月収50万円・58歳公務員の悲鳴…過労死ライン“月80時間残業”の現状「60歳過ぎても稼ぎたい、でももう限界」【FPが解説】

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2023年度より公務員の定年延長がスタートし、2031年度までには65歳まで働けるようになりました。しかし、58歳・地方公務員のAさんは、「家計のためにはまだまだ働き続けたい……でももう限界だ」といいます。その背景には、激増する公務員のメンタルヘルス不調の現状があり……。本記事では、FP1級の川淵ゆかり氏がAさんの事例とともに、公務員の定年延長とメンタルヘルス事情について解説します。
岸田政権でも「全世代型社会保障」の方針は受け継がれ、本格的な高齢化社会に備えて、これからの社会の「支え手」を増やすことはますます重要になっています。支え手が増えることは、社会保障の持続可能性を高めることに繋がります。2023年度、公務員の定年延長がスタートしたのもこういった背景があります。
働き続けることは家計の面ではいわずもがな、健康にプラスの影響をおよぼします。やはり、働くことは健康にもよいと考えてよいでしょう。しかし、人々が長く働き続ける社会になったとき、メンタル面での問題が出てくるケースがあるようで、地方公務員のAさん(58歳)も例外ではありませんでした。
(※写真はイメージです/PIXTA)
「安定した職業」といわれている公務員。Aさんも周囲からは「安定した収入」、「業績を気にしなくてもいいからうらやましい」「精神的にラクそう」「リストラがないから安心」などと若いうちから何度もいわれた経験がありました。収入面でいうと、Aさんの月収は50万円(賞与除く)と、日本の50代の平均月収36万円※と比べ、確かに高い額です。
※出所:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査(全国)」
しかし、公務員の仕事は周りが思うほどラクではありません。人間関係も特殊で異動も多く、ストレスもたまり、辞めたくなることもあります。Aさんも長く勤務してきましたから、これまでも異動により多くの仕事を経験してきました。
Aさんは優しそうでおとなしい男性です。窓口業務を担当したときも、市民からは評判がよくても、ときにはキツいクレームを受けることが何度もありました。また、残業の多い部署で勤務したときは、「過労死ライン」といわれる月に残業時間が80時間を超える仕事をこなしてきたこともあります。
異動も多いため、やっと仕事に慣れたころに担当部署が変わったり、毎年のように周りの人間が入れ替わったりしていきます。そのため、人間関係も大きなストレスとなっていました。
Aさんは「家族にも話せなかったが、40代半ばを過ぎたころからなんとなく体の調子も悪く、最近はただ機械のように毎日決まった時間に勤務先に通っています。体を壊しているわけでもないので、相談する相手もいません。定年延長で住宅ローンもまだ残っているし、働きたいけれど、正直いうともう限界なんです」といいます。
(※写真はイメージです/PIXTA)
総務省が令和3年12月に発表した「地方公務員のメンタルヘルス不調による休務者及び対策の状況」によりますと、令和2年度のメンタル不調による休務者※は21,676人となっています。
※「休務者」とは、原則として1週間以上、病気休暇または休職をした者が対象
回答した都道府県・市町村の87.4%でメンタル不調による休務者が出ており、休務者の年代は、40代の職員が最も多いのですが、すべての年代で2割を超えていて、見過ごせない問題となっていることがわかります。
10代~20代:21.7%30代:24.5%40代:27.4%50代:24.3% なお、休職に至った理由ですが、「職場の対人関係(上司・同僚・部下)」が60.7%と一番多く、次いで「業務内容(困難事業)」の42.8%となっています。やはり、異動による人間関係の変化や業務の多様化・複雑化も影響しているように思えます。さらに、一般財団法人地方公務員安全推進協会の「地方公務員健康状況等の現況 (令和3年)」によると、「精神及び行動の障害」による長期病休者数は右肩上がりで増え続けており、令和2年度では10年前の約1.5倍、15年前の約2.1倍まで増加しているのがわかります。コロナ禍や自然災害による「業務負担増」も大きく影響近年で大きな負担になったのは、新型コロナによる前例にない業務の追加でしょう。業務が増えたことはもちろん、住民からのクレームも増えたり、窓口での感染不安も大きなストレスとなったりしました。さらに自然災害(豪雨・台風・大雪・地震など)も昔に比べて増えてきています。災害時でも公務員は業務に当たらないといけないのはもちろん、災害の後には復旧業務にも追われる場合もあります。地方公務員数は、平成6年から令和3年4月1日までに48万人減少しています。人手は減っているのにも関わらず業務は増えており、こういった面もメンタル不調の原因と考えられます。 なお、今回の公務員定年延長により、2023年(令和5年)から定年年齢は2年毎に1歳引き上げられていくことになります。給与は7割まで抑えられてしまいますが、長く働き続けることはマネープラン上にはメリットがあります。ですが、若い人の採用が抑制されてしまうことに繋がり、60代の職員が増え20代の職員が減ることにもなります。60代に入ると体力も落ちてきますから、その分、若手職員の負担が増えていくことも考えられます。定年延長で60歳以上の就業継続を促進するためには、多様な働き方を模索し、メンタル面でも無理のない工夫がさらに求められてきます。今後はこれまで以上にメンタル不調への対策を講じる必要があるのです。「公務員、辞めたい」と思ったら転職や独立を考える公務員も増えていると聞きます。ですが、民間は利益を追求するのが目的ですから、企業側で受け入れを渋るケースも少なくなく、公務員から希望する民間企業への転職は容易ではありません。筆者も約10年間の国家公務員生活のなかで、異動による毎年の人間関係の変化を経験してきました。筆者の場合は在職中にどうしてもシステム開発の仕事がしたくなって行政事務から民間のシステムエンジニアへと転職しましたが、やりたい仕事を見つけて転職される方はそう多くはありません。ただ「いまの仕事がムリだから」という理由ですぐに仕事を辞めるのではなく、どうしても辞めたい場合は、仕事探しはもちろん、「スキルアップ・人脈づくり・資格取得・今後のライフプラン」などを在職中にしっかり準備しておく必要があります。公務員の方で転職・独立をお考えの方は、ひとりで抱え込まずまずはご相談することをお勧めします。Aさんには状況をよくお聞きして、まずは「相談」と「休むこと」をおすすめしました。公務員については、ほとんどの勤務先でメンタル不調の相談窓口を設置したり、ストレスチェックを実施したりしています。自分自身のためですから、こういった提供を恥ずかしがらずに活用していただきたいと思います。一旦お休みしてリフレッシュしても定年延長がストレスであれば、住宅ローンなどについても考慮してマネープランを再度見直し、60歳で辞めても問題ないかどうかを確認しましょうと、Aさんにはお伝えしました。1番大事なのは、笑顔で暮らしつづけることです。(※写真はイメージです/PIXTA)川淵 ゆかり川淵ゆかり事務所代表
30代:24.5%
40代:27.4%
50代:24.3%
なお、休職に至った理由ですが、「職場の対人関係(上司・同僚・部下)」が60.7%と一番多く、次いで「業務内容(困難事業)」の42.8%となっています。やはり、異動による人間関係の変化や業務の多様化・複雑化も影響しているように思えます。
さらに、一般財団法人地方公務員安全推進協会の「地方公務員健康状況等の現況 (令和3年)」によると、「精神及び行動の障害」による長期病休者数は右肩上がりで増え続けており、令和2年度では10年前の約1.5倍、15年前の約2.1倍まで増加しているのがわかります。
近年で大きな負担になったのは、新型コロナによる前例にない業務の追加でしょう。業務が増えたことはもちろん、住民からのクレームも増えたり、窓口での感染不安も大きなストレスとなったりしました。さらに自然災害(豪雨・台風・大雪・地震など)も昔に比べて増えてきています。災害時でも公務員は業務に当たらないといけないのはもちろん、災害の後には復旧業務にも追われる場合もあります。
地方公務員数は、平成6年から令和3年4月1日までに48万人減少しています。人手は減っているのにも関わらず業務は増えており、こういった面もメンタル不調の原因と考えられます。
なお、今回の公務員定年延長により、2023年(令和5年)から定年年齢は2年毎に1歳引き上げられていくことになります。給与は7割まで抑えられてしまいますが、長く働き続けることはマネープラン上にはメリットがあります。ですが、若い人の採用が抑制されてしまうことに繋がり、60代の職員が増え20代の職員が減ることにもなります。60代に入ると体力も落ちてきますから、その分、若手職員の負担が増えていくことも考えられます。
定年延長で60歳以上の就業継続を促進するためには、多様な働き方を模索し、メンタル面でも無理のない工夫がさらに求められてきます。今後はこれまで以上にメンタル不調への対策を講じる必要があるのです。
転職や独立を考える公務員も増えていると聞きます。ですが、民間は利益を追求するのが目的ですから、企業側で受け入れを渋るケースも少なくなく、公務員から希望する民間企業への転職は容易ではありません。
筆者も約10年間の国家公務員生活のなかで、異動による毎年の人間関係の変化を経験してきました。筆者の場合は在職中にどうしてもシステム開発の仕事がしたくなって行政事務から民間のシステムエンジニアへと転職しましたが、やりたい仕事を見つけて転職される方はそう多くはありません。
ただ「いまの仕事がムリだから」という理由ですぐに仕事を辞めるのではなく、どうしても辞めたい場合は、仕事探しはもちろん、「スキルアップ・人脈づくり・資格取得・今後のライフプラン」などを在職中にしっかり準備しておく必要があります。公務員の方で転職・独立をお考えの方は、ひとりで抱え込まずまずはご相談することをお勧めします。
Aさんには状況をよくお聞きして、まずは「相談」と「休むこと」をおすすめしました。公務員については、ほとんどの勤務先でメンタル不調の相談窓口を設置したり、ストレスチェックを実施したりしています。自分自身のためですから、こういった提供を恥ずかしがらずに活用していただきたいと思います。
一旦お休みしてリフレッシュしても定年延長がストレスであれば、住宅ローンなどについても考慮してマネープランを再度見直し、60歳で辞めても問題ないかどうかを確認しましょうと、Aさんにはお伝えしました。1番大事なのは、笑顔で暮らしつづけることです。
(※写真はイメージです/PIXTA)
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表

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