「誰のための法律なのか」――。16日成立した、性的少数者に対する理解を広げるための「LGBT理解増進法」。度重なる修正に当事者には「法律によって逆に差別を助長しかねない」との懸念が残る。性的少数者の差別や偏見をなくすため、どのように実行力を高めるかが課題となる。
【LGBT法案】与野党3案と修正案の違い 「『差別を許さない』との文言を入れて、一歩踏み出そうと始まった法律だったはず。議論が進むにつれて、多数派のための法律かと問いたくなるほど内容が後退した。結局、政治家は声の強いところにしかなびかないのではないか」
性的少数者を支援する福岡市のNPO法人「カラフルチェンジラボ」代表理事、三浦暢久さん(45)は新法に不満を隠さない。 新法は合意形成の過程で修正が重ねられ「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」との条文も加えられた。学校での性の多様性に関する教育も「家庭や地域住民の協力を得る」としている。 性の多様性を祝う「九州レインボープライド」を運営し、学校や企業で性的少数者の理解を広げるための講演などを続ける三浦さんは「一部の人が反対すれば(路上で)パレードができなくなったり、学校での講演ができなくなったり、活動が抑制される恐れがある。条文はその口実を与えかねない」と心配する。 性的少数者のカップルを公的に認める佐賀県の「パートナーシップ宣誓制度」に基づき2021年9月に宣誓し、男性パートナー(47)と暮らす浦川健二さん(38)は「私たちは特別扱いされたいのでなく、誰もが生きやすい社会になってほしいだけ」と強調する。 浦川さんのパートナーは「パートナーシップ制度の導入後、佐賀で反対運動や混乱はなく、全国的にも性的少数者への理解は広がりつつある。国が動かないから地方が制度を導入するなどして動いてきたのに、余計に混乱が生じかねない。理解を広げることが阻害されるのであれば、法律はないほうがいい」と訴える。 東京都内で同性パートナーと0歳の子供の3人で暮らすひとみさん(43)=フルネームは非公表=は新法成立を「一歩前進」と一定の評価をしながらも、複雑な思いを抱える。 脳裏に浮かぶのは1年ほど前、パートナーの出産のため産婦人科を探した時のことだ。ある病院から「病院としては断らないが、同部屋の方に配慮してほしい」と受け入れに難色を示された。「『一般の人の理解が進んでいない』という理由で断り文句に使われる可能性がある」と懸念する。 16日の参院本会議では、採決時に自民党議員3人が退席した。「当事者に対する真摯(しんし)な姿勢がみられない。この問題について触りたくないという思いの表れだと思う。想定内だけどショックだ」と受け止める。 ひとみさんは約5年前、福岡市内に住む70代の母親にカミングアウトし、現在は理解が進まない現状を変えようと親子で講演活動をする。小中学校で講演すると、子供から「相談できない」「親にも言えない」とSOSを訴える手紙が届くこともある。「カミングアウトできず自死を考えるほど苦しむ子供もいる。国全体で理解増進させる取り組みが必要だ」と強調。その上で「新法成立はゴールではなくスタート。同性婚の法制化や教育環境の整備につながれば」と語気を強めた。【竹林静、城島勇人】
「『差別を許さない』との文言を入れて、一歩踏み出そうと始まった法律だったはず。議論が進むにつれて、多数派のための法律かと問いたくなるほど内容が後退した。結局、政治家は声の強いところにしかなびかないのではないか」
性的少数者を支援する福岡市のNPO法人「カラフルチェンジラボ」代表理事、三浦暢久さん(45)は新法に不満を隠さない。
新法は合意形成の過程で修正が重ねられ「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」との条文も加えられた。学校での性の多様性に関する教育も「家庭や地域住民の協力を得る」としている。
性の多様性を祝う「九州レインボープライド」を運営し、学校や企業で性的少数者の理解を広げるための講演などを続ける三浦さんは「一部の人が反対すれば(路上で)パレードができなくなったり、学校での講演ができなくなったり、活動が抑制される恐れがある。条文はその口実を与えかねない」と心配する。
性的少数者のカップルを公的に認める佐賀県の「パートナーシップ宣誓制度」に基づき2021年9月に宣誓し、男性パートナー(47)と暮らす浦川健二さん(38)は「私たちは特別扱いされたいのでなく、誰もが生きやすい社会になってほしいだけ」と強調する。
浦川さんのパートナーは「パートナーシップ制度の導入後、佐賀で反対運動や混乱はなく、全国的にも性的少数者への理解は広がりつつある。国が動かないから地方が制度を導入するなどして動いてきたのに、余計に混乱が生じかねない。理解を広げることが阻害されるのであれば、法律はないほうがいい」と訴える。
東京都内で同性パートナーと0歳の子供の3人で暮らすひとみさん(43)=フルネームは非公表=は新法成立を「一歩前進」と一定の評価をしながらも、複雑な思いを抱える。
脳裏に浮かぶのは1年ほど前、パートナーの出産のため産婦人科を探した時のことだ。ある病院から「病院としては断らないが、同部屋の方に配慮してほしい」と受け入れに難色を示された。「『一般の人の理解が進んでいない』という理由で断り文句に使われる可能性がある」と懸念する。
16日の参院本会議では、採決時に自民党議員3人が退席した。「当事者に対する真摯(しんし)な姿勢がみられない。この問題について触りたくないという思いの表れだと思う。想定内だけどショックだ」と受け止める。
ひとみさんは約5年前、福岡市内に住む70代の母親にカミングアウトし、現在は理解が進まない現状を変えようと親子で講演活動をする。小中学校で講演すると、子供から「相談できない」「親にも言えない」とSOSを訴える手紙が届くこともある。「カミングアウトできず自死を考えるほど苦しむ子供もいる。国全体で理解増進させる取り組みが必要だ」と強調。その上で「新法成立はゴールではなくスタート。同性婚の法制化や教育環境の整備につながれば」と語気を強めた。【竹林静、城島勇人】