鹿児島・大崎事件、再審開始認めず 弁護側の即時抗告棄却

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鹿児島県大崎町で1979年に男性(当時42歳)の遺体が見つかった「大崎事件」で、福岡高裁宮崎支部は5日、殺人罪などで懲役10年が確定して服役した原口アヤ子さん(95)の再審を認めない決定を出した。再審請求を退けた鹿児島地裁決定(2022年6月)を支持し、弁護側の即時抗告を棄却した。弁護側は男性の死因を「事故死」とする医師の鑑定書などを新証拠として提出したが、矢数昌雄裁判長は「確定判決の事実認定に合理的疑いを差し挟むものとはいえない」と判断した。弁護側は最高裁に特別抗告する。
【第4次再審請求審の主な争点】 再審請求は今回が第4次で、20年3月に原口さんの長女が申し立てた。第1~3次の請求では地裁や高裁が計3回、再審開始を認めたが、検察側の抗告で上級審が取り消す「異例」の展開をたどってきた。 確定判決は、79年10月12日午後11時ごろ、原口さんが親族2人と共謀し、義弟だった男性宅で男性の首をタオルで絞めて窒息死させ、別の親族を加えた4人で近くの牛小屋に遺体を遺棄したと認定した。 第4次請求で弁護側は、「事件」直前に男性が泥酔して側溝に転落し「事故死した」とする救命救急医の鑑定書を提出した。高裁決定は、この鑑定について、司法解剖時の12枚の写真など限られた情報によるもので「死因や死亡時期を、高い蓋然(がいぜん)性を持って推論するような決定的なものとはいえない」とした。 一方で、決定はこの鑑定に基づき「男性が事故で頸髄(けいずい)を損傷していたとすれば、その後に呼吸停止した可能性は否定できない」とも指摘し、死因を「他殺による窒息死」と推定した事件当時の司法解剖医の鑑定書の証明力を「減殺する」とした。だが、解剖医の鑑定はそもそも「有罪認定の証拠として重要ではない」とし、「(事故後に)男性を自宅に運んだ時には生きていた」とする住民の証言や、共犯とされた親族の自白などから「窒息死という認定は維持される」と結論づけた。 福岡高検の小橋常和次席検事は「裁判所が適切な判断をされた」とコメントした。【志村一也、宗岡敬介】弁護側の新証拠、証明力に限界 ■元検事の高井康行弁護士の話 極めて妥当な判断だ。弁護側が主張する「事故死」であれば、なぜ男性の遺体が堆肥の中から発見されたか合理的な説明ができない。男性を自宅まで運んだ住民2人には遺棄する必要性がない。弁護側が新証拠とする救命救急医の鑑定は、遺体解剖時の写真の色などに基づき判断している。色の再現性は難しく、証明力に限界がある。鑑定の価値、不当に押し下げた ■元東京高裁部総括判事の門野博弁護士の話 鹿児島地裁決定を上塗りしたに過ぎない決定だ。確定判決に誤りはないという直感で判断しており、証拠から忠実に事実を認定する姿勢に欠けている。男性を自宅に運んだ住民2人の供述は「信用できる」と判断し、救命救急医の鑑定の価値は不当に押し下げた。(再審開始決定が出た)日野町事件、袴田事件の流れに逆行する決定だ。大崎事件 1979年10月15日、鹿児島県大崎町で男性(当時42歳)の遺体が自宅牛小屋の堆肥(たいひ)の中から見つかり、義姉の原口アヤ子さんと男性の長兄(原口さんの当時の夫)、次兄が殺人と死体遺棄罪で、男性のおいが死体遺棄罪で起訴された。長兄、次兄、おいの3人(いずれも故人)は懲役1~8年の判決が確定。原口さんは無罪を訴えたが、81年に懲役10年が確定した。服役後の95年から再審請求を始め、第1次の地裁、第3次の地裁、高裁の計3回再審開始が認められたが、上級審で取り消された。
再審請求は今回が第4次で、20年3月に原口さんの長女が申し立てた。第1~3次の請求では地裁や高裁が計3回、再審開始を認めたが、検察側の抗告で上級審が取り消す「異例」の展開をたどってきた。
確定判決は、79年10月12日午後11時ごろ、原口さんが親族2人と共謀し、義弟だった男性宅で男性の首をタオルで絞めて窒息死させ、別の親族を加えた4人で近くの牛小屋に遺体を遺棄したと認定した。
第4次請求で弁護側は、「事件」直前に男性が泥酔して側溝に転落し「事故死した」とする救命救急医の鑑定書を提出した。高裁決定は、この鑑定について、司法解剖時の12枚の写真など限られた情報によるもので「死因や死亡時期を、高い蓋然(がいぜん)性を持って推論するような決定的なものとはいえない」とした。
一方で、決定はこの鑑定に基づき「男性が事故で頸髄(けいずい)を損傷していたとすれば、その後に呼吸停止した可能性は否定できない」とも指摘し、死因を「他殺による窒息死」と推定した事件当時の司法解剖医の鑑定書の証明力を「減殺する」とした。だが、解剖医の鑑定はそもそも「有罪認定の証拠として重要ではない」とし、「(事故後に)男性を自宅に運んだ時には生きていた」とする住民の証言や、共犯とされた親族の自白などから「窒息死という認定は維持される」と結論づけた。
福岡高検の小橋常和次席検事は「裁判所が適切な判断をされた」とコメントした。【志村一也、宗岡敬介】
弁護側の新証拠、証明力に限界
■元検事の高井康行弁護士の話
極めて妥当な判断だ。弁護側が主張する「事故死」であれば、なぜ男性の遺体が堆肥の中から発見されたか合理的な説明ができない。男性を自宅まで運んだ住民2人には遺棄する必要性がない。弁護側が新証拠とする救命救急医の鑑定は、遺体解剖時の写真の色などに基づき判断している。色の再現性は難しく、証明力に限界がある。
鑑定の価値、不当に押し下げた
■元東京高裁部総括判事の門野博弁護士の話
鹿児島地裁決定を上塗りしたに過ぎない決定だ。確定判決に誤りはないという直感で判断しており、証拠から忠実に事実を認定する姿勢に欠けている。男性を自宅に運んだ住民2人の供述は「信用できる」と判断し、救命救急医の鑑定の価値は不当に押し下げた。(再審開始決定が出た)日野町事件、袴田事件の流れに逆行する決定だ。
大崎事件
1979年10月15日、鹿児島県大崎町で男性(当時42歳)の遺体が自宅牛小屋の堆肥(たいひ)の中から見つかり、義姉の原口アヤ子さんと男性の長兄(原口さんの当時の夫)、次兄が殺人と死体遺棄罪で、男性のおいが死体遺棄罪で起訴された。長兄、次兄、おいの3人(いずれも故人)は懲役1~8年の判決が確定。原口さんは無罪を訴えたが、81年に懲役10年が確定した。服役後の95年から再審請求を始め、第1次の地裁、第3次の地裁、高裁の計3回再審開始が認められたが、上級審で取り消された。

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