川勝平太知事は2023年8月8日の定例会見で、『(リニア問題の解決を遅らせるために)ゴールポストを動かしたことは一度もない』と明言した。しかし、この発言は真っ赤な嘘である。
甲府市、南アルプス市、早川町など山梨1区選出の衆院議員、中谷真一・経済産業副大臣が7月28日の自民党山梨県連の会合で、「私に言わせれば、(川勝知事はリニア問題の解決を遅らせるために)ゴールポストを動かしている。反対のための反対に見える」と批判したことに、川勝知事が真っ向から反論したのだ。
『ゴールポストを動かしたことは一度もない』と自信たっぷりに述べた川勝知事に、中谷副大臣が逆襲する絶好の機会である。
「ゴールポストは一度も動かしたことはない」と明言した川勝知事の会見(静岡県庁、筆者撮影)
なぜならば、“山梨県内の調査ボーリングをやめろ”の主張こそが、川勝知事が『ゴールポストを動かした』動かぬ証拠だからである。
川勝知事の面会の求めに応じて、中谷副大臣は公開の場で、その事実を明らかにした上で、“山梨県内の調査ボーリングをやめろ”が、山梨県民に大迷惑を掛けていることも川勝知事に突きつけたほうがいい。
県議会での不信任決議案の1票差否決のゴタゴタの中、川勝知事は7月24日の会見で、「今度間違うようなことをして、人様に迷惑を掛ければ辞職する」と宣言したばかりだ。
『ゴールポストを動かしたことは一度もない』と断言した川勝知事の真っ赤な嘘を満天下にさらして、中谷副大臣は、川勝知事に“辞職勧告”すべきだ。
“山梨県の調査ボーリングをやめろ”が「ゴールポストを動かした」ことを明らかにする。
昨年12月、静岡県は山梨県内の調査ボーリングを問題にして、「水抜きがあり得る高速長尺先進ボーリングが静岡県の地下水圏に近づくことは同意できない」とする意見書をJR東海に送りつけた。
川勝知事は「調査に名を借りた水抜き工事だ」と糾弾した上で、山梨県の調査ボーリングを続ければ、JR東海が静岡県と約束した「工事中の湧水の全量戻し」は実質破綻すると脅した。
森貴志副知事はことし5月11日、「静岡県が合意するまでは、リスク管理の観点から県境側へ約300メートルまでの区間を調査ボーリングによる削孔(さっこう)をしないこと」とする要請書をJR東海に送った。
要請書というかたちを取っているが、リニア工事の許認可権を握る静岡県が県境約300メートルの断層帯付近で“山梨県の調査ボーリングをやめろ”をJR東海に求めたのである。
静岡県の理不尽な要求に、山梨県の長崎幸太郎知事は「山梨県の工事で出る水はすべて100%山梨県内の水だ」と断言した上で、「山梨県内のボーリング調査は進めてもらう。山梨県の問題は山梨県が責任をもって行う」などと反発した。
JR東海の山梨県内の調査ボーリングの状況(JR東海提供)
5月31日の川勝知事も出席した自民党リニア特別委員会で、長崎知事は「企業の正当な活動を行政が恣意的に止めることはできない。調査ボーリングは作業員の安全を守り、科学的事実を把握するために不可欠だ」などと山梨県の立場を尊重するよう求めた。
ところが、6月に入っても、静岡県は山梨県内の調査ボーリング停止の要請を撤回しなかった。
このため、長崎知事は6月9日の臨時会見で、「どこそこの水という法的根拠は何か、そもそも静岡県の水とは何か明らかにしてもらう必要がある。長野県、山梨県が源流となる富士川の水の(静岡県の)利用に対して我々も何かいうことはできるのか。この問題は山梨県内の経済活動に影響を引き起こす懸念がある」などと強い怒りを露わにした。
長崎知事の強い怒りに、森副知事はじめリニア担当の静岡県幹部3人が6月13日午前、山梨県庁を訪れ、非公開で長崎知事と面会した。
長崎知事は同日午後の会見で、「『静岡の水』、『山梨の水』という議論は受け入れがたい。『山梨県の水』、『静岡県の水』という議論は迷惑千万なのでやめてほしいと(森副知事らに)伝えた」ことを明らかにした。
森副知事の報告を受けた川勝知事は同日午後の会見で、「長崎知事が言われることはもっともだ。水は誰のものでもない。水はみんなものであり、(誰のものかという)そういう性質のものではない」などとして今後、「静岡県の水を主張はしない」と明言した。
「静岡県の水を主張しない」のであれば、山梨県内の調査ボーリング中止を要請する理由がなくなるはずだ。
ところが、川勝知事は「静岡県の水を主張はしない」が、“山梨県内の調査ボーリングをやめろ”と繰り返したのだ。
川勝知事は「県境のボーリングで水が引っ張られることは間違いない。いわゆるボーリングが調査を兼ねた水抜きだということも共通の理解だ。破砕帯で水が出た場合には、それをどのように戻すのか、JR東海が関係者に説明すべきである。ボールはJR東海に投げられている」などと従来と同じ発言を繰り返した。
川勝知事は、JR東海へ送った5月11日付要請書を撤回しないことを明らかにした。
いまだに、「県境300メートルの断層帯付近で山梨県の調査ボーリングをやめろ」を主張し続けている。
川勝知事が“山梨県内の調査ボーリングをやめろ”を求める理由は、ひとえにJR東海との「全量戻し」の約束である。
つまり、「県境付近の工事中の湧水全量戻し」はJR東海との約束であり、「水一滴の県外流出は許可できない」として、“山梨県内の調査ボーリングをやめろ”を求めているのだ。
「静岡県の水を主張しない」のに、どうしてこのような理不尽な要求ができるのか、
それが「全量戻し」とどのような関係があるのか、常人には理解できないだろう。
川勝知事が主張した「全量戻し」とは一体何だったのか。
【後編】『川勝知事の謎の主張「全量戻し」…「山梨県の調査ボーリングやめろ」は明らかにおかしい』で詳しく解説する。