夏本番。JTBが調査した、2023年の夏休み(7/15~8/31)の動向調査によると、国内旅行人数は7250万人(前年比16.9%増)、国内旅行の消費額は2兆9000億円(前年比26.4%増)になると見られ、長くコロナ禍で苦しめられた観光業界にとっては朗報と言って良いだろう。
相次ぐ値上げやステルス増税に苦しめられつつも費用を捻出し、家族や友人とのレジャーを楽しむ有意義な時間だ。だが、「好事魔多し」。旅先では予想外の事態に見舞われることがある。前編記事に続いて、筆者が聞き取り調査をしたうえで浮かび上がってきた事例を紹介しよう。
前編【50代女将が青ざめた…夏の旅行シーズン本番の旅館で起こった「ヤバい客の流血沙汰トラブル」】から続く。
海沿いに立つリゾートホテルの支配人・大江さん(仮名・40代)は警察沙汰寸前の騒動について語ってくれた。
「30代くらいのご夫婦と3歳前後の幼児の3人家族がお泊りになった時のことです。明け方の5時過ぎくらいに『子供の泣き声がずっと聞こえる』と他のお客様から連絡があり、行ってみると、このご家族の部屋でした。
お子さんは布団の上に座って『ママー、パパー』と泣きわめいていて、夫婦の姿はどこにもありません。館内を見回ってもいませんし、携帯電話は部屋に置きっぱなしです。
そのうち、スタッフたちが『まさか心中とかじゃないよね?』『子供を捨てたとか?』『どこかに出かけて事故にあったのかも?!』と騒ぎ出し、『警察に連絡しよう!』と電話に手をかけた時、まさにご夫婦が玄関から入って来ました。
フロントに人が集まっていたのを見て察したのでしょう。『ちょっと夕べ飲みに行ったら、酔っぱらっちゃって、そのまま海岸のベンチで寝てたんです…すみません。もしかして、お騒がせしちゃいました?』とかなり気まずそうでした。
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『心配してたんですよ。ご無事で何よりでした』と努めて冷静に申し上げると『いやいや、申し訳ない』と言いながら、お子さんを抱いて部屋に戻って行きました。子供を置き去りにして出かけるのも問題ですけど、帰れなくなるまで泥酔するというのも呆れた話です。
中には「出かけたいので子供をの面倒を見てください」と堂々とフロントに預ける親もいるそうで、「楽しみたい気持ちはわかりますが、スタッフは子守りではありませんし、やはりお子さんの世話は親御さんが責任を持って頂きたいですね」
同じく、通報案件とも言える騒ぎを経験したのは山間にあるペンションのオーナー、森さん(仮名・60代)。
森さんのペンションはゴルフ場が近いこともあって男性客ばかりなのだが、珍しくJK(女子高生)のグループが宿泊したことがあり、その際にとんでもないことになったという。
「夕飯の時に、中年男性のグループと女子高生たちが意気投合したんですよ。『ジェネレーションギャップがやばい!』とか言いながらカラオケで盛り上がっていました。そこまではいいんですが、夜中にこの人たちがお互いの部屋を行き来しているのがわかったんです。
密かに様子を伺うと、室内でみだらな行為をしている気配がありました。宿の風紀にもかかわるし、そもそも中年男性がJKと性的な関係があったら、アウトですよね?
かと言って、部屋に乗り込んで『止めろ』と言うわけに行かないし、警察を呼んで大事になってしまったら、うちが何らかの処分を受ける可能性も無きにしも非ず。
で、結局見て見ぬフリをすることにしたんですが、そうとも言っていられない事態が起きまして…。ある部屋から『ふざけんな!』という怒鳴り声が聞こえ、その後、別の部屋にしけこんでいた他の男性とJKも一斉にその部屋に集まって揉め始めたんです。
思わず近づいて聞き耳を立てたら、どうやら揉め事の原因はお金。女性側はオヤジ達相手に『パパ活』を目論んだようなんですが、金銭面で折り合いがつかなくなったようです。
『●●までしただろ?』『××までしやがったくせに!』と聞くに耐えない文言が飛び交っていました。『このままでは収集がつかない』と思い、部屋に入って『何の騒ぎですか?これ以上騒ぎを起こすんだったら警察呼びますけど?』と言ったら、急にみんなおとなしくなってそれぞれ自分の部屋に戻りました。
翌朝、先にチェックアウトした男性グループはJKグループの宿泊代を払って行きました。その後廊下の防犯カメラを確認したところ、男性グループのひとりがJKの部屋のドアの隙間にお札を差し込んでいるのを見つけました。
犯罪に加担するような形になってしまい、今でも思い出すと嫌な気分になります」
一方、「おめでたいけど、事件には変わらない」という経験をしたのは、若者に人気の観光地でラブホテルを経営する須田明子さん(仮名・40代)。
つい、先日10代と思しき若いカップルが宿泊したのだが、深夜に「救急車を呼んでください」と男性からフロントに電話が来たという。
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「何と『赤ちゃんが産まれそうだ』って言うんです。慌てて救急車を呼んだんですが、もう動かせないということでその場で出産させることになりました。いよいよ赤ん坊が出てくる!という時に男性が突然『無理無理!マジ無理!』と叫んだかと思うと、部屋を飛び出して行ったんです。
それを見た女性が男性を追いかけようとして暴れ出して、もう大パニックでしたね。女性は無事に病院へ運ばれましたが、結局男性は戻って来なくて、娘さんは親御さんが迎えに来たそうです。
娘さんはこの男性とマッチングアプリで知り合ったそうなんですけど、名前と携帯の番号以外は何もわからず、連絡がとれないままだそうです。他人事ながら、これからどうするんだろうと心配になりました」
観光地における、観光客のマナーについては物議を醸すことが多く、そこには「旅の恥はかき捨てだから、何をやっても許される」という意識が垣間見える。不特定多数の人間と関わる以上、観光地のスタッフも「ある程度」のトラブルやハプニングは覚悟の上だろうが、旅行客の不始末や犯罪行為のとばっちりを受けたくはないものだ。
「非日常」は旅の醍醐味であるが、「騒動」はそれに非ず。出かける者にとっても受け入れる側にとっても「事なきを得て」初めて旅は完結するのである。