自由恋愛、もしくは納得していると思ってある女性と親しくしたら、その女性と親しいと称する男性が現れて、不埒なことをした謝罪と賠償をよこせと脅迫される。「美人局(つつもたせ)」と呼ばれる古くからある犯罪だが、いま、マッチングアプリやSNSによって「パパ活」がカジュアル化したことで、およそ犯罪とは縁がなさそうな人たちにも被害が広がっている。ライターの森鷹久氏がレポートする。
【写真】2000年代のガラケー出会い系サイト * * * いわゆる「パパ活」を利用して、男性会社員(30)から百数十万円相当の金や車などを奪ったとして、神奈川県内に住む女子高生を含む、16才から19才までの男女6人が逮捕された。 手口は、女子高生がSNSを使ってターゲットを呼び出し、その後男女が現れてターゲットから金品を奪ったとみられている。男女ら6人は警察の調べに「簡単に稼げると思った」「パパ活をする人は負い目を感じており警察に行かないと思った」などと供述しているという。 報道等では「パパ活狩り」と大見出しが踊ったが、誰もが昔からある古典的な脅迫方法「美人局」を思い起こしただろう。「援助交際」が世間で注目された1990年代には「援交狩り」があったし、そして出会い系サイトが全盛だった2000年代にも同様の事は起きていた。2010年代後半に入り、女性が裕福な男性(パパ)に食事をごちそうになったり、カラオケへ行くなどデートをするだけ……という建前の「パパ活」ブームが広がっているが、やはりというか当然というか、パパ活が美人局の餌場になった格好だ。「いやホントですよ。そいつらが言うとおり、こちらは弱みを握られているようなもんですからね。ただ、出会い系サイトや援助交際とは違い、相手が望んだ“パパ活”をやっているだけ。ホテルに行こうとか、そういうことも言ってないし、思い切って警察に通報しました」 こう話すのは、自らも「パパ活」経験がある、埼玉県在住の会社員・土居啓太さん(仮名・40代)。土居さんも、パパ活希望の女性と遭い、直後に「美人局未遂」にあったというが、それがパパ活だったからこそ、なんとか助かったのだと胸をなで下ろす。「援助交際とかみたいに、男女の目的が“ズバリ”じゃない…とされていますよね。もちろん、パパ活に興味を持つ男性のほとんどは下心があるでしょうが、大半の女性が私みたいな者に求めているのは、肉体関係なく一緒に贅沢をしたり少しお小遣いをもらったり、まさに『お父さん』としての振る舞い。だから男性にとって、パパ活は相手女性にいいように言いくるめられれば、ご飯をおごらされて、モノ買わされて終わり。パパ活なんて結局、男女だましあいなんですよ。今回は、その最終的な部分がぼやけていたから“彼女をかわいそうに思い助けた”で、警察への事情説明も済んだんです」(土居さん) 恐喝されていると訴え、きっかけとなった待ち合わせ女性との関係を警察に問われたとき、下心ありのパパ活ではなく、純粋に彼女を助けたかったのだと強弁した土居さん。実は女性には組んでいる男たちがいて、そちらを注視していた警察にとって土居さんは、パパ活で狩りをしようとする者をおびき寄せる罠だったのかもしれない。土居さんは幸運にも美人局にカモられた男という不名誉から逃げ切り、パパ活の建前である「個人的に彼女を助けたかった」を押し通したおかげで、警察にも手厚く守られたのだという。とはいえ無関係の第三者からすれば、どっちもどっち、くだらないせめぎ合いにしか見えない。 パパ活をめぐるトラブルならば男性が被害者というイメージが強いかもしれないが、逆に女性が狙われることもあるという。パパ活女子を狙った犯行を繰り返していたグループがあると、若者が多く集まる飲食店の店主が証言する。「彼らが言うには、SNSでパパ活希望の女性とアポを取り、通っている学校や勤務先、自宅の場所などの個人情報を少しでも聞き出しながら、何回かデートを繰り返す。その間に、金払いがよい様子をわざと見せて信用させる。それから親や会社にバレてもいいのか、自宅も知っているし近所にもバレるぞと言えば、恐がって金を出すというんですよ」 普通に働けばいいのにと内心で思いながら、なんでそんな金儲けを思いついたのかと店主が聞くと、パパ活という言葉がメディアで取りあげられ、パパ活に興味を持った女性がSNSに増えたことが、犯行を思いついたきっかけだったと言われた。そして、どんなやり方で金品をまきあげるかを自慢された。「それで3万儲かったとか5万儲かったとか仲間内で報告しあっているところも、何回か見かけました。捕まるリスクは低いとまで言っていて、危ういことをやっているなと思ったから、ほどほどにしておきなと忠告はしたんですけどね。結局、女性側に通報されて、脅迫とか付きまといとかで何人か逮捕されたと聞きました。正直言ってパパ活でお小遣い稼ぎをしようとする側も、その女の子たちを脅す側もどっちもどっちですよね。まあ、バカな人たちがバカ同士でなんかやってると世間からは思われているでしょうね」 援助交際がおもに電話を使ったいわゆる「テレクラ(テレホンクラブ)」を通じて行われていた時代からすると、現代の「出会い」は手元のスマホ一台でより気軽に実現することができるようになった。裏を返せば「美人局」もより気軽に実践できるようになった、という事実はあるだろう。未成年の犯行が目立つのも、よりハードルが下がったからに違いないはずだ。 美人局などがなくならない理由は、個々人がこうした自由勝手すぎる主張を展開した末に起きていることは明らか。結局、現代的な美人局を巡るトラブルについては、どっちもやましいしどっちも悪い、ということに尽きるのかもしれない。
* * * いわゆる「パパ活」を利用して、男性会社員(30)から百数十万円相当の金や車などを奪ったとして、神奈川県内に住む女子高生を含む、16才から19才までの男女6人が逮捕された。
手口は、女子高生がSNSを使ってターゲットを呼び出し、その後男女が現れてターゲットから金品を奪ったとみられている。男女ら6人は警察の調べに「簡単に稼げると思った」「パパ活をする人は負い目を感じており警察に行かないと思った」などと供述しているという。
報道等では「パパ活狩り」と大見出しが踊ったが、誰もが昔からある古典的な脅迫方法「美人局」を思い起こしただろう。
「援助交際」が世間で注目された1990年代には「援交狩り」があったし、そして出会い系サイトが全盛だった2000年代にも同様の事は起きていた。2010年代後半に入り、女性が裕福な男性(パパ)に食事をごちそうになったり、カラオケへ行くなどデートをするだけ……という建前の「パパ活」ブームが広がっているが、やはりというか当然というか、パパ活が美人局の餌場になった格好だ。
「いやホントですよ。そいつらが言うとおり、こちらは弱みを握られているようなもんですからね。ただ、出会い系サイトや援助交際とは違い、相手が望んだ“パパ活”をやっているだけ。ホテルに行こうとか、そういうことも言ってないし、思い切って警察に通報しました」
こう話すのは、自らも「パパ活」経験がある、埼玉県在住の会社員・土居啓太さん(仮名・40代)。土居さんも、パパ活希望の女性と遭い、直後に「美人局未遂」にあったというが、それがパパ活だったからこそ、なんとか助かったのだと胸をなで下ろす。
「援助交際とかみたいに、男女の目的が“ズバリ”じゃない…とされていますよね。もちろん、パパ活に興味を持つ男性のほとんどは下心があるでしょうが、大半の女性が私みたいな者に求めているのは、肉体関係なく一緒に贅沢をしたり少しお小遣いをもらったり、まさに『お父さん』としての振る舞い。だから男性にとって、パパ活は相手女性にいいように言いくるめられれば、ご飯をおごらされて、モノ買わされて終わり。パパ活なんて結局、男女だましあいなんですよ。今回は、その最終的な部分がぼやけていたから“彼女をかわいそうに思い助けた”で、警察への事情説明も済んだんです」(土居さん)
恐喝されていると訴え、きっかけとなった待ち合わせ女性との関係を警察に問われたとき、下心ありのパパ活ではなく、純粋に彼女を助けたかったのだと強弁した土居さん。実は女性には組んでいる男たちがいて、そちらを注視していた警察にとって土居さんは、パパ活で狩りをしようとする者をおびき寄せる罠だったのかもしれない。土居さんは幸運にも美人局にカモられた男という不名誉から逃げ切り、パパ活の建前である「個人的に彼女を助けたかった」を押し通したおかげで、警察にも手厚く守られたのだという。とはいえ無関係の第三者からすれば、どっちもどっち、くだらないせめぎ合いにしか見えない。
パパ活をめぐるトラブルならば男性が被害者というイメージが強いかもしれないが、逆に女性が狙われることもあるという。パパ活女子を狙った犯行を繰り返していたグループがあると、若者が多く集まる飲食店の店主が証言する。
「彼らが言うには、SNSでパパ活希望の女性とアポを取り、通っている学校や勤務先、自宅の場所などの個人情報を少しでも聞き出しながら、何回かデートを繰り返す。その間に、金払いがよい様子をわざと見せて信用させる。それから親や会社にバレてもいいのか、自宅も知っているし近所にもバレるぞと言えば、恐がって金を出すというんですよ」
普通に働けばいいのにと内心で思いながら、なんでそんな金儲けを思いついたのかと店主が聞くと、パパ活という言葉がメディアで取りあげられ、パパ活に興味を持った女性がSNSに増えたことが、犯行を思いついたきっかけだったと言われた。そして、どんなやり方で金品をまきあげるかを自慢された。
「それで3万儲かったとか5万儲かったとか仲間内で報告しあっているところも、何回か見かけました。捕まるリスクは低いとまで言っていて、危ういことをやっているなと思ったから、ほどほどにしておきなと忠告はしたんですけどね。結局、女性側に通報されて、脅迫とか付きまといとかで何人か逮捕されたと聞きました。正直言ってパパ活でお小遣い稼ぎをしようとする側も、その女の子たちを脅す側もどっちもどっちですよね。まあ、バカな人たちがバカ同士でなんかやってると世間からは思われているでしょうね」
援助交際がおもに電話を使ったいわゆる「テレクラ(テレホンクラブ)」を通じて行われていた時代からすると、現代の「出会い」は手元のスマホ一台でより気軽に実現することができるようになった。裏を返せば「美人局」もより気軽に実践できるようになった、という事実はあるだろう。未成年の犯行が目立つのも、よりハードルが下がったからに違いないはずだ。
美人局などがなくならない理由は、個々人がこうした自由勝手すぎる主張を展開した末に起きていることは明らか。結局、現代的な美人局を巡るトラブルについては、どっちもやましいしどっちも悪い、ということに尽きるのかもしれない。