コロナ自粛が解け、大学生たちもサークル活動やアルバイトなどが制限されることはなくなった。しかし、過ぎ去った過去の時間は戻ってこない。大学生活の大半をコロナ禍のなかで過ごした学生は、今何を思うのか。前編に引き続き、現役大学生に話を聞いた。
前編記事【「関西出身の都内大学生」が絶句…コロナ自粛後にいきなり浴びせられた「まさかの洗礼」】
現在大学3年生のBさんは語る。
「自分の時はコロナ禍でサークルの新歓活動はあまりなく、色々なサークルを見て回ることはできませんでした。ですが、元から興味があった自転車競技サークルが少しだけ活動していて、無事入部することができました。オリンピックをテレビで見て以来、ずっと自転車競技をしてみたいと思っていたので、とても嬉しかったです」
Bさんが語るように、自粛生活が始まって1年後には、食事や宿泊を伴うものを除けば、様々な活動が少しずつ戻ってきていた。実際、Bさんもサークルの体験に参加し、希望するサークルに入ることができたようだ。ところが、1年間活動を制限されてきた状況では、サークルには様々な問題が山積みだった。
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Bさんが続ける。
「自分がやってみたかったスポーツをできることには大満足でしたが、サークルの状況は散々でした。まず問題だったのは先輩の数が少ないことです。1年間ほとんど活動していなかったので、1つ上の代の先輩は1人もいなかったし、それより上の代の大学生の先輩の数も数えるほどでした。大学院の先輩や大人の方も練習にはきていたので、自転車競技の練習自体は問題ありませんでしたが、本来サークルの運営を担うはずの人が不足していて、毎年行っているやり方や経験も十分に引き継がれていませんでした。その結果、自分の時の新歓活動も満足には行われず、結局自分の代で入部したのは自分を含めて2人だけ。自転車競技の団体戦のチームを自分達の代で組むこともできないので、先輩に入ってもらってなんとか、という状況でした。
そして何よりも辛かったのが、自分が思い描いていたいわゆる大学生の遊び、というものが全然できなかったことです。もちろん練習に来てくださる先輩方にはお世話になりましたが、年の離れた先輩が多くて。まだまだ自粛が必要な状況であるのは分かっていましたが、同期や年の近い先輩がほとんどおらず、気軽に集まってご飯やカラオケに行ったり、夜まで語り合ったりできる仲間が全然いないのは本当につらかったです」
Bさんが語るように、コロナ禍で一度途切れてしまったことによって、長年培われてきたものが引き継がれず、運営がうまくいかなくなっている大学サークルは多い。イレギュラーな状況に対応できず、活動を続けられなくなったケースも多くあるようだ。
「そんな状況だったので、自分が頑張るしかないと思い、練習にはできるだけ参加するようにしました。実際自転車競技が楽しかったんだと思います。少しずつですが上手くなっている感覚が自信につながっていきました。そして何より思っていたのが、来年は新歓を絶対成功させて、もっと活気あるサークルにすることです。そのためにしっかり自分が参加して準備する必要があると思っていました」
実際、その次の年の新歓時には制限もだいぶ緩和されており、宿泊への規制は残っていたが、サークルの紹介するビラを新入生に配ることが解禁されるなど、満足な新歓活動を行うことができた。
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「サークルの存続のためにも、そして何より自分の思い描く大学生活を達成するためにも、新歓活動はたった一人の同期と協力して死ぬ気で頑張りました。実際、自転車競技という日本ではマイナーなスポーツに興味を持ってもらえることも多く、男女ともに結構な人数に入部してもらうことがきました。新歓は本当に大変でしたが、結果として大成功だと思えますし、大学生活の中でも一番充実している日々だったと思います」
こうしてBさんの努力の甲斐あって、サークルはたくさんの後輩に恵まれた。思い描いていた大学生活がやっと手に入る、そう期待していたが、現実は甘くなかった。
「はじめは後輩達に基礎的なことを教えたり、何人か誘ってドライブに出掛けたりと、大学生活を取り戻せているようで本当に楽しかったですし、後輩達も自分を慕ってくれていたと思います。そうそう、こういうことしたかったんだと思い、新歓を頑張って本当に良かったと思いました。
ところが、数ヶ月経って後輩達同士もだいぶ仲良くなってきたころ、自分がイベントを開いても参加してくれる子が少なくなってきて…。どうやら下の代だけで遊びに行く機会が多くなってきているようでした。今思うと先輩という存在なしで遊びにいきたいと思うのも当然ですよね。ところが当時の自分にはそれが、自分が除け者にされているようにしか感じられなかったんです。
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そしてもう一つ気に入らなかったのが、後輩達が自分達の代でチームを組んで大会に出たいと言ってきたことです。後輩達の代は十分に人数がいるので、同期だけで団体戦に出場することができました。自分の努力で頑張って後輩の人数を集めたのに、結果的に後輩達がその恩恵をいとも簡単に享受して、自分ができず悔しい思いをしたことを達成している。そういうことを嘆いていると、徐々に後輩達から疎まれるようになってしまって、サークルの中で居場所がなくなっていきました。
自分は何のなめにこんなにサークル活動、新歓活動を頑張ってきたのか本当にわからなくなってきて、やるせない気持ちでいっぱいでした。このサークルに居続けても結局後輩達からもこれ以上慕われることはないです。他の場所に友達がいるわけでもなく、何か他にしたいことがあるわけではありませんが、一度サークルから離れてみようと思っています。コロナがなくて、同期がたくさんいればどんなに良かっただろう、そんなどうしようもない想像をしてしまう毎日です」
私たちにはコロナ前の日常が帰ってきたように思えるが、この3年半の間に失われてしまった日々、変わってしまったことはもう元通りにはならない。学生たちのかけがえのない青春も失われたままだ。コロナ禍は、今もまだ彼らの心に深い傷跡を残している。