鬼滅の偽衣装販売…「桜の恋」書類送検に業界騒然 コスプレイヤーへの影響は?弁護士はルール整備の必要訴え

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コスプレ衣装を販売する事業者が著作権違反と商標法違反の疑いで2023年6月、書類送検されたと報じられた。ファン活動の一環としてコスプレを楽しんでいた人からは不安の声もあがった。既存のキャラクターに扮する行為や、その衣装の売買にはどのような法的リスクがあるのか。
あつみ法律事務所(東京都千代田区)の渥美陽子弁護士は7月6日、J-CASTニュースの取材に「これまでの状況が大きく変わることはないのではないか」という見解を示す。
著名なコスプレイヤーが政府のクールジャパン・アンバサダーに任命されたり、外務省がコスプレイベントの開催を支援したりと、今や「コスプレ」は日本を代表するポップカルチャーの1つとなった。一方で様々な法的課題を抱えていると言われている。
SNSで特に話題になるのが、著作権法だ。マンガやアニメは著作物とみなされ、創造した者の経済的利益を保護するための権利「著作権」が発生する。著作物を翻訳、編曲、脚色、映画化するなど「翻案」する権利は著作者が専有している。
コスプレが著作権を侵害する可能性はあるのか。コスプレに詳しいあつみ法律事務所の渥美陽子弁護士は、取材に対し、「顔を出すコスプレが著作権を侵害する可能性は低い」という見解を示す。
一方で、戦隊ヒーローやロボットなどの被り物や着ぐるみを用いた再現度の高いコスプレは翻案権を侵害する可能性があるという。ただし著作権には制限が設けられており、個人や家庭で楽しむ「私的使用」の範囲であれば問題ないとし、次のように補足する。
22年6月22日、コスプレ衣装を販売していた楽栄(横浜市)が著作権法違反と商標法違反の疑いで書類送検されたと、複数メディアで報じられた。
押収されたのは、人気アニメ「エヴァンゲリオン」に登場する架空のパイロットスーツ「プラグスーツ」、「鬼滅の刃」の一部キャラクターが着用している羽織、「東京リベンジャーズ」の主人公らが所属する不良集団「東京卍會」の文字が描かれた特攻服などの非正規品だった。
同社はインターネット上のコスプレ衣装販売店「桜の恋」を運営し、ソーシャルゲームやアイドル作品を中心としたキャラクター衣装を販売。中国などから輸入した再現度の高いコスプレ衣装を多数取り扱っており、コスプレイヤーの間でも知名度が高かった。
多くのコスプレイヤーは衣装を自作するか、既製品を改良するか、「桜の恋」のようなコスプレ衣装販売店もしくは趣味で制作した人たちから衣装を購入している。楽栄の報道を受けて、ツイッターの一部では「コスプレ界隈どうなっちゃうの…」「衣装屋が全滅したら…終わり」など不安の声も上がった。
渥美弁護士は、一般的なキャラクターの服装について「コスプレ衣装そのものが著作権を侵害する場合は多くない」とする。同事務所の松永成高弁護士がこう補足する。
例えば趣味で制作したセーラー戦士の衣装を頒布する場合は、「一般的な制服のような形状であるため、著作権侵害に該当する可能性は低い」と渥美弁護士は話す。服だけでは著作物として保護できるような創作性の高さが認められにくいためとしている。
それでは楽栄はなぜ「著作権法違反」と見なされたのか。渥美弁護士は「エヴァンゲリオンのプラグスーツは芸術性が高いため、それの再現度が高い衣装の販売が問題視されたのではないか」と考察する。
さらにプラグスーツは、公式に許諾を得た衣装が約55万円から受注販売されていた。桜の恋では2万7500円で販売されており、著作関係者が利益を損なった可能性もある。
さらに問題となるのが「商標法」だ。渥美弁護士は「プラグスーツ以外の商品は商標法違反とされた可能性が高い」と指摘する。
登録商標は特許庁の公式サイトで確認できる。押収されたとする商品に関係するものを調べると、作品タイトルや「東京卍會」といった作中用語、「鬼滅の刃」の人気キャラクター・冨岡義勇、胡蝶しのぶ、煉獄杏寿郎の羽織のデザインなどが登録されていた。
また一部のコスプレイヤーの間では、タイトルロゴなどの商標を自身のコスプレ写真に用いてはいけないというローカルルールがある。渥美弁護士は、「商標を用いることでユーチューブ上の再生数を増やす行為などは商業利用とみなされ、商標法違反に当たる可能性がある」と述べる。商標は著作権と異なり、営利目的で利用された場合に問題視される。
実際にツイッターでは、楽栄が無許可で販売していたことに驚く声もあり、一部で公式の商品と誤認されていた可能性がある。
コスプレ衣装は、公式に許諾を得て制作されたものもある。しかし種類やサイズ展開、販売数は限られ、高額になりがちだ。シルエットや色味が期待するクオリティではないなどと、非公式ながらクオリティの高い衣装を選ぶコスプレイヤーもいる。楽栄は国外から安価でクオリティの高い様々な衣装を輸入していたとみられる。楽栄が摘発されたところで、別の業者などから輸入する人は後を絶たないだろう。
楽栄が販売していた衣装を購入・所持するコスプレイヤーが罪に問われることはあるのか。渥美弁護士は次のように答える。
一般的にコスプレ衣装は1万円を超える。若い人々にとっては高額で日常的に着用するものでもないため、数回着用した後に中古コスプレ衣装販売店やフリマサイトに売ることもある。楽栄で購入した衣装を売ったり、その衣装を購入したりすることに問題はあるのか。
楽栄はどうなるのか。松永弁護士によれば、今回報じられた「書類送検」は、警察が検察官に対し事件の記録を送る手続きを指しており、警察が事件として扱っていることがわかるタイミングの1つだ。警察には様々な相談が寄せられているが、外部からみて警察がいつ相談内容を事件として取り扱うようになったのか判断するのは難しいため、逮捕者が出ていない事件においてはこの手続きが取られたタイミングで事件として報じられることがある。
今後は、検察が起訴をすれば刑事裁判がはじまる。松永弁護士は「おそらくこれまでに著作権者からの被害相談があり、事情聴取が行われていたでしょう」と推測する。
一連の考察を述べたうえで、渥美弁護士は「コスプレに関する法的な問題は弁護士によっても見解が異なる」と添える。判例がないためだ。松永弁護士は「裁判の結果は個別案件への判断であり一般化できるものではないが、裁判所の判断が社会に与える事実上の影響は大きい」と話す。
その例として「マリカー事件」を挙げる。「MARIモビリティ開発」(当時:マリカー社)が、任天堂のレースゲーム「マリオカート」のキャラクターが用いていたような衣装や車を貸し出して問題視された。
裁判の結果次第では、ファン活動として趣味でコスプレを楽しむ人や衣装を制作する人が活動を委縮する可能性があった。
楽栄の摘発については、今後どんな影響が出る可能性があるのか。渥美弁護士は「主に商標権侵害が問題となった事案であると思われ、一般のコスプレイヤーの方にとってはこれまでと大きく状況が変わることはない」と推測する。
21年1月には一部の報道によって政府がコスプレ活動を制限するのではないかといった疑念も広がったが、内閣府知的財産戦略推進事務局は当時のJ-CASTニュースの取材に対し、「コスプレイヤーの皆さんが安心してコスプレを楽しむことができる環境」を検討するとして、著作権者やコスプレイヤーのえなこさん、弁護士らに聞き取りを進めると回答していた。
渥美弁護士は、著作権利者によるガイドラインの制定や法的課題の整理を望む。
著作権者とファン、双方が納得できる形での仕組み作りが待たれる。
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

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