ひと昔前までは、男性が一家の大黒柱として主たる収入を得て、女性は家で家事や育児を担うというライフスタイルが一般的な世の中でしたが、現在は女性の社会進出とともに共働きの家庭が増え、複数の柱で家庭を支えるという世帯が主流になってきました。
【図解】相談者さんのケースでは…妻が万一の時も、夫が受け取れる遺族年金はないに等しいまた、女性が一家の大黒柱という家庭もさほど珍しくなくなってきたと感じます。しかし、そういったケースにおいては、ただ男女が入れ替わっただけの話ではなく、気をつけておきたい点もあります。例えば、妻に万一のことがあっても、夫が公的な保障にはほぼ頼れないケースがあるためです。最近いただいた相談事例をご紹介しましょう。
◇ ◇◆相談者プロフィール34歳女性、会社員(システムエンジニア)・夫:34歳(専業主夫・無職)・年収:580万円・預貯金:800万円・運用:企業型DC(マッチング拠出)1.5万円/月・保障:医療保険(夫妻)と生命保険(妻のみ・死亡保障300万円の終身保険)・月々の家計支出:18万円◆相談内容現在、夫婦2人での生活を送っています。私の収入のみで生計を立てており、夫は専業主夫で仕事はしておらず、家事全般と猫2匹の世話をしており、結婚当初からこのスタイルです。今のところ大きくお金に困ることもなく普通に生活ができているので、夫自身は働いて稼ぐ必要もないと感じているようです。夫は、家事や家計管理は本当にしっかりしてくれています。例えば食費は毎月2万円以内でやりくりしたり、私の毎月のお給料のうち8万円程度は貯金になっているので、貯蓄は思いのほか順調に増えています。ただ今後もこのままのスタイルでやっていけるのか、不安になることもあります。もし自分が病気になったり親の介護が理由で、今と同じように働けなくなっても大丈夫か? また、子どもはあまり考えていませんが、授かったとしたら育てるためのお金はどれくらい必要なのか?…などなど。最近よく聞くNISAを利用して投資運用した方がお金をもっと増やせるのではないかとも感じています。今、何かできることがあればやっておきたいです。今後はお金を「貯める」→「増やす」にこれまで、相談者さんのみの収入で生計を立てながら、預貯金もしっかり貯めてこられているのは優秀です。おそらく夫婦共に無駄遣いもあまりなく、一定の節約を意識しながら家計管理をしてきたご主人の努力も感じられます。ただ、今の時代は預貯金にだけ貯めても、ほぼ増えることはありません。例えば、相談者さんの今の預貯金800万円を銀行に1年預けても、利息は100円を割るくらいなのが一般的です。減ることがなく少額でも増えてくれるなら良いと思われるかもしれませんが、世の中の物価はこれまでも徐々に上がってきましたし、今後も将来に向けて上がっていくことは避けられないでしょう。考えてみてください。今、1000円で食べられるランチが10年後も1000円のままでしょうか?おそらく数百円は高くなっているでしょう。そこで、仮に800万円を10年間銀行に預けたとして利息で1000円程度増えても、その程度の増え方ではとても物価上昇の波には追いつけそうにありません。要は、1000円のモノが1000円で買えなくなるというのは、お金の額面は変わらなくとも、その価値は確実に目減っていくということなのです。今後は、預貯金をさらに増強させることだけでなく、投資運用を取り入れて上手に増やしていくことも実践していってください。また、直近2~3年の間に大きくお金を使うイベントなどがない場合は、生活費の半年~1年分を緊急資金として預貯金で確保しておくことを目安とし、それ以外のお金は預貯金として置いておくのではなく投資運用にあてて、お金に働いてもらい増やしていく考え方もポイントになります。投資運用は目的別に制度の有効活用を▽老後までの期間に必要になりそうな資金はNISA制度を使って相談者さんが老後を迎えるまでにはまだ30年ほどあり、それまでの間にマイホーム購入や出産育児、親の介護などでお金が必要になる場面が訪れることも十分に考えられます。例えば子どもを1人授かったとすると、その子が産まれてから社会人になるまででかかるお金は、少なくとも1000万円、進路によっては1500~2000万円とも言われています。今後は、老後までの様々なライフイベントを見据えながら、お金を貯め増やしていく手段として、国の制度でもあるNISA(少額投資非課税制度)を活用した投資信託での運用を取り入れてみてください。NISAを活用して投資すると、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して本来かかる税金(20.315%)が免除されるため、資産形成には大きなメリットになります。また、投資運用は「長期」が鉄則で、時間を味方につけることで成果にがっていくものですが、NISAを活用した運用の途中でどうしてもお金が必要になった時には、いつでも崩して使うことができる自由度もあります。今後のあらゆるライフステージの変化に応じて、臨機応変に対応できそうですね。来年(2024年)からはNISA制度が大きく変わり、投資限度額の大幅拡大、非課税期間無期限化など、非常に使いやすくなります。積み立て投資やスポット(まとまった資金で一括)投資など、異なる投資方法の併用もしやすくなるため、効率よく組み合わせて活用するのもおすすめです。▽老後資金づくりとして企業型DCの加入者掛金のプラスを相談者さんの職場には企業型DC(企業型確定拠出年金)の仕組みが導入されていますが、現在は会社が出してくれている掛金(事業主掛金)のみを、将来のために積み立て運用している状況ですね。実は、この企業型DCには導入企業によって様々な形式があります。相談者さんの職場では「マッチング拠出」という制度を使っていて、会社だけでなく相談者さん自身も掛金の上乗せ(加入者掛金)をすることができるようになっています。上乗せすることで、将来の老後資金づくりが増やせると同時に、加入者掛金は全額所得控除になるため、お給料にかかる税金を少なくすることも可能になり、これは大きなメリットです。毎月のお給料から預貯金になっているお金の一部を、企業型DCに振り向けることも考えましょう。ただし、DCは60歳まで中途解約はできないため、あくまで60歳以降で使う資金づくりの仕組みであることは覚えておきたい点です。妻が万一の時も…夫が受け取れる遺族年金はないに等しい家庭を支える収入を得ていた人に万一のことがあった時、頼れるもののひとつが遺族年金ですが、受給にあたっては一定の条件を満たす必要があります。遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があり、受給条件は以下のとおりです。 ◇ ◇<受給対象者の要件>【遺族基礎年金】1.子のある配偶者 2.子【遺族厚生年金】以下、最も優先順位の高い方が受給できる1.妻(子のない30歳未満は5年間のみ) 2.子 3.夫 4.父母 5.孫 6.祖父母※子・孫は18歳になった年度の3月31日まで、または障害等級1級・2級に該当する20歳未満※夫・父母・祖父母はいずれも配偶者の死亡当時に55歳以上の方に限る参考:日本年金機構ホームページより(死亡者も一定の要件がありますが、上記サイトをご参考ください) ◇ ◇ここで、相談者さんのケースで考えてみましょう。相談者さん(妻)に現時点で万一のことがあった場合、現時点では子どもがいないため遺族基礎年金は受給できません。また、遺族厚生年金については夫が55歳以上であることが要件になるため、こちらも受給できません。夫がいずれかの遺族年金を受給できるのは、子どもがいるかもしくは夫が55歳以降の時に妻が亡くなった場合となります。現状、相談者さんは死亡保障300万円の終身保険に加入されているとのこと。もし今、相談者さんに万一のことがあった場合、遺族である夫は遺族年金の受給はできません(※国民年金加入者が亡くなった時の死亡一時金はあるが、12~32万円の間の金額)。そうなると、終身保険300万円+預貯金800万円+企業型DC(積立金評価額)100万円=1200万円の遺産で、今後の生活を営んでいかなければならなくなります。「1200万円あれば何とかなるだろう」と思うかもしれませんが、仮に今より生活費が多少減ったと考えて計算しても、この資産を切り崩していくと、夫が40歳くらいの時点(6~7年)で使い切ることになります。そこから公的年金を受給するまでは20年以上ありますし、年金受給が開始した後も自身の年金だけで生活していくのは厳しい状況と思われます。あってはならないことですが、生活を支える妻に万一のことが起きた場合、公的な保障にはほぼ頼れないことをふまえた上で、不足と考えられる部分は保険などで備えることも検討材料のひとつとなりそうです。相談者さんが就業不能に陥るようなことも考えてお2人の人生はまだまだ長く、思いがけないことでお金が必要になることもあるでしょう。本記事では触れませんでしたが、相談者さんが就業不能に陥るような大きなケガや病気の際の備えについても、収入が減るもしくは途絶えてしまう可能性もあるため、何らかの対策を考えておきたいところです。また、夫が少しでも収入を得ることを考えるもしくは就労の準備をしておくことも、可能であれば検討してみてください。コロナ禍を経た今は特に働き方も多様になり、収入を得る手段の選択肢も広がっていると感じます。これからの生活を長い目で見て、無理のない範囲でのアクションをおすすめします。今後の生活の中でお金が必要になった時に慌てることのないように、今からできることについてご夫婦での話し合いの時間を持ってみてください。もちろん、必要に応じて私たちFPに相談してくだされば、喜んでアドバイス&お手伝いをさせていただきます。◆福永涼子(ふくなが・りょうこ)FPオフィス「あしたば」のファイナンシャルプランナー(CFP)。2001年にFP資格取得しFP仲間と共に子どもの金融教育を推進。その後、銀行での運用相談業務を経て現職に至る。自身の経験もふまえた「働く女性や母親の視点」でのお金に関するアドバイス&サポートには定評がある。年間約250件の個別相談を実施。
また、女性が一家の大黒柱という家庭もさほど珍しくなくなってきたと感じます。しかし、そういったケースにおいては、ただ男女が入れ替わっただけの話ではなく、気をつけておきたい点もあります。例えば、妻に万一のことがあっても、夫が公的な保障にはほぼ頼れないケースがあるためです。最近いただいた相談事例をご紹介しましょう。
◇ ◇
◆相談者プロフィール
34歳女性、会社員(システムエンジニア)・夫:34歳(専業主夫・無職)・年収:580万円・預貯金:800万円・運用:企業型DC(マッチング拠出)1.5万円/月・保障:医療保険(夫妻)と生命保険(妻のみ・死亡保障300万円の終身保険)・月々の家計支出:18万円
◆相談内容
現在、夫婦2人での生活を送っています。私の収入のみで生計を立てており、夫は専業主夫で仕事はしておらず、家事全般と猫2匹の世話をしており、結婚当初からこのスタイルです。今のところ大きくお金に困ることもなく普通に生活ができているので、夫自身は働いて稼ぐ必要もないと感じているようです。
夫は、家事や家計管理は本当にしっかりしてくれています。例えば食費は毎月2万円以内でやりくりしたり、私の毎月のお給料のうち8万円程度は貯金になっているので、貯蓄は思いのほか順調に増えています。
ただ今後もこのままのスタイルでやっていけるのか、不安になることもあります。もし自分が病気になったり親の介護が理由で、今と同じように働けなくなっても大丈夫か? また、子どもはあまり考えていませんが、授かったとしたら育てるためのお金はどれくらい必要なのか?…などなど。
最近よく聞くNISAを利用して投資運用した方がお金をもっと増やせるのではないかとも感じています。今、何かできることがあればやっておきたいです。
これまで、相談者さんのみの収入で生計を立てながら、預貯金もしっかり貯めてこられているのは優秀です。おそらく夫婦共に無駄遣いもあまりなく、一定の節約を意識しながら家計管理をしてきたご主人の努力も感じられます。
ただ、今の時代は預貯金にだけ貯めても、ほぼ増えることはありません。例えば、相談者さんの今の預貯金800万円を銀行に1年預けても、利息は100円を割るくらいなのが一般的です。
減ることがなく少額でも増えてくれるなら良いと思われるかもしれませんが、世の中の物価はこれまでも徐々に上がってきましたし、今後も将来に向けて上がっていくことは避けられないでしょう。
考えてみてください。今、1000円で食べられるランチが10年後も1000円のままでしょうか?おそらく数百円は高くなっているでしょう。そこで、仮に800万円を10年間銀行に預けたとして利息で1000円程度増えても、その程度の増え方ではとても物価上昇の波には追いつけそうにありません。
要は、1000円のモノが1000円で買えなくなるというのは、お金の額面は変わらなくとも、その価値は確実に目減っていくということなのです。
今後は、預貯金をさらに増強させることだけでなく、投資運用を取り入れて上手に増やしていくことも実践していってください。
また、直近2~3年の間に大きくお金を使うイベントなどがない場合は、生活費の半年~1年分を緊急資金として預貯金で確保しておくことを目安とし、それ以外のお金は預貯金として置いておくのではなく投資運用にあてて、お金に働いてもらい増やしていく考え方もポイントになります。
▽老後までの期間に必要になりそうな資金はNISA制度を使って
相談者さんが老後を迎えるまでにはまだ30年ほどあり、それまでの間にマイホーム購入や出産育児、親の介護などでお金が必要になる場面が訪れることも十分に考えられます。
例えば子どもを1人授かったとすると、その子が産まれてから社会人になるまででかかるお金は、少なくとも1000万円、進路によっては1500~2000万円とも言われています。
今後は、老後までの様々なライフイベントを見据えながら、お金を貯め増やしていく手段として、国の制度でもあるNISA(少額投資非課税制度)を活用した投資信託での運用を取り入れてみてください。
NISAを活用して投資すると、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して本来かかる税金(20.315%)が免除されるため、資産形成には大きなメリットになります。
また、投資運用は「長期」が鉄則で、時間を味方につけることで成果にがっていくものですが、NISAを活用した運用の途中でどうしてもお金が必要になった時には、いつでも崩して使うことができる自由度もあります。今後のあらゆるライフステージの変化に応じて、臨機応変に対応できそうですね。
来年(2024年)からはNISA制度が大きく変わり、投資限度額の大幅拡大、非課税期間無期限化など、非常に使いやすくなります。積み立て投資やスポット(まとまった資金で一括)投資など、異なる投資方法の併用もしやすくなるため、効率よく組み合わせて活用するのもおすすめです。
▽老後資金づくりとして企業型DCの加入者掛金のプラスを
相談者さんの職場には企業型DC(企業型確定拠出年金)の仕組みが導入されていますが、現在は会社が出してくれている掛金(事業主掛金)のみを、将来のために積み立て運用している状況ですね。
実は、この企業型DCには導入企業によって様々な形式があります。相談者さんの職場では「マッチング拠出」という制度を使っていて、会社だけでなく相談者さん自身も掛金の上乗せ(加入者掛金)をすることができるようになっています。上乗せすることで、将来の老後資金づくりが増やせると同時に、加入者掛金は全額所得控除になるため、お給料にかかる税金を少なくすることも可能になり、これは大きなメリットです。
毎月のお給料から預貯金になっているお金の一部を、企業型DCに振り向けることも考えましょう。ただし、DCは60歳まで中途解約はできないため、あくまで60歳以降で使う資金づくりの仕組みであることは覚えておきたい点です。
家庭を支える収入を得ていた人に万一のことがあった時、頼れるもののひとつが遺族年金ですが、受給にあたっては一定の条件を満たす必要があります。遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があり、受給条件は以下のとおりです。
◇ ◇
<受給対象者の要件>【遺族基礎年金】1.子のある配偶者 2.子【遺族厚生年金】以下、最も優先順位の高い方が受給できる1.妻(子のない30歳未満は5年間のみ) 2.子 3.夫 4.父母 5.孫 6.祖父母
※子・孫は18歳になった年度の3月31日まで、または障害等級1級・2級に該当する20歳未満※夫・父母・祖父母はいずれも配偶者の死亡当時に55歳以上の方に限る
参考:日本年金機構ホームページより(死亡者も一定の要件がありますが、上記サイトをご参考ください)
◇ ◇
ここで、相談者さんのケースで考えてみましょう。
相談者さん(妻)に現時点で万一のことがあった場合、現時点では子どもがいないため遺族基礎年金は受給できません。
また、遺族厚生年金については夫が55歳以上であることが要件になるため、こちらも受給できません。
夫がいずれかの遺族年金を受給できるのは、子どもがいるかもしくは夫が55歳以降の時に妻が亡くなった場合となります。
現状、相談者さんは死亡保障300万円の終身保険に加入されているとのこと。もし今、相談者さんに万一のことがあった場合、遺族である夫は遺族年金の受給はできません(※国民年金加入者が亡くなった時の死亡一時金はあるが、12~32万円の間の金額)。
そうなると、終身保険300万円+預貯金800万円+企業型DC(積立金評価額)100万円=1200万円の遺産で、今後の生活を営んでいかなければならなくなります。
「1200万円あれば何とかなるだろう」と思うかもしれませんが、仮に今より生活費が多少減ったと考えて計算しても、この資産を切り崩していくと、夫が40歳くらいの時点(6~7年)で使い切ることになります。
そこから公的年金を受給するまでは20年以上ありますし、年金受給が開始した後も自身の年金だけで生活していくのは厳しい状況と思われます。
あってはならないことですが、生活を支える妻に万一のことが起きた場合、公的な保障にはほぼ頼れないことをふまえた上で、不足と考えられる部分は保険などで備えることも検討材料のひとつとなりそうです。
お2人の人生はまだまだ長く、思いがけないことでお金が必要になることもあるでしょう。
本記事では触れませんでしたが、相談者さんが就業不能に陥るような大きなケガや病気の際の備えについても、収入が減るもしくは途絶えてしまう可能性もあるため、何らかの対策を考えておきたいところです。
また、夫が少しでも収入を得ることを考えるもしくは就労の準備をしておくことも、可能であれば検討してみてください。
コロナ禍を経た今は特に働き方も多様になり、収入を得る手段の選択肢も広がっていると感じます。これからの生活を長い目で見て、無理のない範囲でのアクションをおすすめします。
今後の生活の中でお金が必要になった時に慌てることのないように、今からできることについてご夫婦での話し合いの時間を持ってみてください。
もちろん、必要に応じて私たちFPに相談してくだされば、喜んでアドバイス&お手伝いをさせていただきます。
◆福永涼子(ふくなが・りょうこ)FPオフィス「あしたば」のファイナンシャルプランナー(CFP)。2001年にFP資格取得しFP仲間と共に子どもの金融教育を推進。その後、銀行での運用相談業務を経て現職に至る。自身の経験もふまえた「働く女性や母親の視点」でのお金に関するアドバイス&サポートには定評がある。年間約250件の個別相談を実施。