り放題チケットを持つ人には、フェリーの出発前に100円を徴収する。島内の住民や通勤・通学者、修学旅行生、未就学児らは非課税とした。
入島税を巡っては、根強い反対意見もあって市が2008年に一度断念した経緯がある。その後、財政悪化に加え、観光客の急増による公衆トイレの不足やごみの増加などの課題が顕著となり、必要性を訴える議論が再燃した。
特にコロナ禍前の19年は、過去最多の465万人が来島し、オーバーツーリズムを指摘する声も上がった。土産物店「鳥居屋」の佐々木健一社長(45)は「商店街は人であふれ、店のスタッフも満足に接客できなかった。宮島の魅力を満喫できずに帰った人も多かったのでは」と指摘する。
こうした状況を受け、市議会は21年3月、条例案を賛成多数で可決した。コロナ禍で200万人前後に落ち込んだ観光客が300万人台に回復すれば、年間約2億円の税収が見込まれるため、市は老朽化が進む宮島側のターミナルや公共トイレの改修、宮島口の渋滞対策や無電柱化の推進に充てる方針だ。
観光客の負担は増えるが、市が20年、島内とインターネットで実施したアンケートでは入島税に賛成する人が8~9割に上った。大阪市から観光に訪れた男子大学生(23)は「100円を追加で取られるからといって、来るのをやめようとは思わない。観光地を守ることにつながるのなら喜んで払う」と話した。
松本太郎市長は徴収開始日を公表した9月1日の記者会見で、「コロナ禍以前は観光客が多かった反面、宮島の良さを堪能してもらえなかったかもしれない。地元の負担を軽減しながら、より島の魅力を楽しんでもらえるようにしたい」と力を込めた。
◆入島税=自治体が条例に基づき独自に課税する「法定外税」の一種で、導入には総務相の同意が必要。沖縄県の伊是名(いぜな)島などの離島4村が「環境協力税」などの名称で2005年以降に相次いで徴収を始め、佐渡島(新潟県佐渡市)でも導入が検討されている。

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