「私は一生許さない…」。養父母の遺産をめぐり弟妹に絶望し、夫に激怒した40歳女性の体験談

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

夫婦の片方が、親の遺産相続に巻き込まれたとき、もう片方はどういう態度をとればいいのだろうか。親からの遺産は当事者だけのものであり、夫婦の共有財産とはならない。だからこそ、「自分のもの」のように配偶者が考えるとしたら諍いの原因にもなりやすい。
親の遺産問題が勃発「私はもともと家族関係がちょっと複雑なんです」
サキさん(40歳)は、そう言ってため息をついた。彼女が幼いころ両親が離婚、親戚をたらい回しされたあげく、彼女は10歳のとき、母方の遠い親戚の養女となった。
「遠すぎて親戚かどうかもわからないくらいでしたが、その家にもらわれたのはラッキーでした。養父母には私より年下の子どもがふたりいたんですが、なぜか私を養女にしてくれて、この家では遠慮しなくていい、あなたはうちの子なんだからとずっと言ってくれていました。
4人家族の中にいきなり飛び込んだ私を大事に育ててくれたんです。大学まで出してくれたんですよ」
彼女は大学入学にともなって上京したが、養父母は「少なくてごめんね」と言いながらも学費のみならず生活費も援助してくれた。就職して初めての給料で養父母にプレゼントを贈り、ボーナスはほぼ全額、ふたりに渡した。学生時代の生活費は借金だと彼女は考えていたという。
「養父母は涙ぐみながら『あなたは本当に私たちの最高の娘。でも、これは自分のために使いなさい』と言いました。今後はそうするから、これだけは受け取ってと無理矢理押しつけましたが」
弟妹ともいい関係が続いていた。弟が大学生のときにはよく待ち合わせて一緒に食事もした。
29歳で結婚したときも、養父母は心から祝福してくれた。
「夫には養女だということを話していましたが、養父母に会った夫は『うちの親よりずっと優しい。血は水よりも濃いなんて嘘だな』と笑っていました。養父母は夫にも気を配ってくれて……」
子どもが産まれて見せに行くと喜んでくれた。弟妹が結婚しないので、養父母にとってもサキさんの子だけが孫だった。ふたり目のときは養母が1カ月にわたって手伝いに来てくれた。
ところが昨年、養父母が相次いで亡くなった。養父が夏に急死、寂しかったのだろうか、養母もあとを追うように突然の病に倒れてそのまま逝った。
「あまりのショックに動転して、何がなんだかわからない日々を送りました」
四十九日が終わってしばらくたったころ、夫がふと言った。
「遺産ってどうなってるの?」
形見だけでもサキさんは遺産など考えたこともなかったが、「養母が大事にしていた着物とアクセサリーの一部を私にくれると言っていたのを思い出した」ため、弟妹に連絡をとった。
「すると仲のよかった弟妹の態度が一変していたんです。『あんたはもともとうちの子じゃないよね』と弟が言い出し、妹も『遺産は私と兄さんのものだから。相続放棄の書類を送るからよろしくね』って。養女とはいえ、私にも相続権はあるはず。ただ、私は遺産がほしいわけじゃなくて、形見がほしかった。
そう言ったら、弟は『あんたが大学を卒業するまでに、いくらかかったと思ってるんだ』と。あんなに仲良くしていたのは何だったのかと、養父母が亡くなった上にさらなるショックが重なりました」
夫は怒って弁護士を立てようと言い出した。だが、夫が怒っているのはサキさんの心情を理解していたわけではなく、「遺産が入らない」ことに対してだった。サキさんは、そのことにも大きな衝撃を受けた。
「夫は車を買い換えたいんだよと言うんです。私にしてみたら、何を言ってるのかさっぱりわからない。あなたには何の権利もないからと言ったらふてくされていましたが、夫の態度にもがっかりしました。去年は本当に誰も信じられないような状況だった」
その後、知り合いから弁護士を紹介されて相談。結局、弟妹も大きなもめごとにしたくなかったのだろう。サキさんは遺産の一部である200万円ほどと、望み通り養母の着物と真珠のネックレスを形見分けされた。
「実家は県庁所在地にあってけっこう大きいし、実直な養父母のことだからそれなりに貯金もありました。でも弟妹は『相続税もかかるし、家だって古いし価値はない』と言って、私の取り分は200万円だと。弁護士さんにもっと闘うこともできると言われましたが、私は形見さえ手に入ればよかった。
200万円は子どもたちのために貯金しました。この経緯に関しては夫にはほとんど話していません。形見分けしてもらったことだけ伝えました」
夫は「なんだ、遺産は入らなかったのか。けっこうため込んでいると思ってたんだけどなあ」とつぶやき、サキさんを激怒させた。
「夫との間に、今まで大きなトラブルはなかったんですが、今回の件で夫への信頼感は一気に崩壊しました。夫はあとから『きみがあまりに落ち込んでいるから、励ますつもりの冗談だったんだよ』と言いましたが、車を買い換えたいというのは本音のはず。
私の親が亡くなって私がどれほどショックを受けているか知っているくせに、どうしてああいうことを言うのかその無神経さが我慢できなかったと言ってやりました。夫はやっと私の怒りがわかったようで、それからは私の顔色をうかがっている感じ。でも私は一生、許すつもりはありません」
もちろん、本当のきょうだいとして育った弟妹への絶望感もサキさんの心を傷つけた。お金を前にすると、人は気持ちがおかしくなるのか、あるいは本性が出るのか。いずれにしてもサキさんの心の傷はまだまだ癒えそうにない。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。