ビッグモーター「熊本浜線店」で不正車検、正確な速度把握できなくなる恐れ…故意認め行政処分

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熊本、佐賀両県にある中古車販売大手ビッグモーターの2店舗が、必要な検査を行わずに車検に合格させていたなどとして、国土交通省から今年、民間車検場の指定を取り消されるなどの行政処分を受けていたことがわかった。
別の店で「架空」の修理代を請求されそうになったと証言する客もおり、専門家は「利益至上主義の企業体質を背景に、車検業務でも不正が蔓延(まんえん)していた疑いがある」としている。
同省九州運輸局によると、処分対象となったのは熊本市中央区の熊本浜線店と佐賀県唐津市の唐津店。
熊本浜線店は2020年12月以降、車58台について速度計の誤差を調べる検査をしていないにもかかわらず、国の安全基準を満たしたとする保安基準適合証を出していた。運転手が正確な速度を把握できなくなる恐れがあるという。
店側は故意に行ったことを認めたという。同局は台数の多さなどから重大な違反と判断し、3月に道路運送車両法に基づいて民間車検場の指定を取り消すなどした。取り消しは最も重い処分となり、同店は2年間、再申請ができない。
唐津店も点検整備の一部を実施せずに適合証を出していたとして、15日間の交付停止処分を2月に受けた。同社は処分について「深くおわびする。再発防止に努める」などとコメントしている。
■別の店で「修理、虚偽説明受けた」
「車検に持ち込むと『オイル漏れで修理に40万円かかる』と虚偽の説明を受けた」。取材にこう憤るのは、佐賀県に住む男性(66)だ。
車検の割引をうたうチラシを見て、男性は数年前、同県内の店を訪ねた。車を預けて30分ほど店内で待つと、現れた男性従業員は「大変です。エンジンからオイルが漏れていて、車検費用と別に修理に40万円ほどかかります」と話し、男性は店側が買い替えに誘導しているように感じた。
購入してからまだ5年あまりで、運転中に異常を感じたこともなかったため、男性は不審に思って店を出た。そのまま向かった別の自動車整備場では「オイル漏れなんて起きていない」と明言されたという。
男性は「車検の割引を餌に集客し、存在しない故障があるとだまそうとする手口は許されない。信じて支払った客もいるのではないか」と話す。これに対し、ビッグモーターは「個別の事案については回答を控える」などとしている。
国交省は7月、自動車保険の保険金不正請求問題で一斉立ち入り検査に入ったが、3店は外部弁護士による特別調査委員会から不正の疑いを指摘されておらず、立ち入りの対象外だった。
自動車整備士の資格を持ち、業界の事情にも詳しい社会保険労務士の本田淳也さん(48)によると、車検は不具合の修理とは異なり、必要な手間を省いても発覚しにくいため、不正が横行する土壌がある。本田さんは「経営陣が設けたノルマに追われる中で規律が緩み、現場では手抜きや不適切な営業が常態化していた可能性もある」とみる。
国民生活センターによると、九州・沖縄でのビッグモーターに関する消費生活相談は、この10年間で大幅に増えている。2022年度は198件に上り、13年度(71件)の3倍近い。車の売買契約を巡る解約や返金でのトラブルに加え、店側の説明が不十分だと訴える苦情が目立つという。

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