なぜ?「スキーしない客」が集まるスキー場の秘密

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冬のスキー場なのに「スキーをしない客」が1割を超えたといいます(写真提供:白馬岩岳マウンテンリゾート)
日本のスキー人口が激減、インバウンドも途絶え、多くのスキー場が青息吐息となっている。そんな中、来場者数が過去最多を更新し続けている話題のスキー場をご存じだろうか? 長野県白馬にある「白馬岩岳マウンテンリゾート」だ。
「土地が本来持っている『隠れた資産』を発見し、磨き上げる。ただそれだけを考え、さまざまなアイデアを実現してきました。その結果、わずか4年で100のテレビ番組で紹介していただき、スキー場なのに夏の来場者数が8倍になって、冬の来場者数を超えるという結果につながったのです」
そう語るのが、白馬岩岳マウンテンリゾート代表の和田寛氏だ。ずば抜けたアイデアを次々と導入し、「夏に稼ぐスキー場」を生み出した和田氏。その初の著書『スキー場は夏に儲けろ!――誰も気づいていない「逆転ヒット」の法則』が刊行された。
ここでは、「冬のスキー場に『スキーをしない客』が増えた理由」を解説してもらった。
新型コロナウイルス対策の水際対策措置が緩和された「2022~2023ウィンターシーズン」(2022年12月から2023年春まで)には、長野県白馬エリアでも久しぶりに多くの外国人にお越しいただきました。
私が運営に携わる白馬岩岳マウンテンリゾートも、コロナ禍前の6割程度に当たる1.5万人の海外からの来訪者をお迎えしました。ウィンターシーズンの総来場者数は12.1万人(昨シーズン比+2.2万人)と、過去10年の中で最大の来場者数を記録しました。実は、インバウンドに加え、「冬のスキー場なのにスキーをしないお客さん」(ノンスキーヤー)の増加が、この伸びに大きく貢献しました。総来場者の10%以上に相当する1.5万人がノンスキーヤーだったのです。白馬岩岳では2018年10月の白馬マウンテンハーバー開業以降、北アルプスに飛び込むような巨大ブランコを体験できる「ヤッホー!スウィング」など、さまざまな取り組みを続けています。その結果「マウンテンリゾート」としての認知が強まり、グリーンシーズン(春~秋)の来場者がウィンターシーズンの来場者を大きく超えるようになりました。2022年には、グリーンシーズンの来場者は20万人を記録しています。こうしたグリーンシーズンの取り組みを通じた「マウンテンリゾート化」が、冬の集客にもプラスの効果を生んでいるのです。では、この「マウンテンリゾート」としての認知拡大の背景にはどのような要因があったのでしょうか。いちばん大事な要因は「『隠れた資産』を活用し、独自性の高いコンテンツを生み続けてきたこと」だと感じています。「隠れた資産」とは、「磨けばその会社や地域にとって宝物になるのに、何らかの理由で埋もれたままになっているもの」です。隠れた資産をどう見つけるのかということについては拙著『スキー場は夏に儲けろ!』の中に詳しく書いています。では、これを見つけた後、どう活用すると「独自性の高いコンテンツ」となる確率が高まるのでしょうか。今回から2回に分けて、ご説明したいと思います。「独自性の高いコンテンツ」を作るフレームワークさて、せっかく「隠れた資産」をうまく特定できたところで、必ずしもそれがすぐに独自性の高いコンテンツにつながるわけではありません。ゼロベースで「誰も考えもしなかったようなアイデア」をポンポンとひねり出すことのできる人は多くないのが実際です。そこで隠れた資産を「独自性の高いコンテンツ」に磨き上げるための共通の思考の枠組みとして、私は以下のようなフレームワークを使って考えを進めています。 先行事例のベンチマーク 要素の掛け算 外部の力のレバレッジ今回は,鉢△砲弔い董⊆_鵑竜事でについて解説していきます。\莵垰例のベンチマークまずは世界中の類似業界でうまくいっている事例をよく観察し、その成功要因を自分なりに分解して把握するようにしています。調査方法は視察に行って話を聞いたり、自分が遊んで体験したりという直接的な情報に頼ることもありますし、SNSをフォローしてそこに流れてくる情報を定期的に観察したり、GoogleやYouTube、Pinterestなどの検索エンジンを頼るのでもよいと思います。そこで面白そうなアイデアを見つけたら、まずは「そのままあてはめることで、ある範囲で特異的なものになるか」の検討をします。海外でやっているけれど、日本では誰もやっていないから「日本初」と言えるという場合は、そのままコンテンツ化するケースも多いです。白馬岩岳での例で言えば、2021年夏からスタートさせたマウンテンカートがこれにあたります。マウンテンカートとは、エンジンのついていないカートで下り斜面のコースを駆け下りるアクティビティです。Googleで世界中の山でやっているアクティビティを探していたところたまたま見つけたのが、ヨーロッパのいくつかのスキー場で導入が進んでいたドイツ発祥のマウンテンカートでした。事業性やメディア受けなどを簡単にチーム内で検証し、これだと決めたら、直接ドイツの会社にEメールで連絡しました。多少コミュニケーションに苦労しながらも、半年弱で営業開始に漕ぎつけました。ここからは「国内初」のキャッチフレーズを多用。するとテレビの取材がたくさん入るようになり、ニュースやバラエティ番組で全国に放映されました。SNSや動画サイトで取り上げていただけることも多く、順調なスタートを切ることができました。開業直後から休日は満員御礼が続き、なかなか希望するお客さん全員には楽しんでいただけない状況が続きました。そのため、当初は6台でスタートしたサービスも今や30台近くまで増やし、新コースもオープンして、さらに多くのお客さんにお楽しみいただけるようになっています。このような「海外でやっているもので、日本でやっていないこと」という探し方にかぎらず、「ビーチではやっているけれど、山ではやっていないこと」「プロ野球の集客でやっているけれど、スキー場の集客ではやっていないこと」のような「他業界ではやっているけれど、自分たちの業界ではやっていないこと」を探していくことで、面白いコンテンツを作ることができます。ですが、このくらいのことは当然、皆さんやっている話。そうそうこれだけで差別化、独自性を追求することは難しくなります。では次のステップとしてどういう考え方があるのでしょうか。「すでにあるもの」同士を組み合わせて独自性を作る⇒彖任粒櫃瓜白馬岩岳でのこれまでの取り組みの中で最も多い考え方は、この「要素の掛け算」です。それぞれは「どこかであるもの」だが、組み合わせをうまく考えれば、まだ誰も手を付けていない独自なものとなる可能性を広げることができる、という考え方です。白馬岩岳のグリーンシーズンの集客を大きく伸ばすことになった白馬マウンテンハーバーは、まさに以下の掛け算でした(詳細は「日本に『残念すぎる観光地』量産される悲しい事情」参照)。「絶景が見える崖状の土地」×「洗練されたデザインの建物」×「美味しいフード、ドリンク」また、岩岳山頂で行う音楽フェス「アルペンアウトドアーズ プレゼンツ HAKUBAヤッホー!FESTIVAL」(以下「ヤッホー!フェス」。第2回の様子はこちら)も、この「要素の掛け算」によって生まれたものです。白馬岩岳には、ゴンドラ山頂駅の目の前に1000平方メートルを超えるフラットな芝生の広場があります。白馬の山を眺めつつ里を見下ろすことのできる絶景空間です。この芝生広場は普段はお客さんがピクニック気分を味わえるよう、多くのテーブル、椅子が置かれています。2019年には、その芝生の広場の一角、メインレストラン「スカイアーク」の前に、よりゆったりとアウトドアでの食事を楽しんでいただけるよう高さ1メートルほどのデッキ席を作っており、こうしたアウトドア空間のさらなる有効活用策を考えていました。こうした中で出てきたのが、「『音楽』を掛け算できたら面白くなるのではないか」という発想から生まれたヤッホー!フェスなのです。「ゴンドラに乗るだけで到着することのできる、絶景の見える芝生広場」×「ステージとしても使えそうな高さ1メートルくらいのデッキ席」×「白馬にゆかりのあるアーティストや白馬を好きになってくれたアーティストが中心となって奏でる音楽」このヤッホー!フェスですが、昨年春に行った第2回には定員を上回る応募がある日が出るなど、この独自性の高いセッティングに対する評価が上がってきています。今年5月20~28日に開催予定の第3回も、スキマスイッチさんやゴスペラーズさん、クリス・ハートさん、Original Loveの田島貴男さんなど、白馬の空気感にぴったりのアーティストがブッキングされており、チケットセールスも前回を超えるペースで推移しています。3杏瑤領呂離譽丱譽奪検「⇒彖任粒櫃瓜察廚鬚靴篤伴性の高いコンテンツを作ることは、自分たちにとっては「未知の領域」に手を出していくことと同義になります。白馬マウンテンハーバーの事例における「美味しいフード、ドリンク」やヤッホー!フェスにおける「音楽」など、私たちスキー場運営を長年生業としてきた事業者にとっては完全に未体験領域です。そこで活用させていただいたのが「THE CITY BAKERY」やイベントプロデューサーである元キマグレンのISEKIさんといった外部の有力なプレーヤーさんの力です。この人たちなしではどのコンテンツも成立しなかったと実感しています。その有力な外部プレーヤーをどのようにして活用させていただくことができるのか、次回はその詳細を説明したいと思います。(和田 寛 : 白馬岩岳マウンテンリゾート代表)
私が運営に携わる白馬岩岳マウンテンリゾートも、コロナ禍前の6割程度に当たる1.5万人の海外からの来訪者をお迎えしました。
ウィンターシーズンの総来場者数は12.1万人(昨シーズン比+2.2万人)と、過去10年の中で最大の来場者数を記録しました。
実は、インバウンドに加え、「冬のスキー場なのにスキーをしないお客さん」(ノンスキーヤー)の増加が、この伸びに大きく貢献しました。総来場者の10%以上に相当する1.5万人がノンスキーヤーだったのです。
白馬岩岳では2018年10月の白馬マウンテンハーバー開業以降、北アルプスに飛び込むような巨大ブランコを体験できる「ヤッホー!スウィング」など、さまざまな取り組みを続けています。
その結果「マウンテンリゾート」としての認知が強まり、グリーンシーズン(春~秋)の来場者がウィンターシーズンの来場者を大きく超えるようになりました。2022年には、グリーンシーズンの来場者は20万人を記録しています。こうしたグリーンシーズンの取り組みを通じた「マウンテンリゾート化」が、冬の集客にもプラスの効果を生んでいるのです。
では、この「マウンテンリゾート」としての認知拡大の背景にはどのような要因があったのでしょうか。
いちばん大事な要因は「『隠れた資産』を活用し、独自性の高いコンテンツを生み続けてきたこと」だと感じています。「隠れた資産」とは、「磨けばその会社や地域にとって宝物になるのに、何らかの理由で埋もれたままになっているもの」です。
隠れた資産をどう見つけるのかということについては拙著『スキー場は夏に儲けろ!』の中に詳しく書いています。
では、これを見つけた後、どう活用すると「独自性の高いコンテンツ」となる確率が高まるのでしょうか。今回から2回に分けて、ご説明したいと思います。
さて、せっかく「隠れた資産」をうまく特定できたところで、必ずしもそれがすぐに独自性の高いコンテンツにつながるわけではありません。ゼロベースで「誰も考えもしなかったようなアイデア」をポンポンとひねり出すことのできる人は多くないのが実際です。
そこで隠れた資産を「独自性の高いコンテンツ」に磨き上げるための共通の思考の枠組みとして、私は以下のようなフレームワークを使って考えを進めています。
先行事例のベンチマーク 要素の掛け算 外部の力のレバレッジ
今回は,鉢△砲弔い董⊆_鵑竜事でについて解説していきます。
\莵垰例のベンチマーク
まずは世界中の類似業界でうまくいっている事例をよく観察し、その成功要因を自分なりに分解して把握するようにしています。
調査方法は視察に行って話を聞いたり、自分が遊んで体験したりという直接的な情報に頼ることもありますし、SNSをフォローしてそこに流れてくる情報を定期的に観察したり、GoogleやYouTube、Pinterestなどの検索エンジンを頼るのでもよいと思います。
そこで面白そうなアイデアを見つけたら、まずは「そのままあてはめることで、ある範囲で特異的なものになるか」の検討をします。海外でやっているけれど、日本では誰もやっていないから「日本初」と言えるという場合は、そのままコンテンツ化するケースも多いです。
白馬岩岳での例で言えば、2021年夏からスタートさせたマウンテンカートがこれにあたります。
マウンテンカートとは、エンジンのついていないカートで下り斜面のコースを駆け下りるアクティビティです。Googleで世界中の山でやっているアクティビティを探していたところたまたま見つけたのが、ヨーロッパのいくつかのスキー場で導入が進んでいたドイツ発祥のマウンテンカートでした。
事業性やメディア受けなどを簡単にチーム内で検証し、これだと決めたら、直接ドイツの会社にEメールで連絡しました。多少コミュニケーションに苦労しながらも、半年弱で営業開始に漕ぎつけました。
ここからは「国内初」のキャッチフレーズを多用。するとテレビの取材がたくさん入るようになり、ニュースやバラエティ番組で全国に放映されました。SNSや動画サイトで取り上げていただけることも多く、順調なスタートを切ることができました。
開業直後から休日は満員御礼が続き、なかなか希望するお客さん全員には楽しんでいただけない状況が続きました。そのため、当初は6台でスタートしたサービスも今や30台近くまで増やし、新コースもオープンして、さらに多くのお客さんにお楽しみいただけるようになっています。
このような「海外でやっているもので、日本でやっていないこと」という探し方にかぎらず、「ビーチではやっているけれど、山ではやっていないこと」「プロ野球の集客でやっているけれど、スキー場の集客ではやっていないこと」のような「他業界ではやっているけれど、自分たちの業界ではやっていないこと」を探していくことで、面白いコンテンツを作ることができます。
ですが、このくらいのことは当然、皆さんやっている話。そうそうこれだけで差別化、独自性を追求することは難しくなります。では次のステップとしてどういう考え方があるのでしょうか。
⇒彖任粒櫃瓜
白馬岩岳でのこれまでの取り組みの中で最も多い考え方は、この「要素の掛け算」です。それぞれは「どこかであるもの」だが、組み合わせをうまく考えれば、まだ誰も手を付けていない独自なものとなる可能性を広げることができる、という考え方です。
白馬岩岳のグリーンシーズンの集客を大きく伸ばすことになった白馬マウンテンハーバーは、まさに以下の掛け算でした(詳細は「日本に『残念すぎる観光地』量産される悲しい事情」参照)。
「絶景が見える崖状の土地」×「洗練されたデザインの建物」×「美味しいフード、ドリンク」
また、岩岳山頂で行う音楽フェス「アルペンアウトドアーズ プレゼンツ HAKUBAヤッホー!FESTIVAL」(以下「ヤッホー!フェス」。第2回の様子はこちら)も、この「要素の掛け算」によって生まれたものです。
白馬岩岳には、ゴンドラ山頂駅の目の前に1000平方メートルを超えるフラットな芝生の広場があります。白馬の山を眺めつつ里を見下ろすことのできる絶景空間です。この芝生広場は普段はお客さんがピクニック気分を味わえるよう、多くのテーブル、椅子が置かれています。
2019年には、その芝生の広場の一角、メインレストラン「スカイアーク」の前に、よりゆったりとアウトドアでの食事を楽しんでいただけるよう高さ1メートルほどのデッキ席を作っており、こうしたアウトドア空間のさらなる有効活用策を考えていました。
こうした中で出てきたのが、「『音楽』を掛け算できたら面白くなるのではないか」という発想から生まれたヤッホー!フェスなのです。
「ゴンドラに乗るだけで到着することのできる、絶景の見える芝生広場」×「ステージとしても使えそうな高さ1メートルくらいのデッキ席」×「白馬にゆかりのあるアーティストや白馬を好きになってくれたアーティストが中心となって奏でる音楽」
このヤッホー!フェスですが、昨年春に行った第2回には定員を上回る応募がある日が出るなど、この独自性の高いセッティングに対する評価が上がってきています。
今年5月20~28日に開催予定の第3回も、スキマスイッチさんやゴスペラーズさん、クリス・ハートさん、Original Loveの田島貴男さんなど、白馬の空気感にぴったりのアーティストがブッキングされており、チケットセールスも前回を超えるペースで推移しています。
3杏瑤領呂離譽丱譽奪検
「⇒彖任粒櫃瓜察廚鬚靴篤伴性の高いコンテンツを作ることは、自分たちにとっては「未知の領域」に手を出していくことと同義になります。
白馬マウンテンハーバーの事例における「美味しいフード、ドリンク」やヤッホー!フェスにおける「音楽」など、私たちスキー場運営を長年生業としてきた事業者にとっては完全に未体験領域です。
そこで活用させていただいたのが「THE CITY BAKERY」やイベントプロデューサーである元キマグレンのISEKIさんといった外部の有力なプレーヤーさんの力です。
この人たちなしではどのコンテンツも成立しなかったと実感しています。その有力な外部プレーヤーをどのようにして活用させていただくことができるのか、次回はその詳細を説明したいと思います。
(和田 寛 : 白馬岩岳マウンテンリゾート代表)

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